STOがブロックチェーンをダメにする理由【フィスコ・仮想通貨コラム】
[19/03/04]
提供元:株式会社フィスコ
提供元:株式会社フィスコ
仮想通貨コラム
仮想通貨の低迷が止まらない。LongHashの分析では、2018年に最も人気の高かった50の仮想通貨のうち30通貨で価格が9割も下がった。
弱気相場は現在も続いている。ICO(イニシャル・コイン・オファリング、仮想通貨技術を使った資金調達)ブームが終わり、イーサリアムの価格も急落。ブロックチェーンと仮想通貨の業界全体が衰退に向かっているのではと懸念する声も上がっている。
こうした状況では、誰もが突破口を見つけようと必死なのは無理もない。STO(セキュリティ・トークン・オファリング)がにわかに大きな注目を集めているのは、そのせいだ。セキュリティ・トークンは、既存の証券(株式など)と結びついているため、ほとんどのICOトークンよりも厳しく規制されている。最近は投資対象として極めて大きな注目を集めているため、新たな仮想通貨バブルだと危惧する声も上がっている。
STOがブロックチェーン業界を救うと思いたくなるのは理解できる。だが、そうはならない。STOは、インターネットでファックスを送るようなものだ。より正確に言うと、STOはWinFaxと同じだ。
インターネットが登場したばかりの頃、WinFaxというソフトウエアを使うと、ウィンドウズ・パソコンからファックスを送信することができた。当時、コンピューターはモデムでネットにつながれていて、伝統的なオフィスワーカーの多くは、インターネットとは何なのかも、メールの使い方も理解していなかった。だが、ファックスは使い慣れていたから、メールを送るよりもファックスを送るほうが簡単だと感じていた。だからWinFaxが開発されたわけだ。
WinFaxを使えば、ファックスのようにインターネットを使うことができた。いま聞いたら変な話だと思うかもしれないが、当時はインターネットを新手のファックスに過ぎないと思う人が本当に存在したのだ。のちにノーベル経済学賞を受賞したポール・クルーグマンは1998年、「2005年あたりには、インターネットが経済に与える影響は、ファックス機程度だということが明らかになっているだろう」と語った。
STOも、トークンを発行する新しい方法に過ぎないように見えるかもしれない。だが、STOはICOとは大きく異なる。STOの最大の特徴は、発行されたトークンに証券の性質があり、証券規制当局(米証券取引委員会など)の規制を受け、関連法令を遵守しなければならないことだ。
セキュリティ・トークンはブロックチェーン(つまり分散型プラットフォーム)で頒布されるが、依然として、顧客確認(KYC)の条件を満たし、規制に従って取引されなければならない。
STOは、一種のハッピーな媒体のように見えるかもしれない。ブロックチェーン・プロジェクトと投資家のどちらにとっても、IPOより参入障壁が大幅に低く、その基準はICOよりはるかに高い。というのも、ICOトークンは誰でも作って、大衆の売りつけることができるか。STOが素晴らしいもののような気がしても無理はない。
だが、実際は違う。STOはブロックチェーン技術の肝心なポイント、すなわち分散型の性質を傷つける。トークン発行から規制まで、STOのプロセスのほぼすべては、まとまった一カ所で行われなければならない。
分散型システムに有力な中心的ノードがある場合、STOは名前だけ立派だけ中身を伴わないものになる。それに、既存の証券発行プラットフォームを真似るなら、ブロックチェーン・プラットフォームを使おうとする理由がわからない。結局のところ、ナスダックやニューヨーク証券取引所など、完全に有効な機能的証券プラットフォームはすでに存在するのだ。それよりも効率が悪い類似プラなど必要ないだろう。
ある意味でSTOは、ヨーロッパとアメリカの規制当局が規制するブロックチェーン・プロジェクトの勧誘キャンペーンとみなすことができる。だが、このキャンペーンも最終的には失敗に終わる可能性がある。結局のところ、ファックスはメールではないし、ブロックチェーン上の資産は証券ではないからだ。
