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【国立科学博物館】東京湾から60kmの大室ダシ海底活火山の活動履歴を解明

 独立行政法人国立科学博物館(館長:篠田謙一)地学研究部の谷 健一郎研究主幹は、国立研究開発法人海洋研究開発機構(理事長 大和 裕幸、以下「JAMSTEC」という。)海域地震火山部門火山・地球内部研究センターのアイオナ マッキントッシュ研究員、ニュージーランド・カンタベリー大学らと共同で、大室ダシ海底火山等から採取された溶岩や軽石を分析した結果、大室ダシの噴火活動履歴を明らかにしました。





発表のポイント

●伊豆大島の南に位置する大室ダシは13,500年前に海底噴火を起こしたことを、伊豆大島と利島に降下した陸上火山灰層に含まれる軽石の化学組成から確認。

●海底から直接採取した火山岩の年代を、溶岩に含まれる水の濃度を用いて推定する新手法を開発。

●この手法を大室ダシ海底調査で採取された溶岩に適用し、約7,000-10,000年前にも海底噴火を起こしていたことを解明。

概要

 大室ダシは、東京湾の入り口から南西60km、海面下120mにある海底火山です。中央火口底では火山活動を示唆する熱水噴出孔の存在が確認されていますが、過去の活動履歴についてはよくわかっていません。
 本研究グループは、まず伊豆大島と利島の陸上火山灰層に含まれる軽石について、大室ダシから採取された火山岩と化学組成を比較しました。その結果、化学組成の類似性から大室ダシ海底火山に由来することを示し、13,500年前に海底噴火を起こしていたことを明らかにしました。また、他の噴火活動の有無を調べる目的で、海底溶岩に含まれる水の分析から噴火年代を推定する方法を開発しました。この方法を大室ダシの海底溶岩試料に適用して噴出年代を推定した結果、約7,000-10,000年前にも噴火活動を起こしていたことを突き止めました。さらに、同じく採取された海底の軽石についても同様の分析をし、水深の浅いところまで軽石を噴き上げるような噴火活動を起こしていたことを示しました。これは、東京湾にも近い海底活火山の活動履歴に関する知見を与えると同時に、日本近海にも多数存在する海底火山の活動評価を今後行っていく上でも、重要な研究成果です。
なお、本研究は科学研究費補助金(JP00470120、16K05584)の支援を受けて行われました。

 本成果は、「Geology」に6月29日付け(日本時間)で掲載される予定です。
タイトル:Past Eruptions of a Newly Discovered Active Shallow Silicic Submarine Volcano Near Tokyo Bay, Japan
DOI: 10.1130/G50148.1
著者: Iona M. McIntosh1, 谷 健一郎2, Alexander R.L. Nichols3, 常 青1, 木村 純一
1. 国立研究開発法人海洋研究開発機構、2. 独立行政法人国立科学博物館、3. カンタベリー大学(ニュージーランド)


背景

 大室ダシは、伊豆大島と利島の間、東京湾の入り口から60km南西に位置する海面下120mにある海底火山です(図1)。この火山は気象庁の指定する活火山には含まれていませんが、2012年にJAMSTECの海洋調査船「なつしま」による無人探査機「ハイパードルフィン」を用いた潜航調査において、水深約200mの中央火口底に活発な熱水噴出孔が発見されています(2012年10月11日既報)。また、この航海と2016年の東北海洋生態系調査研究船「新青丸」の航海において、無人探査機「ハイパードルフィン」を使って海底から溶岩や軽石などの岩石試料の採取に成功しました(図2)。これらの火山岩は新鮮で地質学的に比較的最近の火山活動で生じたもののように見えましたが、火山活動評価のためには噴火の年代を正確に知ることが重要です。しかし、岩石の年代測定に一般的に用いられるカリウムの放射壊変(※1)を利用した年代測定は、数万年程度より若い年代を決定するのが困難です。また、陸上の噴出物の場合には放射性炭素年代測定法(※2)により5万年以下の年代推定が可能ですが、海底に噴出した溶岩に対してはこの手法も用いることができません。そのため、大室ダシを含め海底火山の過去の活動履歴を明らかにするための年代推定法が必要とされていました。


