自動車排ガス浄化のキーテクノロジー〜大容量酸素吸蔵(ストレージ)物質〜
[08/07/24]
提供元:PRTIMES
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独立行政法人新エネルギー・産業技術総合開発機構
熊本大学大学院自然科学研究科
酸素吸蔵放出量が中高温域で既存物質を8倍近く上回る大容量酸素吸蔵物質を開発
自動車価格の約1割を占め、自動車の排ガス浄化として使用されている貴金属の使用量を
大幅に低減する技術として期待される
【新規発表事項】
独立行政法人新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO技術開発機構)の産業技術研究助成事業(予算規模:約50億円)の一環として、熊本大学助教の池上啓太氏は、自動車排ガス浄化のキーテクノロジーとなる、まったく新しい大容量酸素吸蔵(ストレージ)物質を開発しました。
酸素吸蔵物質は、自動車排ガス浄化用三元触媒において排ガス中の酸素分圧の自動制御に広く利用されていますが、既存の酸素吸蔵物質(CeO2-ZrO2)は、SO2の吸着性が高いうえ高濃度のH2Sを放出するという問題点があり、吸蔵物質の構造上、酸素吸蔵量の大幅な向上が期待できませんでした。
本研究は光触媒の原料研究という従来物質と全く異なった着眼点から出発し、その8倍ものストレージを可能にしました。すなわち、既存セリア系物質の酸素吸蔵量0.25mol/mol以下に対して2mol/molを達成すると同時に、吸蔵速度も既存セリア系物質の2倍を実現しました。より広範なエンジンモードへの対応、自動車排ガス浄化に十分な速度、SOx耐性、粒子状物質の燃焼活性をもつことが実証できましたので、今後、次世代自動車触媒として期待されます。
1.背景および研究概要
開発したオキシ硫酸塩は、酸素吸蔵放出量が中高温域で既存物質を8倍近く上回り、より広範なエンジンモードに対応できること、自動車排ガス浄化に十分な速度を持つこと、SOx耐性を有することがラボスケールのみならず模擬実用条件でも実証され、当初の目標を上回りました。Pr(プラセオジム)の資源的リスクに関しては、よりクラーク数(地殻中に含まれる元素の割合を算出した数値)上位で希土類元素の中でも資源的に豊富なLa-Ce複合系で代替し、Pr系以上の性能を発現させるという元素戦略を確立しました。
2.競合技術への強み
希土類オキシ硫酸塩Ln2O2SO4はH2、CO、C3H6などによってLn2O2Sへと還元され(酸素放出)、O2などによって可逆的に再酸化される機能を持ちます(酸素吸蔵)。一連のLnの中でPr系の還元・再酸化が最も速く、低温で作動することを明らかにしました。酸素ストレージの低温作動性を向上させるためにドデシル硫酸塩(DS)を始めとする界面活性剤を用いたテンプレート法によってオキシ硫酸塩ナノ多孔体の合成に成功し、従来の合成法で得た試料よりもストレージ速度が8倍も増加することを実証しました。本酸素吸蔵物質を自動車用の排ガス浄化触媒と併せて活用することで排ガス浄化能がより向上し、これにより自動車に使用されている貴金属の使用量を大幅に低減することができます。
【セリア系物質と希土類オキシ硫酸塩との比較】
<セリア系物質(CeO2)>
酸化還元反応:Ce4+?Ce3+間
酸素吸蔵量(OSC):0.25 mol-O2?mol-1
コスト面:優れる
Sox耐性:なし
粒子状物質の燃焼活性:あり
<希土類オキシ硫酸塩(Ln2O2SO4)>
酸化還元反応:S6+?S2-間
酸素吸蔵量(OSC):2mol-O2?mol-1(セリア系物質の8倍のOSC)
コスト面:やや劣る
Sox耐性:あり
粒子状物質の燃焼活性:あり
3.今後の展望
・従来から連携関係にある自動車企業と密接に協力しながら、自動車価格の約1割を占める触媒用貴金属の使用量を低減するための基盤技術としての展開を図っていく予定です。
・試験的には500時間を想定していますが、実用化(10年間使用)のシミュレーションをしてデータを取得していきます。
・これまで実現困難とされたディーゼル燃料や硫黄分を含む軽油にも適用可能な次世代の自動車排ガス浄化触媒の開発を目指します。
