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3Dマトリック Research Memo(2):自己組織化ペプチドを用いた医療材料・機器を開発するバイオベンチャー

注目トピックス 日本株
■会社沿革と開発パイプライン

1. 会社沿革
2001年に米国でマサチューセッツ工科大学MITの教授等が自己組織化ペプチド技術の開発、事業化を目的に立ち上げたベンチャー企業、3-D Matrix,Inc.(現連結子会社)がスリー・ディー・マトリックス<7777>の起源となっている。コンサルタント会社に在籍していた現取締役会長の永野恵嗣(ながのけいじ)氏が同技術の将来性に着目してエンジェル出資を行ったことがきっかけで関係を強化し、2004年に日本での自己組織化ペプチド技術による医療機器の事業化を目的として同社が設立された。その後、米国では自己組織化ペプチドの適用分野として歯槽骨再建材や創傷治癒材等の再生医療領域での開発を主に進め、国内では止血材や血管塞栓材、核酸医薬用DDS等の医療材料・機器、医薬領域の開発に注力してきた。

2011年に国内で止血材の治験が終了、製造販売承認申請を行ったが、その後PMDAとの協議が長引き、より精度の高いデータを求められたことから、2015年に承認申請を取り下げるに至った(2017年4月に治験計画届を再提出)。その後、止血材については欧州でCEマーキング認証を2014年に取得し販売を開始したほか、CEマーキング適用国であるアジア・オセアニア地域、中南米地域でも販売を開始し、現在に至っている。

2. 主要開発パイプラインの状況と市場規模
(1) 吸収性局所止血材(TDM-621)
同社の止血材「PuraStat®」は、血管吻合部並びに臓器からの滲出性出血や、内視鏡手術、腹腔鏡手術下での消化管粘膜切除部の小血管、毛細血管からの滲出性出血の止血用途を目的に開発、販売が進んでいる。止血材(主に心臓血管外科及び一般外科などの手術の際に用いられる止血材)の世界における市場規模は、2016年に約3,000百万USドルに達したと見られている。地域別では、米国が1,344百万USドル、欧州が1,078百万USドルとなり世界の需要の大半を占めている。また、欧州以外にCEマーキングを適用して販売可能な国の市場規模は286百万USドル程度と推計され、これら地域に日本、中国を加えた市場が同社のターゲット市場となる。

現在、止血材としてはヒト+ウシ由来のフィブリン糊が一般的に使用されているが、感染リスクがゼロとは言い切れない。同社の止血材は化学合成のため感染リスクがないことに加えて、透明色のため術視野が妨げられないこと、術後洗浄が容易であるなど、操作性や機能面でも優位な点が多く、今後シェアを開拓していく余地は大きいとみられる。なお、1回の手術で使用される同社の止血材の量は血管用で3〜5ml、臓器出血用で10ml程度となり、販売価格は地域差があるものの、1万円/ml前後の水準と見られる。

既に、欧州やアジア・オセアニア、中南米等のCEマーキング適用国において、CEマーキング認証取得を終えた国で販売を開始しており、日本、米国では今後、臨床試験を行ったうえで製造販売承認を目指していく。また、中国では2017年4月に、中国のペプチド材料メーカーであるCHINESE PEPTIDE COMPANY, LTD(以下、CPC)と開発・製造・販売のライセンス許諾契約を締結しており、CPCで開発、上市を目指していくことになる。

(2) 歯槽骨再建材(TDM-711)
歯槽骨再建材は、歯科領域において歯槽骨が退縮しインプラント手術が適用不可である患者に対して、インプラント手術が適用できるまで歯槽骨を再建することを目的とした医療材料で、目的部位に同材料を注入することにより、歯槽骨の再生を促進する機能を果たす。

