ソーバル Research Memo(3):自動車と医療機器分野での新規顧客獲得が着実に進展
[16/04/20]
提供元:株式会社フィスコ
提供元:株式会社フィスコ
注目トピックス 日本株
■2016年2月期連結決算
(2)業績の分析
a)売上高
ソーバル<2186>の増収要因は主に以下の3点が挙げられる。
○新規顧客の開拓と既存顧客からの受注増
まず、新規顧客の増加と既存顧客からの受注の増加が挙げられる。新規顧客に関しては、自動車と医療機器分野という新規分野での顧客獲得が着実に進んだ。自動車分野では、5 月に買収が完了した、車載システム・生産ライン及び物流搬送設備の制御システム開発・製造のアンドールの顧客が加わった。アンドールには、トーヨーカネツ<6369>、椿本チエイン<6371>といった大手企業の顧客もあり、新規顧客獲得という側面で早くもM&A効果が出たと言える。さらに、2016年3月には、日立製作所グループとの新規取引もスタートした。具体的な内容は明らかにされていないが、自動車の次世代技術に関連したソフト開発に携わるとしている。
医療分野では、医療事業推進部を20人規模で新設。キヤノンの眼底測定機器の付随ソフトの開発や、治験の統計解析分野(SASプログラミング)などを拡大した。また、同社は一切、コメントしていないが、キヤノンが東芝から買収した東芝メディカルシステムズからの新規受注を見越して、体制を整えたという推察もできるだろう。
これら新規顧客の獲得が順調に進んだほか、取引金額が上位5位以下の既存顧客である東芝グループ、リクルート(リクルートホールディングス<6098>)グループからの受注金額も増加した。その結果、新規顧客及び東芝グループ、リクルートグループなどが入る「その他」の売上高構成比率は2015年2月期比5.3ポイント増の17.9%と大きく伸びた。
一方、取引金額が上位4位以上の既存顧客からの受注状況は、4位のNTT(日本電信電話<9432>)グループからの受注金額が横ばいだった以外は、すべての既存顧客からの受注金額が拡大した。伸びが最も大きかったのは、3位の富士通グループである。もともと富士通グループは子会社の(株)コアードが主な取引先としていたが、コアードが受注を伸ばしたのに加え、ソーバル本体の受注も拡大した。受注内容としては、ファームウェアだけでなく、業務系システムの開発も増え、大型案件の受注も獲得した。その結果、富士通グループの売上高構成比率は2015年2月期比1.3ポイント増の9.8%になった。
最大の顧客であるキヤノングループの売上高構成比は2015年2月期比4.9ポイント減の58.4%と初めて60%を切った。2位のソニーグループは同1.1ポイント減の10.8%、4位のNTTグループは同0.6ポイント減の3.1%となった。繰り返しになるが、キヤノングループとソニーグループからの受注金額は増加している。ただ、富士通グループやその他顧客の売上高が大きく伸びたため、構成比としては低下しただけである。注目点としては、キヤノングループの一社依存体質からの脱却が着実に進展したことと、ソニーグループに関して、2020年の東京オリンピックに向けて放送機材関連の新規開発案件が増加していることであろう。ソニーグループからの受注はオリンピックに向けて今後、さらに加速・拡大していくと見られる。
○業務・案件の作業効率化、ノウハウ共有の進展
同社は、プロジェクト管理を徹底して行い、業務及び案件の作業効率改善、技術者同士のノウハウの共有が進んでいる。これにより、同じ人数でもより多くの案件を手掛けられるようになった。これに関しては、利益率の向上にも貢献しているため、次の利益の分析で説明する。
○新卒社員の早期貢献
売上高増加の大きな要因としては、昨春入社の新卒社員が予想以上の早さで売上に貢献できるまでに成長したということも挙げられる。第2四半期までに約40%、通期終了までにはほぼ全員が売上貢献できるまでに成長した。本来はコスト要因となるはずの新卒社員が早期に戦力となるのは、独自の人材育成ノウハウの賜物だという。
同社は人材採用に当たり、数合わせではなく、顧客との交渉力といったヒューマンスキルを含む技術者としての高い能力を最も重視する方針を堅持している。そのため、人材確保は同社にとって最重要課題の1つになっている。ただ、これも、解決に向かっている。セミナーやイベントの開催が志望者増につながったほか、社員を大切にすることを社是として掲げている面も学生から評価され、2016年春の新卒入社は連結ベースで65人と、目標の70人をほぼ達成できた。また、アンドールのM&Aも併せて連結の社員数は2016年4月1日時点で1,052人となり、大型案件を安定して受注できると言われる1,000人を超えた。
b)利益
増益の理由は、売上高の増加に加え、業務・案件の作業効率化、ノウハウの共有が進展したことが挙げられる。売上高営業利益率は7.9%と、同社が安定成長に欠かせないとしている7%台の最も高い水準を達成した。2015年2月期に比べ0.1ポイント減とほぼ横ばいではあるが、これは、アンドールの買収による販管費の増加と考えられる。実際、単体では売上高営業利益率は前期比1.1ポイント増の8.9%という非常に高い数値を実現している。
