今からでも遅くない!各産業のゲームチェンジャーとなりえる量子技術の導入・R&D投資は最新萌芽技術の選択が決め手4.(全8回)〜世界の研究開発動向と有望技術解説〜
[20/08/07]
提供元:PRTIMES
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第4回 量子センシングのこれまでとこれからのプレイヤー
[表: https://prtimes.jp/data/corp/7141/table/118_1.jpg ]
量子センシング・量子センサーによる微小量計測の技術動向と活用
量子コンピュータや量子通信での要素技術である、「量子の重ね合わせ」や「もつれ」をセンシングする量子センシング(quantum sensing)や、量子が外界からのノイズの影響を受けて変化することを計測して周囲の環境やその変化のセンサーとして活用する量子センサー(quantum sensor)などが、量子技術の派生技術として確立されつつあります。計測・センサー技術はICT化が進む現在の社会の重要な要素技術であり、量子自体が外界からのノイズに作用されやすいという不安定性を逆に活用した技術で、精密計測や精密イメージングなど広く活用が見込まれ、量子コンピュータよりも早い実用化が期待されています。
この領域で対象とする量子は、もともと量子コンピュータで用いられてきたスピン量子や、量子通信で用いられる光量子のもつれの特性を制御・操作・観測する量子要素技術と、そのセンシングする対象の量子が周囲環境の変化に影響を受けた結果を観測することで周囲環境をセンシングする、センサー技術が領域の構成です。量子状態は例えば小さな重力場や加速度の変化により、その量子状態が変化したり、光量子のもつれ状態が様々な媒体を通過する過程で変化します。これを計測することで、地磁気や生体の微小磁気を解析や、地球やその他惑星や太陽からの重力場の変化を解析して位置情報や姿勢情報を得るセンサーや、火山や地震などの地球の活動や、生命の活動に対する知見を得ることが可能となります。また、光量子である単一光子の生成とその検出技術を応用することで、光を波としてではなく量子として利用し、物質との相互作用によるもつれの変化を解析することで、光では達成できない高精細のイメージング技術に応用できる可能性があります。
これらの量子を生成するための冷却原子を生成する高強度レーザー技術や、原子干渉計技術、光量子を観測する量子干渉計技術、さらに極低温の超電導回路ではなく、より高温あるいは常温でのスピン量子生成と制御のためのシステムとして、センサー用途に開発を進める、ダイヤモンドの結晶欠陥やスピントロニクス材料中の単一スピン量子などは、量子派生ではなく量子センサー技術として独立した技術領域を形成しつつあります。ダイヤモンドの窒素-空孔欠陥(N-Vセンタ)は室温での長時間(マイクロ秒オーダー)でスピン量子を生成し観測することが可能となってきており、生体などの磁場を細胞・分子レベルで計測する検討が進められ、生命活動を理解するためのセンサーとして、細胞レベルでの生命活動の理解が進むとともに、脳内の異常やがん細胞の検出などの医療センシング用途へと発展する可能性があります。原子冷却や光量子生成に必要な単一光子生成光源や、極短(フェムト秒・アト秒)パルスレーザーなどの光源の開発も、量子センシング技術を深化させる点で重要であり、大きな研究投資が動いています。
世界の量子センシング・量子センサー技術研究開発動向
量子技術はコンピュータやネットワーク技術では解決すべき課題は多いものの、この量子センシング・量子センサー技術は最も実用化に近い技術と考えられています。例えば最近では、2018年に米国のAO SenseとNASAの合同チームは世界で初めての量子技術を用いた小型重力センサーを発表し、宇宙衛星用途への開発を推進しており、ドイツ米国を中心に精密な重力場検出機器を姿勢・位置制御用のセンサーとして実用化する動きが近年目覚ましく、直近5年以内での実用化が見込まれます。小型化には着手したところですが測定原理的は既に確立されており、現状ではコストに見合ったロケット/航空用途から始まり中長的には小型化とコスト低減による精密なGPSの代わりを担うデバイスとして自動車やドローンや地下・海底・水中探査機として展開していくものと考えられます。
