理研「SACLA×GENIUS」:養老孟司氏インタビュー。「SACLA」を使えるならやっぱり昆虫を見てみたい
[15/03/31]
提供元:PRTIMES
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「SACLA×GENIUS」最新情報!【第5回ゲスト】解剖学者 養老孟司氏インタビュー
世界最先端施設であるX線自由電子レーザー施設「SACLA(サクラ)」のスペシャルサイト内
「SACLA×GENIUS」のコーナーにて、第5回目のゲストとなる解剖学者 養老孟司氏
をお迎えし、センター長の石川 哲也との対談を実施
独立行政法人理化学研究所 放射光科学総合研究センター(兵庫県播磨地区、
センター長 石川 哲也、以下 理研 放射光センター)では、世界最先端施設である
X線自由電子レーザー施設「SACLA(サクラ)」のスペシャルサイト内
「SACLA×GENIUS」のコーナーにて、第5回目のゲストとなる解剖学者 養老孟司氏
をお迎えし、センター長の石川 哲也との対談を実施しました。
[画像1: http://prtimes.jp/i/7999/8/resize/d7999-8-298442-0.jpg ]
X線自由電子レーザー施設「SACLA(サクラ)」とは、「ミリ(mm)」→
「マイクロ(micro)」→「ナノ(nano)」に続く小ささを表す単位「ピコ(pico)」
の世界を見ることができる、いわばX線を使った“巨大な顕微鏡”です。原子や細胞
レべルも観察できることから、生命の神秘の解析や、医療の発展の研究などに貢献
している世界最先端施設です。
[画像2: http://prtimes.jp/i/7999/8/resize/d7999-8-270663-4.jpg ]
今回は、この「SACLA」のスペシャルサイト内、「SACLA×GENIUS」のコーナー
に、著書に『バカの壁』『唯脳論』などのベストセラーを持つ養老孟司氏をお迎え
し、専門の解剖学や、デジタル図鑑を作ってしまうほど探究されている昆虫につい
ての知識を交え、石川センター長と「SACLA」をフックに「最先端研究の課題と
意義」について語っていただきました。
同じ「サイエンス」という分野でありながら、生物学の養老氏と、物理学を専門
とする石川センター長とが、その研究プロセスの違いや驚きを真正面に語ります。
専門分野同士での対談は難解なのでは?と思うことなかれ、分野外の方でも、
これまで知り得なかった身近な「科学」の世界に思わず引きずり込まれてしまう、
そんなお二人の「SACLA」から広がる対談をお楽しみください。
「SACLA×GENIUS」コーナーURL: http://xfel.riken.jp/pr/sacla/?cat=2
■SACLAを使えるなら、やはり昆虫を見てみたい
※以下、インタビュー内容を一部抜粋
◇解剖学も昆虫採集も、研究の基盤となるものは『観察』
MC:解剖学者の養老さんにとって、SACLAのような「ものを観察する」装置は身近な
存在なのでは?
養老氏(以下、Y):僕が大学の研究室にいたのは20年ほど前ですが、当時最新の
電子顕微鏡でいろんな細胞を見た記憶があります。(SACLAが解析した
タンパク質の画像を見ながら)それでも、当然これほど細かく見ることはでき
ませんでした。
石川センター長(以下、I):SACLAでは強力なX線レーザーにより「ピコ(1ミリ
メートルの10億分の1)」という単位まで見ることができるので、これほど
詳細に解析できたのです。20年くらい前なら、ひとつのタンパク質の構造を
解析できただけで「プロフェッサー」がもらえた時期でしたね。
Y:それだけじゃなくて、ノーベル賞がもらえましたよ(笑)。
MC:養老さんがSACLAを自由に使えるとしたら、やはり昆虫の仕組みを観察します
か?
