森六 Research Memo(7):新中期経営計画は強みのある事業の強化・成長分野の絞り込みを目指す(1)
[22/08/24]
提供元:株式会社フィスコ
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注目トピックス 日本株
■森六ホールディングス<4249>の中期経営計画
1. 前中期経営計画の振り返り
第12次中期経営計画(2020年3月期〜2022年3月期)では、環境変化を先取りし、新事業創造と変革に挑み続けることでグローバル市場を勝ち抜ける事業基盤を構築するという基本方針のもと、「事業構造変革」「付加価値創造」「経営基盤強化」の3つを基本戦略の柱に掲げた。そして、業績目標として、最終年度の売上高2,000億円以上(旧会計基準)、営業利益率5.0%以上、ROE9.0%以上、戦略事業投資に350億円などを目指した。しかし、実績は売上高1,759億円(旧会計基準)、営業利益率1.5%、ROE6.1%、事業投資276億円にとどまり、業績目標は未達に終わった。これは、コロナ感染拡大や半導体不足の影響など、計画策定時には織り込んでいなかった、予想を上回る外部環境の大幅悪化を受けた結果であった。同社グループでは、前中期経営計画で残した課題を踏まえて、新たな長期ビジョン「2030年ビジョン」と第13次中期経営計画を策定した。
2. 2030年ビジョン
「2030年ビジョン」では、「CREATE THE NEW VALUE」のスローガンのもと、独自技術を強みとした価値創造で持続可能な未来社会に貢献するグローバル企業集団を目指す。
ビジョンの策定にあたっては、地球環境への取り組みなどサステナブルな社会への貢献を前提に、事業戦略を策定・実行していくことを重視した。そのため、同社では、2030年度までに達成する、サステナビリティの主要KPIを3つ設定した。1つは、人材に関するKPIで、「社員エンゲージメント」と「社員を生かす環境」の肯定回答を60%以上にする。残る2つは環境に関するKPIで、グループ全体でGHG(Green House Gasの略、温室効果ガスのこと)排出量の2019年度比50%削減と、再生可能エネルギー導入比率を55%への引き上げを掲げている。また、サステナビリティ活動推進の実効性を高めるため、役員報酬の一部にも主要KPIの達成度を反映していることから、同社のサステナビリティ活動への取り組みに対する本気度を示していると言えよう。
事業戦略面では、モビリティ、ファインケミカル、ライフサイエンス、環境の4分野にフォーカスして、新たな事業機会の獲得を目指す。すなわち、森六テクノロジー、森六ケミカルズを中心とする同社グループの既存事業を拡大・強化しながら、現在保有する資本や強みを生かせる事業領域で、新たな事業の柱の創出していく。
フォーカスした4分野のうち、モビリティでは、高付加価値化や販路拡大などにより規模拡大を狙う。環境の分野では、サステナブル材料事業や環境対応製品事業に新しく取り組む。ライフサイエンス分野では、既存の高機能フィルム事業を伸ばすとともに、ヘルスケア事業への新規参入を目指す。ファインケミカルの分野では、既存のケミカル合成事業の収益性を高め、一層の規模拡大を目指す。
「2030年ビジョン」の実現に向けては、3期・9か年のステップを描いており、ステップ1の第13次中期経営計画(2023年3月期〜2025年3月期)では、「強みのある事業の強化・成長分野の絞り込み」を、ステップ2の第14次中期経営計画(2026年3月期〜2028年3月期)では「成長分野の収益化を加速」させ、ステップ3の第15次中期経営計画(2029年3月期〜2031年3月期)では「4領域でバランスのよい収益ポートフォリオ構築」を目指す計画である。
3. 第13次中期経営計画
「2030年ビジョン」のステップ1である第13次中期経営計画(2023年3月期〜2025年3月期)では、基本戦略として、I安定した財務基盤の確立・収益力の強化、II研究開発の強化による価値創造と2030年に向けた種まき、IIIサステナビリティ活動の推進による経営のレジリエンス向上の3つを掲げる。基本戦略I・IIの2030年に向けた種まきや収益力の強化はグループ成長戦略の中心である。加えて、基本戦略IIIとしてサステナビリティ活動の推進を掲げたことは、サステナビリティ経営に注力する同社グループの経営姿勢を示すものといえよう。
