萩原工業 Research Memo(4):「常なる革新 常なる創造」をモットーにした経営方針
[16/01/19]
提供元:株式会社フィスコ
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注目トピックス 日本株
■会社概要
○戦略製品群
トップシェア、高い収益性、成長性などの観点から、戦略製品を選定する。現在は、「バルチップ」「粘着テープ原反」「その他高機能化製品」「フィルムスリッター」が相当する。全社の売上粗利益率は26.5%(2015年10月期)だが、戦略製品群は30%超となり、萩原工業<7856>の「金の成る木」(cash cow)になる。同カテゴリーの製品は、市場や競合などの事業環境の変化により、入れ替わる。
2015年10月期の戦略製品群の売上高は全体の46.2%を占めた。総売上高は前期比1.6%増であったが、戦略製品群の6.4%増が非戦略製品の2.2%減を補った。全体の売上総利益率は26.5%と前期比0.9ポイント上昇した。
○「バルチップ」
「バルチップ」(BarChip)は、期待の戦略製品だ。同社が長年培ってきたプラスチック繊維延伸・製造技術から開発された、セメントコンクリート用ポリプロピレン補強繊維になる。
当初アスベストの代替品として誕生し、1995年の発売以来、瓦、外壁材などの補強材として建築分野で実績を上げ、高い評価を得ている。製品の特徴は、少ない量で補強効果が得られる、はく離・はく落防止、曲げタフネスの向上、耐食性に優れるなどである。
1997年に、大成建設<1801>、ブイ・エス・エル・ジャパン(株)、日豊商事(株)と同社の4社は、ポリプロピレン繊維混入の吹付けコンクリートを共同で開発し、特許を出願した。販売窓口は、同社が担当しており、1998年に発売した。大手ゼネコンの実証試験によると、従来品のスチールファイバーに比べ重量が11.5%で済み、コストも35%低下させることができた。使用方法は、一般のレディミクスコンクリート工場で製造したコンクリートに、現場で投入する。繊維投入時には投入機を用いるため、煩雑な作業を軽減できる。ミキサー車に投入することも可能だ。繊維をコンクリートに添加する時間が5〜8分間程度で済むため、工程への影響は小さい。繊維の密度は、コンクリートの容積当たりで1%と小さい。比重が軽いため、材料搬入や混入作業負荷が軽減される。吹き付け作業時に、スチールファイバーと違い、繊維を踏み抜く恐れがない。ミキサーやコンクリートポンプ車の損傷が極めて少ない。プラスチックのため錆びず、耐硫酸性、耐腐食性及び耐アルカリ性に優れ、火災時も有毒ガス(ダイオキシン類、塩化水素ガス)の発生がない。グレーに着色してあるため、トンネル内の運転手に光が反射しない。トンネルなどのコンクリートの骨材には海砂が使われており、スチール製品は不向きだ。
2003年に、NEXCO(旧日本道路公団)の「トンネル施工管理要領」においてトンネル覆工コンクリート用補強繊維「パルチップJK」の使用が可能になった。コンクリートに添加した繊維の架橋効果により、コンクリート片の落下を防止し、第三者被害の予防に寄与することが確認された。
東京外環道路を始め首都圏を中心に交通プロジェクトが目白押しとなっており、バルチップの需要が旺盛だ。東京外環道路でのバルチップの使用は始まったばかりで、今年度に本格化する。2016年10月期の業績予想に反映されている。一方、海外は南米やオーストラリアの資源開発向けは事業環境が不透明なため、マーケティング体制の強化を進める。
○機械製品事業
フラットヤーン製造技術を応用して、幅広い用途向けにスリッターを開発、製造・販売している。レジ用紙ロールのスリッター、偏光板を裁断するスリッター、タッチパネル用フィルムのスリッターなどでトップシェアを持つ。リチウムイオン電池のセパレーター用のスリッターも手掛ける。
○海外展開
創業後4年目で、フラットヤーン製造装置を輸出した。1976年にインドネシア国営肥料会社に製袋一貫大型プラントを供給した。1995年に、現地子会社「P.T.HAGIHARA WIHARTA INDONESIA(現 P.T.HAGIHARA WESTJAVA INDUSTRIES)」を設立しており、合成樹脂加工製品事業に従事している。中国には、2002年に青島に合成樹脂加工製品事業を行う「青島萩原工業有限公司」を設立した。さらに、2005年に上海に機械の設計・部品調達・組立を行う子会社「萩華機械技術(上海)有限公司」を設けた。現在は、いずれも同社の実質100%子会社になっている。
顧客所在地別売上高では、2008年10月期の海外売上高が4,198百万円、全体の17.7%を占めた。2008年9月のリーマンショックに端を発した世界金融危機と世界経済の停滞などにより、海外売上高は子会社が拠点を持つアジアは堅調に推移したが、その他の地域は大幅に減少した。ここ数年は、円安に転じたこともあり、回復基調にある。2015年10月期の海外売上高は5,835百万円、構成比は25.9%に上がった。
