カンロ Research Memo(4):主力製品の販売中止を危機感に収益急回復
[19/03/29]
提供元:株式会社フィスコ
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注目トピックス 日本株
■業績動向
1. ターニングポイント
キャンディ市場の競争激化などにより、2000年代後半から売上総利益率と販管費率がともに悪化し、カンロ<2216>の営業利益は減益傾向を続けていた。それが2014年12月期、ついに営業損失に陥った。しかし2015年12月期以降、営業利益率は、売上総利益率や販管費率とともに急速に改善、2016年12月期には早くも2012年12月期の水準へと戻している。
営業損失の主因は、当時主力製品の1つだったカルピスブランドの飴やグミの販売が中止になったことである。味の素<2802>が2012年に、商標権を持つカルピス株をアサヒグループホールディングス<2502>に譲渡、カルピスの商標使用権が解約されたのである。これにより売上高は、それまでの200億円レベルから2013年12月期の183億円へと急減してしまった。この緊急事態に、同社は急遽、当時計画していた海外進出や新規菓子開発を中止して対応したものの、売上高急減による固定費率の悪化をカバーできず、2014年12月期に営業損失に陥ってしまった。
しかし、最悪期の2014年12月期も製造費用の中身はバランスが崩れなかった。これは、カルピスブランド製品への過度な依存がなかったからで、他の製品の売上高を伸ばせば固定費率が下がって利益も回復するという、比較的安定した収益構造になっていたからと考えられる。また、販管費率も大きく悪化しなかったが、代理店手数料など変動費の抑制に努めた結果と思われる。とはいえ、カルピスブランド喪失の危機感は大きく、同社は効率のよい7つの主力ブランド(カンロ飴、ノンシュガーグルメシリーズ、金のミルク、健康のど飴シリーズ、ボイスケアのど飴、ノンシュガーのど飴シリーズ、ピュレグミシリーズ)に経営資源を集中することにした。加えて、2017年12月期に後に詳述する中期経営計画「NewKANRO2021」がスタートした。これにより、収益は急回復したのである。なお、2018年12期に収益構造が変化しているが、中期経営計画「NewKANRO2021」が、さらに大きな売上高を求めるステージに入ったためと言うことができる。
長期的な収益動向から現在の収益水準を考えると、まず2000年以降、販路としてはコンビニエンスストアが成長、製品は機能性製品やグミが拡大し、売上高・利益の伸びをともにけん引した。しかし2000年代半ばをピークに売上高は微減を続け、利益率は急速に悪化した。競争激化や少子高齢化などキャンディを取り巻く環境が大きく変化したことが背景にあると考えられ、そのボトムがカルピスブランドを販売中止した2014年12月期である。長期的に見ても2014年12月期はまさにターニングポイントだったと言え、その後V字回復し、経常利益は直近ピークの2007年12月期の1,492百万円を臨める位置まで戻ってきたのは、これまで述べたとおりである。
飴市場が10年ぶりに増収に転じたもよう
2. 2018年12月期の業績動向
2018年12月期の業績は、売上高22,949百万円(前期比7.7%増)、営業利益1,003百万円(同5.9%増)、経常利益1,045百万円(同4.4%増)、当期純利益1,011百万円(同70.3%増)となった。なお、2018年12月期第3四半期より非連結となったため、2018年12月期の業績は個別業績の開示となっている。
グミ市場は引き続き順調に伸長した一方、2017年まで減少傾向にあった飴市場が上昇傾向に転じたようだ。このため、2018年のキャンディ市場は全体で比較的高い伸びとなったもようである。このような事業環境下、中期経営計画「NewKANRO2021」の達成に向けて、営業面では積極的なマーケティング投資によるブランドの強化、ITを活用した提案型営業活動、きめ細かいチャネル別販売促進などを進めて売上げの拡大を図った。品質面においては、朝日工場に続いてひかり工場においても食品の安全規格であるFSSC22000の認証を取得するなど、品質管理体制の強化を一層推進した。同時に、連結子会社のひかり製菓(株)を吸収合併して生産の効率化を図り、生産現場におけるカイゼン活動によって生産性の向上を進めた。また、業務の効率化に向けて、情報化投資など経営基盤の強化を積極的に推進した。
