元統合幕僚長の岩崎氏、課題だらけの2021年に気を付けるべき5つの事項
[21/01/21]
提供元:株式会社フィスコ
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注目トピックス 経済総合
2020年は新年早々からの新型コロナ・ウイルス(Covid-19)で明け、そして暮れた。残念ながら2021年に入っても、我が国においても、全世界においても、一部の国を除いて新規感染者数が寧ろ増加傾向にある。また、昨年秋以降、英国で新種のウイルスが検出され、引き続いて南アフリカでも異なるウイルスが確認されており、Covid-19は進化しているとの報告もある。この様な中で、我が国では新規感染者数の急激な増加状況に鑑み、菅総理大臣が1月7日に第2回目の緊急事態宣言を東京都、埼玉県、神奈川県、千葉県に発令し、続いて1月14日に前述の1都3県に加えて栃木県、岐阜県、愛知県、京都府、大阪府、兵庫県及び福岡県に緊急事態宣言を拡大する事態となっている。この緊急事態宣言が新規感染者の減少にどれだけ効果があるかは分からないが、専門家も効果が出るまでに数週間必要との見解を出している。
この様に暗い年明けであるが、2021年はどんな年になるのだろうか。先日、米国のユーラシア・グループが2021年の主要リスクを発表した。やや驚くことに、第一に挙げられたリスクは「バイデン政権」であった。そして第二は「コロナ」、第三は「気候変動」、そして「米中の緊張拡大」、「世界的データ規制」、「サイバー紛争の本格化」、「トルコ」、「原油安」、「メルケル後の欧州」、「中南米問題」が挙げられている。ユーラシア・グループのトップはイアン・ブレマー氏であり、彼は米国際政治学の第一人者である。私が驚いたと書いたのは、米国民主党の強力な支持者である彼がバイデン政権を2021年の世界最大リスクと考えている事である。なお、この考えは私も同じである。
ちなみに、私が考える2021年の問題は以下のとおりである。(1)長引くコロナ被害、(2)不安定な米国、(3)益々増長する中国、(4)サイバー攻撃・宇宙競争、(5)我が国の政情不安定である。
(1)長引くコロナ被害
今年の第一の問題は、2019年末に中国の武漢で広がり、昨年の年初から世界に蔓延しているCovid-19である。発症から一年経過した今でも、我が国のみならず世界は惨憺たる状況である。各国のコロナ対策に拘わらず、毎日の新規感染者数は世界で50万人以上であり、死亡者数は1万人を優に越している。世界のこれまでの感染者数の総計は間もなく1億人を超す勢いであり、死亡者は既に200万人を超えている。早い国では昨年末からCovid-19ワクチンの接種が開始されているが、前述の様に進化したウイルスも検出されており、現在の各種ワクチンの効果に疑問も呈されている。いずれにしても、ワクチン接種には先進国でもかなり時間がかかるものと考えられ、全世界で新規感染者数(死亡者数)に歯止めがかかる迄には、かなりの期間がかかると考えられる(1年以上は必要とも報じられている)。各国はCovid-19対応や経済低迷への対策の為、莫大な財政出動を行っている。バイデン政権は、今後更に200兆円を越える予算をつぎ込むことを公表している。我が国も昨年から本予算、補正等で既に一年分の一般予算を超える額を充当しつつある。しかし、各国とも税収(財源)見込みがある訳でない。財政難に陥る事は必至である。この様なことから今年の最大の問題は、引き続きCovid-19問題であると考えている。
(2)不安定な米国
1月20日にバイデン政権がスタートした。残念ながらトランプ前大統領は就任式に出席しない異例の就任式であった。新政権はCovid-19対応をしながら、対中問題、5G等のデータ管理・規制問題、サイバー攻撃問題、綻びた同盟国等の関係修復、イラン問題、対露問題(新STARTやオープン・スカイ問題)等々の国際問題に取り組まないといけない。また、同時に遅れている新政権の人事手続き、そしてトランプ前大統領が残した負の遺産(国内分断問題)等にも早急に対応しないといけない。
