インパクト投資をテーマに「グローバルヘルス・アカデミー」第3回を開催 有志一同より、渋澤健氏、エーザイ・内藤晴夫氏、ヤマハ発動機・渡部克明氏、ゲイツ財団・柏倉美保子氏が登壇
[23/04/24]
提供元:PRTIMES
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「グローバルヘルス分野とインパクト投資について、G7広島サミットで議論を」
グローバルヘルスを応援するビジネスリーダー有志一同(以下、有志一同)は、グローバルヘルスに寄与するサービスや企業活動への理解促進・関心向上を目的としたプログラム「グローバルヘルス・アカデミー」 (以下アカデミー)」を開催しています。
アカデミー第3回は、シブサワ・アンド・カンパニー株式会社 代表取締役 渋澤健氏(有志一同座長)、エーザイ株式会社 代表執行役CEO 内藤晴夫氏、ヤマハ発動機株式会社 代表取締役会長 渡部克明氏、ビル&メリンダ・ゲイツ財団 日本常駐代表 柏倉美保子氏が登壇し、「新たな企業価値の指標“インパクト”とグローバルヘルス 〜G7広島サミットへの新提言〜」と題して開催しました。4月18日に渋澤健座長から岸田首相へ提出された「インパクト投資とグローバルヘルスに係る研究会」※1の報告書に基づいてインパクト投資について紹介したほか、「日本企業がリードするグローバルヘルスとインパクト」をテーマにパネルディスカッションを実施しました。
[画像1: https://prtimes.jp/i/76537/16/resize/d76537-16-b0f388e8ed1f7a18e0ae-0.jpg ]
アーカイブ動画 : https://youtu.be/XWrdYRYkBrY
グローバルヘルスとは、地球上の連鎖的な健康リスクの低減に向け、国境を越え、あらゆる場所の保健医療水準を高めることです。昨今、新型コロナウイルス感染症やサル痘の感染拡大を筆頭に、グローバルヘルスに関する国際的な枠組みへの関心が高まっています。各国で政府のみならず、国際機関や官民パートナーシップなど様々な団体によって、課題解決に向けたアプローチがなされています。
今年5月に広島で開催されるG7を前に、グローバルヘルスの重要性を伝えるべく、アカデミーにて「グローバルヘルス分野とインパクト投資について、G7広島サミットで議論を」と発信しました。
※1 内閣官房 健康・医療戦略室「インパクト投資とグローバルヘルスに係る研究会」
https://www.kantei.go.jp/jp/singi/kenkouiryou/global_health/pdf/kenkyukai_houkoku_20230418.pdf
「新しい価値と社会の形“インパクト・エコノミー” 〜ESG投資からインパクト投資へ〜」
シブサワ・アンド・カンパニー株式会社 代表取締役 渋澤健 氏
[画像2: https://prtimes.jp/i/76537/16/resize/d76537-16-3a2ff98a1cb72418b188-0.jpg ]
[画像3: https://prtimes.jp/i/76537/16/resize/d76537-16-f312db597f99a9394921-0.jpg ]
1. 新しい資本主義とインパクト投資
日本の人口減少が進み国内の投資循環には限界があり、成長と分配の好循環を達成するためには、投資もグローバルに展開していくことが重要です。岸田首相も掲げている「新しい資本主義」は包摂的な資本主義であり、人的資本の向上により実現できるものだと考えています。成長と分配の好循環においては、投資や消費を通じてグローバルサウスの成長を支え、その成長を日本に還元させる、という考え方もあります。グローバルサウスへの支援をより増やすため、これまでリスク・リターンの2軸で考えられていた通常の投資に対して、「インパクト」という3つ目の軸を加えて検討する「インパクト投資」を推進していきたいと考えています。
2. インパクト投資市場
