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スマホアプリから収集した症状とまばたき我慢の時間からドライアイの症状を分類する手法を開発

〜 スマートフォンアプリ「ドライアイリズム(R)」を用いたビッグデータ解析 〜

順天堂大学大学院医学研究科 眼科学の村上 晶 教授、猪俣武範 准教授らの研究グループは、スマートフォンアプリケーション(スマホアプリ)「ドライアイリズム(R)?」*1によるクラウド型大規模臨床研究*2によりドライアイの多様な症状を検証した結果、ドライアイの多様な症状を7つに層別化*3する手法の開発に成功しました。さらに層別化された7つのクラスターに対し、生体情報(まばたき我慢の時間)を用いたデジタルフェノタイピング*4手法を開発しました。本手法により、スマホアプリから収集したドライアイの症状に応じて層別化することで、個々人に対する早期のドライアイ予防および効果的な介入につながる可能性があります。本研究はデジタルヘルス分野の医学雑誌npj digital medicineのオンライン版に掲載されました。




本研究成果のポイント


スマートフォンアプリケーション「ドライアイリズム(R) 」を用いて 3,593名のドライアイ関連健康ビッグデータを検証した。
ドライアイの多様な症状を次元削減アルゴリズムを用い7群に層別化し、その特徴を可視化した。
スマホアプリから収集した生体情報(まばたき我慢の時間)を用いたデジタルフェノタイピング手法を開発した。
スマホアプリからドライアイの症状を収集し層別化やデジタルフェノタイピングを行うことで、個々人に対する早期の予防および効果的な介入につながる可能性がある。


背景
ドライアイは本邦で2,000万人以上が罹患する最も多い眼疾患であり、超高齢社会およびウィズ・アフターコロナで助長されるデジタル社会において今後も増加が予想されています。また、ドライアイの症状は視覚の質や労働生産性の低下に繋がり経済的損失への影響になっています。しかし、ドライアイに対する加療は未だ点眼による対症療法が主体であり、完治する治療方法は存在せず人生の長期にわたり生活の質の低下を起こします。そのため、ドライアイの発症や重症化を未然に防ぐ、予防医療や個別化医療が重要です。
ドライアイの自覚症状は、乾燥感のみならず、羞明(まぶしさ)、眼精疲労、視力低下等多岐にわたるため、不定愁訴とされ治療が行われないまま見逃される場合もあることをこれまでの当グループの研究により明らかにしてきました(JAMA Ophthalmology, 2020)。また、ドライアイは多因子疾患であり、湿度・花粉・PM2.5等の環境因子、食事・喫煙・運動・コンタクトレンズの装用等の生活習慣、加齢・性別(女性)・遺伝・家族歴等の宿主因子等が、複合的に関連してドライアイの発症や経過に影響を及ぼすことが判ってきました。
そのため、ドライアイ診療の質の向上には、個々人のドライアイにおける多様な自覚症状や関連する生活習慣情報を包括的に収集し、ドライアイの層別化による個々人に最適化された複合的なドライアイ対策の提案が必要です。そこで、本研究ではドライアイの多様な症状の層別化によるデジタルフェノタイピング手法の開発を目的に、ドライアイ研究用スマホアプリで収集した大規模なクラウド型データを利用して検証しました。

内容
今回の研究では、Apple社のResearchKitを利用したiPhoneアプリ「ドライアイリズム(R)」(図1)を対象期間中(2016年11月2日〜2019年9月30日)にダウンロードし、同意を得た研究参加者3,593名を対象としました。ドライアイの多様な症状は、12項目の日本語版Ocular Surface Disease Index(J-OSDI)を用いて、症候性ドライアイをJ-OSDI合計スコア13点以上と定義し、分類しました。
収集したデータを解析したところ、3,593名の研究参加者のうち、72.9%(2,619名)に症候性ドライアイを認めました。さらに、ドライアイの多様な症状を、次元削減アルゴリズムUMAPを用いて検証を行ったところ、7つのクラスターに層別化することに成功しました(図2)。

[画像1: https://prtimes.jp/i/21495/371/resize/d21495-371-32a682036e9206f49030-0.png ]

[画像2: https://prtimes.jp/i/21495/371/resize/d21495-371-85b9f886c9bb9c26a51f-1.png ]

そして、階層型クラスタリングを用いて層別化された各クラスターのJ-OSDIの12項目のスコアを視覚化しました(図3)。例えば重症群であるクラスター1は全ての症状が悪く、クラスター5では環境因子に関連して症状が強いことがわかります。

[画像3: https://prtimes.jp/i/21495/371/resize/d21495-371-af0edb98e5274d5d30a4-2.png ]


さらに各クラスターに対してドライアイリズムから収集した生体情報(最大開瞼時間:まばたきを我慢できる時間)を用いたデジタルフェノタイピングを実施しました(図4a)。症候性ドライアイではスマホアプリで測定した最大開瞼時間が短くなることがわかりました(図4b)。層別化された各クラスターにおいて特徴的な最大開瞼時間の変化を示しました(図4c)。このことから、スマホアプリでまばたきを計測することで、ドライアイのスクリーニングならびにドライアイのタイプを予測できる可能性があります。