世界の量子センシング・量子センサーに関連する研究投資(グラント)は、2009年以降の積算値で順調に伸びており、特にスピントロニクスを含むスピン量子を用いた計測技術が早くから立ち上がっており、一方で光量子技術はこれまで量子通信等の用途が限定していたために投資としては比較して少ないと考えられますが、最近では通信以外にも光の分解能を大きく超えるイメージング用途を中心に量子もつれを用いたセンシング用途での応用が期待され、研究開発投資が増えてきています。一方、超短パルスのレーザー技術や冷却原子を活用した量子状態の観測や制御の研究は量子技術全体を支える基盤技術として着実に投資が増えてきています。特に英国を中心とした実用研究への投資がセンサー領域は増えてきており、光のもつれの検出技術を用いた従来の光学顕微鏡の精度を飛躍的に向上できるイメージング技術や、スピン量子による磁場の検出や、冷却原子による重力場の検出センサーとしての活用が見込まれ、地磁気や人体における磁場あるいは、重力場の変化を検知による地殻変動などの地震や地盤崩落の予兆を検知できるセンサーとして防災や医療への活用も積極的に開発が進められていいます。日本でもこの領域における開発は進んでおり、特に高精度光格子時計の技術は世界をリードしており、これを用いた重力場の検出などの量子センサーへの応用は、重点的な研究開発投資を受けて開発が進行しています。日本が強いハードウェアや材料開発だけでなく、応用領域である生体や地学用途への用途開発にも長けた人材育成や企業の積極的な参入と産学の協業がより増えることが課題であり、応用領域の広いこの領域では特に重要です。
技術領域別グラント額(推計)の年推移
[画像1: https://prtimes.jp/i/7141/118/resize/d7141-118-215479-1.png ]
技術領域別世界研究費推計ランキング
[画像2: https://prtimes.jp/i/7141/118/resize/d7141-118-951848-0.png ]
スピン量子と光量子の幅広いセンサー用途開発と量子センシング基盤技術の深化の両面が技術領域のキー
世界の研究資金(グラント)において、量子センシング・センサー全体4500テーマでは、量子コンピュータ同様英国が研究センターを主要大学に設置して包括的な量子技術研究を行い応用展開までを見据えた産学連携のための研究ハブを設置し、上位研究費テーマに並んでいる。特にセンサーやイメージングに特化した研究センターをバーミンガム大、グラスゴー大に設置し、10年以上を見据えた研究ソサイエティの形成が行われている。一方、米国でも基礎研究・応用研究含め幅広い投資が、この量子センシング・センサー領域においてもバランスよく進められている。中国でも量子技術の開発中心である中国科学技術大の他、上海科学技術大などで基礎から応用にかけての研究投資がなされている。
一方、日本の研究250テーマを対象にした科研費の上位は、量子センシングによる量子のふるまいやダイナミクスの理解による量子制御に向けた基盤研究が多く、日本の世界をリードする光格子時計やセンサー用途のダイヤモンド材料に関するセンシング技術、さらには量子状態を観測するための超短パルスレーザーを利用した研究が多くを占め、これらが日本の量子基盤技術の強みになっている。一方で、具体的なセンサー用途に特化した研究は少ない状況であり、諸外国に比べて生体用途など異分野を含めた幅広い応用にアプローチする研究への研究開発投資は少なく、この点は具体的な用途展開案と市場をもつ企業との共同研究がより促進される研究体制の整備が重要と考えられます。
量子センシング・量子センサー全体のグラント資金流入額機関世界上位5大学
[画像3: https://prtimes.jp/i/7141/118/resize/d7141-118-150097-2.png ]
量子センシング・センサーの日本国内のグラント資金流入額上位研究
[画像4: https://prtimes.jp/i/7141/118/resize/d7141-118-279313-3.png ]
量子センシング・量子センサー技術分野別研究開発動向
