飯野海運 Research Memo(1):成長に向けてESG・SDGs経営を一段と強化
[21/07/01]
提供元:株式会社フィスコ
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注目トピックス 日本株
■要約
飯野海運<9119>は、1899年の創業(飯野商会、京都府舞鶴市)以来120年以上の歴史を誇る海運会社である。現在は資源・エネルギー輸送を主力とする海運業(外航海運業、内航・近海海運業)と、本社の飯野ビルディングを主力とするオフィスビル賃貸の不動産業を両輪として事業展開している。
1. 海運業はケミカルタンカーに強み、不動産業は安定収益源
海運業は業界最大級の船隊規模を誇るケミカルタンカーや、中長期契約を積み上げる大型ガスキャリアなどを特徴・強みとしている。不動産業は飯野ビルディングなど東京都心部の一等地に賃貸オフィスビルを複数所有していることが特徴だ。海運業は市況変動の影響を受けるが、不動産業が安定収益源となっている。また従来から環境負荷軽減に取り組み、海運業においては環境配慮型の船舶の投入を推進し、不動産業においては保有ビルが最先端の環境性能を取り入れ大幅な省エネを実現している。
2. 2021年3月期は海運市況高騰などで計画超の大幅増益
2021年3月期の連結業績は、売上高が前期比0.3%減の88,916百万円、営業利益が同71.8%増の6,831百万円、経常利益が同97.1%増の6,810百万円、親会社株主に帰属する当期純利益が同102.1%増の7,655百万円だった。中期経営計画の初年度目標値を大幅に超過達成した。一部で新型コロナウイルス感染症拡大(以下、コロナ禍)の影響を受けたが、外航海運業における大型ガスキャリアの市況高騰、不動産業における飯野ビルディング新規テナント入居などの効果で大幅増益だった。期初時点ではコロナ禍の影響を考慮して保守的な予想としていたが、大型ガスキャリアを中心に市況が想定以上に高騰して計画超の大幅増益で着地した。
3. 2022年3月期は市況反動などで大幅減益予想
2022年3月期の連結業績予想は、売上高が前期比1.0%減の88,000百万円、営業利益が同40.0%減の4,100百万円、経常利益が同42.7%減の3,900百万円、親会社株主に帰属する当期純利益が同21.6%減の6,000百万円としている。外航海運業における前期の市況高騰の反動や燃料費上昇、不動産業における営繕費の増加などで大幅減益予想としている。なお大型LPG外航船1隻(2008年建造)を売却して固定資産売却益約29億円を第2四半期の特別利益に計上する予定である。
4. 中期経営計画最終年度(2023年3月期)目標達成は可能
中期経営計画では目標値に2023年3月期売上高900〜1,100億円、営業利益75〜85億円(海運業25〜35億円、不動産業50億円)、経常利益70〜80億円、親会社株主に帰属する当期純利益70〜80億円などを掲げている。進捗状況で見ると、2022年3月期は前年度の市況高騰反動などで2年目計画未達の見込みとしている。計画策定時点(2020年5月)では、コロナ禍が収束してケミカルタンカー市況が上向いていることを想定していたが、コロナ禍の影響長期化によって下方乖離する形になった。しかしワクチン接種進展によってコロナ禍の影響が和らぎ、ジェット燃料など石油製品の需要回復でプロダクトタンカーのケミカルタンカー市場からの退出が進めば、ケミカルタンカー市況が上昇する見込みだ。中長期契約の積み上げ、効率配船による採算性向上、環境配慮型船の投入も推進する。不動産業においては飯野ビルディングが満室稼働であり、2023年3月期には営繕費の減少や日比谷フォートタワーの寄与も本格化する見込みだ。石油製品の海上荷動きが本格的に回復すれば、中期経営計画最終年度(2023年3月期)の計画達成は可能と考えられる。
5. 成長に向けてESG・SDGs経営を一段と強化
海運業と不動産業を両輪として成長を目指す基本シナリオに変化はないが、中期経営計画では経済的価値と社会的価値の創造を目指して、ESG・SDGs経営の一段の強化やDX推進を強く打ち出した。温室効果ガス排出量削減目標として、海運業では輸送単位当たり温室効果ガス排出量を2030年に2008年比40%削減、不動産業では単位面積当たりCO2排出量を2030年に同40%削減を掲げている。社会(働き方改革やダイバーシティへの取り組み)や、ガバナンス(指名・報酬諮問委員会の委員長を独立社外取締役に変更、監査役会の機能強化など)の面でも動きが活発化している。こうした動きを高く評価し、中期的な収益拡大と企業価値向上を期待したい。
■Key Points
・歴史ある海運業と不動産業が両輪
・中期経営計画最終年度(2023年3月期)目標達成は可能(世界的なコロナ禍の収束次第)
