HIV/エイズ:サハラ以南アフリカでの死者数に警鐘
[17/07/26]
提供元:PRTIMES
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サハラ以南アフリカでは、今も看過できないほど大勢の人がエイズ(※)関連疾患により亡くなっている。世界のHIV対策から漏れ、エイズを防ぐ治療や、必要な医療処置も受けられていない。国境なき医師団(MSF)の病院では患者の半数が既に治療を開始しているものの、失敗の兆候が見られることが多く、治療を継続する難しさや薬剤耐性の可能性を示している。 HIVを抑えることのできる抗レトロウイルス薬がある現在、エイズの予防と治療に対して世界がより強く注力していくことが求められている。
※CD4陽性リンパ球細胞の数値が200未満か、世界保健機関(WHO)分類の臨床ステージ3ないし4の病状が、後天性免疫不全症候群(エイズ:AIDS)と定義される。
[画像: https://prtimes.jp/i/4782/375/resize/d4782-375-194490-0.jpg ]
入院患者の半数に治療失敗の兆し
MSFの冊子『Waiting isn’t Option: Preventing and Surviving Advanced HIV(待ったなしのエイズ予防と克服、http://www.msf.org/sites/msf.org/files/17109_msf_aids_rapport_a4_v9.pdf)掲載のMSF支援先病院のデータによると、コンゴ民主共和国(以下、「コンゴ」)、ギニア、ケニア、マラウイのMSF運営・支援病院を訪れる人は深刻な免疫不全を煩っており、エイズ発症者の全体の死亡率は30〜40%に及ぶことを指摘。当該死亡例の約3分の1が入院後48時間以内に生じている。これは、7月25日のパリにおける「International AIDS Society (IAS) Conference on HIV Science」(HIV学に関する国際エイズ学会)と題した国際エイズ学会でも発表された。
これらの症例と死亡例の主な原因は、治療の失敗・中断と、治療を手遅れにする診断の遅れにある。治療が普及していなかった2000年代初めとは異なり、MSFの支援先病院のエイズ患者の半数以上が抗レトロウイルス薬(ARV)治療を始めたものの、治療失敗の臨床的症候を示す人が多い。MSFの疫学研究所「エピセンター」所属の専門家ダビド・ママンは「ARVは普及拡大しましたが、開発途上国では進行したHIV/エイズ症例は期待していたほどには減っていません。変化といえば、各病院が受け入れた人の過半数が既に診断済みで、治療を数年にわたって経験していることです。ケニアのホマベイ病院ではARVが何年も前に導入されているものの、エイズの入院患者の半数に治療失敗の兆しが見られます。当該患者の第二選択ARVへの切り替えを急ぐ必要があります」と指摘する。
未検査・未治療への対策
アフリカ南部および東部では、医療施設外で暮らすHIV保持者のうち、一定割合の人が未検査・未治療であることが、MSFの住民調査によって示されている。マラウイ、ケニア、南アフリカ共和国では病院のある地区のHIV保持者の約10%がエイズを発症し、このうちの47%の人が過去に検査ないし治療を一度も受けていなかった。
MSFのHIV顧問ジル・ファン・クトセムは「診断を受けるのが遅れるケースはいまだに見られます。時に危篤状態で来院したり、何の手当ても受けられず自宅で亡くなったりする前に、治療から疎外されている人びとを感知できるような新しいやり方が求められます。偏見や情報不足も引き続き深刻で、それが治療の遅れや、検査・治療を全く受けられないことにつながっているのです。こうしたことから、何年も治療を受けて来た人の治療の改善とともに、病院外でのARV普及を進める必要性がわかります」と訴える。
WHOがガイドラインを発表
MSFら臨床従事者は、アフリカ全土でのエイズ予防・治療への関心と手立ての欠如に対して懸念の声を高めている。WHOは7月24日、条件の整わない環境下でのHIV/エイズ治療に関する初のガイドラインを発表。これは喜ばしい前進だが、このガイドラインが速やかに実践され、さらに薬剤耐性と治療失敗のリスクに取り組むための措置が行なわれるようMSFは求めている。
