CACHD Research Memo(4):国内IT事業、海外IT事業、CRO事業を展開(2)
[18/10/23]
提供元:株式会社フィスコ
提供元:株式会社フィスコ
注目トピックス 日本株
■CAC Holdings<4725>の事業内容
3. 収益の2本柱に成長したCRO事業
CRO事業(CRO:Contract Research Organization、受託臨床試験実施機関)は、製薬企業が医薬品開発時に行う治験業務や製造販売後の業務の受託・代行サービスである。売上高構成比は21%(2017年12月期)だが、利益規模は国内IT事業と稼ぎ頭を争う収益の2本柱に成長している。
(1) 合言葉は“答えは「CRO×IT」”
CRO事業の直接的な業務は、CACクロア(以下、クロア)が担っている。独立系SIerのパイオニアを母体としているだけに、“答えは「CRO×IT」”を合言葉に「業務支援、IT、コンサルティング」の三方向から包括的なサービスを行っている。
クロアは、170社の取引先に対し、安全性情報管理業務(2017年12月期売上構成比48.8%)、治験業務(同23.9%)、製造販売後業務(同10.0%)、申請業務(同5.4%)、その他業務(同4.1%)といった分野での支援を手掛けており、なかでも主力である安全性情報管理業務(医薬品の副作用情報を蓄積し、当局に申請する業務)、申請業務の実績は国内随一の実績を誇っている。
「CRO×IT」の姿勢は、社員のスキルセットにも表れている。医師、薬剤師、社会保険労務士などの有資格者を始め、安全性情報管理を、DM・統計解析、臨床開発、申請といったCRO業務で求められるスキルを持つスペシャリストが数多く在籍する一方で、全社員の約30%をICT人材が占めている。
(2) 生産性向上への取り組みが続く
クロアの業界ポジションを、日本CRO協会が発表している会員データをもとに考察すると、1)業界シェアは7%程度で推移するも若干低下気味、2)1人当たり売上高は業界平均を下回る、3)1人当たり売上高(労働生産性)の増加率は業界平均を上回る、といった点が指摘できる。
ここで留意すべき点は、クロアがモニタリング業務からのポーションが小さいことである。
モニタリング業務は、CRA(Clinical Research Associate)が臨床試験に参加する医療機関を訪問し、担当医師と直接面談し、プロトコル(試験実施計画書)の内容説明、試験進捗状況の確認、調査表の記入依頼・回収・精査などを行うため、1人当たりの付加価値が大きい一方で、労働集約型業務の色彩が強いという特徴を持つ。
モニタリング業務売上高の過去2年の年率成長率は11.3%と業界全体の9.3%を上回り、売上高構成比は60%に達している。業務構成比の違いが、業界シェアの低下や1人当たり売上高の小ささの主因とみてよいだろう。
一方、業務構成比の違いを勘案しても、クロアの労働生産性の向上率は高いようにみえる。
クロアの労働生産性は、会社が発足した2016年に9%弱向上、続く2017年も5%強向上している。これに対し、業界全体の労働生産性は、モニタリング業務が2016年、2017年ともほぼ横ばい、モニタリング業務以外は2016年に2%弱向上、2017年は8%弱悪化、となっており、クロアの向上ぶりが際立っている。
クロアの労働生産性向上の要因としては、1)主力である安全性情報管理業務は各事業所内で対応できる比率が大きいため、IT事業でいうニアショア拠点の積極活用、2)独立系SIerが母体であることを最大限に生かし、RPA(Robotic Process Automation)などICT利活用による効率化・高精度化の推進、などが挙げられるだろう。
ニアショア拠点活用については、2018年初時点の総従業員数1,480名のうち、716名を占めるメイト社員(協力会社の社員)の存在が見逃せない。
(3) テイクオフする化合物共有ライブラリー事業
クロアは、ICT利活用によりCRO業務で生まれた余力をCRO周辺事業の拡大に結び付けようとしている。
具体的には、製薬企業が個別に保有管理している医薬品探索研究用化合物や情報を、クロアが集約管理、データベース化する化合物共有ライブラリー事業に取り組み、成果を挙げつつある。
実際の売上計上は、2019年以降となりそうだが、3〜5社の利用が確定しているもようであり、年間3-5億円の業績貢献が見込まれるだろう。
この事業の特徴として注目したいのが、同社グループが重視するCSV(Creating Shared Value、事業を通じた社会貢献)の典型例であることだ。
データベースを製薬企業やアカデミア、バイオベンチャーなどが共同利用することで、新薬開発において大幅な期間短縮やコスト削減、創薬機会の増加、といった効果が期待されるわけだが、高齢化社会が到来するなかで、膨れ上がる医療費の抑制に直結する医薬品開発の効率化は、まさにCSV的と言ってよいだろう。
また、クロアは、リアルワールドデータの活用にも取り組み始めた。
リアルワールドデータとは、診療報酬請求(レセプト)データやDPCデータ(病棟における療養費用に関わる各種データ)、電子カルテデータ、健診データなど実際の診療行為に基づくデータ全般を指す。
リアルワールドデータがデータベースとして整備され活用できれば、治験でない実際の治療における医薬品の実効性・安全性や費用対効果などが明確となり、医療サービスの良質化・効率化につなげることが可能となる。
