飯野海運 Research Memo(5):2021年3月期は市況上昇で計画超の大幅増益
[21/07/01]
提供元:株式会社フィスコ
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注目トピックス 日本株
■業績動向
1. 2021年3月期連結業績の概要
飯野海運<9119>の2021年3月期の連結業績は、売上高が前期比0.3%減の88,916百万円、営業利益が同71.8%増の6,831百万円、経常利益が同97.1%増の6,810百万円、親会社株主に帰属する当期純利益が同102.1%増の7,655百万円だった。中期経営計画の初年度目標値を大幅に超過達成した。平均為替レートは105.79円/米ドル(前期は109.13円/米ドル)、平均燃料油価格(補油地:シンガポール)は269米ドル/MT(同412米ドル/MT)、適合油平均価格は346米ドル/MT(同598米ドル/MT)だった。
一部でコロナ禍の影響を受けたが、外航海運業における大型ガス船の市況高騰、不動産業における飯野ビルディング新規テナント入居などの効果で大幅増益だった。営業利益28.5億円増益(前期比)分析は、増益要因が大型原油タンカーで1.0億円増、大型ガス船で11.2億円増、ケミカルタンカーで4.6億円増、ドライバルク船で3.4億円増、不動産業で11.1億円増、減益要因がその他で2.7億円減だった。
営業外収益は311百万円増加(受取配当金が116百万円増加、持分法投資利益が13百万円増加、為替差益が122百万円増加など)、営業外費用は188百万円減少(支払利息が207百万円減少など)した。また特別利益は396百万円増加(固定資産売却益が505百万円減少、子会社清算益822百万円計上など)し、特別損失は214百万円減少(前期計上の投資有価証券評価損210百万円が一巡など)した。
なお、計画との比較で見ると、2020年5月15日公表の期初時点の計画(売上高88,000百万円、営業利益3,800百万円、経常利益3,600百万円、親会社株主に帰属する当期純利益4,500百万円)に対して、2020年8月7日に修正(売上高を下方修正、営業・経常利益を上方修正)、2020年11月9日に修正(売上高を下方修正、各利益を上方修正)、2021年2月10日に修正(売上高、各利益とも上方修正)し、さらに各利益は2021年2月10日の修正値を上回り着地した。期初時点ではコロナ禍の影響を考慮して保守的な予想としていたが、大型ガス船を中心に市況が想定以上に高騰して計画超の大幅増益で着地した。
2. セグメント別動向
セグメント別の動向は以下の通りである。
(1) 外航海運業は市況上昇で増収・大幅増益
外航海運業は売上高が前期比1.3%増の69,295百万円、営業利益が同278.3%増の2,463百万円だった。大型原油タンカーは原油輸送需要の減少で市況が低迷したが、新造VLCC2隻の竣工による稼働増加などで安定収益を積み上げた。大型ガス船は中国向け石油化学原料需要の増加、入渠船の増加、パナマ運河の混雑などでLPG船の市況が年末にかけて高騰したが、年明け以降は下落し、通常の水準に落ち着いた。LNG船は安定収益を確保した。
ケミカルタンカーは、プロダクトタンカーの市場退出などで5月以降に市況が高騰する場面があったが、夏場以降は輸送需要の弱含み状況が継続し、プロダクトタンカーの再流入で市況が軟化している。ただし安定的なCOA(数量輸送契約)とスポット貨物の取り込みで稼働を維持して安定収益を積み上げた。ドライバルク船はコロナ禍の影響で期初には市況が軟化したが、中国向け荷動きの回復に伴って堅調な動きとなり、第4四半期には荷積み港・荷揚げ港における滞船なども影響して市況が急伸した。新造専用船2隻が順調に稼働したことも寄与した。
(2) 内航・近海海運業はコロナ禍の影響による市況低迷で減収・減益
内航・近海海運業は売上高が前期比7.2%減の8,581百万円、営業利益が同11.4%減の505百万円だった。中長期契約に基づく安定的な売上確保や効率配船に取り組んだが、内航ガス輸送は石油化学ガスやLPGの需要が低調だったため市況が低迷し、近海ガス輸送も定期用船契約更改時に市況下落の影響を受けた。