世界のインパクト投資市場は2021年段階で約155兆円※2と言われています。日本ではインパクト投資がこの1年間で約4倍になっている状況を踏まえても、世界の4%ぐらいに過ぎません。言い換えると、インパクト投資市場は成長ポテンシャルがあります。社会課題の解決に向けて、民間企業から新たなお金が流れることがインパクトの目的ですが、より民間企業からの投資が増加することで、グローバルサウスへの支援が促進され日本の経済成長につながると考えています。
3.インパクト・エコノミー
インパクト・エコノミーとは、国内外の事業者並びに投資家が「インパクト」を共通言語として、新たな事業創出や投資行動を行う、新しい経済社会のあり方で、地球規模の社会課題解決と経済成長の両立を志向したものです。インパクトが投資家により浸透していくためには、財務会計に落とし込む必要があります。その役割を担う手法の1つがインパクト加重会計です。
4. G7広島サミット、そして2030年に向けて
これまでのインパクト投資では<ESGは大企業機関や投資家向け><インパクトはスタートアップ向け>というイメージがありましたが、新型コロナウイルスを機に両者の垣根が融合しはじめています。G7広島サミットでは、SDGs達成年限である2030年に再びG7が日本で開催されることを意識し、グローバルヘルス分野の議題の1つとしてインパクト投資に関する議論がなされるべきだと考えています。
[画像4: https://prtimes.jp/i/76537/16/resize/d76537-16-d300474da5ac58db6563-0.jpg ]
[画像5: https://prtimes.jp/i/76537/16/resize/d76537-16-8d529b5413bb3a7bebeb-0.jpg ]
※2 出典:GIIN『GIINsight: Sizing the Impact Investing Market 2022』
パネルディスカッション
「日本企業がリードするグローバルヘルスとインパクト」をテーマに、エーザイ株式会社やヤマハ発動機株式会社の取り組みの紹介とともに、インパクト・エコノミーの実現について、経営者・投資家の各視点から議論しました。
ヤマハ発動機株式会社 代表取締役会長 渡部克明 氏
[画像6: https://prtimes.jp/i/76537/16/resize/d76537-16-f3ac831ea7d4b8288f4f-0.jpg ]
[画像7: https://prtimes.jp/i/76537/16/resize/d76537-16-1333a5ed216cf3c526cc-0.jpg ]
「クリーンウォーターシステム」とインパクト加重会計
ヤマハ発動機は安全な水が飲めない人たちに対して、緩速ろ過システムを使った水の浄水装置「クリーンウォーターシステム」を2003年に開発し、アフリカなどの新興国に対して現在50基設置しています。本事業は社会課題解決への取組として評価を受けてきましたが、経済効果の点で不明瞭だったことで社内でも事業継続に関する議論がなされていました。そこでこの度、経済的効果に落とし込むことができるインパクト加重会計で定量的に評価することを試みました。
本ケースでは、「水汲み時間の削減」と「下痢の減少」に焦点を当て、インパクト評価のためのフレームワークを作成しました。本事業を取り組んでいる村落では、設置後の定量情報の収集が困難だったため、個々の変化を追跡せず、広範囲に実施された調査結果を用いて、収益化プロセスを策定しています。結果として、クリーンウォーターシステム導入によって地域差を含め「年間期待収入の視点で約5〜8%の向上が見込まれる」と算出されました。このインパクトの算出により2次、3次インパクトも明確になり、新たな社会課題解決の取組みの検討にもつながっています。
インパクトに注目する理由と課題
近年、投資家だけでなく、一般の方の企業に対する目線が変わってきており、どのような社会貢献を行っているかという視点でみられることが増えてきました。企業側も財務指標だけではなく、インパクト会計も連動させたような試算をし、ロジックで納得性のある説明を世の中に対して行い、理解してもらうことが企業として重要と考えています。