海外向けは、競争力の強い製品をピンポイントで販売する戦略を取っている。代表的な製品として、タンクライナーがある。同製品は、貯水タンクの内側に貼るインナーシートになる。オーストラリアやアメリカでは、雨水、農業用水、工業用水の貯水のため、干ばつ地帯を中心に大型タンクを使用している。長年使用すると、錆が発生し劣化が進む。同社のタンクライナーを鉄製タンクの内側に貼ることで、タンク本体の劣化を防ぐことができる。競合の塩化ビニール製に比べて、同社製品はポリオレフィン系素材を使用しているため、軽くて強いという特長がある。オーストラリアに加え、今後は塩化ビニール製品が多く使われている北米市場での展開を拡大する。
○スピード経営
「常なる革新 常なる創造」をモットーとし、先取の精神にあふれる経営をしている。ビジネスのIT化にも熱心に取り組んでおり、2003年にドイツSAP社の統合基幹業務システム(Enterprise Resource Planning:ERP)「R/3」を導入した。ERPは、すべての業務を統合管理するシステムであるため、経営管理に必要な情報を的確に入手し、迅速な意思決定を助ける。同社は月次決算をしているが、月半ばで同月の業績シミュレーションをつくり、月後半の業務遂行に反映させている。
2008年9月のリーマンショック後に、同社も業績が悪化した。2009年10月期は、前期比22.5%の減収、41.0%の営業減益となった。もともと売上高よりも利益を重視する経営であるため、落ち込んだ利益の回復に努め、2010年10月期は1.3%の増収に対し、営業利益は52.6%増と急回復を果たした。このとき、ERPが大いに役立ったことは言うまでもない。
収益性の高い戦略製品群を伸ばす努力をしているため、合成樹脂加工製品事業は売上高営業利益率を一時大きく落としたものの、ここ数年は堅調な足取りを見せ、2015年10月期は10.2%まで上昇した。
エンジニアリング部門は、2013年春からものづくり基幹業務システムの刷新に取り組み、2014年6月に本格稼働した。採用したのは富士通<6702>の部品構成管理システム「PLEMIA」を基盤とした部品管理表「統合BOM」と「顧客カルテシステム」になる。狙いは、ものづくりの標準化と顧客情報の「見える化」である。導入後の効果として、ものづくりでは業務の標準化と効率化、見積・設計精度の向上、目標原価の明確化が進んだ。顧客管理システムの方は、見積から保守サービスまでの履歴を見える化することにより、納品後の部品交換など、最適なタイミングで保守の提案ができる仕組みができた。
(執筆:フィスコ客員アナリスト 瀬川 健)
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○戦略製品群
トップシェア、高い収益性、成長性などの観点から、戦略製品を選定する。現在は、「バルチップ」「粘着テープ原反」「その他高機能化製品」「フィルムスリッター」が相当する。全社の売上粗利益率は26.5%(2015年10月期)だが、戦略製品群は30%超となり、萩原工業<7856>の「金の成る木」(cash cow)になる。同カテゴリーの製品は、市場や競合などの事業環境の変化により、入れ替わる。
2015年10月期の戦略製品群の売上高は全体の46.2%を占めた。総売上高は前期比1.6%増であったが、戦略製品群の6.4%増が非戦略製品の2.2%減を補った。全体の売上総利益率は26.5%と前期比0.9ポイント上昇した。
○「バルチップ」
「バルチップ」(BarChip)は、期待の戦略製品だ。同社が長年培ってきたプラスチック繊維延伸・製造技術から開発された、セメントコンクリート用ポリプロピレン補強繊維になる。
当初アスベストの代替品として誕生し、1995年の発売以来、瓦、外壁材などの補強材として建築分野で実績を上げ、高い評価を得ている。製品の特徴は、少ない量で補強効果が得られる、はく離・はく落防止、曲げタフネスの向上、耐食性に優れるなどである。
1997年に、大成建設<1801>、ブイ・エス・エル・ジャパン(株)、日豊商事(株)と同社の4社は、ポリプロピレン繊維混入の吹付けコンクリートを共同で開発し、特許を出願した。販売窓口は、同社が担当しており、1998年に発売した。大手ゼネコンの実証試験によると、従来品のスチールファイバーに比べ重量が11.5%で済み、コストも35%低下させることができた。使用方法は、一般のレディミクスコンクリート工場で製造したコンクリートに、現場で投入する。繊維投入時には投入機を用いるため、煩雑な作業を軽減できる。ミキサー車に投入することも可能だ。繊維をコンクリートに添加する時間が5〜8分間程度で済むため、工程への影響は小さい。繊維の密度は、コンクリートの容積当たりで1%と小さい。比重が軽いため、材料搬入や混入作業負荷が軽減される。吹き付け作業時に、スチールファイバーと違い、繊維を踏み抜く恐れがない。ミキサーやコンクリートポンプ車の損傷が極めて少ない。プラスチックのため錆びず、耐硫酸性、耐腐食性及び耐アルカリ性に優れ、火災時も有毒ガス(ダイオキシン類、塩化水素ガス)の発生がない。グレーに着色してあるため、トンネル内の運転手に光が反射しない。トンネルなどのコンクリートの骨材には海砂が使われており、スチール製品は不向きだ。
