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ジョージアラリの悪夢【フィスコ・コラム】

注目トピックス 市況・概況
トルコとロシアの通貨急落を受け、両国と国境を接したジョージアへの影響が懸念され同国のラリに下押し圧力が強まっています。同国経済を原動力にすぐに持ち直すとみられる反面、複雑な外交の荒波に飲み込まれる可能性もあります。

ジョージア通貨ラリは8月第2週以降のトルコリラやロシアルーブルの下落を受け、7%程度も下げました。足元は下げ渋っているものの、一時は2017年12月以来8カ月ぶりとなる1ドル=2.64ラリまで弱含みました。ただ、政府や与党関係者はラリ安についてトルコリラの急落に伴う動きで一時的なものと指摘。野党もラリ安対策は不十分としながらも、安値圏推移は長続きしないとの見方を示しています。

確かに、ジョージア経済は今年上半期の成長率が5.7%と好調で、通貨安は外部要因によるものと言えるでしょう。ただし、ラリは外交や防衛の動きに大きく揺さぶられる通貨です。今からちょうど10年前の2008年、ジョージアは同国内に自治権を持つ南オセチアとアブハジアの独立問題をめぐり、ロシアとの紛争に発展しました。その過程で、ラリは最高値圏から下落基調に転じています。

ロシアは最近、南オセチア、アブハジアの両地域と「統合条約」を結び軍事・経済面の一体化を強めています。同紛争後に独立国家共同体(CIS)を脱退した親米のジョージアにとって、北大西洋条約機構(NATO)の加盟は国防上の至上命題です。アメリカのトランプ政権も、2019年会計年度の国防予算の中で中国やロシアを「競争国」と位置づけ、強硬姿勢を打ち出しています。

ジョージア外務省はこれを受け、トランプ政権が同国を同盟国として認め、NATO加盟も支持したと歓迎しています。ロシアのジョージア侵攻を食い止めることは、アメリカの国益に適うとし、ジョージアの自衛力強化を支持したとの理解です。悲願のNATO加盟が現実的となり、外交・防衛の安定化が見込まれることはジョージアの政治や経済、あるいはラリの追い風となりそうです。

しかし、反グローバル主義のトランプ大統領がNATOを重要視していくでしょうか。先月ブリュッセルで開かれたNATO首脳会議での他の同盟国との関係を軽視するような言動や、最近のトルコへの対応からは、そうは見えません。そもそも、NATOの存在意義でもある対ロシア政策で、トランプ大統領は「競争国」のプーチン大統領と首脳会談を行い、両国の融和的な関係構築を目指しています。

プーチン大統領は、西側の軍事同盟から包囲されないよう引き続きジョージアのような旧ソ連邦の小国に圧力をかけ続けるでしょう。トランプ大統領がロシアのクリミア併合とその後も続くウクライナ東部への軍事介入を公に非難しなかったことは、今後も禍根を残すはずです。今後アメリカよりもロシアの影響力が高まりそうな状況を踏まえると、通貨ラリが長期的に上昇基調に向かうとは考えにくいでしょう。

(吉池 威)



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