[画像4: https://prtimes.jp/i/21495/371/resize/d21495-371-f1a4887c42e039b3547d-3.png ]

図4: 最大開瞼時間を用いたデジタルフェノタイピング
*P<0.05, ***P<0.001


そして、次に各クラスターの特徴を多変量ロジスティック解析から算出し、視覚化しました (図5)。[図5]

[画像5: https://prtimes.jp/i/21495/371/resize/d21495-371-0667b8b8af296823328c-4.png ]

以上の結果から、ドライアイの多様な症状を層別化とその特徴の解明ならびに、最大開瞼時間を用いたドライアイのデジタルフェノタイピングの手法の開発に成功しました。スマホアプリから個々人のドライアイ症状を収集し検証することで、ドライアイの早期発見、予防、効率的な治療につながる可能性があります。

今後の展開
本研究では、スマホアプリから収集したクラウド型のドライアイ関連ビッグデータを用いてドライアイの多様な症状の層別化とデジタルフェノタイピング手法の開発に成功しました。これにより、多様なドライアイの症状に対して個々人に最適化した対策がとれるようになることが期待されます。また身近なスマホアプリを用いることから、ドライアイの早期の予防および効果的な介入につながることも期待できます。さらに研究を進め、ドライアイの症状管理、重症化抑制や予防介入が可能なスマホアプリの開発を目指していきます。これにより様々な疾患や症状に対して、スマホアプリを使った予測・予防・個別化医療や参加型医療を推し進める原動力となると考えています。

用語解説
*1 ドライアイリズム(R) : 2016年10月に順天堂大学眼科がResearchKitを用いて作成したドライアイ研究のためのスマートフォンアプリケーション。ドライアイの症状、瞬目(まばたき)の計測、花粉症によるQoLや労働生産性への影響などの評価が可能である。ドライアイリズム(R)の商標は順天堂大学発のベンチャー企業であるInnoJin株式会社が保有します。
*2 クラウド型大規模臨床研究: クラウドとはクラウドコンピューティングの略で、インターネットなどコンピューターネットワークを経由して、サービスを提供する方法である。クラウド型大規模臨床研究とは、実際の問診票や質問紙票を持たなくても、インターネットを通じて大規模に行う研究を指す。
*3 層別化(医療): ある疾患に属する患者を,バイオマーカーを用いていくつかのサブグループに分類し,それぞれのサブグループに適した治療法を選択することを目的とした医療。
*4 デジタルフェノタイピング:スマートフォンやウェアラブル機器等のモバイルヘルスに収集される刻々と推移するデジタル化された個人の行動、生体情報、生活習慣等の表現型を定量化すること。

原著論文
本研究はデジタルヘルス分野の医学雑誌npj digital medicine誌オンライン版に掲載(2021年12月20日付)されました。
タイトル: 「Smartphone-based digital phenotyping for dry eye toward P4 medicine: a crowdsourced cross-sectional study.」
タイトル(日本語訳) : ドライアイ研究用スマホアプリ「ドライアイリズム????」を用いたドライアイに対するデジタルフェノタイピングによるP4医療の実現
著者: Inomata T1, Nakamura M2, Sung J1, Midorikawa-Inomata A1, Iwagami M3, Fujio K1, Akasaki Y1, Okumura Y1, Fujimoto K1, Eguchi A1, Miura M1, Nagino K1, Shokirova H1, Zhu J1, Kuwahara M1, Hirosawa K1, Dana R4, Murakami A1
著者(日本語表記): 猪俣武範1、中村正裕2 、Sung Jaemyoung 1 、緑川-猪俣明恵1 、岩上将夫3 、藤尾謙太1 、赤崎安序1 、奥村雄一1 、藤本啓一1 、江口敦子1 、三浦真里亜1、梛野健1 、Shokirova Hurramhon1 、朱俊1、桑原瑞1、廣澤邦彦1、Dana Reza4、村上晶1
著者所属: 順天堂大学1 、東京大学2、筑波大学3、ハーバード大学4
掲載誌: npj digital medicine
掲載論文のリンク先: https://www.nature.com/articles/s41746-021-00540-2
DOI: https://doi.org/10.1038/s41746-021-00540-2

協賛ならびに研究助成金
本研究は、株式会社シード、ジョンソンエンドジョンソン株式会社、InnoJin株式会社、ノバルティスファーマ株式会社、ロート製薬株式会社の助成を受け実施されました。また、JST COIプログラム (JPMJCE1306)、JSPS科研費 (JP20K23168、JP21K17311)を受けました。しかし、研究および解析は研究者が独立して実施しており、助成元が本研究結果に影響を及ぼすことはありません。
本研究にご協力いただいた参加者の皆様に深謝いたします。
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