量子センシング・量子センサー技術領域の主要3領域である、(1)スピン量子計測技術、(2)光量子計測技術、(3)量子計測基盤技術についてのグローバルでの投資額上位の研究課題を示しています。既に、上記の研究センター・研究ハブの設置の中には、網羅的にこれらの課題を包括しているものがおおく、上位としてリストアップされているものについては課題の内容は割愛しているが、これらから各領域における規模の大きな研究領域が把握できます。
(1)「スピン量子計測」グラント資金流入上位5研究内容
[画像5: https://prtimes.jp/i/7141/118/resize/d7141-118-402270-4.png ]
スピン量子計測に関連した世界全体での1530研究テーマにおいては、スピン量子を生成する系として超電導回路以外にも半導体量子ドットなどの量子のデバイス実装が可能な系の提案を目指す研究や、新規の磁性材料などにおける量子状態の観測と制御技術の確立に関する研究が多く、日本が従来から先進的な技術を持つ磁性材料や超電導材料技術、さらには半導体デバイス技術を活用が期待でき、これまでの材料・半導体関連のプレイヤーが貢献できる領域と考えられます。
(2)「光量子計測技術」グラント資金流入上位5研究内容
[画像6: https://prtimes.jp/i/7141/118/resize/d7141-118-137022-5.png ]
光量子計測技術においては、光量子のもつれを用いたイメージングやセンサーの開発および、セキュリティや医療や新規材料開発への利用が注目され投資が進んでいる。世界でも560テーマでありこの数年で研究が増えてきている領域であるが、光学的なイメージング・センシングは日本がもともと保有する強い技術のため、日本のオプティクス・イメージングデバイス技術を保有するプレイヤーが主要プレイヤーになりうる可能性を十分に秘めた領域で、積極的な企業からの研究投資と用途開発により技術の急速な進歩と実用化が期待されます。
(3)「量子計測基盤技術」グラント資金流入上位5研究内容
[画像7: https://prtimes.jp/i/7141/118/resize/d7141-118-362356-6.png ]
量子計測基盤技術は、量子自体を計測するための基盤的な技術領域であり、高度な計測機器・装置を要する大規模設備が必要な基礎研究領域です。したがって、大規模な研究投資を基礎研究に対して行っている米国での投資が優位にあります。また、基礎研究に対しては日本も多くの研究予算を充当してきた背景があり、世界で620研究テーマではあるが、引き続き定常的な投資により人材育成と量子技術のさらなる研鑽が必要です。また、基礎研究での共同研究に企業も参入することで、量子コンピュータ・量子ネットワーク以外の用途として開拓される新奇の量子系の特性を早い段階から把握して自社技術化することで、用途開発を世界に先駆けて取り組むことができるため、企業とアカデミアの共同開発が重要な領域でもあります。比較的応用への障壁が低い量子センサーにおいては、基礎研究からの新規量子系の応用開発が直接出てくる可能性を英国などでは期待して産学連携体制の構築を加速しています。
出願済み特許に見る各国の技術動向
以下に「量子センシング・量子センサー全体」の特許出願動向について、関連特許56か国、WO、EPでの出願特許、2792件より集計した結果を、出願数上位の国および機関(グローバル)について示しました。出願人・譲受人の国としては、中国からの出願が圧倒的に多い状況で、量子技術でしのぎを削る米国、英国は比較して大きな優位性をとれてない状況です。また日本でも特に大手企業を中心に出願が先行していますが近年は減少傾向です。一方、近年では韓国からの出願が増加しており、米国からの出願と同程度の水準に達してきています。出願先の国としては、中国が圧倒的な中で米国も比較的多いが、中国を含め国内出願とWOへの出願が多いフェーズです。今後、具体的な市場が立ち上がる段階で、国際出願への移行が増えてくる可能性があります。自国ではない企業が出願する国際出願の件数としては、米国への場合が最も多く、中国への場合も拮抗しており、また同程度のWOへの出願があります。一方で、日本からの出願は量子コンピュータ技術同様に、2010年くらいまでは世界トップクラスの出願数でしたが、近年は韓国の出願が増える一方で、日本は年々減少傾向にあります。
