Jトラスト Research Memo(5):2021年12月期第1四半期の営業利益は前年同期比大幅増益(3)
[21/06/09]
提供元:株式会社フィスコ
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注目トピックス 日本株
■Jトラスト<8508>の業績動向
(3) 東南アジア金融事業
東南アジア金融事業では、東南アジアで最大の人口を持つインドネシアにおいて、ライツ・オファリングで得た資金により、銀行業のJトラスト銀行インドネシア(以下、BJI)を傘下に収め、現在は同行の立て直しに注力している。また、債権回収業のPT JTRUST INVESTMENTS Indonesia(以下、JTII)、マルチファイナンス会社のJTOを傘下に持つ。さらに、2019年8月には、カンボジアの優良銀行であるJTRBを傘下に収め、銀行業務を開始している。同社グループでは東南アジア金融事業が収益の柱に成長し、グループの業績をけん引することを期待している。
2021年12月期第1四半期は、インドネシア事業の2020年12月期における営業貸付金の抑制や保有有価証券の売却の影響から十分に脱しきれておらず、営業収益は3,820百万円(前年同期比6.9%減)となった。一方、JTRBが預金獲得強化を背景に貸出残高を順調に積み増して営業損益を下支えしたことに加え、インドネシアではBJIとJTIIの営業損益が計画を上回ったほか、同社グループ入り前からの訴訟に対する損失引当金の戻りもあり、営業損失は521百万円(前年同期は1,204百万円の損失)となった。通期計画に対する第1四半期進捗率は、営業収益は20%にとどまったものの、営業損益では通期計画の損失4,389百万円に対して521百万円の損失にとどまっていることから、計画を上回るペースで業績改善が進んでいると言える。
長期間にわたって預金保険機構の管理下にあったBJIについては、同社グループでは最優先課題の1つとして再生に取り組んでいる。これまでに、同行の増資を行うとともに、不良債権の回収に特化した新会社JTIIを設立して、同行から不良債権を切り離して譲渡することにより、財務体質の改善を図るなど銀行再生を加速してきた。ただ、銀行再生が計画どおりに進まなかったことから、2019年3月期決算において抜本的な対応に踏み切った。すなわち、BJIでは買収前からの負の遺産を含めた不良債権を前倒しで一括処理することを決断した。このように抜本的な不良債権処理を断行することで、東南アジア金融事業の業績急回復を実現するための基盤を整えた。
同社ではBJIの再生に時間を要している原因は人材の能力、リスクマネジメント、ITシステム等の不足にあったと分析し、2019年12月期は以下のような事業基盤の再構築に着手した。第1に、「人材、組織の再構築」を実施し、リスクマネジメント体制の整備と審査部門の強化を図った。コンプライアンス/審査部門に日本人マネジメントを配置するとともに、韓国で貯蓄銀行の再建を手掛けた人材をインドネシアへ派遣した。第2に、「ITの改善」を行い、モバイルバンキングアプリを開発し、2019年8月よりサービスを開始した。効果的な集客により低利の普通預金を集め、預金コストの低下を見込む。第3に、「優良資産の積み上げ」を図るため、JTOを中心とした資産の積み上げに加え、日系/国営/財閥系・大手銀行系企業への貸付や社債への投資を進めることとした。第4に、「債権回収のための体制整備」を実施し、日本や韓国で培った債権管理/回収ノウハウを融合させ、JTIIに注入した。そのために、債権管理/回収担当者を2019年3月期末の39名から2019年12月期末には75名に増員している。
インドネシアでは、こうした再建に向けた改革を継続している効果が着実に表れはじめていたものの、2020年には世界的なコロナ禍によりアジア通貨危機以来のマイナス成長になるなど、大きなダメージを受けている。このように事業環境が悪化するなかで同社グループは、先手の対策を講じることによりマイナスの影響を最小限に食い止めている。
