日本調剤 Research Memo(6):2019年の薬機法改正を機に、調剤薬局業界が大きく動き出す可能性(1)
[19/12/04]
提供元:株式会社フィスコ
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注目トピックス 日本株
■日本調剤<3341>の中長期成長戦略の進捗状況
2. 調剤薬局事業の中長期戦略への取り組みと進捗状況
(1) 調剤薬局事業を取り巻く現況
調剤薬局(保険薬局とも呼ばれる)のビジネスは、“薬局”という業態自体が国の健康保険制度の中で規定されているため、国(厚労省)が進める制度改革の方向性と、事業者自身の目指す方向性がそろったときに、より大きな効果が期待できると考えられる。
2020年3月期は、前述のように調剤報酬改定のスキップ年ではあったが、他方で薬機法の改正案が2019年3月に第198回国会に提出された。その後国会で審議が続けられてきたが、第200回国会(会期:2019年10月4日−2019年12月9日)において、11月27日の参院本会議で可決され成立した。新たな薬局機能認定制度などは官報による公布から2年以内に施行される。
今般の薬機法改正案の内容は、2020年4月に予定されている調剤報酬改定はもちろん、その先の薬局・薬剤師の中長期的な役割やあり方に大きな影響を与えるものとなっている。したがって、同社を始めとする調剤薬局事業者はその内容を吟味し、将来の事業環境の変化等を予測して、それへの対応を早め早めに進めていくことが重要となってくる。以下では薬機法改正の概要と同社の中長期成長戦略の進捗状況について述べる。
(2) 薬機法改正のポイント
今回の薬機法改正案では薬剤師・薬局のあり方の見直しが行われたが、その前置きとして“住み慣れた地域で患者が安心して医薬品を使うことができるようにするための”という表現で見直す理由が明確に示されている。ここに至った背景には、医薬分業が進んだ(処方箋受取率が2017年度で72.8%と70%を超えている)ものの、患者本位の医薬分業とはなっていない、本来医薬分業の効果・機能として期待されたものが発揮されていない、などの現状認識が成されていることがある。
薬局・薬剤師にかかわる具体的な法律改正の内容としては、1)機能別薬局として「地域連携薬局」及び「専門医療機関連携薬局」の導入、2)薬剤師による継続的な服薬状況の把握及び服薬指導の義務の法制化、3)テレビ電話等による服薬指導の導入、4)薬局における法令遵守体制等の整備、の大きく4点が挙げられる。いずれも重要であるが、特に重要かつ、調剤薬局事業者に影響が大きいと考えられるのは1)の2つの機能別薬局類型の導入だ。
厚労省は2015年に「患者のための薬局ビジョン」を策定・公表している(過去のレポートにおいても何度か取り上げてきている)。その中で薬局に求められる機能の具体的なあり方として、「かかりつけ薬剤師・薬局」並びに「高度薬学管理機能」が示されており、今回の薬機法改正はそれを制度化したものと言える。その意味では、今回の2類型の導入は既定路線という見方もできるが調剤薬局事業者への影響は決して少なくない。
第一に懸念されるのは、2類型のどちらかに認定された薬局(以下では便宜上、“認定薬局”と表現する)と非認定薬局(当初は大多数の薬局は非認定薬局になると弊社ではみている)との間で、ランク付け(あるいは“格差”の発生)が生じ、集客・売上の面で大きな差が生じる可能性があることだ。そもそも、2類型導入の目的が“患者が自身に適した薬局を選択できるようにする”というところにあるため、認定薬局の特長や機能について、国が率先して広報活動を行う可能性すらある。その結果、患者が認定薬局を志向する傾向が強まった場合には認定か否かで大きな差が出る可能性がある。典型例としては、ある病院の前に軒を連ねる門前薬局の中で淘汰が進むというケースが考えられる。