世界の特許出願状況
[画像8: https://prtimes.jp/i/7141/118/resize/d7141-118-630363-7.png ]
世界の特許出願動向
[画像9: https://prtimes.jp/i/7141/118/resize/d7141-118-545261-8.png ]
特許件数としては、量子暗号技術などを手掛けるMagiq Technologyが首位となっています。日本でも量子通信技術を中心に東芝、セイコーエプソン、NECなどの先行大手企業が上位に位置します。また、韓国のSK Telecomが、本領域における近年の韓国の躍進を牽引している。また、センサー用途で最近注目される窒素空孔(N-Vセンタ)ダイヤモンド材料の技術は、ダイヤモンドを扱う最大手企業のDeBeers参加の合成ダイヤモンド企業であり、特許の質・量ともに高い水準にあり、センサー用途のダイヤモンド材料を提供する次期有力プレイヤーとなる可能性が高い。また、研究所や大学からの出願としては、韓国の躍進を研究側から牽引する韓国標準科学研究所が最も多く、次いで中国科学技術アカデミーが位置するが、日本の産業技術総合研究所においても量子通信関連のセンシング技術やダイヤモンドを用いたセンサーなどの技術で出願数は多くの出願があります。米国の陸軍および海軍の研究所においても量子暗号や量子イメージング用途のセンサー技術が出願されています。大学個別として米国や中国の大学が上位にランクインしていますが、数としては少なく、まだまだ出願数としても日本が優位に立てる可能性が十分あるため、出願ポートフォリオ戦略を明確にしてある程度の束での出願が、今後の本領域での主権を握るという点でも重要と考えられます。
「量子センシング・量子センサー全体」特許出願上位
[画像10: https://prtimes.jp/i/7141/118/resize/d7141-118-312279-9.png ]
また、そのうちの主要出願である、日本、米国、欧州(EP)、WO(PCT)、での特許公報1400件を対象に、特許の被引用履歴に基づいたアスタミューゼ独自のスコアリングを行い、上位特許を保有する企業・大学・研究機関のランキングを示しました。この領域ではElement Sixが最上位スコアの特許を保有するとともに、対象特許の全てが2011年以降に出願のダイヤモンドセンサに関する特許であり本領域の中心プレイヤーとなる可能性が高いです。また、豪州のメルボルン大はダイヤモンドを用いた量子センサーを生体用途に適用する特許を2010年付近に出願しており、件数は少ないですが最有力特許を持つプレイヤーの一つです。また、Magiq Technologies社は量子暗号に関わるセンサー技術を、Semiconductor Component Industry社は少数ながら量子イメージングに関わる量子センサーアレイに関する有望な特許を保有しており、これらの量子センシング・量子センサー技術での先行するデバイス・材料領域で有望な特許を保有するプレイヤーが今後の中心的プレイヤーになる可能性が高いと考えられます。
量子センシング・量子センサーは、量子自体が周囲環境からの影響を受けやすいという、量子コンピュータや量子通信ではネガティブな性質を、周囲データをセンシングするという用途へ展開した技術になります。従って応用への技術的障壁は比較的低く、量子コンピュータの活用よりも先行して活用が広がると期待されています。また、現状は量子コンピュータや量子通信に用いられてきた量子技術を転用して、センサーとして活用する試みが多い状況ですが、今後この領域の基礎研究において出てくる様々な量子系は、必ずしも量子コンピュータに利用できなくても、ダイヤモンド材料やトポロジカル量子材料など、センサー用途には幅広く活用できる可能性が期待できます。このチャンスに日本が元々有する量子基盤技術の強みを生かし、また応用においてもオプティクス、デバイス工学、スピン・磁性・超電導材料などの日本の企業が持つ技術の強みを生かして、より多くの企業と大学の連携を通じて応用面でより突出した技術を生み出すべく、人と技術の交流を基にしたコミュニティを形成する積極的な研究開発投資を行うことで、世界をリードする基礎・応用技術を有する研究開発連合として台頭することが期待できる領域です。