オートバイや船外機を製造している会社として、CO2の排出量などの環境インパクトは非常に重要なテーマですが、オートバイや、ボートを使用したラストワンマイルにも貢献しており、ESGのSの分野においても影響を与えていると推測します。Sの領域の定量化は今後の課題ですが、いくつかのロジックモデルが様々な企業から発信されることで、体系化されると推測します。ロジックモデル増加に伴い、AIで自動的に算出される未来が訪れると考えています。
エーザイ株式会社 代表執行役 CEO 内藤晴夫 氏
[画像8: https://prtimes.jp/i/76537/16/resize/d76537-16-c248ad0ec0ff6b88c683-0.jpg ]
[画像9: https://prtimes.jp/i/76537/16/resize/d76537-16-cb06c215af18c9a63194-0.jpg ]
エーザイは17年ぶりに定款を更新し「社会善を効率的に実現する」という要素を入れました。パブリックとともに社会課題に取り組むことが現代企業の目的であると考えています。
当社は3つのインパクトの可視化を取り組んできました。「従業員インパクト会計」では、男女賃金格差や失業率に対する貢献度合などを試算し、インパクトスコアを算出します。スコア結果と人件費の比率を算出したものが人財投資効率であり、投資家の投資判断の一助となります。「製品インパクト」では、顧みられない熱帯病の一つであるリンパ系フィラリア症の治療薬(DEC錠)の無償提供がもたらすソーシャルインパクトを算出しています。2014年から5年間に提供されたDEC錠によって感染や症状の悪化を回避できたことによる、蔓延地域の人々の生産性向上や医療費削減の価値は、年間1600億円に上ると試算されました。「インパクトに基づく製品価格設定」では、直近のアルツハイマー病治療薬の米国での発売に際して、薬剤がもたらす社会的価値を算出し、その価値の6割をパブリックに還元し、4割をプライベートとしての株主や従業員に配分するという考え方に基づいて価格設定を行いました。
インパクト・エコノミー推進のためには、東京証券取引所にインパクト市場を設置するなど、基準を設けるための土壌を作ることが重要と考えています。
インパクトに注目する理由と課題
企業は価値創造をしているという観点で、ステークホルダーに対して価値を届けることが重要です。株主の皆様に対して漠然と社会貢献をしているという説明ではなく、経済に基づいた説明をするべきと考えていました。そこで、アルツハイマー病治療薬ではより透明度の高い説明をするため、インパクトベースの価格設定を製品に取り入れました。
DEC錠の無償提供において、製造コストは約50億円かかっていますが、支出に対して株主からのクレームをいただいたことはありません。また、顧みられない熱帯病への取り組みを通して、WHOやゲイツ財団のような国際的な組織や様々な国の人々にエーザイの名を知っていただくことができました。
[画像10: https://prtimes.jp/i/76537/16/resize/d76537-16-7ed46f11ed03f8d7a207-0.jpg ]
シブサワ・アンド・カンパニー株式会社 代表取締役 渋澤健 氏
長期投資家の視点から見ると、企業価値を財務的な価値で可視化することはもちろん重要です。ただ、会社の将来価値を例えば10〜30年後の価値を検討した場合、その真価は非財務的な領域にあると考えています。今回発表されたエーザイ、ヤマハ発動機の取り組みは、非財務的な領域の価値を可視化しています。
ESGへの取り組みが活発化される中で、Gの領域は社外役員の比率やROEなど数値化しやすく、容易に可視化ができます。Eの領域でもCO2排出量として数値化がしやすく、且つ、科学的根拠あると言えます。一方Sは、地域や文化の違いにより算出のための共通言語がなく、科学的根拠の提示が難しく可視化が進みづらかった分野です。しかし、グローバルヘルス分野は科学的根拠に基づいた共通言語があり、Sの分野の中でも測定値の基準の突破口になりうる領域です。日本がグローバルヘルスを推進していくことで、Sの可視化のヒントが生まれ世界を牽引することができると考えています。
