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日中3業界NPS調査結果ーデジタル×リアルで優れたCXを提供する中国が日本に大差

「中国のデジタルサービスが進んでいる」「中国のCX/UX(※1)が優れている」そんな評判や記事を最近多く耳にするようになりました。また、Alibaba傘下のAnt Financialが、Harvard大学から「先進的かつ再現可能」なビジネスとして評価され、Harvardビジネススクールの企業事例集に取り上げられたことは記憶に新しいニュースです。

 コピー商品や、「安かろう悪かろう」の製品のイメージが根強くあった中国。しかし、そのような「偏見」はもう昔のことです。中国は今、デジタルを活用し、圧倒的なCX先進国となっているのです。日本企業は、そんな中国のサービスを牽引する中国の先進企業から学ぶことが多くある状況となっています。




■中国のNPS > 日本のNPSという実態
実際、どれほど「先進」なのでしょうか。CXを定量的に測るためにNPSNet Promoter Score推奨者の正味比率を調査しました。

NPSを調査するに当たっては、日本において旧体質とされる金融業界から「生命保険」、比較的先進的なWebサービスから「EC」、旧体質ながら先進的な取り組みが見られつつある「交通」の3業界をピックアップして、それぞれ生命保険、ECサイト、配車アプリのNPSを比較しました。

[画像1: https://prtimes.jp/i/25505/3/resize/d25505-3-513819-0.jpg ]

[画像2: https://prtimes.jp/i/25505/3/resize/d25505-3-814494-1.jpg ]


表の通り、交通、ECの両業界で、中国が最高値、平均値、最低値の全てにおいて日本を上回っています。また、保険においては、平均値、最低値について、中国の方が日本よりかなり高い数値となっています。

日本人は極めて高品質なサービスを求めやすいなどのバイアスはあるかもしれませんが、中国の各企業は消費者をより満足させられている、と、言えるのではないでしょうか。


■圧倒的な利用数を誇る中国の配車サービス
NPS以外の数値も見てみましょう。
CXが優れていることだけが要因とは一概には言えませんが、中国最大手の配車アプリ滴滴出行以下Didiは、日本の配車アプリと比較し、かなり普及しています。

[画像3: https://prtimes.jp/i/25505/3/resize/d25505-3-830110-2.jpg ]


一日あたりの利用数は日本の7,500倍以上、人口に占める利用割合は1,000倍以上になると推定されます。
上海に行ったことのある方なら実感が湧くかと思いますが、上海ではごく当たり前に、「皆がDidiを使っている」と感じる状況です。


■中国Taobaoの流通総額はAmazonの15倍以上
同様に、ECサイトも、中国の利用者数は圧倒的です。中国でMAU(Monthly Active User月間アクティブユーザ数)一位のECサイトアプリ、Taobao淘宝 (※2)のMAUは、Alibaba決算報告書によると507百万人です。(※3) これは、中国の全人口の約35%にあたります。

また、流通総額で比較しても、Taobaoの流通総額はAmazonの15倍以上と推定されています。

[画像4: https://prtimes.jp/i/25505/3/resize/d25505-3-109644-3.jpg ]


なぜ、これほどまでに数値が違うのでしょうか。
次章以降では、中国各社のサービスについて、日本各社のサービスとの違いに焦点を当てて、説明します。


■シームレスに体験に入り込むDidi
まず、両者の配車アプリから比較し、理由を考察します。
1つには、Didiが普及する以前の中国における交通事情が挙げられます。Didiが普及する前は、タクシー台数が少ないためにタクシーを捕まえにくく、さらに、運転手による乗車拒否も頻繁にありました。また、地下鉄やバスなどの公共交通機関も日本ほどには発達していませんでした。

さらにアプリが提供する体験自体にも大きな違いあり、それがNPSの違いを生んでいると考えられます。

日本の配車アプリをご存知ない方がいらっしゃると思うので、まずは全国タクシーの顧客体験を整理します。

[画像5: https://prtimes.jp/i/25505/3/resize/d25505-3-220766-4.jpg ]


 地図上で乗車位置と降車位置を指定すると、近くにいるタクシーが配車されるという仕組みです。このように、このアプリを使うと、電話で乗りたい場所を説明したり、住所を伝える必要がなく便利です。また、到着までの時間や車両番号がアプリで表示されるため、いつタクシーが到着するのかわからない、どれが自分が乗るべきタクシーなのかわからない、といったこれまでの不便を解消し、スムーズな顧客体験を提供しています。