また、2025年3月期の連結業績目標としては、売上高1,430億円、営業利益110億円、ROE 9.1%などを目標とする。売上高が伸び悩むなかでも、十分な営業利益を確保し、安定したROEを達成する計画だ。そして、生み出した資金は、将来のための戦略投資に振り向ける考えだ。なお、2024年3月期に減収を見込むのは、ホンダのモデルチェンジにより一部の車種で1台あたりの販売価格が低下することで、樹脂加工製品事業の売上高が減少する見通しであるためだ。ただ、生産体質強化による利益確保や、ケミカル事業での新規拡販などに注力する計画である。
セグメント別には、樹脂加工製品事業では、2025年3月期の売上高は1,120億円(2022年3月期比10.0%増)、営業利益は90億円を計画し、営業利益率は2022年3月期の1.2%から8.0%を見込む。2022年3月期は環境悪化に伴い利益率が大きく低下したが、次第に本来の利益率に戻ることを想定している。また、ケミカル事業では、2025年3月期の売上高は310億円(同14.6%増)、営業利益は23億円(同25.2%増)を計画し、営業利益率は2022年3月期の6.8%から7.4%を見込んでいる。
中期経営計画の業績目標を達成するための、3つの基本戦略の詳細は以下のとおりである。
(1) 基本戦略I 安定した財務基盤の確立・収益力の強化
財務戦略では、安全性と効率性を重視しつつ、「攻めの姿勢」に転じるための財務戦略を目指す。安全性では、グループ内資金の弾力的な活用により、必要十分な資金の確保を図る。効率性では、ROEを重視した高効率な連結経営や事業会社単位のKPI設定により、資本コストを意識した効率性を追求する。また、成長性では、戦略的な投資枠の拡充や積極的な業務提携やM&Aにより、投下資本の最適配分を図る。さらに、株主還元方針として、株主に対する利益還元を経営上の重要な施策の一つとして位置づけ、将来への投資や内部留保のバランスを考慮しながら、安定した配当を継続していく方針である。この基本戦略Iの安定した財務基盤の確立・収益力の強化は、主として基本戦略IIで推進する成長戦略を下支えするものであると考えられる。
(執筆:フィスコ客員アナリスト 国重 希)
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1. 前中期経営計画の振り返り
第12次中期経営計画(2020年3月期〜2022年3月期)では、環境変化を先取りし、新事業創造と変革に挑み続けることでグローバル市場を勝ち抜ける事業基盤を構築するという基本方針のもと、「事業構造変革」「付加価値創造」「経営基盤強化」の3つを基本戦略の柱に掲げた。そして、業績目標として、最終年度の売上高2,000億円以上(旧会計基準)、営業利益率5.0%以上、ROE9.0%以上、戦略事業投資に350億円などを目指した。しかし、実績は売上高1,759億円(旧会計基準)、営業利益率1.5%、ROE6.1%、事業投資276億円にとどまり、業績目標は未達に終わった。これは、コロナ感染拡大や半導体不足の影響など、計画策定時には織り込んでいなかった、予想を上回る外部環境の大幅悪化を受けた結果であった。同社グループでは、前中期経営計画で残した課題を踏まえて、新たな長期ビジョン「2030年ビジョン」と第13次中期経営計画を策定した。
2. 2030年ビジョン
「2030年ビジョン」では、「CREATE THE NEW VALUE」のスローガンのもと、独自技術を強みとした価値創造で持続可能な未来社会に貢献するグローバル企業集団を目指す。
ビジョンの策定にあたっては、地球環境への取り組みなどサステナブルな社会への貢献を前提に、事業戦略を策定・実行していくことを重視した。そのため、同社では、2030年度までに達成する、サステナビリティの主要KPIを3つ設定した。1つは、人材に関するKPIで、「社員エンゲージメント」と「社員を生かす環境」の肯定回答を60%以上にする。残る2つは環境に関するKPIで、グループ全体でGHG(Green House Gasの略、温室効果ガスのこと)排出量の2019年度比50%削減と、再生可能エネルギー導入比率を55%への引き上げを掲げている。また、サステナビリティ活動推進の実効性を高めるため、役員報酬の一部にも主要KPIの達成度を反映していることから、同社のサステナビリティ活動への取り組みに対する本気度を示していると言えよう。