インパクト浸透に必要なことは“垣根を超える”ことです。日本はソーシャルセクターや経済セクターごとに垣根が生まれやすい傾向があります。同じ枠組みでやることによるメリットもありますが、垣根を越え様々なセクターと交わることで新たな価値が生まれます。その価値創造がインパクトの浸透において必要不可欠だと考えています。日本は人口が減少し、グローバルサウスの人口は若年層を中心に増加しています。そのためグローバルサウスは、人口ボーナスの可能性が高いと予想されますが、一方で多くの環境的・社会的課題を抱えています。グローバルサウスの課題に対して取り組み、「MADE IN JAPAN」ではなく、「MADE WITH JAPAN」という持続可能な共創関係を作ることで、豊かな日本を継続につながります。グローバルサウスの課題に取り組む日本の土壌を作るためSDGs年限である2030年までにインパクト・エコノミーの実現を目指したいと考えています。
ビル&メリンダ・ゲイツ財団 日本常駐代表 柏倉美保子 氏
パンデミック、気候変動、食糧不足はじめ様々な地球規模課題が顕著となる時代の中で、社会課題解決を促すインパクト・エコノミーへとシフトできるよう金融や会計の視点からも企業価値を再定義する試みは重要な一歩だと思います。ESGのE(環境)で気候変動リスクが投資家の間で定着するまで数十年かかったのと同様に、グローバルヘルスはじめS(社会)の定量化の確立やインパクト加重会計についても中長期でメソドロジーが成熟していくものと考えます。その第一歩として、今回発表されたエーザイ、ヤマハ発動機などの日本を代表する企業が、世界に先駆けて製品プロダクトの社会的インパクトを試算されたことは、非常に意義深いことだと感じます。ゲイツ財団はこれまでESGのインデックス(ワクチン・医薬品・栄養へのアクセス)をサポートしてきましたが、今後はグローバルヘルスのメトリックスなども検討しており、G7で日本がこの領域を牽引していけるよう協力していきたいと考えています。
グローバルヘルスを応援するビジネスリーダー有志一同について
渋澤 健(シブサワ・アンド・カンパニー株式会社 代表取締役CEO)を代表とする、グローバルヘルス(保健医療分野、特に公衆衛生分野、感染症対策分野での支援及び事業)へ貢献する日本企業等の有志団体です。製薬・医療機器をはじめとした保健医療分野のみならず、金融や商社、デジタル、サプライチェーン等多岐にわたる分野から構成され、大企業のみならず中小企業やスタートアップも含めた多様な企業の経営者が参画しています。
*有志代表 渋澤 健 シブサワ・アンド・カンパニー株式会社 代表取締役CEO/「新しい資本主義実現会議」委員
家次 恒 シスメックス株式会社 代表取締役会長 グループCEO
遠藤 信博 日本電気株式会社(NEC) 特別顧問
柏倉 美保子 ビル&メリンダ・ゲイツ財団 日本常駐代表
金子 洋介 SORA Technology株式会社 Founder兼CEO
加留部 淳 豊田通商株式会社 シニアエグゼクティブアドバイザー
後藤 禎一 富士フイルム株式会社 代表取締役社長・CEO
酒匂 真理 株式会社miup 創業者兼CEO
更家 悠介 サラヤ株式会社 代表取締役社長
田代 桂子 株式会社大和証券グループ本社 取締役兼執行役副社長
手代木 功 塩野義製薬株式会社 代表取締役会長兼社長
内藤 晴夫 エーザイ株式会社 代表執行役CEO
新浪 剛史 サントリーホールディングス株式会社 代表取締役社長
日高 祥博 ヤマハ発動機株式会社 代表取締役社長
2022年12月5日 グローバルヘルス・アカデミー第1回
有志一同から NEC、塩野義製薬、SORA Technology が登壇し、テクノロジーでグローバルヘルスを推進する新事業・技術を発表。ネクストパンデミックおよび100日ミッションに対する各社のアクションやアイディアも発信。
https://prtimes.jp/main/html/rd/p/000000013.000076537.html
2023年3月29日 グローバルヘルス・アカデミー第2回
結核予防会理事長 尾身茂会長と、有志一同から富士フイルム、シスメックス、エーザイが登壇し、「世界の感染症に対する日本企業の最新アプローチ」をテーマにセッションを実施。
