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健康寿命を脅かす高齢者の骨折・転倒 〜専門家が予防対策を呈示〜




公益社団法人日本整形外科学会(理事長:岩本幸英・九州大学大学院医学研究院臨床医学部門外科学講座整形外科学分野教授)は、1994年に制定した「骨と関節の日」※の認知向上と、整形外科という診療科に対する理解促進を目的に、1995年から運動器の障害や疾患、その治療や予防等について記者説明会を開催している。

今回は、日本人の介護原因の第5位に上る「骨折」をテーマに開催。講演した帝京大学医学部整形外科学講座の松下隆主任教授は、「高齢者に多い大腿骨近位部骨折は、寝たきりに繋がり、健康寿命を脅かす。海外では減少に転じている国が多いが、日本では発生数が増加し続けている。高齢者の骨折・転倒予防対策が急務」と運動器の健康の重要性を訴えた。

高齢者では、上腕骨近位部(腕のつけね)、橈骨遠位端(手首)、椎体(背骨)、大腿骨近位部(足のつけね)の骨折が多くみられる。特に、大腿骨近位部を骨折すると、5割が骨折前の機能まで回復せず、2割が1年以内に死亡するなど、日常生活・生命予後に大きな影響を及ぼす。この骨折の原因としては、骨粗鬆症と単純な転倒が挙げられるという。

さらに、高齢者では、一度骨折すると他の骨折を次々に引き起こすリスクが高くなり、ドミノ倒しのように連鎖することからこれらの状態は“ドミノ骨折”とも呼ばれている。松下教授によると、脊椎圧迫骨折を起こした人が次に大腿骨近位部骨折を引き起こすリスクは、骨折していない人の約3〜5倍、片方の大腿骨近位部骨折を起こした人が、次に反対側も骨折するリスクは約4倍になるという。この「負の連鎖」を解消するためには、初回の骨折の際に、骨折の治療・リハビリだけでなく、骨折の原因となる骨粗鬆症に対する治療を早期に開始することが重要とされる。ただし、大腿骨近位部骨折後1年内に骨粗鬆症の薬物治療を行っている割合は2割に満たないことが分かっており、「骨折治療全体の中で、骨粗鬆症治療の早期介入を強化することが必要」と医療者側の課題が指摘された。

一方、骨折予防に関しては、生活者側の実態も浮き彫りとなった。松下教授監修の下、今年9月に行われた40代以上の男女3,000人を対象とした調査によると、加齢に伴い骨折リスクが高まることは9割超が認知していたものの、定期的に骨密度を測定している人はわずか1割(12.6%)であり、中高年のほとんどが自身の骨の健康状態を把握できていないことが示唆された。また、約4割は、骨強度の低下・転倒の予防に対して未対策であることが明らかとなった。

一人一人ができる骨折予防の具体的対策は何か。日本整形外科学会では、運動器の障害による要介護の状態や要介護リスクの高い状態を表す言葉として「ロコモティブシンドローム」を提唱し、ロコモチャレンジ!推進協議会を立ち上げているが、同会のWEBサイト(http://www.locomo-joa.jp/)では「ロコチェック」として運動器の現状をセルフチェックできるテストが紹介されている。講演では、このロコチェックの活用とあわせて、定期的に骨密度検査を行い、運動器の状態を自覚することが推奨された。また、バランス・筋力アップが期待できる運動「ロコトレ」や太極拳、転倒防止のための危険箇所の点検・改善も促された。

現在、日本では65歳以上の人口が総人口の21%を超え、超高齢社会に突入しており、医療費・介護費の増大が懸念されている。厚生労働省が今年6月に初めて発表した日本人の健康寿命と実際の寿命の間には、男性では9.13年、女性では12.68年もの差がみられるが、この「不健康な期間」といえる乖離を解消するために、運動器の健康を見直し、重視することが求められている。

※日本整形外科学会は、骨と関節を中心とする運動器官が身体の健康及びQOLの維持にいかに大切であるかを啓発するため、10月8日を「運動器の10年・骨と関節の日」、10月を「運動器の10年・骨と関節の月間」と定め、10月を中心に各地で様々な催しを行っている。
平成24年度の各地の行事予定は学会WEBサイトにて公開中(http://www.joa.or.jp/
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