 一方、Didiのサービスを見ていきましょう。
Didiも全国タクシーと同様、乗車位置と後車位置をアプリの地図上で指定し、配車することができます。運転手とメッセージでやりとりができるという細かな差異もありつつ、配車にまつわる機能という意味ではほぼ同様です。しかし、ユーザの利用文脈を捉えているという点で、顧客体験が優っていると考えています。
具体的な利用シーンを例に挙げて説明します。

[画像6: https://prtimes.jp/i/25505/3/resize/d25505-3-600914-5.jpg ]


このようにDidiは、飲食店などのサイトの地図に組み込まれている百度マップ日本で言うgoogle map)から配車が可能になっています。


[画像7: https://prtimes.jp/i/25505/3/resize/d25505-3-970318-10.jpg ]

[画像8: https://prtimes.jp/i/25505/3/resize/d25505-3-889834-11.jpg ]


日本の場合と比較し、Didiは、顧客が配車をする文脈・行動を捉え、シームレスにDidiの利用に繋げています。

■徹底したアフターサポートを行うTaobao
続いて、ECの顧客体験、中国のTaobaoについて、詳しく見ていきます。Taobaoはマーケットプレイスですので、各社でサービス品質に多少のばらつきは見られます。そのため、今回紹介する顧客体験は、弊社ビービットの上海オフィスメンバーの購買体験を例として挙げる形とします。必ずしも全購買体験に当てはまるものではない可能性もあることをご了承ください。

例えば服を購入した場合。何となくMサイズを選択したBさんでしたが、そのあと、taobaoの店舗からチャットが送られてきました。

[画像9: https://prtimes.jp/i/25505/3/resize/d25505-3-918288-7.jpg ]


上記はあくまで一例ですが、Taobaoでは24時間のチャットサポートが受けられます。それも、普段利用するチャットアプリでやり取りをするので、簡単です。
Bさんの場合、衣服を購入したあと、チャットサポートでサイズ変更の提案を受け、そのチャットだけでサイズ変更手続きを完了させることができたのです。

一方、日本、例えばAmazonだと、サイズ変更や注文のキャンセル、あるいは届いた商品の返品をするときには、サイトのマイページに行く必要があります。そして、どこから変更をするのかわからず探すのに時間がかかったという経験がある方も多くいるのではないでしょうか。

「購入まで」に加えて「購入後」も徹底して顧客に寄り添い、サポートを行なっているTaobaoの様子が見受けられます。


■顧客のヘルスケア全体を支える平安保険
続いて、保険サービスについて見ていきます。
中国の平安保険は、Forbes 2000の2017年のランキングで16位、Fortune2016年のランングで41位の大企業です。
背景として、中国では日本よりも人口あたりの医師が少ない(※4)ため、病院にかかりづらい、待ち時間も地域によっては数日かかるといった状況があるのですが、そのような環境において、平安保険は、顧客の健康に関するペインポイントを的確に捉え、優れたサービスを提供しています。 万一の際に金銭のサポートするだけではなく、平常時から、軽度の症状が発見されたときも含めて「ヘルスケア」に関わる体験を一貫してオンラインでサポートしているのです。

[画像10: https://prtimes.jp/i/25505/3/resize/d25505-3-177430-8.jpg ]

例えば、特に病気の症状などが見られていない平常時においては、顧客の健康状況を把握し、情報提供や健康商品のオンライン販売を行なっています。また、病院に行くほどではないレベルの軽度な体調不良、例えば頭痛や、咳が出る、などの、なかなか病院にかかりづらい状況において、スマホアプリ「平安好医生」Ping An Good Doctorから、平安保険が提携する医師とオンライン上で健康相談ができます。

また、症状が重く、病院を受診する必要がある場合は、同アプリから提携病院や診療所の予約を行い、診療を受けられます。診療後、薬の購入が必要であれば、オンラインで薬を購入することも可能です。
さらに、保険料の支払いや保険金の給付、薬の購入といったお金にまつわる手続きも、全てオンラインで行うことができます。

ここで主張したいのは、平安保険が様々なサービスを提供している、ということではありません。中国の医療事情の中で、顧客の健康に関する困りごとを捉え、さらに一貫して、アプリを通じて解決しているという点です。健康に関して困ったことがあっても、平安保険のアプリを入れてさえいれば、全てオンラインから問題の解決ができるという状態を実現しているのです。

弊社上海オフィスで平安保険の顧客に行ったユーザインタビューでは、「私は平安保険に守られていると感じます」という顧客の声も複数聞かれました。平安保険が顧客の生活に入り込み、優れたCXを提供していることが伺えます。

