3.11東日本大震災の影響 子育て調査 子どもを守るため自己判断しなくてはならず悩んでいる母親 子育て時のいらいら・不安が増し、子どもからもストレスサイン
[11/07/04]
提供元:PRTIMES
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株式会社ベネッセコーポレーション(本社:岡山市、以下ベネッセ)の社内シンクタンク「ベネッセ次世代育成研究所」では、2011年5 月に、0〜5歳児をもつ母親3,096 名(首都圏1,548名、首都圏及び東北以外の地域1,548名)を対象に、1.東日本大震災直後 2.2 か月超経過した調査時点での子育て行動や子どもの様子について、インターネット調査を実施しました。また、調査時点の子育て意識と、震災以前に実施した調査結果とを比較することで、震災後の変化を明らかにしました。主な調査結果は以下の通りです。
1. 震災・原発事故に関して信頼できる情報は何かという問いに対し、もっとも多かった回答は「専門家の意見」だが、31.7%にとどまり、次いで「信頼できる情報はない」が29.4%である。
2.首都圏では、子どもの屋外遊びを、震災直後は53.4%の母親が減らしていた。その理由について、73.8%が放射線の健康への影響が心配だったからと答えている。調査時点(2011 年5 月末)でも17.7%が依然として子どもの屋外遊びを減らしている。
3.首都圏では、「子どもがわずらわしくていらいらしてしまうこと」が「よくある」「時々ある」と回答した母親は、調査時点(2011 年5 月末)は70.6%で震災前より16.8 ポイント増加している。また、「子どもが将来うまく育っていくかどうか心配になること」は70.4%で震災前より10.0ポイント増加しており、母親の子育て時のいらいら・不安が増加していることがわかる。
4.首都圏の子どもには、ストレスサインである“甘えが増える”様子がみられる。震災直後は、低年齢児(0〜2歳)で31.9%に対し、高年齢児(3〜5 歳)では41.4%と、高年齢児のほうが多い。また、震災後2 か月では低年齢児で30.8%、高年齢児で26.0%と、低年齢児が回復しにくい傾向にある。
5.首都圏では、震災後、親子で話したこととして「水や食料の大切さ」(65.3%)「災害から身を守る方法」(48.8%)などがあり、総じて首都圏以外の地域より高い。
6.父親の協力や地域とのつながりといった周囲の人とのコミュニケーションが多い母親の方が、それらが少ない母親よりも、子育て時のいらいら・不安が少ない。
今回の調査結果からは、震災後の不安定な環境下で、母親たちが確かな情報が少ないことに迷いながらも、子どもを守るために自己判断して行動していることがうかがえます。これらのことは、母親にストレスを与え、首都圏の母親の子育て感情をみると、震災前と比べていらいら・不安が増しています。母親のストレスは子どもにも影響を与え、ストレスサインとみられる行動が表れています。子どもの心の安定のためには、母親や周囲の大人が感情を安定させていつも通りに接することが大切ですが、現在の不安は個人では解決できないことばかりで、取り除くことは難しい状況です。少しでも状況を良くするためには、父親やママ友、祖父母などとの大人同士のコミュニケーションの中で心配や不安を吐き出し、気持ちを整理して、なるべくふだんどおりに子どもと向き合うことではないか、と考えます。
●専門家の解説
汐見稔幸 (白梅学園大学学長、東京大学名誉教授)/専門:教育学、教育人間学、育児学
今回の震災は人間の心の、魂の深いところに衝撃を与えるものであり、元気がでないのは当たり前だと思う。母親の気持ちも通常に戻るまで時間がかかるだろう。今は、情報が入れば入るほど不安になる傾向がある。不安にならないために、そもそも情報交換をしないとか、何を心配しなければならないのかというアンテナを降ろす人もいるだろうが、それで本質的に不安が解決しているわけではない。今の不安な状況は個人で解決ができる規模ではない。それに対して、国や自治体が早急に対応策、安全策を講じ、希望や安心を与えていくことが必要だろう。
菅原ますみ (お茶の水女子大学大学院教授)/専門:発達心理学、子どものパーソナリティ発達、発達精神病理学