銀行業界がマイナス成長のなかでBJIは、コロナ禍の状況を鑑みつつ貸出をコントロールしたことで、2020年11月以降は増加傾向にあり、2021年3月の残高は597億円となった。貸出残高はリスクを抑制しながら、慎重な与信により徐々に積み上げを図っている。また、2019年までは不良債権をJTIIに売却することでNPL比率の低下を図ってきたが、2020年以降は売却処理をせず、自力でNPL比率を低位コントロールしている。さらに、BJIでは預金残高を貸出残高に合わせてコントロールしており、COF(資金調達コスト)はコロナ禍前の水準より低下している。パンデミックの経験から、大口預金顧客を抑制して低利の小口預金顧客を集める戦略に変更し、戦略実現のために様々なマーケティングノウハウを導入した結果、例年の2〜3倍のペースで預金口座を獲得している。このように、BJIの営業実態は改善していると言える。今後は不良債権比率を抑制しつつ、優良債権の積み上げを図ることが課題であろう。なおBJIは、2020年1月にはインドネシア証券取引所(IDX)で取引再開を果たしている。
2018年10月に株式60%を取得しグループ傘下に収めたマルチファイナンス会社のJTOは、オートローン業界の老舗として高い知名度があり、インドネシア全土の支店網や取引金融機関との豊富なネットワークを有している。従来の中古車ローンに加え農機具ローンや新車ローンなど新しい商品の提供をはじめてきたが、コロナ禍に伴う市場の変化を考慮し、農機具ローンと小口のマイクロファイナンス以外の新規貸付を一旦停止した。しかしながら、過去に取引歴のある優良顧客へのアプローチにより、慎重な与信を実施した中古車ローンを再開している。市場を鑑み、今後の新たな商品として住宅割賦(不動産ローン)についても研究・準備中である。
JTOのアセットは、2019年1月の91億円が2020年3月には140億円にまで増加したが、新規貸付抑制と債権回収により2021年3月には90億円に減少した。ただ、2021年に入り新規貸付件数と貸付金額は増加傾向にある。一方、NPL比率は3.5%(2021年3月)と安定しており、業界平均の3.7%と比較して低い水準に抑制できている。
債権回収業のJTIIについては、これまでに蓄積したノウハウを活用して買取債権の回収拡大を進めている。また、2020年からはBJI以外の他社からの不良債権買取も開始している。コロナ禍におけるデスクワークにより生産性が向上したことに加え、架電や通知の強化及び競売数の増加により債権回収力が向上しており、2020年12月期は過去最高の回収を実現した結果、期中請求残高は減少した。しかし、秋口以降は複数社からの債権買取が実現し、2020年10月以降、請求残高は再び増加している。コロナ禍の影響を受け、現在も多数の金融機関より債権買取の打診があり、ビジネスのさらなる拡大を見込んでいる。
加えて、2019年8月には、6ヶ国目の進出先となるカンボジアの商業銀行42行中でTOP10に入る資産規模(2018年12月末当時)のANZ Royal Bank(Cambodia)の株式55%を取得し、商号をJTRBに変更した。グループ入り後、貸出残高は順調に増加していたが、カンボジア国内でもコロナ禍が拡大しているため一時は新規貸付を抑制していた。ただ、同国のコロナ禍は周辺国に比べて軽微であることから、収益力向上に向けて、好調な預金獲得を背景に、堅調な法人資金需要に対応して貸出残高の積み上げを再開している。以上の結果、2021年3月の貸出残高は856億円に増加した一方で、NPL比率は0.46%の低位にとどまっている。
また、JTRBでは、定期預金、当座/普通預金ともに残高は順調に拡大しており、COFは預金獲得のため戦略的に上昇しているものの足元で2.3%と絶対水準としては低位にある。このため、低金利預金獲得のための各種施策を実施している。一例を挙げると、預金新商品の「Goal Saving」や「The One」が好評で預金残高を押し上げている。また、銀行支店のない地方、農村、労働者など、銀行口座開設ができない人がカンボジア人口の80%を占めることから、これらの人々を対象に、カンボジア最大の電子マネー会社Wingと提携し、同社送金顧客の小口資金を取り込むためマイクロ貯蓄預金を開始したところ、マイクロ貯蓄預金の残高、口座数ともに順調に増加している。
