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ヘイトクライム犠牲者を見捨てるポーランド

ポーランドの司法制度は、ヘイトクライム(憎悪犯罪)への対応について、一部の社会的少数者に対する事件は対象とするが、ホームレスや障がい者、LGBTIの人びとなどは対象外にするという、2重構造になっている。この保護格差は司法による差別である。是正する動きはあったものの、社会の一部からの激しい反対で行き詰っている。来月の総選挙で誕生する新政権・新議会は、今度こそ、この格差に正面から向き合うべきである。




[画像: http://prtimes.jp/i/5141/87/resize/d5141-87-743048-1.jpg ]



アムネスティは、ポーランドのヘイトクライムに対する司法の扱いの格差実態を報告書にまとめ、9月17日に発表した。

同国の司法制度では、人種、民族、国籍、宗教、所属政党が背景にある暴力や嫌がらせは、ヘイトクライムとして裁かれる。しかし、年齢、ジェンダー、性自認、性的指向、社会経済的状態による差別を理由とするものは、対象とはならず、通常犯罪として扱われる。一部の少数派は保護するが、他の少数派は自己責任だとして突き放しているのだ。

ポーランドには、国際人権法、欧州人権法のもと、すべての者を差別から等しく保護する義務がある。当局がそれを怠っていること自体が差別である。早急に是正すべきだ。

ポーランドのLGBTI(レズビアン、ゲイ、バイセクシュアル、トランスジェンダー、インターセックス)の人びとは、各地で根深い差別を受けている。同国の主要LGBTI団体「同性愛嫌悪撲滅キャンペーン」によると、同性愛者やトランスジェンダーの人びとへのヘイトクライムが、昨年1年で120件も発生している。実際の数は、もっと多いという。

例えば昨年1月、シュチェチン市でゲイの男性(20才)がゲイクラブから出てきたところを、激しく殴打され、顔を繰り返し水たまりに押し付けられて、溺死するという事件があった。以来、LGBTIの人びとは、おびえながら暮らしている。

12月には、反ナチス活動家のストリート・アーティストが、虹を描いた自作の壁画の前で、「ホモ売春婦」と嘲られながら、蹴られ唾をかけられた。犯人は逮捕され、この5月に半年の懲役と罰金を科されたが、判決文には侮辱的言動が「同性愛嫌悪」ではなく、単なる「下品」と記された。

ここ数年、ホームレスに対する悪意に満ちた暴力事件も、数多く起きている。しかし中には、被害者の社会経済的状態が動機の一部を構成するにもかかわらず、通常の犯罪扱いにされたケースもあった。

こうした人たちに対するヘイトクライムの実態調査は実施されておらず、実情の把握はできていない。

ポーランドは人種差別や外国人嫌悪を理由としたヘイトクライムに対しては、称賛に値する取り組みを行ってきた。一方で、同じように暴力や嫌がらせと隣り合わせの毎日を送っている人たちへの対策は怠っている。これは、司法による差別ではないか。

状況を改善するため、刑法改正の動きはある。2012年には、LGBTIの人びと、障がい者、高齢者らをヘイトクライムから保護する法案が提出された。しかし、社会の一部から改正案に対して猛烈な反発があり、行き詰っている。

10月25日の総選挙を前にして、この問題はまた論争を呼びそうだ。

ポーランドは今度こそ、法の下ですべての少数派が同等の保護を受けられるよう、具体的に策を講じるべきだ。次の政権と議会は、人権を優先し、差別をなくすことを最優先課題に据える必要がある。自分が自分であるというだけで、暴力を恐れて生きるようなことがあってはならない。


アムネスティ・インターナショナル日本 www.amnesty.or.jp
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