今回の調査結果をみて、信頼できる確かな情報が少ないなかでも母親たちは自分で判断して、子どもを守るためにしっかりと行動しようとしているという印象を受けました。しかしこれだけの事態が起こったのですから、親子とも大きなストレスを受けていて、小さな子どもたちに気になる行動が出現していることも明らかになりました。震災や原発事故から子どもの命を守る、という大きなミッションが発生したために、母親たちに普段の余裕がなくなり、子育てに対する否定的な感情が増大したり、子どもたちに対してもいらだちが向けられたりすることも多くなっていると予想されます。長引くストレス状況は子どもたちの育ちに大きな影響を及ぼしていきます。母親自身もつらいなかとても頑張っていると思いますが、小さな子どもたちのことは、全ての大人が守ってあげてほしい。そしてなによりも、不安のもととなっている原発事故の収束と復興への見通しが一日も早く示されて、安心して子育てができる社会的環境を取り戻すことが急務だと思います。
榊原洋一 (お茶の水女子大学大学院教授 小児科医)/専門:小児科学、小児神経学、発達神経学
低年齢の子どものほうがストレス反応が深刻である、というのは過去の事例からも明らかで科学的根拠があります。また被災地に直接いたわけではない、メディアを通しての影響だけでも、充分起こりえることも実証されています。3歳以上の子どもは、大きな地震が起こって大変なことがあったんだ、という程度のストーリーがわかるため、震災直後は退行や睡眠障害が出やすいですが、事態が落ち着くにつれそのことも理解できるので、症状も治まったと考えられます。一方、2歳以下の子どもは、何が起こったか理解する力はまだありません。震災直後の周囲の不安定な状況を感じ取った子どもは、調査時点でもそのことを理解できず、不安が残ったままなのでしょう。子どもを落ち着かせるためには、まずは母親の心理と行動を安定させることが大切です。とはいえ不安はあるでしょうからできるだけ大人同士で気持ちを話し合うこと、そして日常を保つことが重要です。保育や子どものケアの専門家を頼るのもよいでしょう。
大日向雅美(恵泉女学園大学大学院教授 子育てひろば「あい・ぽーと」施設長)/専門:発達心理学・ジェンダー論
安全・安心を優先する社会を築くには、防災対策など物質的なことがもちろん大切でしょうが、安心できる人的ネットワークなど目に見えないものも忘れてはならないのではないかと思います。今回の調査でも、震災によって母親の子育て時のいらいら・不安が強まったことが明らかになりましたが、これだけのことが起こったのだから、ある意味で当たり前のことだと思います。しかし、このデータをさらに詳しくみると、震災・原発事故の対応を夫が協力してくれたり、地域のつながりがある母親のほうがいらいら・不安が少ない傾向が読み取れます。つまり、日ごろからネットワークを持ち、社会的サポートを確保しておくことは、非常時への備えとして大切なことでしょう。
●ベネッセ次世代育成研究所と、ベネッセからのその他の震災関連子育て情報提供
【ベネッセ次世代育成研究所】
日本では少子高齢化、核家族化、女性の社会進出等、社会環境の変化が加速し、家族のあり方や親子関係を含めた子どもの成育環境に大きな変化が起こっています。このような中、ベネッセ次世代育成研究所は、個人や家族の生活視点を大切にしながら、子どもや家族が「よく生きる」ための調査研究を行っています。
■URL■http://www.benesse.co.jp/jisedaiken/
【チャイルド・リサーチ・ネット 東日本大震災の子ども学:子どもの心のケア】
チャイルド・リサーチ・ネットは、ベネッセの支援のもとで運営されるインターネット上の「子ども学」(ChildScience)の研究所です。今回の震災にあたり、子ども達の心のケアにご尽力されている方々の参考になればと「東日本大震災の子ども学:子どもの心のケア」という新コーナーを設置しました。
■URL■ http://www.blog.crn.or.jp/
【こどもちゃれんじ 非常時の子育て情報サイト】
ベネッセの幼児向け通信教育教材「こどもちゃれんじ」では、非常時に役立つ子育て情報を集めたサイトを開設しました。震災により子育てに困難や不便を抱える方々のご負担を少しでも軽減し、子どもたちの心身の健康につながればと願います。
■URL■ http://care.shimajiro.co.jp/