成果

 大室ダシが過去にどのような噴火を起こしたかを調べるため、本研究グループは、採取した試料に対して各種の分析を行いました。大室ダシで採取された岩石の化学組成を測定し、近傍の島に見られる様々な火山灰(テフラ)層の化学組成と比較しました。その結果、伊豆大島にある「地層大切断面」と呼ばれる有名な露頭の中の地層(図3)と利島の地層に含まれる軽石の中に、大室ダシで得られた火山岩の化学組成と一致するものがあることが分かりました。これらの地層は、放射性炭素年代測定法によって約13,500年前のものであることが分かっていましたが、その由来は分かっていませんでした。この研究において化学組成が一致したことから、浅い海底にある大室ダシ火山が約13,500年前に爆発的噴火を起こし、伊豆大島や利島まで火山灰や軽石を降り積もらせていたことが確認されました。

 一方、比較的年代の若い海底火山に対して、直接採取された溶岩や軽石の噴出年代を決めることは従来できませんでした。そこで、数万年より新しい時代の海底噴火の年代推定を可能にするため、火山岩に含まれる水の量から噴火年代を推定する新しい方法を開発しました。この方法では、フーリエ変換赤外分光光度計という装置を用いて、溶岩に含まれる水の濃度(※3)を測定します。海底に噴出した溶岩中の水の濃度はその時の圧力(水圧)に応じて変化するので、水の濃度の測定から溶岩が噴出した時の水深を推定することができます。

 この方法を用いて、大室ダシの海底から採取された二つの溶岩に対して分析を行ったところ、水の濃度から推定される噴出時の水深は、実際に海底から採取した時の水深より浅いことが分かりました。このみかけの水深の差は、現在よりも海面が低かった時代に溶岩が噴出したことで説明できます(図4)。溶岩中の水の濃度から推定された水深を海水準変動曲線(※4)と照らし合わせた結果、一つの溶岩試料は約14,000年前、別の溶岩は約7,000〜10,000年前に噴出したことが分かりました。

 また、海底から採取された軽石試料にも同様の分析を行いました。溶岩流が海底に噴出するのとは異なり、軽石は水中を上昇することができるため、軽石中の水の濃度と海水準変動を比較して噴出年代を求めることはできません。しかし、軽石中の水濃度は、それが水中をどの程度まで上昇したかを記録しています。大室ダシで採取された比較的密度の高い軽石の中には噴火口の深さに近い水圧を記録しているものもありましたが、一部の軽石ではほとんど水が抜けており、水深の浅いところまで、あるいは空中まで到達するような爆発的な噴火を起こした可能性が示されました。2021年に起きた福徳岡ノ場火山のように、水深の浅い場所での噴火は漂流軽石(軽石筏)を発生させることがしばしば起きますが(参考:コラム【福徳岡ノ場の噴火】URL:https://www.jamstec.go.jp/j/jamstec_news/fukutokuokanoba/)、大室ダシでも同様に漂流軽石を発生させた可能性も示唆されます。


今後の展望

 本研究から、大室ダシは過去1万年以内にも海底噴火を起こしたことが分かってきました。また、熱水噴出孔の存在など現在も活発な活動を継続しており、今後大室ダシの火山活動が海上や近傍の島々に災害をもたらす可能性もあります。

 日本だけでなく世界には同じように水深の浅い活火山が多く存在しますが、その最近の活動についてはよく分かっていません。溶岩中の水の濃度と海面変動を比較することで海底溶岩の年代を推定するという新しいアプローチは、他の海底火山の活動履歴の解明にも役立つと期待されます。また、フーリエ変換赤外分光光度計を用いた分析手法を海底軽石に適用することで、噴火の様式や規模などの情報も得ることができます。現在、この手法を福徳岡ノ場2021年噴火の軽石に適用し、大きな災害をもたらした軽石噴火のメカニズムを研究しています。

【補足説明】

※1 カリウムの放射壊変:質量数40のカリウムは半減期約13億年で質量数40のアルゴンに壊変する。このことを利用して、岩石中のカリウムやアルゴンの量を測定して年代を求めることができる。

※2 放射性炭素年代測定法:土壌や炭化木などに含まれる有機炭素に含まれる放射性炭素(14C)を用いた年代測定法。火山岩そのものは有機炭素を含まないが、火山岩の上下に堆積した地層に含まれる有機炭素に対してこの年代測定法を適用することにより、火山岩の噴出年代を推定することができる。海底の地層でも有孔虫などの生物由来の有機炭素を用いて同様の年代測定を行うことが可能だが、海底から採取される溶岩は堆積層に挟まれていることはまれなので、この年代測定法は適用できない。