以上を背景に、飴については、香料・着色料不使用が評価された「金のミルク」シリーズが高い成長を維持、2017年に投入した「たたかうシリーズ」などのヒットで「健康のど飴」が主力ブランドとして定着、コンビニエンスストア向けに新たに開発した新形態のコンパクトサイズが好評だったこともあり、売上高は前期比8.0%の増収となった。なかでもコンパクトサイズは、購入者層が袋タイプと異なるためカニバリすることなく、プラスオンとなっている。グミについては、「カンデミーナグミ」がハードな食感で男性客も取り込みつつあり、「ピュレグミ」に次ぐ主力ブランドに成長、「ピュレグミ」もメーカー5社による共同プロモーションによりコアユーザー層への訴求を強めたことから、売上高は前期比7.1%の増収となった。
利益面では、原油などの価格上昇といった製造原価の増加要因はあったが、主力ブランドの売上増加に伴う固定費率の減少、生産工程や作業効率の改善による生産性向上、ひかり製菓吸収による合理化効果などにより、売上総利益率は前期比2.0ポイントの改善となった。販管費は、積極的なマーケティング投資による広告宣伝費増、本社オフィス移転や新CI導入、社内システムの強化費用、ひかり製菓吸収に伴う人員増や一時費用の発生など売上高を上回る伸びとなったが、売上総利益の増加で吸収することができた。なお、旧本社ビル売却に伴う固定資産売却益501百万円、ひかり製菓吸収合併に伴う抱合せ株式消滅差益56百万円などを特別利益に、グミ製造ライン新設のための工場棟改築に係る固定資産除却損32百万円や休止資産の減損損失35百万円、ひかり製菓の建物などの減損及び撤去費用179百万円などを特別損失に計上したため、当期純利益は前期比70%を超える大幅な増益となった。
なお、2018年2月に同社は、戦略的投資として本社オフィスを中野区から新宿区へと移転した。従来の多層階で分断されがちなオフィスから、ワンフロアでオープンなオフィスへと移動することで、社員の健康と生産性の向上を両立する考えだ。新本社はIT環境を充実させ、仕切りのない執務エリアにフリーアドレス制を導入している。また、コーポレートカラーを基調としたエントランスや、代表的な商品をイメージした会議室、至るところにあるちょっとしたミーティングのためのテーブルや可動式モニターなど、働き方改革にもつながる先進的なコンセプトで設計されており、新CIに沿ったオフィスとなっている。既にリテールサポートなど従業員間の意思疎通の面で、良好な効果が生じているようだ。
(執筆:フィスコ客員アナリスト 宮田仁光)
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1. ターニングポイント
キャンディ市場の競争激化などにより、2000年代後半から売上総利益率と販管費率がともに悪化し、カンロ<2216>の営業利益は減益傾向を続けていた。それが2014年12月期、ついに営業損失に陥った。しかし2015年12月期以降、営業利益率は、売上総利益率や販管費率とともに急速に改善、2016年12月期には早くも2012年12月期の水準へと戻している。
営業損失の主因は、当時主力製品の1つだったカルピスブランドの飴やグミの販売が中止になったことである。味の素<2802>が2012年に、商標権を持つカルピス株をアサヒグループホールディングス<2502>に譲渡、カルピスの商標使用権が解約されたのである。これにより売上高は、それまでの200億円レベルから2013年12月期の183億円へと急減してしまった。この緊急事態に、同社は急遽、当時計画していた海外進出や新規菓子開発を中止して対応したものの、売上高急減による固定費率の悪化をカバーできず、2014年12月期に営業損失に陥ってしまった。
しかし、最悪期の2014年12月期も製造費用の中身はバランスが崩れなかった。これは、カルピスブランド製品への過度な依存がなかったからで、他の製品の売上高を伸ばせば固定費率が下がって利益も回復するという、比較的安定した収益構造になっていたからと考えられる。また、販管費率も大きく悪化しなかったが、代理店手数料など変動費の抑制に努めた結果と思われる。とはいえ、カルピスブランド喪失の危機感は大きく、同社は効率のよい7つの主力ブランド(カンロ飴、ノンシュガーグルメシリーズ、金のミルク、健康のど飴シリーズ、ボイスケアのど飴、ノンシュガーのど飴シリーズ、ピュレグミシリーズ)に経営資源を集中することにした。加えて、2017年12月期に後に詳述する中期経営計画「NewKANRO2021」がスタートした。これにより、収益は急回復したのである。なお、2018年12期に収益構造が変化しているが、中期経営計画「NewKANRO2021」が、さらに大きな売上高を求めるステージに入ったためと言うことができる。
