環境保全に向けたガスセンサの開発 −次世代の安全・安心のために−
[08/07/24]
提供元:PRTIMES
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独立行政法人新エネルギー・産業技術総合開発機構
大阪大学大学院工学研究科応用化学専攻
環境汚染ガス拡散低減のため、実用化が待たれる特定ガスを検知する
環境モニタリング用ガスセンサ小型で軽量、長期連続使用可能な
「その場測定用」センサを目指して、3価イオン伝導性固体電解質を用いたセンサを開発
SO2、NOx、NH3センサの長期安定評価へ
【新規発表事項】
独立行政法人新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO技術開発機構)の産業技術研究助成事業(予算規模:約50億円)の一環として、大阪大学の助教、田村真治氏は、これまで実用化されていなかった環境汚染ガスの種類別検知技術を開発しました。
開発されたSO2、NOx、NH3センサは一種類のイオンのみを伝導させる性質をもつ固体電解質((Al0.2Zr0.8)20/19Nb(PO4)3)を用いたセンサであり、センサ起電力値と各種環境汚染ガスの濃度の変化が一致することを発見して実用化へのメドをつけました。
本センサは固体電解質(イオン伝導性固体)と呼ばれる材料を「キーマテリアル」に用い、さらに検出極の開発を行い、理論応答を示す信頼性の高いセンサです。また汚染ガス別の濃度測定をその場で精度良く監視計測可能なセンサとして活用できるため、迅速な環境対策を行う上で産業界に広く導入が期待できます。
1.背景および研究概要
環境汚染ガスの大気中への拡散を低減するためには、排出されるガス濃度のその場計測が必要であり、これを実現するために実用的なガスセンサの開発が望まれています。さらに大気汚染問題の解決は世界的な緊急課題でもあり、速やかにセンサを普及させる必要があることから、実用的なセンサは個々の排煙中に設置できる小型、軽量、安価である事が望まれます。
小型ガスセンサとしては半導体上へのガス吸着による抵抗変化によりガス濃度を計測する半導体式のセンサがすでに商品化されています。しかし半導体表面へのガス吸着がガス検知の原理であるため、他のガスの影響を受けます。つまり複数のガスを同時に排出する化学工場といった厳しい環境下での選択的なガス検知を行うには半導体センサは不向きなのです。
これに対し固体電解質を用いたセンサは固体電解質の「ただ1種類のイオンのみが固体中を伝導する」という特異な性質を有しており、この原理上、高選択的なガス検知が可能です。
このような背景のもと、3価イオン伝導性固体電解質の開発とガスセンサへの応用を検討していた我々の研究チームは、3価イオン伝導体を用いた環境汚染ガスセンサ向けの開発を行いました。
センサの実用化への課題としてあげられていたのは3価イオン伝導体の低いイオン伝導率が主な原因での高温作動が必要なことでした。500℃近い高温が故に消費電力が大きく、この解決も研究目的の一つでした。
今回開発したセンサはいずれも理論値に沿う応答が得られ、消費電力等の問題も解決できたことから、本研究のセンサは実用的なセンサとして今後の実用化が期待されます。
2.競合技術への強み
1) 他のガスの影響を受けないセンサ:半導体式センサは、半導体表面への吸着機構が同じガスを区別できないため特定のガス検知を行うには不向きですが、固体電解質を用いたセンサは固体電解質の選択的なイオン伝導を利用するため特定する環境汚染ガス検知が可能となります。
2) 固体電解質型SO2ガスセンサ:SO2ガスの測定方法には赤外分光分析、半導体ガスセンサ(例:ガス漏れ検知器)などがありますが、前者は装置が大型で高価、後者はガス選択性が低いという弱点があります。固体電解質型のセンサは小型でガス選択性があり、その場計測用のセンサとして最も優れています。
