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老朽化構造の自動劣化診断システムの開発

独立行政法人新エネルギー・産業技術総合開発機構
群馬大学大学院工学研究科


センサを取り付けるだけで構造物の老化診断を可能とする自動モニタリングシステムと損傷時データなど事前情報を必要としない『統計的無学習損傷診断法』を開発
橋梁など鋼構造建造物から車軸など動体物まで用途多彩



【新規発表事項】 
 独立行政法人新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO技術開発機構)の産業技術研究助成事業(予算規模:約50億円)の一環として、群馬県桐生市にある群馬大学准教授、岩崎篤氏は、老朽化構造の自動劣化診断システムを開発しました。
 これは、構造に発生する損傷・異常に対する事前情報不要、老朽化が問題となっている構造に対して現時点から設置して現状からのさらなる劣化の評価を可能とするもので、各種センサの組み合わせを可能としネットワーク型計測にも対応するシステムです。
 道路トンネル用ジェットファンの異常発生モニタリングシステム「ジェイシグマ」として実用化済みのものであり、橋やビルなどの建造物のほか、交通車両の車軸などの金属疲労も察知する事が可能であり、人と社会の安全に寄与する技術としてその適用範囲は大きいと注目されています。
 特徴は構造の痛みの度合いを正確に知るシステムではなく、どのあたり? どの程度? とおおまかに把握するシステムであり、「違和感を感じるシステム」を構造に付与するという考え方に基づく画期的なものです。



1.研究成果概要
 当研究は供用中の既存の構造物(都市構造や生産施設等)に対し現時点から設置可能な、健全性の自動診断法の構築およびシステム化を目的としたものです。実際の破壊試験等による構造物の損傷時の挙動解明や、構造物の現在の状態の正確な把握が不要な診断手法であり、経年構造物の老朽化度のモニタリングを実施する作業員の錬度に左右されない定量的診断(絶対的診断)を実現します。具体的には、有線・無線LANによるデータ収録や自動診断、異常発生時のネットワークを通じた自動的な警報発令を組み合わせることにより簡便な実用性と利便性を兼ね備えた自動劣化モニタリングが可能です。


2.競合技術への強み
1)人の痛覚は痛点(痛みを感じる場所)20〜30万個とそれを結ぶ神経網の存在に基づき成立しますが、「多数の痛点」ではなく「違和感を感じるシステム」とすることで、従来の診断システムとは異なり、少数のセンサで構造の劣化を自己診断するシステムを開発しました。
2)任意の計測量・計測パラメータの変動ではなく、計測量間の相関の確率論的な変動検出に基づき損傷発生の評価を行うので、ノイズに強く損傷に対する事前情報(過去からの情報蓄積)を必要としません。
3)よって老朽化した既設構造に対して、現在からセンサの敷設のみで自動モニタリングシステムの構築が可能です。
4)構造劣化の評価には人的判断を要せず作業員の錬度に左右されない定量的診断が可能となりました。
5)データ転送量が軽減される。異常と判断されたときだけ診断結果のみを送信(数10KB程度)するため、2世代前の携帯電話のネットワークで十分です。
6)車両などの物体については、停止点検をせずに連続運転中での評価が可能です。
7)現時点ではほとんどの分野でCBM(モニタリングに基づくコンディションベースドメンテナンス)と検査の意志決定は直接連動していません。当技術のようにCBMによる損傷評価が検査の意志決定として使われるようになれば、検査業務の平準化が期待でき(過剰に検査員や機器を待機させる必要がなく)この点につき大幅なコスト削減につながると期待されます。


■構造物の損傷診断手法に関する従来・競合技術との比較

・一般的な損傷診断手法(経験的手法等)
損傷診断法:パラメータ変動
損傷事前データ:必要
データ送付量:数GB程度
高ノイズ環境下使用:困難
コスト:[集中監視システムおよび熟練検査員の人的コスト]+メンテナンスコスト
正確性:個々のセンサの精度および観測者の練度に依存

・統計的無学習損傷診断(当システム)
損傷診断法:パラメータ間相関変動
損傷事前データ:不要
データ送付量:数10KB程度
高ノイズ環境下使用:自動で対応可能
コスト:メンテナンスコストのみ
正確性:対象とする損傷に対する検出確率を定量的に導出可能





3.今後の展望
 当システムは「ジェイシグマ」として、道路トンネル用ジェットファン向けに実用化されていますが、損傷発生の評価だけでなく損傷の進展の評価も可能であることから、今後さらに航空機、燃料電池車の素材である炭素繊維強化複合材料のはく離損傷診断や工場プラントの施設の劣化診断等の損傷進展度合いの評価法として、あるいは損傷評価ではなく誤検出に悩まされている既存の警報システムで真の警報を検出する補助システムとして活用する等、積極的に活用範囲を広げていきたいと思います。
 また測定結果の高精度化および交通車両などへの汎用化を目指して現在の提携企業以外にも共同研究先を求めていく予定です。また本技術を利用したこれら以外の他分野への応用に付いても関心の高い企業との技術的ディスカッションを募集しています。
 一方、センサ間の相関が強い場合は微少な損傷を兆候段階で診断可能であるが、相関が弱い場合には検知可能な損傷程度が大きくなります。このため当面の課題としては、解析的検討・実験的な検討から様々なケーススタディを行い、診断可能な損傷程度のガイドラインを設定することが必要と考えています。

以上
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