2003年に、NEXCO(旧日本道路公団)の「トンネル施工管理要領」においてトンネル覆工コンクリート用補強繊維「パルチップJK」の使用が可能になった。コンクリートに添加した繊維の架橋効果により、コンクリート片の落下を防止し、第三者被害の予防に寄与することが確認された。
東京外環道路を始め首都圏を中心に交通プロジェクトが目白押しとなっており、バルチップの需要が旺盛だ。東京外環道路でのバルチップの使用は始まったばかりで、今年度に本格化する。2016年10月期の業績予想に反映されている。一方、海外は南米やオーストラリアの資源開発向けは事業環境が不透明なため、マーケティング体制の強化を進める。
○機械製品事業
フラットヤーン製造技術を応用して、幅広い用途向けにスリッターを開発、製造・販売している。レジ用紙ロールのスリッター、偏光板を裁断するスリッター、タッチパネル用フィルムのスリッターなどでトップシェアを持つ。リチウムイオン電池のセパレーター用のスリッターも手掛ける。
○海外展開
創業後4年目で、フラットヤーン製造装置を輸出した。1976年にインドネシア国営肥料会社に製袋一貫大型プラントを供給した。1995年に、現地子会社「P.T.HAGIHARA WIHARTA INDONESIA(現 P.T.HAGIHARA WESTJAVA INDUSTRIES)」を設立しており、合成樹脂加工製品事業に従事している。中国には、2002年に青島に合成樹脂加工製品事業を行う「青島萩原工業有限公司」を設立した。さらに、2005年に上海に機械の設計・部品調達・組立を行う子会社「萩華機械技術(上海)有限公司」を設けた。現在は、いずれも同社の実質100%子会社になっている。
顧客所在地別売上高では、2008年10月期の海外売上高が4,198百万円、全体の17.7%を占めた。2008年9月のリーマンショックに端を発した世界金融危機と世界経済の停滞などにより、海外売上高は子会社が拠点を持つアジアは堅調に推移したが、その他の地域は大幅に減少した。ここ数年は、円安に転じたこともあり、回復基調にある。2015年10月期の海外売上高は5,835百万円、構成比は25.9%に上がった。
海外向けは、競争力の強い製品をピンポイントで販売する戦略を取っている。代表的な製品として、タンクライナーがある。同製品は、貯水タンクの内側に貼るインナーシートになる。オーストラリアやアメリカでは、雨水、農業用水、工業用水の貯水のため、干ばつ地帯を中心に大型タンクを使用している。長年使用すると、錆が発生し劣化が進む。同社のタンクライナーを鉄製タンクの内側に貼ることで、タンク本体の劣化を防ぐことができる。競合の塩化ビニール製に比べて、同社製品はポリオレフィン系素材を使用しているため、軽くて強いという特長がある。オーストラリアに加え、今後は塩化ビニール製品が多く使われている北米市場での展開を拡大する。
○スピード経営
「常なる革新 常なる創造」をモットーとし、先取の精神にあふれる経営をしている。ビジネスのIT化にも熱心に取り組んでおり、2003年にドイツSAP社の統合基幹業務システム(Enterprise Resource Planning:ERP)「R/3」を導入した。ERPは、すべての業務を統合管理するシステムであるため、経営管理に必要な情報を的確に入手し、迅速な意思決定を助ける。同社は月次決算をしているが、月半ばで同月の業績シミュレーションをつくり、月後半の業務遂行に反映させている。
2008年9月のリーマンショック後に、同社も業績が悪化した。2009年10月期は、前期比22.5%の減収、41.0%の営業減益となった。もともと売上高よりも利益を重視する経営であるため、落ち込んだ利益の回復に努め、2010年10月期は1.3%の増収に対し、営業利益は52.6%増と急回復を果たした。このとき、ERPが大いに役立ったことは言うまでもない。
収益性の高い戦略製品群を伸ばす努力をしているため、合成樹脂加工製品事業は売上高営業利益率を一時大きく落としたものの、ここ数年は堅調な足取りを見せ、2015年10月期は10.2%まで上昇した。
エンジニアリング部門は、2013年春からものづくり基幹業務システムの刷新に取り組み、2014年6月に本格稼働した。採用したのは富士通<6702>の部品構成管理システム「PLEMIA」を基盤とした部品管理表「統合BOM」と「顧客カルテシステム」になる。狙いは、ものづくりの標準化と顧客情報の「見える化」である。導入後の効果として、ものづくりでは業務の標準化と効率化、見積・設計精度の向上、目標原価の明確化が進んだ。顧客管理システムの方は、見積から保守サービスまでの履歴を見える化することにより、納品後の部品交換など、最適なタイミングで保守の提案ができる仕組みができた。
(執筆:フィスコ客員アナリスト 瀬川 健)
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