規制とオペレーションを中央集権化しようとする分散型システムは、それ自体に矛盾を抱えることになる。ブロックチェーンをユニークでパワフルな技術にしているのは、その分散型の性質だ。それが取り除かれたら、もはやブロックチェーンは非効率的なデータベースにすぎない。
現在の多くの若者たちは、ファックスが何なのか知らないし、ファックス機を見たことがない若者もいるだろう。いまやインターネットがファックス技術の延長ではないこと、そしてメールとファックスの性質が異なることは、誰にとっても明白だ。インターネットは効率性と機能の両面において、ファックスの概念をはるかに超えている。
とはいえ、かつてWinFaxが一定の役割を果たしたことは認めなければならない。WinFaxは、人々が快適だと感じる形でインターネットを使うことを可能にすることで、コンピューターを導入し、ウェブを使ってみようかと考える会社を増やした可能性がある。それはインターネットを普及させる重要なステップの1つだったとも言える。
仮想通貨がより幅広く採用されるようになるためには、適切な規制が必要なのは間違いない。だが、その答えはSTOではないだろう。ブロックチェーン技術は、独自のユニークな特徴と発展の道を持つから、それに沿った規制が必要だ。
インターネットを新聞や雑誌と同じルールで規制するのが間違いであるように、ブロックチェーンの資産に証券法を当てはめるべきではない。新しいテクノロジーを古い規制の枠組みに準拠させても、新しいテクノロジーを監督することはできない。ブロックチェーンの分散型の性質を押さえつければ、逆効果がもたらされるだけだろう。
(記事提供:LongHash)
LongHashは独自のデータ分析を基に、仮想通貨のトレンドやニュース、価格に関する情報を日中英の3ヶ国語で提供するジャーナリズム・プラットフォームです。ブロックチェーンデータの解析や解説を行うLongHash所属のデータサイエンティストやライターを世界中に抱え、分かりやすい記事で配信しています。またLongHashはブロックチェーンハッカソンやミートアップの企画、実施運営のサービスも提供しています。より多くの記事を読みたい方は、LongHashの公式ページからアクセスできます。
<SI>
弱気相場は現在も続いている。ICO(イニシャル・コイン・オファリング、仮想通貨技術を使った資金調達)ブームが終わり、イーサリアムの価格も急落。ブロックチェーンと仮想通貨の業界全体が衰退に向かっているのではと懸念する声も上がっている。
こうした状況では、誰もが突破口を見つけようと必死なのは無理もない。STO(セキュリティ・トークン・オファリング)がにわかに大きな注目を集めているのは、そのせいだ。セキュリティ・トークンは、既存の証券(株式など)と結びついているため、ほとんどのICOトークンよりも厳しく規制されている。最近は投資対象として極めて大きな注目を集めているため、新たな仮想通貨バブルだと危惧する声も上がっている。
STOがブロックチェーン業界を救うと思いたくなるのは理解できる。だが、そうはならない。STOは、インターネットでファックスを送るようなものだ。より正確に言うと、STOはWinFaxと同じだ。
インターネットが登場したばかりの頃、WinFaxというソフトウエアを使うと、ウィンドウズ・パソコンからファックスを送信することができた。当時、コンピューターはモデムでネットにつながれていて、伝統的なオフィスワーカーの多くは、インターネットとは何なのかも、メールの使い方も理解していなかった。だが、ファックスは使い慣れていたから、メールを送るよりもファックスを送るほうが簡単だと感じていた。だからWinFaxが開発されたわけだ。
WinFaxを使えば、ファックスのようにインターネットを使うことができた。いま聞いたら変な話だと思うかもしれないが、当時はインターネットを新手のファックスに過ぎないと思う人が本当に存在したのだ。のちにノーベル経済学賞を受賞したポール・クルーグマンは1998年、「2005年あたりには、インターネットが経済に与える影響は、ファックス機程度だということが明らかになっているだろう」と語った。