https://prtimes.jp/main/html/rd/p/000000015.000076537.html
[画像11: https://prtimes.jp/i/76537/16/resize/d76537-16-8a0981d56d29e9ad51cf-0.jpg ]
グローバルヘルスを応援するビジネスリーダー有志一同(以下、有志一同)は、グローバルヘルスに寄与するサービスや企業活動への理解促進・関心向上を目的としたプログラム「グローバルヘルス・アカデミー」 (以下アカデミー)」を開催しています。
アカデミー第3回は、シブサワ・アンド・カンパニー株式会社 代表取締役 渋澤健氏(有志一同座長)、エーザイ株式会社 代表執行役CEO 内藤晴夫氏、ヤマハ発動機株式会社 代表取締役会長 渡部克明氏、ビル&メリンダ・ゲイツ財団 日本常駐代表 柏倉美保子氏が登壇し、「新たな企業価値の指標“インパクト”とグローバルヘルス 〜G7広島サミットへの新提言〜」と題して開催しました。4月18日に渋澤健座長から岸田首相へ提出された「インパクト投資とグローバルヘルスに係る研究会」※1の報告書に基づいてインパクト投資について紹介したほか、「日本企業がリードするグローバルヘルスとインパクト」をテーマにパネルディスカッションを実施しました。
[画像1: https://prtimes.jp/i/76537/16/resize/d76537-16-b0f388e8ed1f7a18e0ae-0.jpg ]
アーカイブ動画 : https://youtu.be/XWrdYRYkBrY
グローバルヘルスとは、地球上の連鎖的な健康リスクの低減に向け、国境を越え、あらゆる場所の保健医療水準を高めることです。昨今、新型コロナウイルス感染症やサル痘の感染拡大を筆頭に、グローバルヘルスに関する国際的な枠組みへの関心が高まっています。各国で政府のみならず、国際機関や官民パートナーシップなど様々な団体によって、課題解決に向けたアプローチがなされています。
今年5月に広島で開催されるG7を前に、グローバルヘルスの重要性を伝えるべく、アカデミーにて「グローバルヘルス分野とインパクト投資について、G7広島サミットで議論を」と発信しました。
※1 内閣官房 健康・医療戦略室「インパクト投資とグローバルヘルスに係る研究会」
https://www.kantei.go.jp/jp/singi/kenkouiryou/global_health/pdf/kenkyukai_houkoku_20230418.pdf
「新しい価値と社会の形“インパクト・エコノミー” 〜ESG投資からインパクト投資へ〜」
シブサワ・アンド・カンパニー株式会社 代表取締役 渋澤健 氏
[画像2: https://prtimes.jp/i/76537/16/resize/d76537-16-3a2ff98a1cb72418b188-0.jpg ]
[画像3: https://prtimes.jp/i/76537/16/resize/d76537-16-f312db597f99a9394921-0.jpg ]
1. 新しい資本主義とインパクト投資
日本の人口減少が進み国内の投資循環には限界があり、成長と分配の好循環を達成するためには、投資もグローバルに展開していくことが重要です。岸田首相も掲げている「新しい資本主義」は包摂的な資本主義であり、人的資本の向上により実現できるものだと考えています。成長と分配の好循環においては、投資や消費を通じてグローバルサウスの成長を支え、その成長を日本に還元させる、という考え方もあります。グローバルサウスへの支援をより増やすため、これまでリスク・リターンの2軸で考えられていた通常の投資に対して、「インパクト」という3つ目の軸を加えて検討する「インパクト投資」を推進していきたいと考えています。
2. インパクト投資市場
世界のインパクト投資市場は2021年段階で約155兆円※2と言われています。日本ではインパクト投資がこの1年間で約4倍になっている状況を踏まえても、世界の4%ぐらいに過ぎません。言い換えると、インパクト投資市場は成長ポテンシャルがあります。社会課題の解決に向けて、民間企業から新たなお金が流れることがインパクトの目的ですが、より民間企業からの投資が増加することで、グローバルサウスへの支援が促進され日本の経済成長につながると考えています。