私は特にこの中で、米国内の分断が大きな足かせになると考えている。トランプ前大統領が支持者を扇動し、議会に不法に侵入させ、議会を妨害したとの事で弾劾裁判が行われている。彼が有罪になることはかなりハードルが高いと考えられるが、仮にトランプ前大統領が有罪にならないとしても、民主党としては、トランプ前大統領に対する弾劾手続きを行ったことで、大きな成果を得たとの考え方もあり、結果にあまり拘っていないとも想定される。今回の米国議会への侵入事件で、トランプ前大統領支持者の中には離反をする人達もいるようであるが、多くの彼の支持者は健在である。この国内の分断が、米国の国内政策は勿論の事、外交・安全保障政策に少なからず影響するものと考えられる。米国が不安定、又は弱体化すれば、同盟国も多大な影響を受け、世界も不安定化する。
(3)益々増長する中国
このコロナ禍でも、中国の2020年の経済成長率はプラスになったとの報道がある。世界各国が軒並みマイナス経済となる中、中国だけがプラスなのである。中国に関しては、「一帯一路(OBOR)」の実現の為に「隙間外交」や「債務の罠」等々、ここ数年各国に対し警告がなされている。昨年はこのコロナ禍に乗じて、「マスク外交」を展開するなど益々世界で中国の影響が大きくなりつつある。武漢で新種のウイルスが発見されて以降、早期に武漢市を封じ込め、国内での感染をごく限定的なものとする一方、中国国内のマスク生産工場に輸出制限を下令し、かつ国外に居住する中国人に対し、周辺のマスクを中国に送ることを指示し、大量にマスクを保管し、各国のマスク需要が高まると、各国にこれを提供し始めた(我が国でも中国に対し昨年2月に約300万のマスク、約40万の手袋、約15万着の防護服、そして約4億5千万円の義捐金を送っている)。
中国からマスクを受け取った国の中には「中国は我が国の救世主」、「この様な苦境の時の支援者こそが真の友人である」等々のコメントが発せられた。イタリアでは中国のマスクが到着時に中国国歌を流すとともに「中国に対する感謝とともに、このマスクは神(中国?)からの贈り物」とまで中国を褒め讃えた。
また、今年の1月16日にAIIB(アジア・インフラ投資銀行)は設立5周年をむかえる。当初は、各国から怪訝に思われていたこの銀行も、Covid-19で喘ぐ多くの発展途上国への支援で昨年は多大な成果を得ることになった。AIIBの発足当初から「債務の罠」や「借金漬け外交」という警告こそなされていたものの、開発余剰国としては「背に腹は変えられない」状態であり、つい借金をして所謂「罠」に嵌ってしまうのである。中国のOBOR周辺国へのアプローチは最近極めて積極的であり、スリランカのハンバントタ港の99年間の無償利用は「債務の罠」の典型である。2019年以降、必ずしもOBOR周辺国でないものの、南太平洋のソロモン諸国、キリバスが中国の軍門に下った。これは明らかに台湾の蔡英文政権を国際的に孤立させようとする中国の外交工作と考えられる。今後、台湾との「断交ドミノ」が起こることが懸念される。南太平洋の国々が中国の影響下に入れば、中国の「第一列島線」、「第二列島線」に続く新たな「第三列島線」が確立してしまう。これが出来れば、中国は、米国と豪州との連絡線や我が国と豪州の連絡線を遮断することが可能となる。
米国ではバイデン政権が始動を開始したが、習近平はバイデン大統領をトランプ前大統領に比し、予測可能と見ている様である。前述の様に米国は国内問題を抱えながら対中政策を進めないといけない状況であり、米国とって試練の年になりそうである。
(4)サイバー攻撃・宇宙競争が更に加速
既に世界各所がサイバー攻撃を受けている。その多くは中国に所在するサーバー経由である。中国政府の関与がどの程度あるのかは必ずしも明確にされていないものの、全くないとは言い切れない。ロシアや北朝鮮からのサイバー攻撃も確認されている。今年は、今までよりもこの様な攻撃やデータに対する侵入、データ改ざん、盗作等々が頻繁に起こることが予測されている。