(執筆:フィスコ客員アナリスト 国重 希)
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(3) 東南アジア金融事業
東南アジア金融事業では、東南アジアで最大の人口を持つインドネシアにおいて、ライツ・オファリングで得た資金により、銀行業のJトラスト銀行インドネシア(以下、BJI)を傘下に収め、現在は同行の立て直しに注力している。また、債権回収業のPT JTRUST INVESTMENTS Indonesia(以下、JTII)、マルチファイナンス会社のJTOを傘下に持つ。さらに、2019年8月には、カンボジアの優良銀行であるJTRBを傘下に収め、銀行業務を開始している。同社グループでは東南アジア金融事業が収益の柱に成長し、グループの業績をけん引することを期待している。
2021年12月期第1四半期は、インドネシア事業の2020年12月期における営業貸付金の抑制や保有有価証券の売却の影響から十分に脱しきれておらず、営業収益は3,820百万円(前年同期比6.9%減)となった。一方、JTRBが預金獲得強化を背景に貸出残高を順調に積み増して営業損益を下支えしたことに加え、インドネシアではBJIとJTIIの営業損益が計画を上回ったほか、同社グループ入り前からの訴訟に対する損失引当金の戻りもあり、営業損失は521百万円(前年同期は1,204百万円の損失)となった。通期計画に対する第1四半期進捗率は、営業収益は20%にとどまったものの、営業損益では通期計画の損失4,389百万円に対して521百万円の損失にとどまっていることから、計画を上回るペースで業績改善が進んでいると言える。
長期間にわたって預金保険機構の管理下にあったBJIについては、同社グループでは最優先課題の1つとして再生に取り組んでいる。これまでに、同行の増資を行うとともに、不良債権の回収に特化した新会社JTIIを設立して、同行から不良債権を切り離して譲渡することにより、財務体質の改善を図るなど銀行再生を加速してきた。ただ、銀行再生が計画どおりに進まなかったことから、2019年3月期決算において抜本的な対応に踏み切った。すなわち、BJIでは買収前からの負の遺産を含めた不良債権を前倒しで一括処理することを決断した。このように抜本的な不良債権処理を断行することで、東南アジア金融事業の業績急回復を実現するための基盤を整えた。
同社ではBJIの再生に時間を要している原因は人材の能力、リスクマネジメント、ITシステム等の不足にあったと分析し、2019年12月期は以下のような事業基盤の再構築に着手した。第1に、「人材、組織の再構築」を実施し、リスクマネジメント体制の整備と審査部門の強化を図った。コンプライアンス/審査部門に日本人マネジメントを配置するとともに、韓国で貯蓄銀行の再建を手掛けた人材をインドネシアへ派遣した。第2に、「ITの改善」を行い、モバイルバンキングアプリを開発し、2019年8月よりサービスを開始した。効果的な集客により低利の普通預金を集め、預金コストの低下を見込む。第3に、「優良資産の積み上げ」を図るため、JTOを中心とした資産の積み上げに加え、日系/国営/財閥系・大手銀行系企業への貸付や社債への投資を進めることとした。第4に、「債権回収のための体制整備」を実施し、日本や韓国で培った債権管理/回収ノウハウを融合させ、JTIIに注入した。そのために、債権管理/回収担当者を2019年3月期末の39名から2019年12月期末には75名に増員している。
インドネシアでは、こうした再建に向けた改革を継続している効果が着実に表れはじめていたものの、2020年には世界的なコロナ禍によりアジア通貨危機以来のマイナス成長になるなど、大きなダメージを受けている。このように事業環境が悪化するなかで同社グループは、先手の対策を講じることによりマイナスの影響を最小限に食い止めている。