3.インパクト・エコノミー
インパクト・エコノミーとは、国内外の事業者並びに投資家が「インパクト」を共通言語として、新たな事業創出や投資行動を行う、新しい経済社会のあり方で、地球規模の社会課題解決と経済成長の両立を志向したものです。インパクトが投資家により浸透していくためには、財務会計に落とし込む必要があります。その役割を担う手法の1つがインパクト加重会計です。
4. G7広島サミット、そして2030年に向けて
これまでのインパクト投資では<ESGは大企業機関や投資家向け><インパクトはスタートアップ向け>というイメージがありましたが、新型コロナウイルスを機に両者の垣根が融合しはじめています。G7広島サミットでは、SDGs達成年限である2030年に再びG7が日本で開催されることを意識し、グローバルヘルス分野の議題の1つとしてインパクト投資に関する議論がなされるべきだと考えています。
[画像4: https://prtimes.jp/i/76537/16/resize/d76537-16-d300474da5ac58db6563-0.jpg ]
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※2 出典:GIIN『GIINsight: Sizing the Impact Investing Market 2022』
パネルディスカッション
「日本企業がリードするグローバルヘルスとインパクト」をテーマに、エーザイ株式会社やヤマハ発動機株式会社の取り組みの紹介とともに、インパクト・エコノミーの実現について、経営者・投資家の各視点から議論しました。
ヤマハ発動機株式会社 代表取締役会長 渡部克明 氏
[画像6: https://prtimes.jp/i/76537/16/resize/d76537-16-f3ac831ea7d4b8288f4f-0.jpg ]
[画像7: https://prtimes.jp/i/76537/16/resize/d76537-16-1333a5ed216cf3c526cc-0.jpg ]
「クリーンウォーターシステム」とインパクト加重会計
ヤマハ発動機は安全な水が飲めない人たちに対して、緩速ろ過システムを使った水の浄水装置「クリーンウォーターシステム」を2003年に開発し、アフリカなどの新興国に対して現在50基設置しています。本事業は社会課題解決への取組として評価を受けてきましたが、経済効果の点で不明瞭だったことで社内でも事業継続に関する議論がなされていました。そこでこの度、経済的効果に落とし込むことができるインパクト加重会計で定量的に評価することを試みました。
本ケースでは、「水汲み時間の削減」と「下痢の減少」に焦点を当て、インパクト評価のためのフレームワークを作成しました。本事業を取り組んでいる村落では、設置後の定量情報の収集が困難だったため、個々の変化を追跡せず、広範囲に実施された調査結果を用いて、収益化プロセスを策定しています。結果として、クリーンウォーターシステム導入によって地域差を含め「年間期待収入の視点で約5〜8%の向上が見込まれる」と算出されました。このインパクトの算出により2次、3次インパクトも明確になり、新たな社会課題解決の取組みの検討にもつながっています。
インパクトに注目する理由と課題
近年、投資家だけでなく、一般の方の企業に対する目線が変わってきており、どのような社会貢献を行っているかという視点でみられることが増えてきました。企業側も財務指標だけではなく、インパクト会計も連動させたような試算をし、ロジックで納得性のある説明を世の中に対して行い、理解してもらうことが企業として重要と考えています。
オートバイや船外機を製造している会社として、CO2の排出量などの環境インパクトは非常に重要なテーマですが、オートバイや、ボートを使用したラストワンマイルにも貢献しており、ESGのSの分野においても影響を与えていると推測します。Sの領域の定量化は今後の課題ですが、いくつかのロジックモデルが様々な企業から発信されることで、体系化されると推測します。ロジックモデル増加に伴い、AIで自動的に算出される未来が訪れると考えています。