・成長に向けてESG・SDGs経営を一段と強化
(執筆:フィスコ客員アナリスト 水田雅展)
<NB>
飯野海運<9119>は、1899年の創業(飯野商会、京都府舞鶴市)以来120年以上の歴史を誇る海運会社である。現在は資源・エネルギー輸送を主力とする海運業(外航海運業、内航・近海海運業)と、本社の飯野ビルディングを主力とするオフィスビル賃貸の不動産業を両輪として事業展開している。
1. 海運業はケミカルタンカーに強み、不動産業は安定収益源
海運業は業界最大級の船隊規模を誇るケミカルタンカーや、中長期契約を積み上げる大型ガスキャリアなどを特徴・強みとしている。不動産業は飯野ビルディングなど東京都心部の一等地に賃貸オフィスビルを複数所有していることが特徴だ。海運業は市況変動の影響を受けるが、不動産業が安定収益源となっている。また従来から環境負荷軽減に取り組み、海運業においては環境配慮型の船舶の投入を推進し、不動産業においては保有ビルが最先端の環境性能を取り入れ大幅な省エネを実現している。
2. 2021年3月期は海運市況高騰などで計画超の大幅増益
2021年3月期の連結業績は、売上高が前期比0.3%減の88,916百万円、営業利益が同71.8%増の6,831百万円、経常利益が同97.1%増の6,810百万円、親会社株主に帰属する当期純利益が同102.1%増の7,655百万円だった。中期経営計画の初年度目標値を大幅に超過達成した。一部で新型コロナウイルス感染症拡大(以下、コロナ禍)の影響を受けたが、外航海運業における大型ガスキャリアの市況高騰、不動産業における飯野ビルディング新規テナント入居などの効果で大幅増益だった。期初時点ではコロナ禍の影響を考慮して保守的な予想としていたが、大型ガスキャリアを中心に市況が想定以上に高騰して計画超の大幅増益で着地した。
3. 2022年3月期は市況反動などで大幅減益予想
2022年3月期の連結業績予想は、売上高が前期比1.0%減の88,000百万円、営業利益が同40.0%減の4,100百万円、経常利益が同42.7%減の3,900百万円、親会社株主に帰属する当期純利益が同21.6%減の6,000百万円としている。外航海運業における前期の市況高騰の反動や燃料費上昇、不動産業における営繕費の増加などで大幅減益予想としている。なお大型LPG外航船1隻(2008年建造)を売却して固定資産売却益約29億円を第2四半期の特別利益に計上する予定である。
4. 中期経営計画最終年度(2023年3月期)目標達成は可能
中期経営計画では目標値に2023年3月期売上高900〜1,100億円、営業利益75〜85億円(海運業25〜35億円、不動産業50億円)、経常利益70〜80億円、親会社株主に帰属する当期純利益70〜80億円などを掲げている。進捗状況で見ると、2022年3月期は前年度の市況高騰反動などで2年目計画未達の見込みとしている。計画策定時点(2020年5月)では、コロナ禍が収束してケミカルタンカー市況が上向いていることを想定していたが、コロナ禍の影響長期化によって下方乖離する形になった。しかしワクチン接種進展によってコロナ禍の影響が和らぎ、ジェット燃料など石油製品の需要回復でプロダクトタンカーのケミカルタンカー市場からの退出が進めば、ケミカルタンカー市況が上昇する見込みだ。中長期契約の積み上げ、効率配船による採算性向上、環境配慮型船の投入も推進する。不動産業においては飯野ビルディングが満室稼働であり、2023年3月期には営繕費の減少や日比谷フォートタワーの寄与も本格化する見込みだ。石油製品の海上荷動きが本格的に回復すれば、中期経営計画最終年度(2023年3月期)の計画達成は可能と考えられる。
5. 成長に向けてESG・SDGs経営を一段と強化
海運業と不動産業を両輪として成長を目指す基本シナリオに変化はないが、中期経営計画では経済的価値と社会的価値の創造を目指して、ESG・SDGs経営の一段の強化やDX推進を強く打ち出した。温室効果ガス排出量削減目標として、海運業では輸送単位当たり温室効果ガス排出量を2030年に2008年比40%削減、不動産業では単位面積当たりCO2排出量を2030年に同40%削減を掲げている。社会(働き方改革やダイバーシティへの取り組み)や、ガバナンス(指名・報酬諮問委員会の委員長を独立社外取締役に変更、監査役会の機能強化など)の面でも動きが活発化している。こうした動きを高く評価し、中期的な収益拡大と企業価値向上を期待したい。
■Key Points
・歴史ある海運業と不動産業が両輪
・中期経営計画最終年度(2023年3月期)目標達成は可能(世界的なコロナ禍の収束次第)
・成長に向けてESG・SDGs経営を一段と強化
(執筆:フィスコ客員アナリスト 水田雅展)
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