業務・案件の作業効率化及びノウハウの共有は、前回レポート(2015年10月8日)でも触れたが、以下の2点によって進展している。第1は本社の移転である。2014年6月に本社を東京都大田区から品川区北品川に移転し、同時に大田区に2ヶ所、神奈川県川崎市の川崎区と幸区に1ヶ所ずつあった事業所のうち、川崎市の2ヶ所を本社に集約した。これによって、エンジニアや営業社員など約200人が1ヶ所で業務を行う体制となり、情報・ノウハウの共有化が急速に進み、ソフトウェア開発の受託案件の作業が急速に効率化されている。さらに、同社は本社移転による効率化はまだまだ進展の余地があるとしている。
第2は、人材の効率的な活用である。同社では、本社内はもとより、子会社を含めたグループ全体で受注を融通し合って作業を進めている。本社が受注した案件を子会社で作業し、その反対のことも普段から行われているという。組織の垣根を越えて、比較的余裕のある部門に仕事をすぐに回せるという組織の柔軟性が業務効率を高めているのである。口では簡単なことに見えるが、一般的にエンジニアはセルフスターターが多く、自分の本来の仕事以外はあまりやりたがらない側面があることは否定できない。同社のような人材活用ができる企業は決して多くない。
これらの業務・案件の効率化、ノウハウの共有によって、不採算案件も非常に少ない。同社によれば、年間の不採算案件発生は1件程度であり、金額も非常に小さいという。
なお、このような効率的な業務体制の中で、同社のエンジニアの年間稼働率は98%という高いレベルを維持しており、この点も利益率の上昇要因の1つと言えよう。
c)財務状況
一方、財務状態は相変わらず、極めて良好である。創業者である推津順一(しいづじゅんいち)代表取締役会長の「借り入れは極力避ける」経営理念から、期末における金融機関からの借入はゼロで、完全な無借金経営を堅持している。業容の拡大とアンドールの子会社化に伴い、総資産は15年2月期末比6.8%増の3,798百万円となった。特に大きい項目は、アンドールの東京・品川区の本社は自社ビルであるため、土地勘定が同約5.2倍の410百万円となったことである。しかし、利益の蓄積により、連結の自己資本比率は同1.7ポイント増の72.5%と高まり、極めて高い水準を維持している。
キャッシュ・フローも潤沢である。キャッシュの期末残高は2015年2月期末比16.6%減の1,403百万円となったが、これは、運転資金の短期借り入れを返済したことと、配当金の増加によるものである。
(執筆:フィスコ客員アナリスト 柄澤 邦光)
<HN>
(2)業績の分析
a)売上高
ソーバル<2186>の増収要因は主に以下の3点が挙げられる。
○新規顧客の開拓と既存顧客からの受注増
まず、新規顧客の増加と既存顧客からの受注の増加が挙げられる。新規顧客に関しては、自動車と医療機器分野という新規分野での顧客獲得が着実に進んだ。自動車分野では、5 月に買収が完了した、車載システム・生産ライン及び物流搬送設備の制御システム開発・製造のアンドールの顧客が加わった。アンドールには、トーヨーカネツ<6369>、椿本チエイン<6371>といった大手企業の顧客もあり、新規顧客獲得という側面で早くもM&A効果が出たと言える。さらに、2016年3月には、日立製作所グループとの新規取引もスタートした。具体的な内容は明らかにされていないが、自動車の次世代技術に関連したソフト開発に携わるとしている。
医療分野では、医療事業推進部を20人規模で新設。キヤノンの眼底測定機器の付随ソフトの開発や、治験の統計解析分野(SASプログラミング)などを拡大した。また、同社は一切、コメントしていないが、キヤノンが東芝から買収した東芝メディカルシステムズからの新規受注を見越して、体制を整えたという推察もできるだろう。
これら新規顧客の獲得が順調に進んだほか、取引金額が上位5位以下の既存顧客である東芝グループ、リクルート(リクルートホールディングス<6098>)グループからの受注金額も増加した。その結果、新規顧客及び東芝グループ、リクルートグループなどが入る「その他」の売上高構成比率は2015年2月期比5.3ポイント増の17.9%と大きく伸びた。
一方、取引金額が上位4位以上の既存顧客からの受注状況は、4位のNTT(日本電信電話<9432>)グループからの受注金額が横ばいだった以外は、すべての既存顧客からの受注金額が拡大した。伸びが最も大きかったのは、3位の富士通グループである。もともと富士通グループは子会社の(株)コアードが主な取引先としていたが、コアードが受注を伸ばしたのに加え、ソーバル本体の受注も拡大した。受注内容としては、ファームウェアだけでなく、業務系システムの開発も増え、大型案件の受注も獲得した。その結果、富士通グループの売上高構成比率は2015年2月期比1.3ポイント増の9.8%になった。