Y:そうですね。関節だけじゃなく、触覚がどうなっているのかも見てみたい。
僕が触覚に興味を持つようになったきっかけは、ネズミのヒゲ。あれは毛の
根本に静脈があって血液が溜まっています。水たまりに棒が突っ込まれている
ようなかたちですね。あれは耳の代わりなんです。
◇物理学と生物学が交差するから大変で、面白い
I :私のバックグラウンドは物理学です。そこでは、同じ測定を3回やって同じ結果
が出れば正しいとされます。
しかし、生物学の方は、まずものすごい量のデータをとって、それを分析して
から結論を出しますよね。同じサイエンスでもやっていることがこんなに違う
のかと驚きます。
Y :そのお話で僕がよく考えるのは羊のクローン「ドリー」です。ドリーを作った
博士がテレビのインタビューに出ていて、「これは何例目での成功ですか?」
と聞かれていました。すると、「だいたい1000例目だ」と答えたんです。
日本では嘘つきのことを「千三(せんみつ)」と言います。それは嘘つきと
いうのは「1000回に3回くらいしか真実を言わない」という意味なんですが、
ドリーはそれよりも確率が悪い。しかも、本当にあれが1000例目だとしたら、
残りの999例はなぜ失敗したのか。実はそれもよくわかっていない。
ただ、実際にクローンはできてしまった。再現性はまったくないのだけど、
「できちゃったんだからしょうがない」と認めているわけです。その発想は
生物学ならではですね。
I :私たちは数学的帰納法の世界ですから、いつも違う結果が出たらやっていけ
ない(笑)。
MC:つまり、生物学は「うわ、違う!」とおどろくため、物理学は「やっぱり同じ
だ!」と納得するために観察をしているわけですね。そこを一般の人は同じ
サイエンスだと考えてしまっていると。
Y :だからSACLAを使った研究は、物理学と生物学が交差するところだから大変だと
思うのです。
I :ヒトで言えば、物理学の装置を使えば細胞が見えるようになるけれど、その
組み合わせが膨大にあるから「見える=わかる」に直結しないわけです。
でも、何とかしてわかりたいと四苦八苦しています(笑)。やっている人たち
はそれぞれに楽しんで働いていますけどね。
MC:ただ、外野から理解が難しい領域のものは、しばしば「何の役に立つんだ」
と批判されたりします。
Y :僕は小さい頃から「昆虫の何が面白いんだ」と言われてきました。それも自分
の親から。人間というのは、生みの親でも理解できないものは理解できない。
これこそ生物多様性でしょう(笑)。
[画像3: http://prtimes.jp/i/7999/8/resize/d7999-8-628424-2.jpg ]
・「SACLA×GENIUS」について
世界一小さいものが見えるX線レーザー施設 「SACLA」 は、 日本の未来に目覚ましい
発展をもたらすと期待されていますが、 その仕組みの難解さから、一般の方々に内容
を十分にお伝えすることはこれまで非常に困難でした。
そこで、 理研 放射光センターでは、「SACLA」を、多くの方々に楽しみながら
身近に感じて頂くためのスペシャルサイトを2013年7月3日(水)にオープンしま
した。
さらに同年8月8日(木)には、「SACLA×GENIUS」のコーナーをスペシャルサイト
内に開設することとなり、第1回目のゲストに北野武さんをお迎えするなど、毎回
各界の著名な方々をゲストに迎え、ピコの世界で見てみたいモノや「SACLA」への
期待、魅力を語って頂いています。
<インタビュー風景>
■胸が躍る、分野を超えたサイエンス談議に「へぇ〜!」の連続
脳科学、解剖学をはじめとした医学・生物学の領域に幅広い知識をお持ちの
養老先生と、物理学をバックグランドとされ、SACLAを使った世界最先端の研究に
取り組んでいる石川センター長の対談は、これまでにないスケールで話が進んで
いきました。その中で、昆虫の「歯車関節」についてや、「ネズミのヒゲ」が耳の
代わりをしていること、はたまた「人間の脳はさぼる」ことなどが披露され、