(3) 不動産業は減収だが新規テナント効果などで大幅増益
不動産業は売上高が前期比4.4%減の11,158百万円、営業利益が同40.2%増の3,863百万円だった。イイノホール&カンファレンスセンターがコロナ禍に伴うイベント中止・延期の影響を受け、前期の飯野ビルディング一部テナント退去に伴う原状回復工事の売上計上の反動などで減収だったが、飯野ビルディングの新規テナント入居が2020年5月に完了して満室稼働となり、従来に比べて有利契約となったことも寄与して大幅増益だった。2020年3月に取得した英国ロンドンBRACTON HOUSEも貢献した。
純資産を着実に積み上げ
3. 財務の状況
財務面で見ると、2021年3月期末の資産合計は245,611百万円で前期末比14,523百万円増加した。船舶が新造船竣工で同14,150百万円増加、投資有価証券が評価額の増加で同2,981百万円増加した。負債合計は165,776百万円で同8,116百万円増加した。有利子負債が同5,417百万円増加、リース債務が同3,215百万円増加した。なお公募形式によるグリーンボンド(第2回無担保社債、2021年3月発行)で50億円を調達した。日比谷フォートタワーの建設事業費に充当する。これに先立って、(株)日本格付研究所よりグリーンボンド評価及びグリーンローン評価(最上位のGreen1)、日本政策投資銀行よりDBJ環境格付において「環境への配慮に対する取り組みが先進的」との格付を取得している。
純資産は79,835百万円で同6,407百万円増加した。利益剰余金を着実に積み上げていて、また保有投資有価証券の株価上昇に伴って、その他有価証券評価差額金が同2,300百万円増加した。この結果、自己資本比率は32.5%で0.8ポイント上昇した。海運業と不動産業を両輪に安定収益基盤を構築しており、財務健全性に大きな問題は無いと判断できるだろう。
(執筆:フィスコ客員アナリスト 水田雅展)
<NB>
1. 2021年3月期連結業績の概要
飯野海運<9119>の2021年3月期の連結業績は、売上高が前期比0.3%減の88,916百万円、営業利益が同71.8%増の6,831百万円、経常利益が同97.1%増の6,810百万円、親会社株主に帰属する当期純利益が同102.1%増の7,655百万円だった。中期経営計画の初年度目標値を大幅に超過達成した。平均為替レートは105.79円/米ドル(前期は109.13円/米ドル)、平均燃料油価格(補油地:シンガポール)は269米ドル/MT(同412米ドル/MT)、適合油平均価格は346米ドル/MT(同598米ドル/MT)だった。
一部でコロナ禍の影響を受けたが、外航海運業における大型ガス船の市況高騰、不動産業における飯野ビルディング新規テナント入居などの効果で大幅増益だった。営業利益28.5億円増益(前期比)分析は、増益要因が大型原油タンカーで1.0億円増、大型ガス船で11.2億円増、ケミカルタンカーで4.6億円増、ドライバルク船で3.4億円増、不動産業で11.1億円増、減益要因がその他で2.7億円減だった。
営業外収益は311百万円増加(受取配当金が116百万円増加、持分法投資利益が13百万円増加、為替差益が122百万円増加など)、営業外費用は188百万円減少(支払利息が207百万円減少など)した。また特別利益は396百万円増加(固定資産売却益が505百万円減少、子会社清算益822百万円計上など)し、特別損失は214百万円減少(前期計上の投資有価証券評価損210百万円が一巡など)した。
なお、計画との比較で見ると、2020年5月15日公表の期初時点の計画(売上高88,000百万円、営業利益3,800百万円、経常利益3,600百万円、親会社株主に帰属する当期純利益4,500百万円)に対して、2020年8月7日に修正(売上高を下方修正、営業・経常利益を上方修正)、2020年11月9日に修正(売上高を下方修正、各利益を上方修正)、2021年2月10日に修正(売上高、各利益とも上方修正)し、さらに各利益は2021年2月10日の修正値を上回り着地した。期初時点ではコロナ禍の影響を考慮して保守的な予想としていたが、大型ガス船を中心に市況が想定以上に高騰して計画超の大幅増益で着地した。