最大の顧客であるキヤノングループの売上高構成比は2015年2月期比4.9ポイント減の58.4%と初めて60%を切った。2位のソニーグループは同1.1ポイント減の10.8%、4位のNTTグループは同0.6ポイント減の3.1%となった。繰り返しになるが、キヤノングループとソニーグループからの受注金額は増加している。ただ、富士通グループやその他顧客の売上高が大きく伸びたため、構成比としては低下しただけである。注目点としては、キヤノングループの一社依存体質からの脱却が着実に進展したことと、ソニーグループに関して、2020年の東京オリンピックに向けて放送機材関連の新規開発案件が増加していることであろう。ソニーグループからの受注はオリンピックに向けて今後、さらに加速・拡大していくと見られる。
○業務・案件の作業効率化、ノウハウ共有の進展
同社は、プロジェクト管理を徹底して行い、業務及び案件の作業効率改善、技術者同士のノウハウの共有が進んでいる。これにより、同じ人数でもより多くの案件を手掛けられるようになった。これに関しては、利益率の向上にも貢献しているため、次の利益の分析で説明する。
○新卒社員の早期貢献
売上高増加の大きな要因としては、昨春入社の新卒社員が予想以上の早さで売上に貢献できるまでに成長したということも挙げられる。第2四半期までに約40%、通期終了までにはほぼ全員が売上貢献できるまでに成長した。本来はコスト要因となるはずの新卒社員が早期に戦力となるのは、独自の人材育成ノウハウの賜物だという。
同社は人材採用に当たり、数合わせではなく、顧客との交渉力といったヒューマンスキルを含む技術者としての高い能力を最も重視する方針を堅持している。そのため、人材確保は同社にとって最重要課題の1つになっている。ただ、これも、解決に向かっている。セミナーやイベントの開催が志望者増につながったほか、社員を大切にすることを社是として掲げている面も学生から評価され、2016年春の新卒入社は連結ベースで65人と、目標の70人をほぼ達成できた。また、アンドールのM&Aも併せて連結の社員数は2016年4月1日時点で1,052人となり、大型案件を安定して受注できると言われる1,000人を超えた。
b)利益
増益の理由は、売上高の増加に加え、業務・案件の作業効率化、ノウハウの共有が進展したことが挙げられる。売上高営業利益率は7.9%と、同社が安定成長に欠かせないとしている7%台の最も高い水準を達成した。2015年2月期に比べ0.1ポイント減とほぼ横ばいではあるが、これは、アンドールの買収による販管費の増加と考えられる。実際、単体では売上高営業利益率は前期比1.1ポイント増の8.9%という非常に高い数値を実現している。
業務・案件の作業効率化及びノウハウの共有は、前回レポート(2015年10月8日)でも触れたが、以下の2点によって進展している。第1は本社の移転である。2014年6月に本社を東京都大田区から品川区北品川に移転し、同時に大田区に2ヶ所、神奈川県川崎市の川崎区と幸区に1ヶ所ずつあった事業所のうち、川崎市の2ヶ所を本社に集約した。これによって、エンジニアや営業社員など約200人が1ヶ所で業務を行う体制となり、情報・ノウハウの共有化が急速に進み、ソフトウェア開発の受託案件の作業が急速に効率化されている。さらに、同社は本社移転による効率化はまだまだ進展の余地があるとしている。
第2は、人材の効率的な活用である。同社では、本社内はもとより、子会社を含めたグループ全体で受注を融通し合って作業を進めている。本社が受注した案件を子会社で作業し、その反対のことも普段から行われているという。組織の垣根を越えて、比較的余裕のある部門に仕事をすぐに回せるという組織の柔軟性が業務効率を高めているのである。口では簡単なことに見えるが、一般的にエンジニアはセルフスターターが多く、自分の本来の仕事以外はあまりやりたがらない側面があることは否定できない。同社のような人材活用ができる企業は決して多くない。
これらの業務・案件の効率化、ノウハウの共有によって、不採算案件も非常に少ない。同社によれば、年間の不採算案件発生は1件程度であり、金額も非常に小さいという。
なお、このような効率的な業務体制の中で、同社のエンジニアの年間稼働率は98%という高いレベルを維持しており、この点も利益率の上昇要因の1つと言えよう。
c)財務状況
一方、財務状態は相変わらず、極めて良好である。創業者である推津順一(しいづじゅんいち)代表取締役会長の「借り入れは極力避ける」経営理念から、期末における金融機関からの借入はゼロで、完全な無借金経営を堅持している。業容の拡大とアンドールの子会社化に伴い、総資産は15年2月期末比6.8%増の3,798百万円となった。特に大きい項目は、アンドールの東京・品川区の本社は自社ビルであるため、土地勘定が同約5.2倍の410百万円となったことである。しかし、利益の蓄積により、連結の自己資本比率は同1.7ポイント増の72.5%と高まり、極めて高い水準を維持している。
キャッシュ・フローも潤沢である。キャッシュの期末残高は2015年2月期末比16.6%減の1,403百万円となったが、これは、運転資金の短期借り入れを返済したことと、配当金の増加によるものである。
(執筆:フィスコ客員アナリスト 柄澤 邦光)
<HN>