エーザイ株式会社 代表執行役 CEO 内藤晴夫 氏
[画像8: https://prtimes.jp/i/76537/16/resize/d76537-16-c248ad0ec0ff6b88c683-0.jpg ]
[画像9: https://prtimes.jp/i/76537/16/resize/d76537-16-cb06c215af18c9a63194-0.jpg ]
エーザイは17年ぶりに定款を更新し「社会善を効率的に実現する」という要素を入れました。パブリックとともに社会課題に取り組むことが現代企業の目的であると考えています。
当社は3つのインパクトの可視化を取り組んできました。「従業員インパクト会計」では、男女賃金格差や失業率に対する貢献度合などを試算し、インパクトスコアを算出します。スコア結果と人件費の比率を算出したものが人財投資効率であり、投資家の投資判断の一助となります。「製品インパクト」では、顧みられない熱帯病の一つであるリンパ系フィラリア症の治療薬(DEC錠)の無償提供がもたらすソーシャルインパクトを算出しています。2014年から5年間に提供されたDEC錠によって感染や症状の悪化を回避できたことによる、蔓延地域の人々の生産性向上や医療費削減の価値は、年間1600億円に上ると試算されました。「インパクトに基づく製品価格設定」では、直近のアルツハイマー病治療薬の米国での発売に際して、薬剤がもたらす社会的価値を算出し、その価値の6割をパブリックに還元し、4割をプライベートとしての株主や従業員に配分するという考え方に基づいて価格設定を行いました。
インパクト・エコノミー推進のためには、東京証券取引所にインパクト市場を設置するなど、基準を設けるための土壌を作ることが重要と考えています。
インパクトに注目する理由と課題
企業は価値創造をしているという観点で、ステークホルダーに対して価値を届けることが重要です。株主の皆様に対して漠然と社会貢献をしているという説明ではなく、経済に基づいた説明をするべきと考えていました。そこで、アルツハイマー病治療薬ではより透明度の高い説明をするため、インパクトベースの価格設定を製品に取り入れました。
DEC錠の無償提供において、製造コストは約50億円かかっていますが、支出に対して株主からのクレームをいただいたことはありません。また、顧みられない熱帯病への取り組みを通して、WHOやゲイツ財団のような国際的な組織や様々な国の人々にエーザイの名を知っていただくことができました。
[画像10: https://prtimes.jp/i/76537/16/resize/d76537-16-7ed46f11ed03f8d7a207-0.jpg ]
シブサワ・アンド・カンパニー株式会社 代表取締役 渋澤健 氏
長期投資家の視点から見ると、企業価値を財務的な価値で可視化することはもちろん重要です。ただ、会社の将来価値を例えば10〜30年後の価値を検討した場合、その真価は非財務的な領域にあると考えています。今回発表されたエーザイ、ヤマハ発動機の取り組みは、非財務的な領域の価値を可視化しています。
ESGへの取り組みが活発化される中で、Gの領域は社外役員の比率やROEなど数値化しやすく、容易に可視化ができます。Eの領域でもCO2排出量として数値化がしやすく、且つ、科学的根拠あると言えます。一方Sは、地域や文化の違いにより算出のための共通言語がなく、科学的根拠の提示が難しく可視化が進みづらかった分野です。しかし、グローバルヘルス分野は科学的根拠に基づいた共通言語があり、Sの分野の中でも測定値の基準の突破口になりうる領域です。日本がグローバルヘルスを推進していくことで、Sの可視化のヒントが生まれ世界を牽引することができると考えています。