3) NaAl(SO4)2検出極を用いたSO2ガスセンサ:SO2ガス濃度変化に対して起電力値とSO2ガス濃度との間には良好な1対1の関係が認められ、SO2ガス濃度は起電力値により正確に決定できることが明らかになりました。
4) 長期安定性:1ヶ月以上の理論応答を維持し長期安定性を実証しました。
5) 検出極高導電率化:一方で検出極の導電率が低いため応答速度が遅い(約7分)ことがわかり、検出極の高導電率化への改善を行った結果、NaAlNaAl(SO4)2検出極の11倍の導電率を持つ新しい検出極の開発に成功。応答速度の改善にもつながりました(約4分)。
6) 低温作動型NOxガスセンサの開発:これまでは450〜550℃の高温作動型のセンサだったため、アルミニウム金属を参照極として用いたセンサ素子を開発、250℃でのNOガス濃度変化に対しセンサ起動電力との関係が1対1となることが判明し、NOガス濃度の検知が起電力値により決定できることを明らかにしました。
【従来のガスセンサとの比較】
<一般的なセンサ(従来技術)>
形式:半導体
検知原理:ガス吸着
ガス種別検知:不可
長期安定期:良好
コスト:数千円〜数万円(小型センサ)
<3価イオン電導性固体電解質センサ(本技術)>
形式:個体電解質
検知原理:イオン電導
ガス種別検知:可能(SO2ガス)(NOxガス)(NH3ガス)(CO2ガス)(Cl2ガス)
長期安定期:良好
コスト:数千円〜数万円(目標)
【3価イオン電導性固体電解質センサの改善状況】
<初期>
応答速度(SO2ガスセンサ):7分
作動温度(NOxガスセンサ):450〜550℃
<現在>
応答速度(SO2ガスセンサ):4分
作動温度(NOxガスセンサ):250℃
3.今後の展望
今後の課題としては、センサ素子の小型化(薄膜化)による素子抵抗の低減と低消費電力化です。また今回作成したセンサの実用化のために、次の段階として各センサの長期安定性(3年以上)の評価を行っていきます。そして3価イオンの伝導性向上を目指し新たな3価もしくは4価イオン伝導体の開発にも取り組んでいきます。またCl2用検出極の探索やプロトタイプセンサ素子の作製と評価についても進めていく予定です。
大阪大学大学院工学研究科応用化学専攻
環境汚染ガス拡散低減のため、実用化が待たれる特定ガスを検知する
環境モニタリング用ガスセンサ小型で軽量、長期連続使用可能な
「その場測定用」センサを目指して、3価イオン伝導性固体電解質を用いたセンサを開発
SO2、NOx、NH3センサの長期安定評価へ
【新規発表事項】
独立行政法人新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO技術開発機構)の産業技術研究助成事業(予算規模:約50億円)の一環として、大阪大学の助教、田村真治氏は、これまで実用化されていなかった環境汚染ガスの種類別検知技術を開発しました。
開発されたSO2、NOx、NH3センサは一種類のイオンのみを伝導させる性質をもつ固体電解質((Al0.2Zr0.8)20/19Nb(PO4)3)を用いたセンサであり、センサ起電力値と各種環境汚染ガスの濃度の変化が一致することを発見して実用化へのメドをつけました。
本センサは固体電解質(イオン伝導性固体)と呼ばれる材料を「キーマテリアル」に用い、さらに検出極の開発を行い、理論応答を示す信頼性の高いセンサです。また汚染ガス別の濃度測定をその場で精度良く監視計測可能なセンサとして活用できるため、迅速な環境対策を行う上で産業界に広く導入が期待できます。
1.背景および研究概要
環境汚染ガスの大気中への拡散を低減するためには、排出されるガス濃度のその場計測が必要であり、これを実現するために実用的なガスセンサの開発が望まれています。さらに大気汚染問題の解決は世界的な緊急課題でもあり、速やかにセンサを普及させる必要があることから、実用的なセンサは個々の排煙中に設置できる小型、軽量、安価である事が望まれます。
