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豪ドルは茨の道へ【フィスコ・コラム】

注目トピックス 市況・概況
6年ぶりに行われた豪総選挙は予想に反して与党が勝利し、モリソン首相は思わず快哉を叫びました。しかし、安全保障はアメリカ、経済は中国と連携を深めるオーストラリアにとって、これから本格化する米中貿易戦争は、一層頭の痛い問題となるでしょう。


5月19日投票の総選挙(定数151議席)は即日開票の結果、連立与党の自由党・国民党連合が野党・労働党を破り、2013年から続く政権を維持することになりました。自由党を率いるモリソン首相は続投。自由党・国民党連合は6年前に政権を奪還した後、自由党内の権力闘争で首相はアボット氏からターンブル氏に交代したものの、不人気のターンブル氏も昨年8月に辞任に追い込まれます。


後任の首相に就任したモリソン氏は、移民・市民権大臣や社会福祉大臣として両政権に従事してきました。しかし、ターンブル政権時代の副首相の女性スキャンダルが響き、自由党は低支持率に悩まされます。今回の選挙前の情勢調査でも支持率が労働党を下回っており、政権交代は必至との見方が大勢でした。モリソン氏は逆風下での勝利に「奇跡を信じていた」などと述べ、歓びを表していました。


「奇跡」の最大の要因は、国内経済がプラス成長を維持していることでしょう。労働党の公約である不動産購入の優遇措置の不備を指摘し、不動産市場をかえって収縮させると主張したことも奏功しました。しかし、4月に発表された豪1-3月期消費者物価指数(CPI)は昨年10-12月期の前年比+1.8%から+1.5%に低下するとの予想をさらに下回り、+1.3%にとどまるなど、成長の鈍化は否めません。



モリソン首相が政権を維持するには、景気の再拡大が最も重要な課題になります。モリソン政権は昨年、中国の太平洋 地域への影響力強化を警戒して「一帯一路」構想の参加取りやめなど豪中関係は冷え込んでいますが、中国は依然として最大の貿易相手国です。オーストラリアはこれまで、鉄鉱石や石炭、液化天然ガスの対中輸出を伸ばし、成長を拡大してきた経緯があります。


一方、安全保障上、アメリカはオーストラリアにとって最も重要な同盟国。トランプ大統領は選挙後、ツイッター上でもモリソン首相の勝利に祝意を送っています。アメリカは防衛上の懸念から中国のファーウェイの製品などの国内での使用を禁じる大統領令に署名。オーストラリアはこの点でアメリカと歩調を合わせていますが、対中交易関係からファーウェイ製品の取り扱いを今後も拒否し続けられるでしょうか。


足元の米中摩擦は、トランプ政権の制裁に対し中国は一歩も譲っていません。貿易戦争に勝者はいないと言われますが、来年の大統領選に向け株安リスクを抱えるトランプ政権の方が旗色は悪く見えます。いずれにしても、6月の第4弾の制裁は機器類や衣料品など中国側の主力輸出品が対象で、摩擦はこれからが「本番」。同じタイミングでの豪準備銀による約3年ぶりの利下げは、豪ドルを最弱通貨に追いやる要因となりそうです。

(吉池 威)

※あくまでも筆者の個人的な見解であり、弊社の見解を代表するものではありません。




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