エイズ予防・治療のために緊急に求められる重点対策は、「test and start」構想の速やかな実践、ARV治療開始時のCD4基準検査、定期的なウイルス量検査、結核のポイント・オブ・ケア診断、クリプトコッカス髄膜炎の治療の向上、治療が失敗した患者と病期の進行した患者の第二選択ARV治療への速やかな移行、日和見感染症の効果的で制約の少ない治療などだ。MSFはさらに、エイズ患者のための予防・治療・支援を志向するケア・モデルと、病院を拠点とする患者の費用負担のない無償の専門ケアを求めている(※)。
※出典のMSF報告書『Les Négligés de L’infection au VIH』(顧みられないHIV感染者)は国際エイズ学会でも発表され、コンゴの首都キンシャサでは患者紹介を基盤とするAIDS治療の病院ケアが不足していることを指摘している。
資金提供が世界的に縮小傾向
MSFはまた、世界のHIV対策への資金供与停滞が続く中、状況が悪化の一途をたどるのではないかということも危惧している(参照:MSFブリーフィング文書『HIV治療拡大への脅威』、http://www.msf.org/sites/msf.org/files/3_volets_rapport_financement_iads2-lh-4-print.pdf)。米国の世界エイズ・結核・マラリア対策基金(グローバルファンド)と大統領エイズ救済緊急計画(PEPFAR)への拠出は2018年以降、それぞれ17%と11%の削減が予想され、多くの国が助成の獲得にあたり今以上の制限を受けるだろう。資金が収縮すれば、医療従事者・検査機関・診断に必要な最低限の投資が枯渇する一方、対象を絞った検査や、治療認識とアドヒアランス(服薬順守)の向上といった病院外での対策も脅される恐れがある。
MSF保健政策アドバイザー、ミット・フィリップスは「エイズの患者一人ひとりが、速やかな検査と治療の、そして、継続的なARV治療の難しさを伝える痛ましい証拠です。HIV対策における政治的意志と資金提供が世界的に縮小傾向であることは、ウイルスとの闘いの進展が危ぶまれるだけでなく、特にエイズで来院する患者の救済への望みが一切断たれてしまうことを意味しています」と指摘する。
MSFは現在19ヵ国において、ARV治療中のHIV保持者約23万人を支援。「test & treat」の取り組み、アドヒアランスの促進、ケア・モデルの多様化などを含む、無償の良質なケアを重視している。
※CD4陽性リンパ球細胞の数値が200未満か、世界保健機関(WHO)分類の臨床ステージ3ないし4の病状が、後天性免疫不全症候群(エイズ:AIDS)と定義される。
[画像: https://prtimes.jp/i/4782/375/resize/d4782-375-194490-0.jpg ]
入院患者の半数に治療失敗の兆し
MSFの冊子『Waiting isn’t Option: Preventing and Surviving Advanced HIV(待ったなしのエイズ予防と克服、http://www.msf.org/sites/msf.org/files/17109_msf_aids_rapport_a4_v9.pdf)掲載のMSF支援先病院のデータによると、コンゴ民主共和国(以下、「コンゴ」)、ギニア、ケニア、マラウイのMSF運営・支援病院を訪れる人は深刻な免疫不全を煩っており、エイズ発症者の全体の死亡率は30〜40%に及ぶことを指摘。当該死亡例の約3分の1が入院後48時間以内に生じている。これは、7月25日のパリにおける「International AIDS Society (IAS) Conference on HIV Science」(HIV学に関する国際エイズ学会)と題した国際エイズ学会でも発表された。