小型ガスセンサとしては半導体上へのガス吸着による抵抗変化によりガス濃度を計測する半導体式のセンサがすでに商品化されています。しかし半導体表面へのガス吸着がガス検知の原理であるため、他のガスの影響を受けます。つまり複数のガスを同時に排出する化学工場といった厳しい環境下での選択的なガス検知を行うには半導体センサは不向きなのです。
これに対し固体電解質を用いたセンサは固体電解質の「ただ1種類のイオンのみが固体中を伝導する」という特異な性質を有しており、この原理上、高選択的なガス検知が可能です。
このような背景のもと、3価イオン伝導性固体電解質の開発とガスセンサへの応用を検討していた我々の研究チームは、3価イオン伝導体を用いた環境汚染ガスセンサ向けの開発を行いました。
センサの実用化への課題としてあげられていたのは3価イオン伝導体の低いイオン伝導率が主な原因での高温作動が必要なことでした。500℃近い高温が故に消費電力が大きく、この解決も研究目的の一つでした。
今回開発したセンサはいずれも理論値に沿う応答が得られ、消費電力等の問題も解決できたことから、本研究のセンサは実用的なセンサとして今後の実用化が期待されます。
2.競合技術への強み
1) 他のガスの影響を受けないセンサ:半導体式センサは、半導体表面への吸着機構が同じガスを区別できないため特定のガス検知を行うには不向きですが、固体電解質を用いたセンサは固体電解質の選択的なイオン伝導を利用するため特定する環境汚染ガス検知が可能となります。
2) 固体電解質型SO2ガスセンサ:SO2ガスの測定方法には赤外分光分析、半導体ガスセンサ(例:ガス漏れ検知器)などがありますが、前者は装置が大型で高価、後者はガス選択性が低いという弱点があります。固体電解質型のセンサは小型でガス選択性があり、その場計測用のセンサとして最も優れています。
3) NaAl(SO4)2検出極を用いたSO2ガスセンサ:SO2ガス濃度変化に対して起電力値とSO2ガス濃度との間には良好な1対1の関係が認められ、SO2ガス濃度は起電力値により正確に決定できることが明らかになりました。
4) 長期安定性:1ヶ月以上の理論応答を維持し長期安定性を実証しました。
5) 検出極高導電率化:一方で検出極の導電率が低いため応答速度が遅い(約7分)ことがわかり、検出極の高導電率化への改善を行った結果、NaAlNaAl(SO4)2検出極の11倍の導電率を持つ新しい検出極の開発に成功。応答速度の改善にもつながりました(約4分)。
6) 低温作動型NOxガスセンサの開発:これまでは450〜550℃の高温作動型のセンサだったため、アルミニウム金属を参照極として用いたセンサ素子を開発、250℃でのNOガス濃度変化に対しセンサ起動電力との関係が1対1となることが判明し、NOガス濃度の検知が起電力値により決定できることを明らかにしました。
【従来のガスセンサとの比較】
<一般的なセンサ(従来技術)>
形式:半導体
検知原理:ガス吸着
ガス種別検知:不可
長期安定期:良好
コスト:数千円〜数万円(小型センサ)
<3価イオン電導性固体電解質センサ(本技術)>
形式:個体電解質
検知原理:イオン電導
ガス種別検知:可能(SO2ガス)(NOxガス)(NH3ガス)(CO2ガス)(Cl2ガス)
長期安定期:良好
コスト:数千円〜数万円(目標)
【3価イオン電導性固体電解質センサの改善状況】
<初期>
応答速度(SO2ガスセンサ):7分
作動温度(NOxガスセンサ):450〜550℃
<現在>
応答速度(SO2ガスセンサ):4分
作動温度(NOxガスセンサ):250℃
3.今後の展望
今後の課題としては、センサ素子の小型化(薄膜化)による素子抵抗の低減と低消費電力化です。また今回作成したセンサの実用化のために、次の段階として各センサの長期安定性(3年以上)の評価を行っていきます。そして3価イオンの伝導性向上を目指し新たな3価もしくは4価イオン伝導体の開発にも取り組んでいきます。またCl2用検出極の探索やプロトタイプセンサ素子の作製と評価についても進めていく予定です。