※3 フーリエ変換赤外分光光度計:FTIRとも呼ばれるこの装置は様々な成分分析に広く応用されているが、本研究では火山岩中の水の濃度を測定するのに使用した。岩石中では、マグマ由来の水はH2O分子とOH基という二種類の形態で存在する。このうちH2O分子は海水からも岩石中に拡散して入ってくるので、海中に長期間存在した岩石のH2O分子の量は増加してしまう(水和)。一方、OH基は水和により増加することはないので、本研究ではFTIRによりOH基の濃度を測定した。

※4 海水準変動曲線:海面の高さ(海水準)は、時代とともに変化していることが知られている。最終氷期極大期(約2万年前)には現在よりも約120mほど海水準は低く、それ以降海水準は上昇し(縄文海進)、約7,000年前に現在とほぼ同じ海水準に到達した。

[画像1: https://prtimes.jp/i/47048/465/resize/d47048-465-ed29398c7f8e2863a6b0-0.jpg ]

図1 東京湾の入り口から約60km南にある水深の浅い海底火山、大室ダシの位置。海洋調査により海底火山の詳細な地形図が作成され、無人探査機「ハイパードルフィン」により、岩石試料が採取された(右図;図の記号は試料採取位置)。大室ダシの山頂は海面下120mに位置し、中央には海面下200mに達する大室海穴と呼ばれる火口がある。この火口底に活発な熱水噴出孔があり、火口壁や平坦な山頂に溶岩や軽石の堆積層が広く分布していることが分かった。左図の赤い星は、近傍の伊豆大島と利島にある大室ダシ由来の火山灰層(約13,500年前)の位置を示す。

[画像2: https://prtimes.jp/i/47048/465/resize/d47048-465-86b70f5d36d0a4f773b6-4.png ]

図2 大室ダシの海底画像と採取された岩石試料。大室海穴では熱水噴出孔と高温の流体やガスを放出する活発なチムニーが発見され(A図)、無人探査機「ハイパードルフィン」により海底の温度も測定された(B図)。大室ダシの頂部からは溶岩塊も採取され(C図)、岩石カッターで切断したところ発泡度の高い流紋岩であることが判明した(D図)。

[画像3: https://prtimes.jp/i/47048/465/resize/d47048-465-e7304de59188a63fd9c9-2.jpg ]

図3 伊豆大島で見つかった大室ダシ由来の火山灰層。A図: 伊豆大島の「地層大切断面」と本研究により大室ダシ由来と同定された火山灰(テフラ)層(赤線で挟まれた層)。B図: この火山灰層の拡大図。細粒の火山灰の中に白い軽石があることがわかる。軽石の化学組成は大室ダシ海底火山から採取した岩石の化学組成と一致し、このテフラ層が大室ダシの爆発的噴火によって形成されたことが分かった。C図:走査型電子顕微鏡(SEM)で撮影した火山灰の粒子。これらの粒子はさらに小さな微粒子の集合体であり、噴出したマグマと周囲の海水が相互作用したことを示す。

[画像4: https://prtimes.jp/i/47048/465/resize/d47048-465-bc3f844b6fdef2cc6d89-3.jpg ]

図4 火山岩の水の分析から推定される噴出時の水深と年代。左図:縦軸は試料が採取された水深。横軸は火山岩中の水の量から計算される噴出時の水深。両者が一致すれば青線上にデータが載るが、海底溶岩(三角)が青線よりも下にプロットされることは、現在よりも水深の浅い時期に噴出が起きたことを意味する。軽石については、横軸は固結した深度を表し、特に比重の小さい軽石は海面下約30mまで噴き上げられことを示す。右図:縦軸は海水準、横軸は年代、青線は海水準変動を示す。溶岩中の水の濃度から推定される噴出時の水圧と海水準変動曲線を照らし合わせ、大室ダシ山頂の溶岩(白三角)は7,000〜10,000年前に噴出したものと推定された。火口付近の溶岩(灰色の三角形)は分析誤差が大きいため推定年代にも大きな誤差があるが、伊豆大島や利島に見られる大室ダシ由来の火山灰と同じ約13,500年前のものと推定される。
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