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南スーダン:命を奪うE型肝炎が流行──遠隔地に暮らす女性に集団予防接種

南スーダンの北部に位置するジョングレイ州ファンガク郡でE型肝炎が流行している。この病気は水や衛生環境が不十分な場合に発生することが多く、妊婦の致死率は最大40%に達し、自然流産や死産のリスクを高める。治療法もないため、病状が進行した患者の多くは助からない。国境なき医師団(MSF)は2023年4月以降、同州の町オールド・ファンガクの病院で501人の患者を治療したが、女性を多く含む21人が死亡した。現在MSFは同国保健省と連携して、妊娠可能年齢の女性と女児約1万3000人に対し、集団予防接種を行っている。この集団予防接種は、南スーダンの人里離れた孤立地域で、流行の急性期に実施される初めてのものであり、さらなる犠牲者を出さないための取り組みだ。




[画像1: https://prtimes.jp/i/4782/668/resize/d4782-668-9eae1750bd9552a13370-0.jpg ]


命を守るためのワクチン



E型肝炎は水を飲むことで引き起こされる水系感染症の総称で、世界で毎年約2000万人が感染し、そのうち300万人に治療を要する症状が出て、7万人が命を落とすとされる。MSFの南スーダン活動責任者であるマムマン・ムスタファは、「南スーダンのように医療施設の数が限られている国では、病院にたどり着けたとしても、多くの患者が手遅れになっています。特効薬はなく、だからこそ、命を守るためにワクチンが非常に重要なのです」と説明する。

ワクチンは2012年に開発され、2015年に世界保健機関(WHO)によって緊急時の使用が承認された。しかし、初めてこのワクチンが使用されたのは、MSFが2022年に南スーダンのベンティウ国内避難民キャンプで集団予防接種を実施した時だ。当時、E型肝炎が2年にわたって流行しており、予防接種は2万5000人以上をこの病気から守ることとなった。しかし、今回のジョングレイ州ファンガク郡での集団予防接種は、ベンティウでの経験に基づいてはいるが、状況は大きく異なる。

ムスタファは「ファンガク郡は、南スーダン北部にあるスッド沼沢地に位置しています。広大な湿地帯には小さな集落が点在し、最も基礎的な医療へのアクセスさえ限られています。小児科の定期予防接種をオールド・ファンガクで行うことさえ難しく、病院へ行く方法はナイル川を利用したボートか飛行機しかありません。しかしオールド・ファンガクの滑走路は4年にわたって水没しており、集団予防接種にあたっては、まず近くの村までワクチンを空輸してから、病院まで35キロの道のりを川に沿って運ばなければなりませんでした。ワクチンは摂氏2度から8度の間に保つ必要があります。MSFの病院での保管は比較的簡単ですが、集団予防接種を実施するいくつかの地域に届くまでの8時間、途切れることなくコールドチェーン(低温輸送システム)を保つとなると、話は全く別になります」と話す。

洪水が人びとの生活を困難に



[画像2: https://prtimes.jp/i/4782/668/resize/d4782-668-3dfcd78f15b32ab4d4cf-1.jpg ]



E型肝炎が流行する以前から、ファンガク郡での生活は苦しかった。過去4年間、度重なる洪水が農作物を飲み込み、家畜を溺死させた。以前は歩いて行けた村が島となり、人びとはカヌーで移動するしかなくなった。洪水が引かず、よどんだ水たまりが蚊の絶好の繁殖地となっているため、マラリア患者が増加している。同時に、人びとは水と共存するために釣りを覚えたり、睡蓮を食べるようになるなど、食生活を変えざるを得ず、栄養失調の症例も増加した。そして今、人びとは、不衛生な水を通じて広がるE型肝炎という新たな脅威に直面している。

ムスタファは続ける。「この過酷な環境では、もともと医療施設へのアクセスは難題でしたが、今では洪水のため、以前にも増して大変になっています。多くの人びとにとっては、8時間かかるカヌーが唯一の手段です。多くの人は交通費と距離の遠さで医療施設に行こうともしません。今回のE型肝炎流行で21人が死亡しましたが、病院にたどり着いた人しか正確な数字はわかりません。もっと多くの人が、治療すら受けられずに自宅で亡くなっているでしょう。こうした事態を防ぐため、私たちから患者のところへ行こうとしているのです。私たちは定期的に高速船を使って遠隔地の村で移動診療を行っていますが、今回の感染地域には、カヌーで行かなければならない遠い場所もあります」

ワクチン接種と水・衛生状況の改善を



さらなる課題は、ワクチンの入手が困難であることに加え、高価なことである。生産は中国のメーカー1社にライセンスが供与されているだけで、大量生産はされていない。また、他のワクチンに比べてかさばるため、オールド・ファンガクのような到達困難な地域では、輸送や保管も難しい。こうした課題は、南スーダンのような緊急事態下の感染症対応には、高いハードルとなる。MSFは、これらのハードルを取り払って、最もリスクの高い妊娠可能年齢の女性と女児を含む、より多くの人びとを保護できるようにすることを関係する政府や機関に求めている。

このワクチンは初回、1カ月後、6カ月後の3回の接種が必要。MSFは、集団予防接種が完了する2024年6月までに、16〜45歳の女性1万2776人全員の接種を終える予定だ。加えてMSFは、病院での症例管理や紹介、地域住民への啓発、発生状況の調査・集計・監視を行う疾病サーベイランスも実施している。さらにMSFは、国際機関や地元の援助団体に対する啓発活動を通じ、トイレや廃棄物処理システムといった適切な下水・衛生設備の導入、安全な飲料水確保のため掘削井戸を作るなど、オールド・ファンガクの水・衛生の状況改善に向けた行動を求めている。これらは病気のまん延を食い止め、将来的な病気の流行を防ぐために不可欠なことである。
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