(アスタミューゼ(株) テクノロジーインテリジェンス部 川口伸明、*米谷真人)
【本件に対する問い合わせ】
アスタミューゼ社 経営企画室 広報担当 E-Mail: press@astamuse.co.jp
[表: https://prtimes.jp/data/corp/7141/table/118_1.jpg ]
量子センシング・量子センサーによる微小量計測の技術動向と活用
量子コンピュータや量子通信での要素技術である、「量子の重ね合わせ」や「もつれ」をセンシングする量子センシング(quantum sensing)や、量子が外界からのノイズの影響を受けて変化することを計測して周囲の環境やその変化のセンサーとして活用する量子センサー(quantum sensor)などが、量子技術の派生技術として確立されつつあります。計測・センサー技術はICT化が進む現在の社会の重要な要素技術であり、量子自体が外界からのノイズに作用されやすいという不安定性を逆に活用した技術で、精密計測や精密イメージングなど広く活用が見込まれ、量子コンピュータよりも早い実用化が期待されています。
この領域で対象とする量子は、もともと量子コンピュータで用いられてきたスピン量子や、量子通信で用いられる光量子のもつれの特性を制御・操作・観測する量子要素技術と、そのセンシングする対象の量子が周囲環境の変化に影響を受けた結果を観測することで周囲環境をセンシングする、センサー技術が領域の構成です。量子状態は例えば小さな重力場や加速度の変化により、その量子状態が変化したり、光量子のもつれ状態が様々な媒体を通過する過程で変化します。これを計測することで、地磁気や生体の微小磁気を解析や、地球やその他惑星や太陽からの重力場の変化を解析して位置情報や姿勢情報を得るセンサーや、火山や地震などの地球の活動や、生命の活動に対する知見を得ることが可能となります。また、光量子である単一光子の生成とその検出技術を応用することで、光を波としてではなく量子として利用し、物質との相互作用によるもつれの変化を解析することで、光では達成できない高精細のイメージング技術に応用できる可能性があります。
これらの量子を生成するための冷却原子を生成する高強度レーザー技術や、原子干渉計技術、光量子を観測する量子干渉計技術、さらに極低温の超電導回路ではなく、より高温あるいは常温でのスピン量子生成と制御のためのシステムとして、センサー用途に開発を進める、ダイヤモンドの結晶欠陥やスピントロニクス材料中の単一スピン量子などは、量子派生ではなく量子センサー技術として独立した技術領域を形成しつつあります。ダイヤモンドの窒素-空孔欠陥(N-Vセンタ)は室温での長時間(マイクロ秒オーダー)でスピン量子を生成し観測することが可能となってきており、生体などの磁場を細胞・分子レベルで計測する検討が進められ、生命活動を理解するためのセンサーとして、細胞レベルでの生命活動の理解が進むとともに、脳内の異常やがん細胞の検出などの医療センシング用途へと発展する可能性があります。原子冷却や光量子生成に必要な単一光子生成光源や、極短(フェムト秒・アト秒)パルスレーザーなどの光源の開発も、量子センシング技術を深化させる点で重要であり、大きな研究投資が動いています。
世界の量子センシング・量子センサー技術研究開発動向
量子技術はコンピュータやネットワーク技術では解決すべき課題は多いものの、この量子センシング・量子センサー技術は最も実用化に近い技術と考えられています。例えば最近では、2018年に米国のAO SenseとNASAの合同チームは世界で初めての量子技術を用いた小型重力センサーを発表し、宇宙衛星用途への開発を推進しており、ドイツ米国を中心に精密な重力場検出機器を姿勢・位置制御用のセンサーとして実用化する動きが近年目覚ましく、直近5年以内での実用化が見込まれます。小型化には着手したところですが測定原理的は既に確立されており、現状ではコストに見合ったロケット/航空用途から始まり中長的には小型化とコスト低減による精密なGPSの代わりを担うデバイスとして自動車やドローンや地下・海底・水中探査機として展開していくものと考えられます。