リアルワールドデータ関連の事業化は、やはり典型的なICT利活用及びCSVと言え、クロアらしい取り組みとして今後の進展を見守りたい。
(執筆:フィスコ客員アナリスト 前田吉弘)
<SF>
3. 収益の2本柱に成長したCRO事業
CRO事業(CRO:Contract Research Organization、受託臨床試験実施機関)は、製薬企業が医薬品開発時に行う治験業務や製造販売後の業務の受託・代行サービスである。売上高構成比は21%(2017年12月期)だが、利益規模は国内IT事業と稼ぎ頭を争う収益の2本柱に成長している。
(1) 合言葉は“答えは「CRO×IT」”
CRO事業の直接的な業務は、CACクロア(以下、クロア)が担っている。独立系SIerのパイオニアを母体としているだけに、“答えは「CRO×IT」”を合言葉に「業務支援、IT、コンサルティング」の三方向から包括的なサービスを行っている。
クロアは、170社の取引先に対し、安全性情報管理業務(2017年12月期売上構成比48.8%)、治験業務(同23.9%)、製造販売後業務(同10.0%)、申請業務(同5.4%)、その他業務(同4.1%)といった分野での支援を手掛けており、なかでも主力である安全性情報管理業務(医薬品の副作用情報を蓄積し、当局に申請する業務)、申請業務の実績は国内随一の実績を誇っている。
「CRO×IT」の姿勢は、社員のスキルセットにも表れている。医師、薬剤師、社会保険労務士などの有資格者を始め、安全性情報管理を、DM・統計解析、臨床開発、申請といったCRO業務で求められるスキルを持つスペシャリストが数多く在籍する一方で、全社員の約30%をICT人材が占めている。
(2) 生産性向上への取り組みが続く
クロアの業界ポジションを、日本CRO協会が発表している会員データをもとに考察すると、1)業界シェアは7%程度で推移するも若干低下気味、2)1人当たり売上高は業界平均を下回る、3)1人当たり売上高(労働生産性)の増加率は業界平均を上回る、といった点が指摘できる。
ここで留意すべき点は、クロアがモニタリング業務からのポーションが小さいことである。
モニタリング業務は、CRA(Clinical Research Associate)が臨床試験に参加する医療機関を訪問し、担当医師と直接面談し、プロトコル(試験実施計画書)の内容説明、試験進捗状況の確認、調査表の記入依頼・回収・精査などを行うため、1人当たりの付加価値が大きい一方で、労働集約型業務の色彩が強いという特徴を持つ。
モニタリング業務売上高の過去2年の年率成長率は11.3%と業界全体の9.3%を上回り、売上高構成比は60%に達している。業務構成比の違いが、業界シェアの低下や1人当たり売上高の小ささの主因とみてよいだろう。
一方、業務構成比の違いを勘案しても、クロアの労働生産性の向上率は高いようにみえる。
クロアの労働生産性は、会社が発足した2016年に9%弱向上、続く2017年も5%強向上している。これに対し、業界全体の労働生産性は、モニタリング業務が2016年、2017年ともほぼ横ばい、モニタリング業務以外は2016年に2%弱向上、2017年は8%弱悪化、となっており、クロアの向上ぶりが際立っている。
クロアの労働生産性向上の要因としては、1)主力である安全性情報管理業務は各事業所内で対応できる比率が大きいため、IT事業でいうニアショア拠点の積極活用、2)独立系SIerが母体であることを最大限に生かし、RPA(Robotic Process Automation)などICT利活用による効率化・高精度化の推進、などが挙げられるだろう。
ニアショア拠点活用については、2018年初時点の総従業員数1,480名のうち、716名を占めるメイト社員(協力会社の社員)の存在が見逃せない。
(3) テイクオフする化合物共有ライブラリー事業
クロアは、ICT利活用によりCRO業務で生まれた余力をCRO周辺事業の拡大に結び付けようとしている。
具体的には、製薬企業が個別に保有管理している医薬品探索研究用化合物や情報を、クロアが集約管理、データベース化する化合物共有ライブラリー事業に取り組み、成果を挙げつつある。
実際の売上計上は、2019年以降となりそうだが、3〜5社の利用が確定しているもようであり、年間3-5億円の業績貢献が見込まれるだろう。
この事業の特徴として注目したいのが、同社グループが重視するCSV(Creating Shared Value、事業を通じた社会貢献)の典型例であることだ。
データベースを製薬企業やアカデミア、バイオベンチャーなどが共同利用することで、新薬開発において大幅な期間短縮やコスト削減、創薬機会の増加、といった効果が期待されるわけだが、高齢化社会が到来するなかで、膨れ上がる医療費の抑制に直結する医薬品開発の効率化は、まさにCSV的と言ってよいだろう。
また、クロアは、リアルワールドデータの活用にも取り組み始めた。
リアルワールドデータとは、診療報酬請求(レセプト)データやDPCデータ(病棟における療養費用に関わる各種データ)、電子カルテデータ、健診データなど実際の診療行為に基づくデータ全般を指す。
リアルワールドデータがデータベースとして整備され活用できれば、治験でない実際の治療における医薬品の実効性・安全性や費用対効果などが明確となり、医療サービスの良質化・効率化につなげることが可能となる。
リアルワールドデータ関連の事業化は、やはり典型的なICT利活用及びCSVと言え、クロアらしい取り組みとして今後の進展を見守りたい。
(執筆:フィスコ客員アナリスト 前田吉弘)
<SF>