これらの症例と死亡例の主な原因は、治療の失敗・中断と、治療を手遅れにする診断の遅れにある。治療が普及していなかった2000年代初めとは異なり、MSFの支援先病院のエイズ患者の半数以上が抗レトロウイルス薬(ARV)治療を始めたものの、治療失敗の臨床的症候を示す人が多い。MSFの疫学研究所「エピセンター」所属の専門家ダビド・ママンは「ARVは普及拡大しましたが、開発途上国では進行したHIV/エイズ症例は期待していたほどには減っていません。変化といえば、各病院が受け入れた人の過半数が既に診断済みで、治療を数年にわたって経験していることです。ケニアのホマベイ病院ではARVが何年も前に導入されているものの、エイズの入院患者の半数に治療失敗の兆しが見られます。当該患者の第二選択ARVへの切り替えを急ぐ必要があります」と指摘する。
未検査・未治療への対策
アフリカ南部および東部では、医療施設外で暮らすHIV保持者のうち、一定割合の人が未検査・未治療であることが、MSFの住民調査によって示されている。マラウイ、ケニア、南アフリカ共和国では病院のある地区のHIV保持者の約10%がエイズを発症し、このうちの47%の人が過去に検査ないし治療を一度も受けていなかった。
MSFのHIV顧問ジル・ファン・クトセムは「診断を受けるのが遅れるケースはいまだに見られます。時に危篤状態で来院したり、何の手当ても受けられず自宅で亡くなったりする前に、治療から疎外されている人びとを感知できるような新しいやり方が求められます。偏見や情報不足も引き続き深刻で、それが治療の遅れや、検査・治療を全く受けられないことにつながっているのです。こうしたことから、何年も治療を受けて来た人の治療の改善とともに、病院外でのARV普及を進める必要性がわかります」と訴える。
WHOがガイドラインを発表
MSFら臨床従事者は、アフリカ全土でのエイズ予防・治療への関心と手立ての欠如に対して懸念の声を高めている。WHOは7月24日、条件の整わない環境下でのHIV/エイズ治療に関する初のガイドラインを発表。これは喜ばしい前進だが、このガイドラインが速やかに実践され、さらに薬剤耐性と治療失敗のリスクに取り組むための措置が行なわれるようMSFは求めている。
エイズ予防・治療のために緊急に求められる重点対策は、「test and start」構想の速やかな実践、ARV治療開始時のCD4基準検査、定期的なウイルス量検査、結核のポイント・オブ・ケア診断、クリプトコッカス髄膜炎の治療の向上、治療が失敗した患者と病期の進行した患者の第二選択ARV治療への速やかな移行、日和見感染症の効果的で制約の少ない治療などだ。MSFはさらに、エイズ患者のための予防・治療・支援を志向するケア・モデルと、病院を拠点とする患者の費用負担のない無償の専門ケアを求めている(※)。
※出典のMSF報告書『Les Négligés de L’infection au VIH』(顧みられないHIV感染者)は国際エイズ学会でも発表され、コンゴの首都キンシャサでは患者紹介を基盤とするAIDS治療の病院ケアが不足していることを指摘している。
資金提供が世界的に縮小傾向
MSFはまた、世界のHIV対策への資金供与停滞が続く中、状況が悪化の一途をたどるのではないかということも危惧している(参照:MSFブリーフィング文書『HIV治療拡大への脅威』、http://www.msf.org/sites/msf.org/files/3_volets_rapport_financement_iads2-lh-4-print.pdf)。米国の世界エイズ・結核・マラリア対策基金(グローバルファンド)と大統領エイズ救済緊急計画(PEPFAR)への拠出は2018年以降、それぞれ17%と11%の削減が予想され、多くの国が助成の獲得にあたり今以上の制限を受けるだろう。資金が収縮すれば、医療従事者・検査機関・診断に必要な最低限の投資が枯渇する一方、対象を絞った検査や、治療認識とアドヒアランス(服薬順守)の向上といった病院外での対策も脅される恐れがある。
MSF保健政策アドバイザー、ミット・フィリップスは「エイズの患者一人ひとりが、速やかな検査と治療の、そして、継続的なARV治療の難しさを伝える痛ましい証拠です。HIV対策における政治的意志と資金提供が世界的に縮小傾向であることは、ウイルスとの闘いの進展が危ぶまれるだけでなく、特にエイズで来院する患者の救済への望みが一切断たれてしまうことを意味しています」と指摘する。
MSFは現在19ヵ国において、ARV治療中のHIV保持者約23万人を支援。「test & treat」の取り組み、アドヒアランスの促進、ケア・モデルの多様化などを含む、無償の良質なケアを重視している。