我が国へもサイバー攻撃が確認されているが、サイバー防御態勢は必ずしも十分と言えない。サイバー攻撃対応は政府としてNISC(内閣サイバー・セキュリティ・センター)が一義的に行うこととされているが、サイバー攻撃に対する対応は各省庁毎であり、民間でも其々の会社や組織に任されている。NISCは他国の様な強制力、一元的な統制の権限を有していない。サイバー攻撃等に対応するためには、NISCに法的な根拠とともに権限を付与する等、早急な体制構築が必要である。
宇宙利用に関しても各国は熾烈な争いを繰り広げている。特に最近の中国の宇宙での躍進は目覚ましい。昨年8月23日、中国では四川省の衛星発射センターから全地球測位システム「北斗」の第55機目が打ち上げられ、軌道投入に成功した。これによって北斗で全世界測位が可能な態勢が確立されたことになる。我が国の測位衛星である準天頂衛星「みちびき」は既に4基が打ち上げられており、2023年にもう3基追加され、7基で運用開始となる予定である。この「みちびき」は、飽く迄も我が国周辺で測位可能な衛星群である。また、中国の月探査衛星の「嫦娥5号」が月の成分である試料の採取に成功し、12月17日帰還した。中国の月基地建設への第1段階である。衛星を打ち上げる能力を保有している国でも、今年はコロナ禍に喘ぎ、各国の宇宙政策が遅滞する可能性がある。中国はCovid-19に全く怯むことなく、今年も着実・確実に宇宙政策を前進させるだろう。中国は2007年1月に弾道弾を使用し、自国の老朽化した人工衛星を撃墜した。今後も中国は、「宇宙優勢」(所謂、航空優勢や海上優勢の概念と同じ)獲得の為に前進し続けるものと考える。
(5)我が国の政情不安
昨年8月28日、安倍首相が記者会見で突如、辞意を表明した。これを受け、9月に菅政権が立ち上がった。菅総理は、第二次安倍政権で当初から官房長官を務めている。政権移行は大変円滑に行われた。しかし、Covid-19問題、所謂「桜を見る会の前夜祭」問題、閣僚の不祥事等々で困難な政局運営を余儀なくされている。かつ、衆議院議員の任期は今年10月21日であり、この任期満了までに選挙が行われる。選挙が近づけば、各議員の最優先事項は選挙準備である。
米国の政局不安定と相まり大変憂慮すべき事態である。一方、中国は、相手国の隙を突くことが上手な国である。厳に注意しないといけない。既成事実を作られたら終わりである。中国の動きには細心の中を払いつつ今後の安定した政局運営を願うのみである。(令和3.1.21)
岩崎茂(いわさき・しげる)
1953年、岩手県生まれ。防衛大学校卒業後、航空自衛隊に入隊。2010年に第31代航空幕僚長就任。2012年に第4代統合幕僚長に就任。2014年に退官後、ANAホールディングスの顧問(現職)に。
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この様に暗い年明けであるが、2021年はどんな年になるのだろうか。先日、米国のユーラシア・グループが2021年の主要リスクを発表した。やや驚くことに、第一に挙げられたリスクは「バイデン政権」であった。そして第二は「コロナ」、第三は「気候変動」、そして「米中の緊張拡大」、「世界的データ規制」、「サイバー紛争の本格化」、「トルコ」、「原油安」、「メルケル後の欧州」、「中南米問題」が挙げられている。ユーラシア・グループのトップはイアン・ブレマー氏であり、彼は米国際政治学の第一人者である。私が驚いたと書いたのは、米国民主党の強力な支持者である彼がバイデン政権を2021年の世界最大リスクと考えている事である。なお、この考えは私も同じである。
ちなみに、私が考える2021年の問題は以下のとおりである。(1)長引くコロナ被害、(2)不安定な米国、(3)益々増長する中国、(4)サイバー攻撃・宇宙競争、(5)我が国の政情不安定である。
(1)長引くコロナ被害