長期的な収益動向から現在の収益水準を考えると、まず2000年以降、販路としてはコンビニエンスストアが成長、製品は機能性製品やグミが拡大し、売上高・利益の伸びをともにけん引した。しかし2000年代半ばをピークに売上高は微減を続け、利益率は急速に悪化した。競争激化や少子高齢化などキャンディを取り巻く環境が大きく変化したことが背景にあると考えられ、そのボトムがカルピスブランドを販売中止した2014年12月期である。長期的に見ても2014年12月期はまさにターニングポイントだったと言え、その後V字回復し、経常利益は直近ピークの2007年12月期の1,492百万円を臨める位置まで戻ってきたのは、これまで述べたとおりである。
飴市場が10年ぶりに増収に転じたもよう
2. 2018年12月期の業績動向
2018年12月期の業績は、売上高22,949百万円(前期比7.7%増)、営業利益1,003百万円(同5.9%増)、経常利益1,045百万円(同4.4%増)、当期純利益1,011百万円(同70.3%増)となった。なお、2018年12月期第3四半期より非連結となったため、2018年12月期の業績は個別業績の開示となっている。
グミ市場は引き続き順調に伸長した一方、2017年まで減少傾向にあった飴市場が上昇傾向に転じたようだ。このため、2018年のキャンディ市場は全体で比較的高い伸びとなったもようである。このような事業環境下、中期経営計画「NewKANRO2021」の達成に向けて、営業面では積極的なマーケティング投資によるブランドの強化、ITを活用した提案型営業活動、きめ細かいチャネル別販売促進などを進めて売上げの拡大を図った。品質面においては、朝日工場に続いてひかり工場においても食品の安全規格であるFSSC22000の認証を取得するなど、品質管理体制の強化を一層推進した。同時に、連結子会社のひかり製菓(株)を吸収合併して生産の効率化を図り、生産現場におけるカイゼン活動によって生産性の向上を進めた。また、業務の効率化に向けて、情報化投資など経営基盤の強化を積極的に推進した。
以上を背景に、飴については、香料・着色料不使用が評価された「金のミルク」シリーズが高い成長を維持、2017年に投入した「たたかうシリーズ」などのヒットで「健康のど飴」が主力ブランドとして定着、コンビニエンスストア向けに新たに開発した新形態のコンパクトサイズが好評だったこともあり、売上高は前期比8.0%の増収となった。なかでもコンパクトサイズは、購入者層が袋タイプと異なるためカニバリすることなく、プラスオンとなっている。グミについては、「カンデミーナグミ」がハードな食感で男性客も取り込みつつあり、「ピュレグミ」に次ぐ主力ブランドに成長、「ピュレグミ」もメーカー5社による共同プロモーションによりコアユーザー層への訴求を強めたことから、売上高は前期比7.1%の増収となった。
利益面では、原油などの価格上昇といった製造原価の増加要因はあったが、主力ブランドの売上増加に伴う固定費率の減少、生産工程や作業効率の改善による生産性向上、ひかり製菓吸収による合理化効果などにより、売上総利益率は前期比2.0ポイントの改善となった。販管費は、積極的なマーケティング投資による広告宣伝費増、本社オフィス移転や新CI導入、社内システムの強化費用、ひかり製菓吸収に伴う人員増や一時費用の発生など売上高を上回る伸びとなったが、売上総利益の増加で吸収することができた。なお、旧本社ビル売却に伴う固定資産売却益501百万円、ひかり製菓吸収合併に伴う抱合せ株式消滅差益56百万円などを特別利益に、グミ製造ライン新設のための工場棟改築に係る固定資産除却損32百万円や休止資産の減損損失35百万円、ひかり製菓の建物などの減損及び撤去費用179百万円などを特別損失に計上したため、当期純利益は前期比70%を超える大幅な増益となった。
なお、2018年2月に同社は、戦略的投資として本社オフィスを中野区から新宿区へと移転した。従来の多層階で分断されがちなオフィスから、ワンフロアでオープンなオフィスへと移動することで、社員の健康と生産性の向上を両立する考えだ。新本社はIT環境を充実させ、仕切りのない執務エリアにフリーアドレス制を導入している。また、コーポレートカラーを基調としたエントランスや、代表的な商品をイメージした会議室、至るところにあるちょっとしたミーティングのためのテーブルや可動式モニターなど、働き方改革にもつながる先進的なコンセプトで設計されており、新CIに沿ったオフィスとなっている。既にリテールサポートなど従業員間の意思疎通の面で、良好な効果が生じているようだ。
(執筆:フィスコ客員アナリスト 宮田仁光)
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