事業戦略面では、モビリティ、ファインケミカル、ライフサイエンス、環境の4分野にフォーカスして、新たな事業機会の獲得を目指す。すなわち、森六テクノロジー、森六ケミカルズを中心とする同社グループの既存事業を拡大・強化しながら、現在保有する資本や強みを生かせる事業領域で、新たな事業の柱の創出していく。
フォーカスした4分野のうち、モビリティでは、高付加価値化や販路拡大などにより規模拡大を狙う。環境の分野では、サステナブル材料事業や環境対応製品事業に新しく取り組む。ライフサイエンス分野では、既存の高機能フィルム事業を伸ばすとともに、ヘルスケア事業への新規参入を目指す。ファインケミカルの分野では、既存のケミカル合成事業の収益性を高め、一層の規模拡大を目指す。
「2030年ビジョン」の実現に向けては、3期・9か年のステップを描いており、ステップ1の第13次中期経営計画(2023年3月期〜2025年3月期)では、「強みのある事業の強化・成長分野の絞り込み」を、ステップ2の第14次中期経営計画(2026年3月期〜2028年3月期)では「成長分野の収益化を加速」させ、ステップ3の第15次中期経営計画(2029年3月期〜2031年3月期)では「4領域でバランスのよい収益ポートフォリオ構築」を目指す計画である。
3. 第13次中期経営計画
「2030年ビジョン」のステップ1である第13次中期経営計画(2023年3月期〜2025年3月期)では、基本戦略として、I安定した財務基盤の確立・収益力の強化、II研究開発の強化による価値創造と2030年に向けた種まき、IIIサステナビリティ活動の推進による経営のレジリエンス向上の3つを掲げる。基本戦略I・IIの2030年に向けた種まきや収益力の強化はグループ成長戦略の中心である。加えて、基本戦略IIIとしてサステナビリティ活動の推進を掲げたことは、サステナビリティ経営に注力する同社グループの経営姿勢を示すものといえよう。
また、2025年3月期の連結業績目標としては、売上高1,430億円、営業利益110億円、ROE 9.1%などを目標とする。売上高が伸び悩むなかでも、十分な営業利益を確保し、安定したROEを達成する計画だ。そして、生み出した資金は、将来のための戦略投資に振り向ける考えだ。なお、2024年3月期に減収を見込むのは、ホンダのモデルチェンジにより一部の車種で1台あたりの販売価格が低下することで、樹脂加工製品事業の売上高が減少する見通しであるためだ。ただ、生産体質強化による利益確保や、ケミカル事業での新規拡販などに注力する計画である。
セグメント別には、樹脂加工製品事業では、2025年3月期の売上高は1,120億円(2022年3月期比10.0%増)、営業利益は90億円を計画し、営業利益率は2022年3月期の1.2%から8.0%を見込む。2022年3月期は環境悪化に伴い利益率が大きく低下したが、次第に本来の利益率に戻ることを想定している。また、ケミカル事業では、2025年3月期の売上高は310億円(同14.6%増)、営業利益は23億円(同25.2%増)を計画し、営業利益率は2022年3月期の6.8%から7.4%を見込んでいる。
中期経営計画の業績目標を達成するための、3つの基本戦略の詳細は以下のとおりである。
(1) 基本戦略I 安定した財務基盤の確立・収益力の強化
財務戦略では、安全性と効率性を重視しつつ、「攻めの姿勢」に転じるための財務戦略を目指す。安全性では、グループ内資金の弾力的な活用により、必要十分な資金の確保を図る。効率性では、ROEを重視した高効率な連結経営や事業会社単位のKPI設定により、資本コストを意識した効率性を追求する。また、成長性では、戦略的な投資枠の拡充や積極的な業務提携やM&Aにより、投下資本の最適配分を図る。さらに、株主還元方針として、株主に対する利益還元を経営上の重要な施策の一つとして位置づけ、将来への投資や内部留保のバランスを考慮しながら、安定した配当を継続していく方針である。この基本戦略Iの安定した財務基盤の確立・収益力の強化は、主として基本戦略IIで推進する成長戦略を下支えするものであると考えられる。
(執筆:フィスコ客員アナリスト 国重 希)
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