今年の第一の問題は、2019年末に中国の武漢で広がり、昨年の年初から世界に蔓延しているCovid-19である。発症から一年経過した今でも、我が国のみならず世界は惨憺たる状況である。各国のコロナ対策に拘わらず、毎日の新規感染者数は世界で50万人以上であり、死亡者数は1万人を優に越している。世界のこれまでの感染者数の総計は間もなく1億人を超す勢いであり、死亡者は既に200万人を超えている。早い国では昨年末からCovid-19ワクチンの接種が開始されているが、前述の様に進化したウイルスも検出されており、現在の各種ワクチンの効果に疑問も呈されている。いずれにしても、ワクチン接種には先進国でもかなり時間がかかるものと考えられ、全世界で新規感染者数(死亡者数)に歯止めがかかる迄には、かなりの期間がかかると考えられる(1年以上は必要とも報じられている)。各国はCovid-19対応や経済低迷への対策の為、莫大な財政出動を行っている。バイデン政権は、今後更に200兆円を越える予算をつぎ込むことを公表している。我が国も昨年から本予算、補正等で既に一年分の一般予算を超える額を充当しつつある。しかし、各国とも税収(財源)見込みがある訳でない。財政難に陥る事は必至である。この様なことから今年の最大の問題は、引き続きCovid-19問題であると考えている。
(2)不安定な米国
1月20日にバイデン政権がスタートした。残念ながらトランプ前大統領は就任式に出席しない異例の就任式であった。新政権はCovid-19対応をしながら、対中問題、5G等のデータ管理・規制問題、サイバー攻撃問題、綻びた同盟国等の関係修復、イラン問題、対露問題(新STARTやオープン・スカイ問題)等々の国際問題に取り組まないといけない。また、同時に遅れている新政権の人事手続き、そしてトランプ前大統領が残した負の遺産(国内分断問題)等にも早急に対応しないといけない。
私は特にこの中で、米国内の分断が大きな足かせになると考えている。トランプ前大統領が支持者を扇動し、議会に不法に侵入させ、議会を妨害したとの事で弾劾裁判が行われている。彼が有罪になることはかなりハードルが高いと考えられるが、仮にトランプ前大統領が有罪にならないとしても、民主党としては、トランプ前大統領に対する弾劾手続きを行ったことで、大きな成果を得たとの考え方もあり、結果にあまり拘っていないとも想定される。今回の米国議会への侵入事件で、トランプ前大統領支持者の中には離反をする人達もいるようであるが、多くの彼の支持者は健在である。この国内の分断が、米国の国内政策は勿論の事、外交・安全保障政策に少なからず影響するものと考えられる。米国が不安定、又は弱体化すれば、同盟国も多大な影響を受け、世界も不安定化する。
(3)益々増長する中国
このコロナ禍でも、中国の2020年の経済成長率はプラスになったとの報道がある。世界各国が軒並みマイナス経済となる中、中国だけがプラスなのである。中国に関しては、「一帯一路(OBOR)」の実現の為に「隙間外交」や「債務の罠」等々、ここ数年各国に対し警告がなされている。昨年はこのコロナ禍に乗じて、「マスク外交」を展開するなど益々世界で中国の影響が大きくなりつつある。武漢で新種のウイルスが発見されて以降、早期に武漢市を封じ込め、国内での感染をごく限定的なものとする一方、中国国内のマスク生産工場に輸出制限を下令し、かつ国外に居住する中国人に対し、周辺のマスクを中国に送ることを指示し、大量にマスクを保管し、各国のマスク需要が高まると、各国にこれを提供し始めた(我が国でも中国に対し昨年2月に約300万のマスク、約40万の手袋、約15万着の防護服、そして約4億5千万円の義捐金を送っている)。
中国からマスクを受け取った国の中には「中国は我が国の救世主」、「この様な苦境の時の支援者こそが真の友人である」等々のコメントが発せられた。イタリアでは中国のマスクが到着時に中国国歌を流すとともに「中国に対する感謝とともに、このマスクは神(中国?)からの贈り物」とまで中国を褒め讃えた。
また、今年の1月16日にAIIB(アジア・インフラ投資銀行)は設立5周年をむかえる。当初は、各国から怪訝に思われていたこの銀行も、Covid-19で喘ぐ多くの発展途上国への支援で昨年は多大な成果を得ることになった。AIIBの発足当初から「債務の罠」や「借金漬け外交」という警告こそなされていたものの、開発余剰国としては「背に腹は変えられない」状態であり、つい借金をして所謂「罠」に嵌ってしまうのである。中国のOBOR周辺国へのアプローチは最近極めて積極的であり、スリランカのハンバントタ港の99年間の無償利用は「債務の罠」の典型である。2019年以降、必ずしもOBOR周辺国でないものの、南太平洋のソロモン諸国、キリバスが中国の軍門に下った。これは明らかに台湾の蔡英文政権を国際的に孤立させようとする中国の外交工作と考えられる。今後、台湾との「断交ドミノ」が起こることが懸念される。南太平洋の国々が中国の影響下に入れば、中国の「第一列島線」、「第二列島線」に続く新たな「第三列島線」が確立してしまう。これが出来れば、中国は、米国と豪州との連絡線や我が国と豪州の連絡線を遮断することが可能となる。
