イエメン: 2年間で1500人以上の母子が死亡 紛争下でも医療確保を
[19/04/24]
提供元:PRTIMES
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中東イエメンで紛争が始まって4年、空爆や武力衝突の影響を特に受けているのが、妊娠中や出産後の女性と子どもたちだ――。国境なき医師団(MSF)は、紛争のため医療を受けられない母子の状況を調査報告書(英文原題Complicated delivery)にまとめた。これによると、2016年から2018年の間に、合併症を伴う出産をした母親や病気の子ども、15歳未満の子どもたち1500人以上が医療を受けられず命を落とした。MSFは全ての紛争当事者に対し状況の改善を訴えるとともに、他の国際援助団体に対し、質の高い援助ができるよう人道援助対応を拡充することを呼びかけている。
[画像: https://prtimes.jp/i/4782/441/resize/d4782-441-477071-0.jpg ]
失われる母子の命
イエメンの公的医療体制は紛争により事実上崩壊し、2800万人ものイエメン人が医療を受けられずにいる。報告書によると、2016年から2018年の2年
間に、MSFの活動地であるタイズ県のタイズ・フーバン病院とハッジャ県アブスの支援先病院で36人の母親と1529人の子どもが亡くなった。このうち1018人は新生児だった。タイズ・フーバン病院の死者の約3分の1は、来院時にすでに死亡していた子どもと新生児だ。そうした新生児の多くは自宅や小さな民間診療所で生まれ、低体重や早産のためMSFの病院に連れて来られている。死因で最も多いのは、分娩時の窒息と重度敗血症だった。
母子の死が多い背景には複数の要因があるものの、大半は紛争が直接的な原因となっている。稼働している医療機関が不足していること、危険で病院に来られなかったり、経済的に受診できなかったりすることが挙げられる。
病院に着くまで6時間
多くの人は、病院にたどり着くまでに前線を横断し、緩衝地帯を抜け、複数の検問所で交渉しなければならない。タイズ・フーバン病院でも、前線を横切って来院した母子が何人もいた。身体的な危険が高まる上に、移動時間も長くかかる。紛争以前は、タイズ市近郊に位置するフーバンの住民は市の中央部にある公立病院まで10分ほどで到着できたが、現在では6時間もかかっている。
ハッジャ県アブスでも状況は同じだ。「病院への距離は大きな問題です」とアブス病院に務めるMSFの助産師サデカは話す。「日中は空爆と武力衝突のため思うように移動できず、夜間も襲撃を恐れて外出もさけています。車が空爆されて中にいた全員が死亡したこともあります。市内で武力衝突が激しくなり、タイズ市でMSFが支援する病院は一時的に活動停止を余儀なくされました。この地域に唯一残されていた公立病院が閉まってしまい、地域の人びとは産科医療を受けられず、医療・人道援助スタッフも病院への出入りができなくなりました」
移動の危険だけでなく、イエメンの紛争では病院自体が攻撃される事件も起こっている。アブス病院でMSFの心理ケア・マネジャーを務めるハッタブは、「アブス病院自体も前に直撃を受けましたし、アブス地域全体も紛争の最中に度重なる空爆を受けています」と話す。「路上で襲われるのではないか、病院がまた爆弾の直撃を受けるのではないかと、人びとは恐れています。MSFの病院へたどり着いた患者の多くに、心的外傷後ストレス障害(PTSD)の症状が現れているのです」
弱い立場の母子に医療を
経済状況のひっ迫も多くの母子が病院に来られない要因だ。紛争が激化する2015年以前は、イエメンでは診療の大半を民間の医療機関が担っており、費用は比較的負担しやすいものだった。現在、紛争によって医療は分野を問わず減少し、経済が疲弊し、家庭が持つ財産の価値も落ちて、ほとんどの人がごくわずか残った公的医療に頼らざるを得ない。
母子が医療を受けられないこうした状況は、タイズ県とハッジャ県だけでなく国内全土で起きていて、激戦地ではとりわけその傾向が強い。報告書でMSFは、全ての紛争当事者に対し、状況の改善を訴えている。民間人と医療スタッフの保護を徹底し、負傷者や傷病者が医療機関を受診できるようにすること、人道援助団体が膨大なニーズに適時に対応できるよう、活動制限を解除するよう求めている。また、MSFは国際援助団体に対し、最もニーズが高い地域により多くの熟練スタッフを派遣し、質の高い援助ができるよう、人道援助対応を拡充することを呼びかけている。
2015年の紛争激化以来、MSFはイエメンでの活動を拡充。2019年4月現在、国内全域で合計12ヵ所の病院と診療所を運営するほか、アビヤン、アデン、アムラン、ハッジャ、ホデイダ、イッブ、ラヘジ、サアダ、サヌア、シャブワ、タイズの11県で計20ヵ所以上の医療機関を支援している。