銀行業界がマイナス成長のなかでBJIは、コロナ禍の状況を鑑みつつ貸出をコントロールしたことで、2020年11月以降は増加傾向にあり、2021年3月の残高は597億円となった。貸出残高はリスクを抑制しながら、慎重な与信により徐々に積み上げを図っている。また、2019年までは不良債権をJTIIに売却することでNPL比率の低下を図ってきたが、2020年以降は売却処理をせず、自力でNPL比率を低位コントロールしている。さらに、BJIでは預金残高を貸出残高に合わせてコントロールしており、COF(資金調達コスト)はコロナ禍前の水準より低下している。パンデミックの経験から、大口預金顧客を抑制して低利の小口預金顧客を集める戦略に変更し、戦略実現のために様々なマーケティングノウハウを導入した結果、例年の2〜3倍のペースで預金口座を獲得している。このように、BJIの営業実態は改善していると言える。今後は不良債権比率を抑制しつつ、優良債権の積み上げを図ることが課題であろう。なおBJIは、2020年1月にはインドネシア証券取引所(IDX)で取引再開を果たしている。
2018年10月に株式60%を取得しグループ傘下に収めたマルチファイナンス会社のJTOは、オートローン業界の老舗として高い知名度があり、インドネシア全土の支店網や取引金融機関との豊富なネットワークを有している。従来の中古車ローンに加え農機具ローンや新車ローンなど新しい商品の提供をはじめてきたが、コロナ禍に伴う市場の変化を考慮し、農機具ローンと小口のマイクロファイナンス以外の新規貸付を一旦停止した。しかしながら、過去に取引歴のある優良顧客へのアプローチにより、慎重な与信を実施した中古車ローンを再開している。市場を鑑み、今後の新たな商品として住宅割賦(不動産ローン)についても研究・準備中である。
JTOのアセットは、2019年1月の91億円が2020年3月には140億円にまで増加したが、新規貸付抑制と債権回収により2021年3月には90億円に減少した。ただ、2021年に入り新規貸付件数と貸付金額は増加傾向にある。一方、NPL比率は3.5%(2021年3月)と安定しており、業界平均の3.7%と比較して低い水準に抑制できている。
債権回収業のJTIIについては、これまでに蓄積したノウハウを活用して買取債権の回収拡大を進めている。また、2020年からはBJI以外の他社からの不良債権買取も開始している。コロナ禍におけるデスクワークにより生産性が向上したことに加え、架電や通知の強化及び競売数の増加により債権回収力が向上しており、2020年12月期は過去最高の回収を実現した結果、期中請求残高は減少した。しかし、秋口以降は複数社からの債権買取が実現し、2020年10月以降、請求残高は再び増加している。コロナ禍の影響を受け、現在も多数の金融機関より債権買取の打診があり、ビジネスのさらなる拡大を見込んでいる。
加えて、2019年8月には、6ヶ国目の進出先となるカンボジアの商業銀行42行中でTOP10に入る資産規模(2018年12月末当時)のANZ Royal Bank(Cambodia)の株式55%を取得し、商号をJTRBに変更した。グループ入り後、貸出残高は順調に増加していたが、カンボジア国内でもコロナ禍が拡大しているため一時は新規貸付を抑制していた。ただ、同国のコロナ禍は周辺国に比べて軽微であることから、収益力向上に向けて、好調な預金獲得を背景に、堅調な法人資金需要に対応して貸出残高の積み上げを再開している。以上の結果、2021年3月の貸出残高は856億円に増加した一方で、NPL比率は0.46%の低位にとどまっている。
また、JTRBでは、定期預金、当座/普通預金ともに残高は順調に拡大しており、COFは預金獲得のため戦略的に上昇しているものの足元で2.3%と絶対水準としては低位にある。このため、低金利預金獲得のための各種施策を実施している。一例を挙げると、預金新商品の「Goal Saving」や「The One」が好評で預金残高を押し上げている。また、銀行支店のない地方、農村、労働者など、銀行口座開設ができない人がカンボジア人口の80%を占めることから、これらの人々を対象に、カンボジア最大の電子マネー会社Wingと提携し、同社送金顧客の小口資金を取り込むためマイクロ貯蓄預金を開始したところ、マイクロ貯蓄預金の残高、口座数ともに順調に増加している。
(執筆:フィスコ客員アナリスト 国重 希)
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