米国ではバイデン政権が始動を開始したが、習近平はバイデン大統領をトランプ前大統領に比し、予測可能と見ている様である。前述の様に米国は国内問題を抱えながら対中政策を進めないといけない状況であり、米国とって試練の年になりそうである。
(4)サイバー攻撃・宇宙競争が更に加速
既に世界各所がサイバー攻撃を受けている。その多くは中国に所在するサーバー経由である。中国政府の関与がどの程度あるのかは必ずしも明確にされていないものの、全くないとは言い切れない。ロシアや北朝鮮からのサイバー攻撃も確認されている。今年は、今までよりもこの様な攻撃やデータに対する侵入、データ改ざん、盗作等々が頻繁に起こることが予測されている。
我が国へもサイバー攻撃が確認されているが、サイバー防御態勢は必ずしも十分と言えない。サイバー攻撃対応は政府としてNISC(内閣サイバー・セキュリティ・センター)が一義的に行うこととされているが、サイバー攻撃に対する対応は各省庁毎であり、民間でも其々の会社や組織に任されている。NISCは他国の様な強制力、一元的な統制の権限を有していない。サイバー攻撃等に対応するためには、NISCに法的な根拠とともに権限を付与する等、早急な体制構築が必要である。
宇宙利用に関しても各国は熾烈な争いを繰り広げている。特に最近の中国の宇宙での躍進は目覚ましい。昨年8月23日、中国では四川省の衛星発射センターから全地球測位システム「北斗」の第55機目が打ち上げられ、軌道投入に成功した。これによって北斗で全世界測位が可能な態勢が確立されたことになる。我が国の測位衛星である準天頂衛星「みちびき」は既に4基が打ち上げられており、2023年にもう3基追加され、7基で運用開始となる予定である。この「みちびき」は、飽く迄も我が国周辺で測位可能な衛星群である。また、中国の月探査衛星の「嫦娥5号」が月の成分である試料の採取に成功し、12月17日帰還した。中国の月基地建設への第1段階である。衛星を打ち上げる能力を保有している国でも、今年はコロナ禍に喘ぎ、各国の宇宙政策が遅滞する可能性がある。中国はCovid-19に全く怯むことなく、今年も着実・確実に宇宙政策を前進させるだろう。中国は2007年1月に弾道弾を使用し、自国の老朽化した人工衛星を撃墜した。今後も中国は、「宇宙優勢」(所謂、航空優勢や海上優勢の概念と同じ)獲得の為に前進し続けるものと考える。
(5)我が国の政情不安
昨年8月28日、安倍首相が記者会見で突如、辞意を表明した。これを受け、9月に菅政権が立ち上がった。菅総理は、第二次安倍政権で当初から官房長官を務めている。政権移行は大変円滑に行われた。しかし、Covid-19問題、所謂「桜を見る会の前夜祭」問題、閣僚の不祥事等々で困難な政局運営を余儀なくされている。かつ、衆議院議員の任期は今年10月21日であり、この任期満了までに選挙が行われる。選挙が近づけば、各議員の最優先事項は選挙準備である。
米国の政局不安定と相まり大変憂慮すべき事態である。一方、中国は、相手国の隙を突くことが上手な国である。厳に注意しないといけない。既成事実を作られたら終わりである。中国の動きには細心の中を払いつつ今後の安定した政局運営を願うのみである。(令和3.1.21)
岩崎茂(いわさき・しげる)
1953年、岩手県生まれ。防衛大学校卒業後、航空自衛隊に入隊。2010年に第31代航空幕僚長就任。2012年に第4代統合幕僚長に就任。2014年に退官後、ANAホールディングスの顧問(現職)に。
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