二つ目は、その認定の取得のハードルが想定以上に高くなる可能性だ。認定基準は厚労省令で定められることとなっている(認定自体はそれに基づき都道府県知事が行う)。その詳細は明らかになっていないが、「患者のための薬局ビジョン」に掲げた健康サポート薬局やかかりつけ薬局はそのまま残る方向のようだ。そうなると、それらと新規導入の認定薬局との関係性や役割・メリットの違い等を明確にする必要があるだろう。それが認定条件の厳しさという形で現れると、調剤薬局事業者の負担は増し、認定薬局の数(あるいは構成比)がなかなか増えないということになる。既に法改正の議論の中でも、「病院勤務を経験せず重篤な副作用の症状を経験したことのないような薬局の薬剤師が高度薬学管理機能の看板を掲げることはいかがなものか」という指摘が出ている。こうした流れを素直に読み解くならば、認定薬局で勤務する薬剤師には相当の経験・スキルや資格などが要求されるのではないかと考えられる。
これら以外にも改正法の施行に伴い様々なハードルが浮かび上がってくる可能性がある。他方、テレビ電話等による服薬指導の導入などは新たな収益機会や業務の効率化につながると考えられ、プラス方向の改正となる可能性がある。
今回の薬機法改正を受けて投資家の視点から考えるべきポイントは、様々な薬局(大手チェーン・中小企規模の法人・個人経営の別、大型店・小規模店の別、門前薬局・面対応薬局の別、調剤薬局・ドラッグストアの別、など切り口は多面的)の中で、最初にふるい落とされていくのはどういう薬局かということだ。弊社ではかつて、単純に経営体力の弱い個人経営の店舗から消滅していくとみていた。しかし調剤報酬改定を通じた厚労省の政策誘導の経緯・実績などを見ると、個人薬局は決して脆弱な存在でもないと見方が変わりつつある。一方、今般の薬機法改正を見ると、それへの対応を進めることが個々の店舗の負担増大につながることが想定される。個人薬局はそうした対応を最初から切り捨てることも可能だが、大手チェーンを始め、一定規模以上の法人は、その“看板”ゆえに無理をしてでも対応しよう(例えば、認定薬局を目指す)とすることが想像される。これはかなりリスクをはらんだ取り組みだと弊社では考えている。コンビニエンスストアの経営が大きな転機を迎えている現状と重ねれば理解しやすいだろう。
将来のある時点で振り返った時に、「2019年の薬機法改正が業界再編本格化のトリガーだった」と言われるような、それだけのインパクトのある法改正だと弊社では考えている。
(執筆:フィスコ客員アナリスト 浅川裕之)
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2. 調剤薬局事業の中長期戦略への取り組みと進捗状況
(1) 調剤薬局事業を取り巻く現況
調剤薬局(保険薬局とも呼ばれる)のビジネスは、“薬局”という業態自体が国の健康保険制度の中で規定されているため、国(厚労省)が進める制度改革の方向性と、事業者自身の目指す方向性がそろったときに、より大きな効果が期待できると考えられる。
2020年3月期は、前述のように調剤報酬改定のスキップ年ではあったが、他方で薬機法の改正案が2019年3月に第198回国会に提出された。その後国会で審議が続けられてきたが、第200回国会(会期:2019年10月4日−2019年12月9日)において、11月27日の参院本会議で可決され成立した。新たな薬局機能認定制度などは官報による公布から2年以内に施行される。
今般の薬機法改正案の内容は、2020年4月に予定されている調剤報酬改定はもちろん、その先の薬局・薬剤師の中長期的な役割やあり方に大きな影響を与えるものとなっている。したがって、同社を始めとする調剤薬局事業者はその内容を吟味し、将来の事業環境の変化等を予測して、それへの対応を早め早めに進めていくことが重要となってくる。以下では薬機法改正の概要と同社の中長期成長戦略の進捗状況について述べる。
(2) 薬機法改正のポイント
今回の薬機法改正案では薬剤師・薬局のあり方の見直しが行われたが、その前置きとして“住み慣れた地域で患者が安心して医薬品を使うことができるようにするための”という表現で見直す理由が明確に示されている。ここに至った背景には、医薬分業が進んだ(処方箋受取率が2017年度で72.8%と70%を超えている)ものの、患者本位の医薬分業とはなっていない、本来医薬分業の効果・機能として期待されたものが発揮されていない、などの現状認識が成されていることがある。