2. セグメント別動向
セグメント別の動向は以下の通りである。
(1) 外航海運業は市況上昇で増収・大幅増益
外航海運業は売上高が前期比1.3%増の69,295百万円、営業利益が同278.3%増の2,463百万円だった。大型原油タンカーは原油輸送需要の減少で市況が低迷したが、新造VLCC2隻の竣工による稼働増加などで安定収益を積み上げた。大型ガス船は中国向け石油化学原料需要の増加、入渠船の増加、パナマ運河の混雑などでLPG船の市況が年末にかけて高騰したが、年明け以降は下落し、通常の水準に落ち着いた。LNG船は安定収益を確保した。
ケミカルタンカーは、プロダクトタンカーの市場退出などで5月以降に市況が高騰する場面があったが、夏場以降は輸送需要の弱含み状況が継続し、プロダクトタンカーの再流入で市況が軟化している。ただし安定的なCOA(数量輸送契約)とスポット貨物の取り込みで稼働を維持して安定収益を積み上げた。ドライバルク船はコロナ禍の影響で期初には市況が軟化したが、中国向け荷動きの回復に伴って堅調な動きとなり、第4四半期には荷積み港・荷揚げ港における滞船なども影響して市況が急伸した。新造専用船2隻が順調に稼働したことも寄与した。
(2) 内航・近海海運業はコロナ禍の影響による市況低迷で減収・減益
内航・近海海運業は売上高が前期比7.2%減の8,581百万円、営業利益が同11.4%減の505百万円だった。中長期契約に基づく安定的な売上確保や効率配船に取り組んだが、内航ガス輸送は石油化学ガスやLPGの需要が低調だったため市況が低迷し、近海ガス輸送も定期用船契約更改時に市況下落の影響を受けた。
(3) 不動産業は減収だが新規テナント効果などで大幅増益
不動産業は売上高が前期比4.4%減の11,158百万円、営業利益が同40.2%増の3,863百万円だった。イイノホール&カンファレンスセンターがコロナ禍に伴うイベント中止・延期の影響を受け、前期の飯野ビルディング一部テナント退去に伴う原状回復工事の売上計上の反動などで減収だったが、飯野ビルディングの新規テナント入居が2020年5月に完了して満室稼働となり、従来に比べて有利契約となったことも寄与して大幅増益だった。2020年3月に取得した英国ロンドンBRACTON HOUSEも貢献した。
純資産を着実に積み上げ
3. 財務の状況
財務面で見ると、2021年3月期末の資産合計は245,611百万円で前期末比14,523百万円増加した。船舶が新造船竣工で同14,150百万円増加、投資有価証券が評価額の増加で同2,981百万円増加した。負債合計は165,776百万円で同8,116百万円増加した。有利子負債が同5,417百万円増加、リース債務が同3,215百万円増加した。なお公募形式によるグリーンボンド(第2回無担保社債、2021年3月発行)で50億円を調達した。日比谷フォートタワーの建設事業費に充当する。これに先立って、(株)日本格付研究所よりグリーンボンド評価及びグリーンローン評価(最上位のGreen1)、日本政策投資銀行よりDBJ環境格付において「環境への配慮に対する取り組みが先進的」との格付を取得している。
純資産は79,835百万円で同6,407百万円増加した。利益剰余金を着実に積み上げていて、また保有投資有価証券の株価上昇に伴って、その他有価証券評価差額金が同2,300百万円増加した。この結果、自己資本比率は32.5%で0.8ポイント上昇した。海運業と不動産業を両輪に安定収益基盤を構築しており、財務健全性に大きな問題は無いと判断できるだろう。
(執筆:フィスコ客員アナリスト 水田雅展)
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