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SDR・AIIB、中国の野望は成就するのか?【世界の金融市場シナリオ分析、中国のヤバイ経済学編(3)】

注目トピックス 経済総合

2016年10月1日、IMF(国際通貨基金)のSDR(特別引出権)構成通貨に人民元が導入されるタイミングが近づいてきた。中国にとって、SDR構成通貨入りのメリットとしては、人民元の国際化の象徴となる、各国が外貨準備として人民元建て資産を増やす契機となる、中国が提唱・主導する形で2015年12月25日に発足したAIIB(アジアインフラ投資銀行)の人民元建て投融資のバックアップとなるなどが考えられる。

2015年4月末現在、各国が外貨準備で保有する元は約6700億元(約12兆7千億円)であり、世界の外貨準備の1%前後であったが、SDR入りすることにより、外貨準備全体の5%程度まで元の比率が上昇するとの見方が多く、5000億ドル相当の人民元需要が創出されるとみられている。また、AIIBの投融資の際の通貨選択は、借入主体の需要に基づくと規定されており、現状ではドル建て投融資が中心となる公算。ただ、人民元のSDR構成通貨入りで、国際通貨としての信認が得られれば、人民元建て投融資の大義名分が獲得できる。こうした投融資を人民元建てで行えれば、中国企業の海外進出のサポートになる。

とりわけ、中国の最大の狙いは、元の地位を上げることで、AIIBによる人民元建て投融資を増やすことであると考えられる。中国にとって、アジア諸国への投資は国益につながり、地域での影響力を拡大することができるほか、インフラ建設の受注を中国企業が獲得することも狙いの一つとなろう。アジア低所得国のインフラ整備で国内インフラ投資の需要減少を補い、中国の過剰生産能力を吸収することも視野に入れていると見られる。現状の対象となり得るプロジェクトは900件、総額8000億元が存在するとの指摘もある。中国における開発プロジェクトは今後減少が予想されるなか、海外へ社会資本整備を輸出して、それに伴って、労働者の海外派遣で雇用維持も念頭に置く政策が進められる可能性があろう。

ただSDRやAIIBに関して、中国の想定どおりに進まない可能性も多く指摘されている。まず、投資家が人民元を保有しないのは、「SDR未採用」だからではなく、流動性が低いことや制度変更リスクが高いことなどが主因とみられている。外貨準備の出動が最も必要なとき換金できないリスクがあることは、たとえSDR構成通貨となっても、外貨準備の運用には適さないといえよう。また、受け皿となる点心債市場の規模も小さすぎるとみられる。

AIIBに関しても、借入国が中国元で返済するためには、中国に元建てで輸出を行い、中国元を稼ぐ必要があるが、大半は中国との貿易収支が赤字と見られ、中国元の確保が困難になる。また、中国を除く国との貿易で中国元決済を行っている国も多くない。このことからも、借入国が中国元建ての借入を選択しにくい可能性があり、中国の思い描くインフラ輸出が拡大するかは不透明。加えて、既存の国際開発金融機関では、特定のドナー国(援助を行う国)の企業ばかりがプロジェクトを受注するような「ひも付き」入札は排除されている。これまで中国の域外直接投資は、現地の雇用が増加せず、利益は現地に設立された中国企業に持っていかれるとの批判もあった。過去に、中国の国益重視のグローバル展開は、ミャンマーやスリランカで失敗した経緯もある。

中国の不良債権問題などがあらためてクローズアップされてきているほか、過剰債務問題に対する各国の批判なども高まりつつあるが、こうした不安感や懸念が表面化する前に、SDR・AIIBによる中国の復活が顕在化するには時間が足りない可能性も高いだろう。

執筆
フィスコ取締役 中村孝也
フィスコチーフアナリスト 佐藤勝己


【世界の金融市場シナリオ分析】は、フィスコアナリストが世界金融市場の今後を独自の視点から分析、予見する不定期レポートです。今回の中国経済についてのレポートは、フィスコ監修・実業之日本社刊の雑誌「Jマネー FISCO 株・企業報」の次回号(2017年1月刊行予定)の大特集「中国経済と日本市場(仮題)」に掲載予定です。




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