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飯野海運 Research Memo(7):2030年に向けた中期経営計画

注目トピックス 日本株
■飯野海運<9119>の成長戦略

1. 中期経営計画「Be Unique and Innovative.:The Next Stage -2030年に向けて-」
長期ビジョン「IINO VISION for 2030」の実現に向けて、中期経営計画「Be Unique and Innovative.:The Next Stage -2030年に向けて-」(2021年3月期〜2023年3月期)を策定している。目標値には2023年3月期売上高900〜1,100億円、営業利益75〜85億円(市況変動を考慮して海運業が25〜35億円のレンジ計画、不動産業が50億円)、経常利益70〜80億円、親会社株主に帰属する当期純利益70〜80億円、EBITDA195〜205億円、ROE8〜9%、D/E Ratio最大2.0倍を掲げている。3ヶ年累計の営業キャッシュ・フローは550億円、事業投資は450億円としている。成長、安定、環境の3分野にバランス良く投資する方針だ。

重視する指標として、収益性では事業投資損益やキャッシュ・フローも意識して経常利益及びEBITDA、効率性では資本コストを意識してROE、健全性では財務基盤の規律を維持するためD/E Ratioを設定した。3項目をバランス良く管理し、持続可能な成長を目指す方針だ。

2. 重点強化策
独自のビジネスモデル「IINO MODEL」の形成、高品質なサービス「IINO QUALITY」の提供を追求して、自社の経済的価値を高めると同時に、サステナビリティ(持続可能性)への積極的な取り組みによって、環境保全を含めた社会的ニーズに対応することで社会的価値をも創造し、共通価値の創造(CSV=Creating Shared Value)を目指すとしている。

共通価値を創造するための重点強化策にはグローバル事業の更なる推進、安定収益基盤の更なる盤石化、サステナビリティへの取り組みを掲げ、企業の基盤・土台の盤石化に向けた基盤整備項目には船舶・ビル管理の品質向上と安全徹底、コスト競争力の強化、人的資本の育成・強化、海外拠点の更なる活用、DX(Digital transformation:デジタルトランスフォーメーション)の推進加速、ESG(環境・社会・ガバナンス)・SDGs(持続可能な開発目標)への対応強化を掲げている。

グローバル事業の更なる推進では、グローバル体制を推進する競争力の強化としてケミカルタンカーの既存中東航路以外の航路進出に向けた取り組み強化、ガス船及びドライバルク船の新規貨物・新規航路への取り組み強化など、グローバル体制を支える組織力の強化として海外事務所の人材増員・機能強化などを推進する。

安定収益基盤の更なる盤石化では、不動産事業強化への取り組みとして長期的視野での安定収益源となる都心基幹物件の獲得、海外・地方物件への進出など、またエネルギー輸送の更なる強化として安定的な船隊整備の推進、既存契約荷主への高品質サービスの継続、安定的かつ高品質なエネルギー輸送の供給継続などを推進する。

サステナビリティへの取り組みでは、環境負荷低減に資する資産への投資として大型で燃費効率の良いエンジンを採用した船舶への投資強化(CO2排出率削減と経済効率性向上)、所有ビルにおけるエネルギーミックス改善(再生可能エネルギーへの転換やLED等の設備導入)に注力する。また次世代燃料船の取り組み強化(LNG・LPG・メタノール等を燃料とする船舶への投資)や2元燃料船の運航・管理ノウハウの高度化、サステナブルな貨物(環境負荷が少ない貨物や、飢餓・貧困の撲滅に資する貨物)の取り組み強化としてLNG・穀物・肥料等の運航ノウハウの蓄積や荷主との関係強化を目指し、加えて新規ビジネスの開拓を推進する。

また2030年に向けて新たな価値を創造すべくDXの推進を加速する。デジタル化基盤を整備し、安全運航の質向上(船陸のリアルタイム通信、最適航路モニタリング、故障予兆技術の活用など)、ESG推進サポート(CO2削減、燃費向上、多様な働き方の実現など)、業務改革(付加価値の高い業務に集中できる環境の整備、ノウハウが伝承される組織体制の強化など)といった新たな価値の創出を目指す。基幹システムの刷新に関しては2021年3月期から順次、段階的に取り組んでいる。

重点強化策のため、2020年8月から「IINO 環境タスクフォース」及び「IINO DXタスクフォース」を設置し、組織横断的な対応を推進している。また、2021年6月25日付で海外拠点の活動を統括する海外戦略担当と新規事業の企画調査立案を行う事業開発推進部を統合し、事業戦略部を新設した。世界的な視野でニーズをとらえ、サステナビリティに寄与する新規事業の展開を図る。

3. 中期経営計画最終年度の目標達成は可能
中期経営計画の進捗状況で見ると、コロナ禍の影響で海運市況が大きく変動していることもあり、2021年3月期実績は市況高騰で利益が1年目(2021年3月期)の計画を大幅超過達成したが、2022年3月期予想は一転して市況高騰の反動などで2年目(2022年3月期)の計画に対して大幅未達の見込みとしている。

2021年3月期連結業績実績と中期経営計画策定時点との差異については、海運業(中期経営計画比で営業利益+25億円)ではケミカルタンカーの市況が2020年春に上昇したため+6億円、大型ガス船の市況が特に年末にかけて高騰したため一部運航船が恩恵を受けて+11億円、ドライバルク船の市況が夏頃から上昇して想定より高水準だったため+8億円としている。コロナ禍(出入国制限、感染予防策など)による船員交代のための費用増はマイナス要因だった。また不動産業(同+6億円)では事務所テナントの稼働が堅調に推移して+2億円、商業テナント・イイノホール・フォトスタジオへのコロナ禍のマイナス影響が想定を下回ったため+4億円だったとしている。

2022年3月期連結業績予想と中期経営計画策定時点との差異については、海運業(中期経営計画比で営業利益-22億円〜-32億円)では大型原油タンカーが修繕のための引当金増加などで-3億円、大型ガス船が運航船売却による稼働減少などで-5億円〜-7億円、ケミカルタンカーがコロナ禍の影響による荷動き鈍化・市況回復遅れなどで-18億円〜-24億円、ドライバルク船が市況回復で+1億円〜+3億円としている。コロナ禍の影響(出入国制限、感染予防策など)による船員交代のための費用増なども影響している。また不動産業(同-7億円)では一部ビルにおける営繕費の増加が-3億円、コロナ禍によるイイノホール&カンファレンスセンター、フォトスタジオの稼働減少が-4億円としている。

中期経営計画策定時点(2020年5月)では、2022年3月期はコロナ禍が収束してケミカルタンカー市況が上向いていることを想定していたが、影響長期化によって2022年3月期予想が計画から下方乖離する形になった。しかし前述のように、ワクチン接種の進展によってコロナ禍の影響が和らぎ、石油製品の需要回復でプロダクトタンカーのケミカルタンカー市場からの退出が進めば、ケミカルタンカー市況が上昇する見込みだ。また安定収益源となる中長期契約の積み上げ、効率配船による採算性向上、環境配慮型船の投入も推進する。不動産業においては飯野ビルディングが満室稼働であり、2023年3月期には営繕費の減少や2022年3月期中に竣工した日比谷フォートタワーの寄与も本格化する見込みだ。中期経営計画最終年度(2023年3月期)の計画達成は可能と考えられる。

(執筆:フィスコ客員アナリスト 水田雅展)




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