インパクト浸透に必要なことは“垣根を超える”ことです。日本はソーシャルセクターや経済セクターごとに垣根が生まれやすい傾向があります。同じ枠組みでやることによるメリットもありますが、垣根を越え様々なセクターと交わることで新たな価値が生まれます。その価値創造がインパクトの浸透において必要不可欠だと考えています。日本は人口が減少し、グローバルサウスの人口は若年層を中心に増加しています。そのためグローバルサウスは、人口ボーナスの可能性が高いと予想されますが、一方で多くの環境的・社会的課題を抱えています。グローバルサウスの課題に対して取り組み、「MADE IN JAPAN」ではなく、「MADE WITH JAPAN」という持続可能な共創関係を作ることで、豊かな日本を継続につながります。グローバルサウスの課題に取り組む日本の土壌を作るためSDGs年限である2030年までにインパクト・エコノミーの実現を目指したいと考えています。
ビル&メリンダ・ゲイツ財団 日本常駐代表 柏倉美保子 氏
パンデミック、気候変動、食糧不足はじめ様々な地球規模課題が顕著となる時代の中で、社会課題解決を促すインパクト・エコノミーへとシフトできるよう金融や会計の視点からも企業価値を再定義する試みは重要な一歩だと思います。ESGのE(環境)で気候変動リスクが投資家の間で定着するまで数十年かかったのと同様に、グローバルヘルスはじめS(社会)の定量化の確立やインパクト加重会計についても中長期でメソドロジーが成熟していくものと考えます。その第一歩として、今回発表されたエーザイ、ヤマハ発動機などの日本を代表する企業が、世界に先駆けて製品プロダクトの社会的インパクトを試算されたことは、非常に意義深いことだと感じます。ゲイツ財団はこれまでESGのインデックス(ワクチン・医薬品・栄養へのアクセス)をサポートしてきましたが、今後はグローバルヘルスのメトリックスなども検討しており、G7で日本がこの領域を牽引していけるよう協力していきたいと考えています。
グローバルヘルスを応援するビジネスリーダー有志一同について
渋澤 健(シブサワ・アンド・カンパニー株式会社 代表取締役CEO)を代表とする、グローバルヘルス(保健医療分野、特に公衆衛生分野、感染症対策分野での支援及び事業)へ貢献する日本企業等の有志団体です。製薬・医療機器をはじめとした保健医療分野のみならず、金融や商社、デジタル、サプライチェーン等多岐にわたる分野から構成され、大企業のみならず中小企業やスタートアップも含めた多様な企業の経営者が参画しています。
*有志代表 渋澤 健 シブサワ・アンド・カンパニー株式会社 代表取締役CEO/「新しい資本主義実現会議」委員
家次 恒 シスメックス株式会社 代表取締役会長 グループCEO
遠藤 信博 日本電気株式会社(NEC) 特別顧問
柏倉 美保子 ビル&メリンダ・ゲイツ財団 日本常駐代表
金子 洋介 SORA Technology株式会社 Founder兼CEO
加留部 淳 豊田通商株式会社 シニアエグゼクティブアドバイザー
後藤 禎一 富士フイルム株式会社 代表取締役社長・CEO
酒匂 真理 株式会社miup 創業者兼CEO
更家 悠介 サラヤ株式会社 代表取締役社長
田代 桂子 株式会社大和証券グループ本社 取締役兼執行役副社長
手代木 功 塩野義製薬株式会社 代表取締役会長兼社長
内藤 晴夫 エーザイ株式会社 代表執行役CEO
新浪 剛史 サントリーホールディングス株式会社 代表取締役社長
日高 祥博 ヤマハ発動機株式会社 代表取締役社長
2022年12月5日 グローバルヘルス・アカデミー第1回
有志一同から NEC、塩野義製薬、SORA Technology が登壇し、テクノロジーでグローバルヘルスを推進する新事業・技術を発表。ネクストパンデミックおよび100日ミッションに対する各社のアクションやアイディアも発信。
https://prtimes.jp/main/html/rd/p/000000013.000076537.html
2023年3月29日 グローバルヘルス・アカデミー第2回
結核予防会理事長 尾身茂会長と、有志一同から富士フイルム、シスメックス、エーザイが登壇し、「世界の感染症に対する日本企業の最新アプローチ」をテーマにセッションを実施。
https://prtimes.jp/main/html/rd/p/000000015.000076537.html
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