・本成果をもとに、酸素ストレージ物質の新規用途を開拓します。特に次世代エネルギーとして待望されている水素を大容量で吸蔵する機能を設計し、環境浄化技術だけにとどまらず、水素エネルギー技術としての新しい応用を世界に先駆けて展開する予定です。
熊本大学大学院自然科学研究科
酸素吸蔵放出量が中高温域で既存物質を8倍近く上回る大容量酸素吸蔵物質を開発
自動車価格の約1割を占め、自動車の排ガス浄化として使用されている貴金属の使用量を
大幅に低減する技術として期待される
【新規発表事項】
独立行政法人新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO技術開発機構)の産業技術研究助成事業(予算規模:約50億円)の一環として、熊本大学助教の池上啓太氏は、自動車排ガス浄化のキーテクノロジーとなる、まったく新しい大容量酸素吸蔵(ストレージ)物質を開発しました。
酸素吸蔵物質は、自動車排ガス浄化用三元触媒において排ガス中の酸素分圧の自動制御に広く利用されていますが、既存の酸素吸蔵物質(CeO2-ZrO2)は、SO2の吸着性が高いうえ高濃度のH2Sを放出するという問題点があり、吸蔵物質の構造上、酸素吸蔵量の大幅な向上が期待できませんでした。
本研究は光触媒の原料研究という従来物質と全く異なった着眼点から出発し、その8倍ものストレージを可能にしました。すなわち、既存セリア系物質の酸素吸蔵量0.25mol/mol以下に対して2mol/molを達成すると同時に、吸蔵速度も既存セリア系物質の2倍を実現しました。より広範なエンジンモードへの対応、自動車排ガス浄化に十分な速度、SOx耐性、粒子状物質の燃焼活性をもつことが実証できましたので、今後、次世代自動車触媒として期待されます。
1.背景および研究概要
開発したオキシ硫酸塩は、酸素吸蔵放出量が中高温域で既存物質を8倍近く上回り、より広範なエンジンモードに対応できること、自動車排ガス浄化に十分な速度を持つこと、SOx耐性を有することがラボスケールのみならず模擬実用条件でも実証され、当初の目標を上回りました。Pr(プラセオジム)の資源的リスクに関しては、よりクラーク数(地殻中に含まれる元素の割合を算出した数値)上位で希土類元素の中でも資源的に豊富なLa-Ce複合系で代替し、Pr系以上の性能を発現させるという元素戦略を確立しました。
2.競合技術への強み
希土類オキシ硫酸塩Ln2O2SO4はH2、CO、C3H6などによってLn2O2Sへと還元され(酸素放出)、O2などによって可逆的に再酸化される機能を持ちます(酸素吸蔵)。一連のLnの中でPr系の還元・再酸化が最も速く、低温で作動することを明らかにしました。酸素ストレージの低温作動性を向上させるためにドデシル硫酸塩(DS)を始めとする界面活性剤を用いたテンプレート法によってオキシ硫酸塩ナノ多孔体の合成に成功し、従来の合成法で得た試料よりもストレージ速度が8倍も増加することを実証しました。本酸素吸蔵物質を自動車用の排ガス浄化触媒と併せて活用することで排ガス浄化能がより向上し、これにより自動車に使用されている貴金属の使用量を大幅に低減することができます。
【セリア系物質と希土類オキシ硫酸塩との比較】
<セリア系物質(CeO2)>
酸化還元反応:Ce4+?Ce3+間
酸素吸蔵量(OSC):0.25 mol-O2?mol-1
コスト面:優れる
Sox耐性:なし
粒子状物質の燃焼活性:あり
<希土類オキシ硫酸塩(Ln2O2SO4)>
酸化還元反応:S6+?S2-間
酸素吸蔵量(OSC):2mol-O2?mol-1(セリア系物質の8倍のOSC)
コスト面:やや劣る
Sox耐性:あり
粒子状物質の燃焼活性:あり
3.今後の展望
・従来から連携関係にある自動車企業と密接に協力しながら、自動車価格の約1割を占める触媒用貴金属の使用量を低減するための基盤技術としての展開を図っていく予定です。
・試験的には500時間を想定していますが、実用化(10年間使用)のシミュレーションをしてデータを取得していきます。
・これまで実現困難とされたディーゼル燃料や硫黄分を含む軽油にも適用可能な次世代の自動車排ガス浄化触媒の開発を目指します。
・本成果をもとに、酸素ストレージ物質の新規用途を開拓します。特に次世代エネルギーとして待望されている水素を大容量で吸蔵する機能を設計し、環境浄化技術だけにとどまらず、水素エネルギー技術としての新しい応用を世界に先駆けて展開する予定です。