世界の量子センシング・量子センサーに関連する研究投資(グラント)は、2009年以降の積算値で順調に伸びており、特にスピントロニクスを含むスピン量子を用いた計測技術が早くから立ち上がっており、一方で光量子技術はこれまで量子通信等の用途が限定していたために投資としては比較して少ないと考えられますが、最近では通信以外にも光の分解能を大きく超えるイメージング用途を中心に量子もつれを用いたセンシング用途での応用が期待され、研究開発投資が増えてきています。一方、超短パルスのレーザー技術や冷却原子を活用した量子状態の観測や制御の研究は量子技術全体を支える基盤技術として着実に投資が増えてきています。特に英国を中心とした実用研究への投資がセンサー領域は増えてきており、光のもつれの検出技術を用いた従来の光学顕微鏡の精度を飛躍的に向上できるイメージング技術や、スピン量子による磁場の検出や、冷却原子による重力場の検出センサーとしての活用が見込まれ、地磁気や人体における磁場あるいは、重力場の変化を検知による地殻変動などの地震や地盤崩落の予兆を検知できるセンサーとして防災や医療への活用も積極的に開発が進められていいます。日本でもこの領域における開発は進んでおり、特に高精度光格子時計の技術は世界をリードしており、これを用いた重力場の検出などの量子センサーへの応用は、重点的な研究開発投資を受けて開発が進行しています。日本が強いハードウェアや材料開発だけでなく、応用領域である生体や地学用途への用途開発にも長けた人材育成や企業の積極的な参入と産学の協業がより増えることが課題であり、応用領域の広いこの領域では特に重要です。
技術領域別グラント額(推計)の年推移
[画像1: https://prtimes.jp/i/7141/118/resize/d7141-118-215479-1.png ]
技術領域別世界研究費推計ランキング
[画像2: https://prtimes.jp/i/7141/118/resize/d7141-118-951848-0.png ]
スピン量子と光量子の幅広いセンサー用途開発と量子センシング基盤技術の深化の両面が技術領域のキー
世界の研究資金(グラント)において、量子センシング・センサー全体4500テーマでは、量子コンピュータ同様英国が研究センターを主要大学に設置して包括的な量子技術研究を行い応用展開までを見据えた産学連携のための研究ハブを設置し、上位研究費テーマに並んでいる。特にセンサーやイメージングに特化した研究センターをバーミンガム大、グラスゴー大に設置し、10年以上を見据えた研究ソサイエティの形成が行われている。一方、米国でも基礎研究・応用研究含め幅広い投資が、この量子センシング・センサー領域においてもバランスよく進められている。中国でも量子技術の開発中心である中国科学技術大の他、上海科学技術大などで基礎から応用にかけての研究投資がなされている。
一方、日本の研究250テーマを対象にした科研費の上位は、量子センシングによる量子のふるまいやダイナミクスの理解による量子制御に向けた基盤研究が多く、日本の世界をリードする光格子時計やセンサー用途のダイヤモンド材料に関するセンシング技術、さらには量子状態を観測するための超短パルスレーザーを利用した研究が多くを占め、これらが日本の量子基盤技術の強みになっている。一方で、具体的なセンサー用途に特化した研究は少ない状況であり、諸外国に比べて生体用途など異分野を含めた幅広い応用にアプローチする研究への研究開発投資は少なく、この点は具体的な用途展開案と市場をもつ企業との共同研究がより促進される研究体制の整備が重要と考えられます。
量子センシング・量子センサー全体のグラント資金流入額機関世界上位5大学
[画像3: https://prtimes.jp/i/7141/118/resize/d7141-118-150097-2.png ]
量子センシング・センサーの日本国内のグラント資金流入額上位研究
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量子センシング・量子センサー技術分野別研究開発動向
量子センシング・量子センサー技術領域の主要3領域である、(1)スピン量子計測技術、(2)光量子計測技術、(3)量子計測基盤技術についてのグローバルでの投資額上位の研究課題を示しています。既に、上記の研究センター・研究ハブの設置の中には、網羅的にこれらの課題を包括しているものがおおく、上位としてリストアップされているものについては課題の内容は割愛しているが、これらから各領域における規模の大きな研究領域が把握できます。