2015年3月から2018年12月にかけて、MSFは8万1102件の外科手術を実施したほか 、紛争と暴力による負傷者11万9113人を治療。6万8702人の新生児の分娩を介助し、11万6687人のコレラ疑い患者に対応した。
調査報告書(英文)
https://www.msf.org/sites/msf.org/files/2019-04/MSF-Yemen-MotherChildReport-DEF-web_0.pdf
[画像: https://prtimes.jp/i/4782/441/resize/d4782-441-477071-0.jpg ]
失われる母子の命
イエメンの公的医療体制は紛争により事実上崩壊し、2800万人ものイエメン人が医療を受けられずにいる。報告書によると、2016年から2018年の2年
間に、MSFの活動地であるタイズ県のタイズ・フーバン病院とハッジャ県アブスの支援先病院で36人の母親と1529人の子どもが亡くなった。このうち1018人は新生児だった。タイズ・フーバン病院の死者の約3分の1は、来院時にすでに死亡していた子どもと新生児だ。そうした新生児の多くは自宅や小さな民間診療所で生まれ、低体重や早産のためMSFの病院に連れて来られている。死因で最も多いのは、分娩時の窒息と重度敗血症だった。
母子の死が多い背景には複数の要因があるものの、大半は紛争が直接的な原因となっている。稼働している医療機関が不足していること、危険で病院に来られなかったり、経済的に受診できなかったりすることが挙げられる。
病院に着くまで6時間
多くの人は、病院にたどり着くまでに前線を横断し、緩衝地帯を抜け、複数の検問所で交渉しなければならない。タイズ・フーバン病院でも、前線を横切って来院した母子が何人もいた。身体的な危険が高まる上に、移動時間も長くかかる。紛争以前は、タイズ市近郊に位置するフーバンの住民は市の中央部にある公立病院まで10分ほどで到着できたが、現在では6時間もかかっている。
ハッジャ県アブスでも状況は同じだ。「病院への距離は大きな問題です」とアブス病院に務めるMSFの助産師サデカは話す。「日中は空爆と武力衝突のため思うように移動できず、夜間も襲撃を恐れて外出もさけています。車が空爆されて中にいた全員が死亡したこともあります。市内で武力衝突が激しくなり、タイズ市でMSFが支援する病院は一時的に活動停止を余儀なくされました。この地域に唯一残されていた公立病院が閉まってしまい、地域の人びとは産科医療を受けられず、医療・人道援助スタッフも病院への出入りができなくなりました」
移動の危険だけでなく、イエメンの紛争では病院自体が攻撃される事件も起こっている。アブス病院でMSFの心理ケア・マネジャーを務めるハッタブは、「アブス病院自体も前に直撃を受けましたし、アブス地域全体も紛争の最中に度重なる空爆を受けています」と話す。「路上で襲われるのではないか、病院がまた爆弾の直撃を受けるのではないかと、人びとは恐れています。MSFの病院へたどり着いた患者の多くに、心的外傷後ストレス障害(PTSD)の症状が現れているのです」
弱い立場の母子に医療を
経済状況のひっ迫も多くの母子が病院に来られない要因だ。紛争が激化する2015年以前は、イエメンでは診療の大半を民間の医療機関が担っており、費用は比較的負担しやすいものだった。現在、紛争によって医療は分野を問わず減少し、経済が疲弊し、家庭が持つ財産の価値も落ちて、ほとんどの人がごくわずか残った公的医療に頼らざるを得ない。
母子が医療を受けられないこうした状況は、タイズ県とハッジャ県だけでなく国内全土で起きていて、激戦地ではとりわけその傾向が強い。報告書でMSFは、全ての紛争当事者に対し、状況の改善を訴えている。民間人と医療スタッフの保護を徹底し、負傷者や傷病者が医療機関を受診できるようにすること、人道援助団体が膨大なニーズに適時に対応できるよう、活動制限を解除するよう求めている。また、MSFは国際援助団体に対し、最もニーズが高い地域により多くの熟練スタッフを派遣し、質の高い援助ができるよう、人道援助対応を拡充することを呼びかけている。
2015年の紛争激化以来、MSFはイエメンでの活動を拡充。2019年4月現在、国内全域で合計12ヵ所の病院と診療所を運営するほか、アビヤン、アデン、アムラン、ハッジャ、ホデイダ、イッブ、ラヘジ、サアダ、サヌア、シャブワ、タイズの11県で計20ヵ所以上の医療機関を支援している。
2015年3月から2018年12月にかけて、MSFは8万1102件の外科手術を実施したほか 、紛争と暴力による負傷者11万9113人を治療。6万8702人の新生児の分娩を介助し、11万6687人のコレラ疑い患者に対応した。
調査報告書(英文)
https://www.msf.org/sites/msf.org/files/2019-04/MSF-Yemen-MotherChildReport-DEF-web_0.pdf