「へぇ〜!」が連続したあっという間の2時間。そして最後には、「SACLAは物理学
と生物学が交差するサイエンスだからこそ、大変で、面白い」という次元の高い
結論が導きだされ、本シリーズの最後を飾るにふさわしい、とてもステキな対談と
なりました。
■養老孟司氏プロフィール
(ようろうたけし)
1937年、鎌倉市生まれ。東京大学医学部卒業後、解剖学教室に入る。95年に
東京大学医学部教授を退官。同大学名誉教授に。1989年、『からだの見方』で
サントリー学芸賞を受賞。以後、『唯脳論』『人間科学』『バカの壁』『養老訓』
など多数の著作を上梓。昆虫研究家としての顔も持つ。
世界最先端施設であるX線自由電子レーザー施設「SACLA(サクラ)」のスペシャルサイト内
「SACLA×GENIUS」のコーナーにて、第5回目のゲストとなる解剖学者 養老孟司氏
をお迎えし、センター長の石川 哲也との対談を実施
独立行政法人理化学研究所 放射光科学総合研究センター(兵庫県播磨地区、
センター長 石川 哲也、以下 理研 放射光センター)では、世界最先端施設である
X線自由電子レーザー施設「SACLA(サクラ)」のスペシャルサイト内
「SACLA×GENIUS」のコーナーにて、第5回目のゲストとなる解剖学者 養老孟司氏
をお迎えし、センター長の石川 哲也との対談を実施しました。
[画像1: http://prtimes.jp/i/7999/8/resize/d7999-8-298442-0.jpg ]
X線自由電子レーザー施設「SACLA(サクラ)」とは、「ミリ(mm)」→
「マイクロ(micro)」→「ナノ(nano)」に続く小ささを表す単位「ピコ(pico)」
の世界を見ることができる、いわばX線を使った“巨大な顕微鏡”です。原子や細胞
レべルも観察できることから、生命の神秘の解析や、医療の発展の研究などに貢献
している世界最先端施設です。
[画像2: http://prtimes.jp/i/7999/8/resize/d7999-8-270663-4.jpg ]
今回は、この「SACLA」のスペシャルサイト内、「SACLA×GENIUS」のコーナー
に、著書に『バカの壁』『唯脳論』などのベストセラーを持つ養老孟司氏をお迎え
し、専門の解剖学や、デジタル図鑑を作ってしまうほど探究されている昆虫につい
ての知識を交え、石川センター長と「SACLA」をフックに「最先端研究の課題と
意義」について語っていただきました。
同じ「サイエンス」という分野でありながら、生物学の養老氏と、物理学を専門
とする石川センター長とが、その研究プロセスの違いや驚きを真正面に語ります。
専門分野同士での対談は難解なのでは?と思うことなかれ、分野外の方でも、
これまで知り得なかった身近な「科学」の世界に思わず引きずり込まれてしまう、
そんなお二人の「SACLA」から広がる対談をお楽しみください。
「SACLA×GENIUS」コーナーURL: http://xfel.riken.jp/pr/sacla/?cat=2
■SACLAを使えるなら、やはり昆虫を見てみたい
※以下、インタビュー内容を一部抜粋
◇解剖学も昆虫採集も、研究の基盤となるものは『観察』
MC:解剖学者の養老さんにとって、SACLAのような「ものを観察する」装置は身近な
存在なのでは?
養老氏(以下、Y):僕が大学の研究室にいたのは20年ほど前ですが、当時最新の
電子顕微鏡でいろんな細胞を見た記憶があります。(SACLAが解析した
タンパク質の画像を見ながら)それでも、当然これほど細かく見ることはでき
ませんでした。
石川センター長(以下、I):SACLAでは強力なX線レーザーにより「ピコ(1ミリ
メートルの10億分の1)」という単位まで見ることができるので、これほど
詳細に解析できたのです。20年くらい前なら、ひとつのタンパク質の構造を
解析できただけで「プロフェッサー」がもらえた時期でしたね。
Y:それだけじゃなくて、ノーベル賞がもらえましたよ(笑)。
MC:養老さんがSACLAを自由に使えるとしたら、やはり昆虫の仕組みを観察します
か?