薬局・薬剤師にかかわる具体的な法律改正の内容としては、1)機能別薬局として「地域連携薬局」及び「専門医療機関連携薬局」の導入、2)薬剤師による継続的な服薬状況の把握及び服薬指導の義務の法制化、3)テレビ電話等による服薬指導の導入、4)薬局における法令遵守体制等の整備、の大きく4点が挙げられる。いずれも重要であるが、特に重要かつ、調剤薬局事業者に影響が大きいと考えられるのは1)の2つの機能別薬局類型の導入だ。
厚労省は2015年に「患者のための薬局ビジョン」を策定・公表している(過去のレポートにおいても何度か取り上げてきている)。その中で薬局に求められる機能の具体的なあり方として、「かかりつけ薬剤師・薬局」並びに「高度薬学管理機能」が示されており、今回の薬機法改正はそれを制度化したものと言える。その意味では、今回の2類型の導入は既定路線という見方もできるが調剤薬局事業者への影響は決して少なくない。
第一に懸念されるのは、2類型のどちらかに認定された薬局(以下では便宜上、“認定薬局”と表現する)と非認定薬局(当初は大多数の薬局は非認定薬局になると弊社ではみている)との間で、ランク付け(あるいは“格差”の発生)が生じ、集客・売上の面で大きな差が生じる可能性があることだ。そもそも、2類型導入の目的が“患者が自身に適した薬局を選択できるようにする”というところにあるため、認定薬局の特長や機能について、国が率先して広報活動を行う可能性すらある。その結果、患者が認定薬局を志向する傾向が強まった場合には認定か否かで大きな差が出る可能性がある。典型例としては、ある病院の前に軒を連ねる門前薬局の中で淘汰が進むというケースが考えられる。
二つ目は、その認定の取得のハードルが想定以上に高くなる可能性だ。認定基準は厚労省令で定められることとなっている(認定自体はそれに基づき都道府県知事が行う)。その詳細は明らかになっていないが、「患者のための薬局ビジョン」に掲げた健康サポート薬局やかかりつけ薬局はそのまま残る方向のようだ。そうなると、それらと新規導入の認定薬局との関係性や役割・メリットの違い等を明確にする必要があるだろう。それが認定条件の厳しさという形で現れると、調剤薬局事業者の負担は増し、認定薬局の数(あるいは構成比)がなかなか増えないということになる。既に法改正の議論の中でも、「病院勤務を経験せず重篤な副作用の症状を経験したことのないような薬局の薬剤師が高度薬学管理機能の看板を掲げることはいかがなものか」という指摘が出ている。こうした流れを素直に読み解くならば、認定薬局で勤務する薬剤師には相当の経験・スキルや資格などが要求されるのではないかと考えられる。
これら以外にも改正法の施行に伴い様々なハードルが浮かび上がってくる可能性がある。他方、テレビ電話等による服薬指導の導入などは新たな収益機会や業務の効率化につながると考えられ、プラス方向の改正となる可能性がある。
今回の薬機法改正を受けて投資家の視点から考えるべきポイントは、様々な薬局(大手チェーン・中小企規模の法人・個人経営の別、大型店・小規模店の別、門前薬局・面対応薬局の別、調剤薬局・ドラッグストアの別、など切り口は多面的)の中で、最初にふるい落とされていくのはどういう薬局かということだ。弊社ではかつて、単純に経営体力の弱い個人経営の店舗から消滅していくとみていた。しかし調剤報酬改定を通じた厚労省の政策誘導の経緯・実績などを見ると、個人薬局は決して脆弱な存在でもないと見方が変わりつつある。一方、今般の薬機法改正を見ると、それへの対応を進めることが個々の店舗の負担増大につながることが想定される。個人薬局はそうした対応を最初から切り捨てることも可能だが、大手チェーンを始め、一定規模以上の法人は、その“看板”ゆえに無理をしてでも対応しよう(例えば、認定薬局を目指す)とすることが想像される。これはかなりリスクをはらんだ取り組みだと弊社では考えている。コンビニエンスストアの経営が大きな転機を迎えている現状と重ねれば理解しやすいだろう。
将来のある時点で振り返った時に、「2019年の薬機法改正が業界再編本格化のトリガーだった」と言われるような、それだけのインパクトのある法改正だと弊社では考えている。
(執筆:フィスコ客員アナリスト 浅川裕之)
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