米国における市場規模は年間約200百万USドルと見られている。米国では年間190万件程度の歯槽骨再建手術が行われているが、このうち約120万件が異種骨(豚)や他人の骨を足場材として利用する施術が行われており、残りは自身の違う部位からの移植または人工骨などを利用している。同社の歯槽骨再建材を使えば、感染リスクもなく安全かつ容易に歯槽骨の再建を行うことが可能となるため、現在、米国で臨床試験を行っており、2017年春頃に観察期間が終了、夏頃に結果が判明する見通しで、良いデータ結果が得られれば、製造販売承認申請を行い、また、結果が不十分であれば追加試験を行う可能性もある。製造販売承認申請を行うことになれば、同じタイミングで販売パートナーの契約交渉も行う予定となっている。ライセンス契約が決まれば、2018年4月期に550百万円程度の契約一時金が見込めることになる。なお、同治験データをもって欧州でもCEマーキングの取得申請を行う予定となっている。

(3) 血管塞栓材(TDM-631)
肝臓がんや子宮筋腫に対する肝動脈塞栓術や子宮動脈塞栓術での用途を目的とした血管塞栓材の開発を進めている。カテーテル手術において動脈内に塞栓物として同製品を注入し、外科的手術において出血のリスクを最小限に抑えるとともに、血管内を物理的に塞ぐことによって、肝臓がん等の腫瘍部位への血流(栄養)を絶ち、腫瘍を死滅させるといった効果が見込まれている。従来はコイルやゼラチンなどが同様の目的で使われてきたが、本開発品の需要が期待されている。現在は動物実験の段階にあるが、2018年4月期に国内での治験開始と販売契約締結を目標としており、契約一時金で150百万円を見込んでいる。

(4) siRNA核酸医薬用DDS(TDM-812)
国立がん研究センターとの共同プロジェクト「RPN2※標的核酸医薬によるトリプルネガティブ乳がん治療」における医師主導型の臨床第1相試験を2015年7月より開始している。同治験では「がん幹細胞」に特異的に発現するPRN2遺伝子をターゲットとし、その発現を抑制する核酸(PRN2siRNA)と、同社の自己組織化ペプチドA6K(TDM-812)をキャリアとするDDSを組み合わせた製剤の安全性評価を行うもので、症例数は30症例を目標に、経過観察を含めて2018年1月頃までかけて臨床試験を行う予定となっている。

※PRN2・・・がんの転移・浸潤・薬剤耐性を担うターゲット遺伝子。siRNAは分解性が高いといった特性があり、ターゲットのがん細胞に届くまでに体内で分解されるといった課題があったが、A6Kとの複合体にすることで分解が抑制される効果があり、がん細胞に確実にPRN2siRNAが送り届けられることになる。既に、イヌの自然発症乳腺腫瘍症例において、核酸医薬としての有効性が確認されており、ここ最近は製薬企業からの問い合わせも増加するなど注目度が高まっている。


siRNA単独では安定性が低く腫瘍部に届くまでに分解されてしまうことが課題であったが、A6Kとの複合体にすることで安定性が高まり、分解が抑制されることが実験により明らかとなっている。動物モデル(イヌ)の実験では、乳がん腫瘍の縮小効果も確認されており、業界での注目度も高まっている。現在、複数の大手製薬企業に無償でサンプル供与を行っているが、今後、共同開発に移行する可能性が出てきている。また、第1相試験の結果が良好であれば、企業主導型治験への移行、及び大手製薬企業へのライセンスアウトの可能性もあり、その結果が注目される。

(5) 創傷治癒材(TDM-511)
創傷治癒材に関しては、2015年2月に米国のFDAより市販前届(510k)の承認を取得し、販売の許認可を得ている。同社では他の薬剤とのコンビネーション(抗生物質、抗がん剤、ヒアルロン酸等との混合投与)による治療効果の増大により、製品としての付加価値向上を目指して開発を進めていくことを基本方針としている。とはいえ、直近では止血材や歯槽骨再建材の開発を優先的に進めていることから、事業化に関しては数年先になると見られる。

(執筆:フィスコ客員アナリスト 佐藤 譲)



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