(1)「スピン量子計測」グラント資金流入上位5研究内容
[画像5: https://prtimes.jp/i/7141/118/resize/d7141-118-402270-4.png ]
スピン量子計測に関連した世界全体での1530研究テーマにおいては、スピン量子を生成する系として超電導回路以外にも半導体量子ドットなどの量子のデバイス実装が可能な系の提案を目指す研究や、新規の磁性材料などにおける量子状態の観測と制御技術の確立に関する研究が多く、日本が従来から先進的な技術を持つ磁性材料や超電導材料技術、さらには半導体デバイス技術を活用が期待でき、これまでの材料・半導体関連のプレイヤーが貢献できる領域と考えられます。
(2)「光量子計測技術」グラント資金流入上位5研究内容
[画像6: https://prtimes.jp/i/7141/118/resize/d7141-118-137022-5.png ]
光量子計測技術においては、光量子のもつれを用いたイメージングやセンサーの開発および、セキュリティや医療や新規材料開発への利用が注目され投資が進んでいる。世界でも560テーマでありこの数年で研究が増えてきている領域であるが、光学的なイメージング・センシングは日本がもともと保有する強い技術のため、日本のオプティクス・イメージングデバイス技術を保有するプレイヤーが主要プレイヤーになりうる可能性を十分に秘めた領域で、積極的な企業からの研究投資と用途開発により技術の急速な進歩と実用化が期待されます。
(3)「量子計測基盤技術」グラント資金流入上位5研究内容
[画像7: https://prtimes.jp/i/7141/118/resize/d7141-118-362356-6.png ]
量子計測基盤技術は、量子自体を計測するための基盤的な技術領域であり、高度な計測機器・装置を要する大規模設備が必要な基礎研究領域です。したがって、大規模な研究投資を基礎研究に対して行っている米国での投資が優位にあります。また、基礎研究に対しては日本も多くの研究予算を充当してきた背景があり、世界で620研究テーマではあるが、引き続き定常的な投資により人材育成と量子技術のさらなる研鑽が必要です。また、基礎研究での共同研究に企業も参入することで、量子コンピュータ・量子ネットワーク以外の用途として開拓される新奇の量子系の特性を早い段階から把握して自社技術化することで、用途開発を世界に先駆けて取り組むことができるため、企業とアカデミアの共同開発が重要な領域でもあります。比較的応用への障壁が低い量子センサーにおいては、基礎研究からの新規量子系の応用開発が直接出てくる可能性を英国などでは期待して産学連携体制の構築を加速しています。
出願済み特許に見る各国の技術動向
以下に「量子センシング・量子センサー全体」の特許出願動向について、関連特許56か国、WO、EPでの出願特許、2792件より集計した結果を、出願数上位の国および機関(グローバル)について示しました。出願人・譲受人の国としては、中国からの出願が圧倒的に多い状況で、量子技術でしのぎを削る米国、英国は比較して大きな優位性をとれてない状況です。また日本でも特に大手企業を中心に出願が先行していますが近年は減少傾向です。一方、近年では韓国からの出願が増加しており、米国からの出願と同程度の水準に達してきています。出願先の国としては、中国が圧倒的な中で米国も比較的多いが、中国を含め国内出願とWOへの出願が多いフェーズです。今後、具体的な市場が立ち上がる段階で、国際出願への移行が増えてくる可能性があります。自国ではない企業が出願する国際出願の件数としては、米国への場合が最も多く、中国への場合も拮抗しており、また同程度のWOへの出願があります。一方で、日本からの出願は量子コンピュータ技術同様に、2010年くらいまでは世界トップクラスの出願数でしたが、近年は韓国の出願が増える一方で、日本は年々減少傾向にあります。
世界の特許出願状況
[画像8: https://prtimes.jp/i/7141/118/resize/d7141-118-630363-7.png ]
世界の特許出願動向