日本の医療事情は確かに優れていますが、待ち時間が長い、地方だと専門医にかかりづらいなど、顧客にとってのペインポイントは存在しています。また、ワーキングマザーが増えているにも関わらず、夕方で閉まるクリニックが多く、仕事を休まないとクリニックにはかかれない、夜は救急外来しかない、といった状況もあります。
国の事情は違えど、このような健康にまつわるペインポイントを捉え、サービスを提供できている大手金融機関はあるでしょうか。
また、保険会社の手続きにおいても、多くの場合は、利用したいサービスや行いたい手続きに応じて、都度、適切な連絡先を調べ、電話番号に電話する、あるいは書類を送る必要があるという状況です。


■良質な顧客体験を生む中国企業の組織基盤
ここまで、交通、EC、保険の優れた顧客体験を紹介、解説してきました。いずれのサービスも、サービスを利用するユーザの背景を踏まえ、サービスの利用前後に渡り、優れた顧客体験を提供しています。
なぜ、中国企業はこのような優れた顧客体験を実現し、そして顧客から支持を得られているのでしょうか。私は、中国企業各社が、良質な顧客体験を生み出す組織的基盤や文化をすでに確立していることに着目しています。

例えば、ECサイトTaobaoを運営するAlibabaは2014年ごろからNPSを取得し、指標として追っています。また、社内にUser Experience Design University(UED)を設立、社内の選抜メンバーをアサインし、国内外のCXについて知見を深めています。

平安保険も、NPSを指標として掲げている上、社内に約40人からなるCX部門を設立。「CXマネジメントプロセス」と呼ばれる業務プロセスも確立していると言われてます。
また、2017年4月20日、中国平安グループは、複数差別化サービスの同時リリース会見において、自社を「中国最大の、金融切口で複合的なCXサービスを提供するグループ」と自己紹介しています。「金融商品」ではなく、商品を通じて実現する「CX」を提供すると、掲げているのです。

同様に、中国三大インターネット企業の一社であるTencentは、2005年から社内にユーザ行動観察調査ルームを開設しています。ユーザ行動観察調査ルームで、各種サービスや製品のデザインをユーザにみせ、良いデザインになっているかどうか判断しているのです。「良いデザインかどうかを判断するのは役員ではなく顧客である」。これがTencentの考えです。(※5)
また、2016年11月17日のWorld Internet Conference / Wuzhen Summitにおける、馬社長の談話も印象的です。

「ユーザ中心の価値観をいかに設計段階から一個一個の製品に反映させ、いかに従業員一人ひとりの心の奥底まで浸透させるかに、もっともっと注力しなければいけない。」

上記はほんの一例ですが、これらのトップの発言や組織体制から見られるように、中国のトップ企業各社で、顧客体験を向上するための組織的基盤や文化が定着してきていることが伺えるのではないでしょうか。


■顧客志向経営を実現する企業が勝ち残る
これまで見てきたように、中国の先進企業各社は顧客志向の経営を実現し、素晴らしい顧客体験を提供しています。そして、冒頭であったように、高いNPSを獲得し、業績を向上させています。
その背景には、中国政府が「互聯網+(イン ターネットプラス)」戦略を打ち出し、インターネットと従来のサービスの融合を推進しているなど、企業努力だけにはよらない社会的要因もあると言われています。

しかし、もし、良質な顧客体験を生みだす力を持つ中国企業が日本に進出してきたとき、日本国内の顧客は、自社を選び続けてくれるのでしょうか。
実際、中国の自転車の共有サービス最大手の「摩拝単車モバイク」が2017年6月に日本でサービスを開始すると発表しました。日本の法規制の中で、中国と全く同じ体験を作り出すことはできないとは予想されていますが、どのような体験を実現していくのか期待されています。

今、私たち日本企業は危機感を持って、CX先進国 中国から、多くのことを学ぶフェーズに来ているのではないでしょうか。


■執筆者
株式会社ビービット取締役 武井由紀子

■株式会社ビービットについて http://www.bebit.co.jp/
設立 : 2000年3月
代表者 : 代表取締役 遠藤直紀
事業内容 : デジタル時代の顧客志向経営・ビジネス変革支援、行動観察によるユーザエクスペリエンスデザインを軸に、経営変革支援・サービス開発/改善支援・デジタルマーケティング支援を行う。
2012年に台湾、2013年に上海と海外現地法人を設立。
また、デジタルマーケティングでのコンサルティング経験を元に広告効果測定ツール「ウェブアンテナ」、およびデジタル行動観察ツール「ユーザグラム」を提供。

■注記・参照元
※1本稿では、顧客の体験を意味する言葉として「CX」を用いる。
※2http://eczine.jp/news/detail/3735
※3 http://www.alibabagroup.com/en/ir/presentations/pre170518.pdf
※4 WHO Density of physicians(total number per 1000 population, latest available year) http://www.who.int/gho/health_workforce/physicians_density/en/
※5http://www.woshipm.com/zhichang/315844.html
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