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CACHD Research Memo(6):CSV型事業の2つ目の柱を担うCRO事業

注目トピックス 日本株
■CAC Holdings<4725>の事業内容

3. CRO事業
CRO事業(CRO:Contract Research Organization、受託臨床試験実施機関)は、製薬企業が医薬品開発時に行う治験業務や製造販売後の業務の受託・代行サービスである。

2020年12月期の売上比は14.1%と、直近で好業績であった2018年12月期(売上高は11,002百万円。売上比22.0%)から7.9ポイント低下し、セグメント利益も2020年12月期は353百万円の損失となり2018年12月期(693百万円の利益)から悪化している。2021年12月期には増収・セグメント利益の黒字転換が見込まれるものの、収益環境自体は厳しい状況が続いており、今後の動向に注視しておく必要がある。

(1) 合言葉は“答えは「CRO×IT」”
CRO事業の直接的な業務は、CACクロア(本章において以下、クロア)が担っている。独立系SIerのパイオニアを母体としているだけに、“答えは「CRO×IT」”を合言葉に「業務支援」「IT」「コンサルティング」の三方向から包括的なサービスを行っている。この「CRO×IT」の姿勢は社員のスキルセットにも表れており、医師・薬剤師・社会保険労務士などの有資格者をはじめ、安全性情報管理やDM・統計解析・臨床開発・申請といったCRO業務で求められるスキルを持つスペシャリストが数多く在籍している。他方で、多くのICT人材も在籍している。

クロアは140社の取引先に対し、安全性情報管理業務(売上比45%程度)・治験業務(同15%程度)・製造販売後業務(同5%程度)・申請業務(同10%程度)といった分野での支援を手掛けている。なかでも主力である安全性情報管理業務(医薬品の副作用情報を蓄積し、当局に申請する業務)及び申請業務の実績は国内トップとしている。

(2) 生産性向上への取り組みが続く
クロアのCRO業界ポジションについて、(一財)日本CRO協会が発表している「年次業績報告(2016〜2019年)」の会員データをもとに考察すると、1)クロアの業界シェアは低下傾向(2016年から2018年までは6%を超える水準だったものの、2019年には5.0%へ低下)、2)クロアの1人当たり売上高(7.0百万円)は業界平均(10.0百万円)を下回る、といった点が指摘できる。

ここで留意すべき点は、クロアのモニタリング業務からのポーションが小さいことである。そもそもモニタリング業務は、CRA(Clinical Research Associate)が臨床試験に参加する医療機関を訪問、担当医師と直接面談し、プロトコル(試験実施計画書)の内容説明、試験進捗状況の確認、調査表の記入依頼・回収・精査などを行うため、1人当たりの付加価値が大きい。一方で、労働集約型業務の色彩が強いという特徴を持つ。業界のモニタリング業務売上高の過去3年の年平均成長率は3.9%と、業界の医薬品開発関連業務全体の売上高2.9%を上回り、売上比は59%に達している。業務構成比の違いが、クロアの業界シェアの低下や1人当たり売上高の小ささの主因と見てよいだろう。

また、1)主力である安全性情報管理業務は各事業所内で対応できる比率が大きいため、IT事業で言うニアショア拠点の積極活用、2)独立系SIerが母体であることを最大限に生かし、RPA(Robotic Process Automation)などICT利活用による効率化・高精度化の推進、などを背景に業界平均を上回っていたクロアの労働生産性向上率に異変が生じている。

クロアの労働生産性は、会社が発足した2016年に9%弱向上、2017年は5%強向上、2018年も17%弱向上となった。これに対し業界の労働生産性は、モニタリング業務が2016年、2017年ともほぼ横ばい、2018年は2%弱向上、モニタリング業務以外は2016年に2%弱向上、2017年は8%弱悪化、2018年は4%程度の向上となった。2019年はクロアの労働生産性が20%強悪化し、業界全体(モニタリング業務が4%弱悪化、モニタリング業務以外が2%弱向上)に大きく劣後した。引き続き注視する必要があるだろう。

(3) CSV型事業の典型として評価したいQualityLead
クロアは、ICT利活用によりCRO業務で生まれた余力をCRO周辺事業の拡大に結び付けようとしている。具体的には、2018年から、製薬企業が個別に保有管理している医薬品探索研究用化合物や情報をクロアが集約管理しデータベース化する事業(化合物共有ライブラリー。以下、QualityLead)に取り組んでいる。2019年には田辺三菱製薬(株)(1月)と塩野義製薬<4507>(2月)が、2020年にはエーザイ<4523>(1月)、あすか製薬(株)※(2月)が参画を表明した。また同年11月には、2021年4月より田辺三菱製薬×塩野義製薬×エーザイによる化合物ライブラリーの共有・相互利用開始が発表された。製薬会社の化合物ライブラリーを継続的に共有・相互利用する事業を民間企業が実施するのは国内初となり、将来的には年間3〜5億円の売上貢献が見込まれるとしている。

※2020年3月30日付で上場廃止し、同年4月1日付であすか製薬ホールディングス<4886>の完全子会社となる。


QualityLeadの特徴として注目したいのが、同社グループが重視するCSV(Creating Shared Value、事業を通じた社会貢献)の典型例であることだ。データベースを製薬企業・アカデミア・バイオベンチャーなどが共同利用することで、新薬開発において大幅な期間短縮やコスト削減、創薬機会の増加、といった効果が期待される。高齢化社会が到来するなかで、膨れ上がる医療費の抑制に直結する医薬品開発の効率化は、まさにCSV的と言ってよいだろう。

また、クロアはリアルワールドデータの活用にも取り組み始めた。リアルワールドデータとは、診療報酬請求(レセプト)データ・DPCデータ(病棟における療養費用に関わる各種データ)・電子カルテデータ・健診データといった実際の診療行為に基づくデータ全般を指す。リアルワールドデータがデータベースとして整備され活用できれば、実際の治療における医薬品の実効性・安全性や費用対効果などが明確となり、医療サービスの良質化・効率化につなげることが可能となる。つまり、リアルワールドデータ関連の事業化は典型的なICT利活用及びCSVと言え、クロアらしい取り組みとして今後の進展を見守りたい。

(執筆:フィスコ客員アナリスト 前田吉弘)




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