Y:そうですね。関節だけじゃなく、触覚がどうなっているのかも見てみたい。
僕が触覚に興味を持つようになったきっかけは、ネズミのヒゲ。あれは毛の
根本に静脈があって血液が溜まっています。水たまりに棒が突っ込まれている
ようなかたちですね。あれは耳の代わりなんです。
◇物理学と生物学が交差するから大変で、面白い
I :私のバックグラウンドは物理学です。そこでは、同じ測定を3回やって同じ結果
が出れば正しいとされます。
しかし、生物学の方は、まずものすごい量のデータをとって、それを分析して
から結論を出しますよね。同じサイエンスでもやっていることがこんなに違う
のかと驚きます。
Y :そのお話で僕がよく考えるのは羊のクローン「ドリー」です。ドリーを作った
博士がテレビのインタビューに出ていて、「これは何例目での成功ですか?」
と聞かれていました。すると、「だいたい1000例目だ」と答えたんです。
日本では嘘つきのことを「千三(せんみつ)」と言います。それは嘘つきと
いうのは「1000回に3回くらいしか真実を言わない」という意味なんですが、
ドリーはそれよりも確率が悪い。しかも、本当にあれが1000例目だとしたら、
残りの999例はなぜ失敗したのか。実はそれもよくわかっていない。
ただ、実際にクローンはできてしまった。再現性はまったくないのだけど、
「できちゃったんだからしょうがない」と認めているわけです。その発想は
生物学ならではですね。
I :私たちは数学的帰納法の世界ですから、いつも違う結果が出たらやっていけ
ない(笑)。
MC:つまり、生物学は「うわ、違う!」とおどろくため、物理学は「やっぱり同じ
だ!」と納得するために観察をしているわけですね。そこを一般の人は同じ
サイエンスだと考えてしまっていると。
Y :だからSACLAを使った研究は、物理学と生物学が交差するところだから大変だと
思うのです。
I :ヒトで言えば、物理学の装置を使えば細胞が見えるようになるけれど、その
組み合わせが膨大にあるから「見える=わかる」に直結しないわけです。
でも、何とかしてわかりたいと四苦八苦しています(笑)。やっている人たち
はそれぞれに楽しんで働いていますけどね。
MC:ただ、外野から理解が難しい領域のものは、しばしば「何の役に立つんだ」
と批判されたりします。
Y :僕は小さい頃から「昆虫の何が面白いんだ」と言われてきました。それも自分
の親から。人間というのは、生みの親でも理解できないものは理解できない。
これこそ生物多様性でしょう(笑)。
[画像3: http://prtimes.jp/i/7999/8/resize/d7999-8-628424-2.jpg ]
・「SACLA×GENIUS」について
世界一小さいものが見えるX線レーザー施設 「SACLA」 は、 日本の未来に目覚ましい
発展をもたらすと期待されていますが、 その仕組みの難解さから、一般の方々に内容
を十分にお伝えすることはこれまで非常に困難でした。
そこで、 理研 放射光センターでは、「SACLA」を、多くの方々に楽しみながら
身近に感じて頂くためのスペシャルサイトを2013年7月3日(水)にオープンしま
した。
さらに同年8月8日(木)には、「SACLA×GENIUS」のコーナーをスペシャルサイト
内に開設することとなり、第1回目のゲストに北野武さんをお迎えするなど、毎回
各界の著名な方々をゲストに迎え、ピコの世界で見てみたいモノや「SACLA」への
期待、魅力を語って頂いています。
<インタビュー風景>
■胸が躍る、分野を超えたサイエンス談議に「へぇ〜!」の連続
脳科学、解剖学をはじめとした医学・生物学の領域に幅広い知識をお持ちの
養老先生と、物理学をバックグランドとされ、SACLAを使った世界最先端の研究に
取り組んでいる石川センター長の対談は、これまでにないスケールで話が進んで
いきました。その中で、昆虫の「歯車関節」についてや、「ネズミのヒゲ」が耳の
代わりをしていること、はたまた「人間の脳はさぼる」ことなどが披露され、
「へぇ〜!」が連続したあっという間の2時間。そして最後には、「SACLAは物理学
と生物学が交差するサイエンスだからこそ、大変で、面白い」という次元の高い
結論が導きだされ、本シリーズの最後を飾るにふさわしい、とてもステキな対談と
なりました。
■養老孟司氏プロフィール
(ようろうたけし)
1937年、鎌倉市生まれ。東京大学医学部卒業後、解剖学教室に入る。95年に
東京大学医学部教授を退官。同大学名誉教授に。1989年、『からだの見方』で
サントリー学芸賞を受賞。以後、『唯脳論』『人間科学』『バカの壁』『養老訓』
など多数の著作を上梓。昆虫研究家としての顔も持つ。