STOも、トークンを発行する新しい方法に過ぎないように見えるかもしれない。だが、STOはICOとは大きく異なる。STOの最大の特徴は、発行されたトークンに証券の性質があり、証券規制当局(米証券取引委員会など)の規制を受け、関連法令を遵守しなければならないことだ。
セキュリティ・トークンはブロックチェーン(つまり分散型プラットフォーム)で頒布されるが、依然として、顧客確認(KYC)の条件を満たし、規制に従って取引されなければならない。
STOは、一種のハッピーな媒体のように見えるかもしれない。ブロックチェーン・プロジェクトと投資家のどちらにとっても、IPOより参入障壁が大幅に低く、その基準はICOよりはるかに高い。というのも、ICOトークンは誰でも作って、大衆の売りつけることができるか。STOが素晴らしいもののような気がしても無理はない。
だが、実際は違う。STOはブロックチェーン技術の肝心なポイント、すなわち分散型の性質を傷つける。トークン発行から規制まで、STOのプロセスのほぼすべては、まとまった一カ所で行われなければならない。
分散型システムに有力な中心的ノードがある場合、STOは名前だけ立派だけ中身を伴わないものになる。それに、既存の証券発行プラットフォームを真似るなら、ブロックチェーン・プラットフォームを使おうとする理由がわからない。結局のところ、ナスダックやニューヨーク証券取引所など、完全に有効な機能的証券プラットフォームはすでに存在するのだ。それよりも効率が悪い類似プラなど必要ないだろう。
ある意味でSTOは、ヨーロッパとアメリカの規制当局が規制するブロックチェーン・プロジェクトの勧誘キャンペーンとみなすことができる。だが、このキャンペーンも最終的には失敗に終わる可能性がある。結局のところ、ファックスはメールではないし、ブロックチェーン上の資産は証券ではないからだ。
規制とオペレーションを中央集権化しようとする分散型システムは、それ自体に矛盾を抱えることになる。ブロックチェーンをユニークでパワフルな技術にしているのは、その分散型の性質だ。それが取り除かれたら、もはやブロックチェーンは非効率的なデータベースにすぎない。
現在の多くの若者たちは、ファックスが何なのか知らないし、ファックス機を見たことがない若者もいるだろう。いまやインターネットがファックス技術の延長ではないこと、そしてメールとファックスの性質が異なることは、誰にとっても明白だ。インターネットは効率性と機能の両面において、ファックスの概念をはるかに超えている。
とはいえ、かつてWinFaxが一定の役割を果たしたことは認めなければならない。WinFaxは、人々が快適だと感じる形でインターネットを使うことを可能にすることで、コンピューターを導入し、ウェブを使ってみようかと考える会社を増やした可能性がある。それはインターネットを普及させる重要なステップの1つだったとも言える。
仮想通貨がより幅広く採用されるようになるためには、適切な規制が必要なのは間違いない。だが、その答えはSTOではないだろう。ブロックチェーン技術は、独自のユニークな特徴と発展の道を持つから、それに沿った規制が必要だ。
インターネットを新聞や雑誌と同じルールで規制するのが間違いであるように、ブロックチェーンの資産に証券法を当てはめるべきではない。新しいテクノロジーを古い規制の枠組みに準拠させても、新しいテクノロジーを監督することはできない。ブロックチェーンの分散型の性質を押さえつければ、逆効果がもたらされるだけだろう。
(記事提供:LongHash)
LongHashは独自のデータ分析を基に、仮想通貨のトレンドやニュース、価格に関する情報を日中英の3ヶ国語で提供するジャーナリズム・プラットフォームです。ブロックチェーンデータの解析や解説を行うLongHash所属のデータサイエンティストやライターを世界中に抱え、分かりやすい記事で配信しています。またLongHashはブロックチェーンハッカソンやミートアップの企画、実施運営のサービスも提供しています。より多くの記事を読みたい方は、LongHashの公式ページからアクセスできます。
<SI>