[画像9: https://prtimes.jp/i/7141/118/resize/d7141-118-545261-8.png ]
特許件数としては、量子暗号技術などを手掛けるMagiq Technologyが首位となっています。日本でも量子通信技術を中心に東芝、セイコーエプソン、NECなどの先行大手企業が上位に位置します。また、韓国のSK Telecomが、本領域における近年の韓国の躍進を牽引している。また、センサー用途で最近注目される窒素空孔(N-Vセンタ)ダイヤモンド材料の技術は、ダイヤモンドを扱う最大手企業のDeBeers参加の合成ダイヤモンド企業であり、特許の質・量ともに高い水準にあり、センサー用途のダイヤモンド材料を提供する次期有力プレイヤーとなる可能性が高い。また、研究所や大学からの出願としては、韓国の躍進を研究側から牽引する韓国標準科学研究所が最も多く、次いで中国科学技術アカデミーが位置するが、日本の産業技術総合研究所においても量子通信関連のセンシング技術やダイヤモンドを用いたセンサーなどの技術で出願数は多くの出願があります。米国の陸軍および海軍の研究所においても量子暗号や量子イメージング用途のセンサー技術が出願されています。大学個別として米国や中国の大学が上位にランクインしていますが、数としては少なく、まだまだ出願数としても日本が優位に立てる可能性が十分あるため、出願ポートフォリオ戦略を明確にしてある程度の束での出願が、今後の本領域での主権を握るという点でも重要と考えられます。
「量子センシング・量子センサー全体」特許出願上位
[画像10: https://prtimes.jp/i/7141/118/resize/d7141-118-312279-9.png ]
また、そのうちの主要出願である、日本、米国、欧州(EP)、WO(PCT)、での特許公報1400件を対象に、特許の被引用履歴に基づいたアスタミューゼ独自のスコアリングを行い、上位特許を保有する企業・大学・研究機関のランキングを示しました。この領域ではElement Sixが最上位スコアの特許を保有するとともに、対象特許の全てが2011年以降に出願のダイヤモンドセンサに関する特許であり本領域の中心プレイヤーとなる可能性が高いです。また、豪州のメルボルン大はダイヤモンドを用いた量子センサーを生体用途に適用する特許を2010年付近に出願しており、件数は少ないですが最有力特許を持つプレイヤーの一つです。また、Magiq Technologies社は量子暗号に関わるセンサー技術を、Semiconductor Component Industry社は少数ながら量子イメージングに関わる量子センサーアレイに関する有望な特許を保有しており、これらの量子センシング・量子センサー技術での先行するデバイス・材料領域で有望な特許を保有するプレイヤーが今後の中心的プレイヤーになる可能性が高いと考えられます。
量子センシング・量子センサーは、量子自体が周囲環境からの影響を受けやすいという、量子コンピュータや量子通信ではネガティブな性質を、周囲データをセンシングするという用途へ展開した技術になります。従って応用への技術的障壁は比較的低く、量子コンピュータの活用よりも先行して活用が広がると期待されています。また、現状は量子コンピュータや量子通信に用いられてきた量子技術を転用して、センサーとして活用する試みが多い状況ですが、今後この領域の基礎研究において出てくる様々な量子系は、必ずしも量子コンピュータに利用できなくても、ダイヤモンド材料やトポロジカル量子材料など、センサー用途には幅広く活用できる可能性が期待できます。このチャンスに日本が元々有する量子基盤技術の強みを生かし、また応用においてもオプティクス、デバイス工学、スピン・磁性・超電導材料などの日本の企業が持つ技術の強みを生かして、より多くの企業と大学の連携を通じて応用面でより突出した技術を生み出すべく、人と技術の交流を基にしたコミュニティを形成する積極的な研究開発投資を行うことで、世界をリードする基礎・応用技術を有する研究開発連合として台頭することが期待できる領域です。
(アスタミューゼ(株) テクノロジーインテリジェンス部 川口伸明、*米谷真人)
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