抗ウイルス効果が期待されるウシの後期初乳 乳幼児や高齢者に重い下痢を引き起こす「ロタウイルス」に対する効果も
[08/12/02]
提供元:PRTIMES
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身近な健康食品として親しまれている牛乳。その中でもウシが分娩後、数日間に出す初乳の免疫効果に、研究者の関心が集まっている。岐阜大学教授の金丸義敬氏(応用生物科学部食品生命科学講座・食成分機能化学研究室)は、乳幼児の急性下痢症の主な原因となっているロタウイルスに対する、ウシ初乳の効果を検証している。今回のブレインヘルスニュースでは、金丸氏の研究を中心にウシの初乳についてまとめてみた。
■ 免疫成分を豊富に含むウシの初乳
初乳とは、ほ乳動物が分娩後、数日間のうちに分泌する乳のこと。ただし何日目までの乳を初乳とするかなど、明確な定義はない。初乳には熱で固まるタンパク質が多いため、原料として大量に加工するには扱いづらい。日本では分娩後5日以内の初乳の出荷は、乳等省令※1で禁止されており、農家で自家消費されることはあっても、食品やサプリメントなど、製品として一般に流通することはない。例えば牛乳で使用されているのは、分娩後6日目以降の乳だ。
初乳は、日が経過してからの乳(常乳)に比べて、免疫成分が非常に多く含まれているのが特徴。また動物(種)によっても、初乳の成分には違いがある。免疫の要となる抗体にはいくつかの種類があるが、その中でだ液や涙、腸の粘液中などに存在するのがIgA抗体。IgA抗体は目や口、腸管などの粘膜から、病原菌やウイルスが侵入するのを阻止する。これに対し、すでに体内に侵入してしまった病原菌やウイルスに対抗するのが、血液やリンパ液中に存在するIgG抗体だ。
ヒトの場合、IgGは母親の胎内にいるときに、胎盤を通じて受け渡されるが、一方のIgAは受け渡されない。そのためヒトの初乳にはIgAが多く、赤ちゃんは生後、母乳を介してIgAを獲得する。しかしウシの場合、子ウシはIgAだけでなく、IgG抗体も持たない状態で生まれてくる。そのため、ウシの初乳にはIgAとIgGの両方の抗体が含まれ、特にIgGが多いことが特徴である。
■ ウシ後期初乳のロタウイルス感染予防効果
金丸氏らは分娩後1〜5日目の乳を「初期初乳」、6、7日目の乳を「後期初乳」とし、流通が可能なウシの後期初乳の免疫効果に着目。冬に起こりやすい、ヒトの急性下痢症の主な原因となっている、ロタウイルスに対する感染予防効果を検証している。
ロタウイルス感染症は生後6カ月〜2歳ぐらいまでの乳幼児や高齢者に多く見られ、例年1月〜4月にかけて流行のピークを迎える。潜伏期間は約48時間。主な症状は下痢、おう吐、発熱などで、下痢では米のとぎ汁のような白い便が特徴とされる。
試験では生後5日目のマウスに後期初乳を一回投与し、30分後にロタウイルスを接種、その後の下痢の発生の有無を見た。その結果、1.0mg以上の後期初乳を投与したマウスで、下痢の予防効果が示された(図1)。
金丸氏らは、ウイルス接種の前後で後期初乳を複数回投与した試験も行っているが、一回の投与ではさほど効果がなかった低い濃度でも、複数回投与することで、感染を予防できること、また下痢症状を発症した場合も、回復が早まることを確認している。
この結果について金丸氏は「ウシの後期初乳に含まれるIgG抗体が、ロタウイルスの感染防御に働いた可能性が高い」と推察。後期初乳中の抗体を取り出して調べたところ、ロタウイルスに対して非常に強い感染予防効果があることもわかった。
さらに金丸氏は抗体以外に、後期初乳に含まれる成長因子の関与も指摘する。ウイルスに感染すると、小腸の上皮細胞は図2のように破壊されてしまうが、後期初乳中の成長因子が腸上皮細胞のターンオーバー(新しい細胞が古い細胞と入れ替わること)を促し、ウイルスによって侵された腸の組織の修復を早めているのではないかと話している。
■ インフルエンザウイルスやノロウイルスにも効果
「牛乳への使用が可能なことからも分かるとおり、分娩後6、7日目の後期初乳は、成分的にも常乳にかなり近い。しかし常乳との比較試験では、その効果に明らかな差が確認されており、後期初乳がロタウイルスに対し、これほど顕著な効果を示したことに、大変、驚いている。今回の試験はマウスを用いたものだが、流通が可能な6、7日目の後期初乳は、ヒトへの応用も含めて、非常に可能性を秘めた素材と言える」と金丸氏。
そのほか後期初乳については、ロタウイルス以外にも優れた免疫効果が期待されている。子どもの風邪予防に対する効果は、本ニュースNo.34(2008年9月20日発行) ですでに紹介済みだが、そのほかにもインフルエンザウイルスに対する効果や、ヒトの免疫システムそのものを活性化する働きがあることもわかっている。また、名古屋大学教授の松田幹氏は、ロタウイルス同様、冬場に多く発生し、急性の胃腸炎症状を引き起こすノロウイルスに対する効果を、初期初乳および後期初乳を用いて検証している。結果は、近く開かれる第81回日本生化学会大会・第31回日本分子生物学会年会合同大会(2008年12月9日〜12日:神戸)で発表される予定だ。
参考:初乳に関する研究成果を集めたサイト
http://www.shonyu.jp/(初乳サイト?12月1日より開設)
※1 乳等省令
「乳及び乳製品の成分規格等に関する省令」の略称。日本で流通する牛乳類についての成分規格や製造・保存・表示方法などが定められている。
■ 免疫成分を豊富に含むウシの初乳
初乳とは、ほ乳動物が分娩後、数日間のうちに分泌する乳のこと。ただし何日目までの乳を初乳とするかなど、明確な定義はない。初乳には熱で固まるタンパク質が多いため、原料として大量に加工するには扱いづらい。日本では分娩後5日以内の初乳の出荷は、乳等省令※1で禁止されており、農家で自家消費されることはあっても、食品やサプリメントなど、製品として一般に流通することはない。例えば牛乳で使用されているのは、分娩後6日目以降の乳だ。
初乳は、日が経過してからの乳(常乳)に比べて、免疫成分が非常に多く含まれているのが特徴。また動物(種)によっても、初乳の成分には違いがある。免疫の要となる抗体にはいくつかの種類があるが、その中でだ液や涙、腸の粘液中などに存在するのがIgA抗体。IgA抗体は目や口、腸管などの粘膜から、病原菌やウイルスが侵入するのを阻止する。これに対し、すでに体内に侵入してしまった病原菌やウイルスに対抗するのが、血液やリンパ液中に存在するIgG抗体だ。
ヒトの場合、IgGは母親の胎内にいるときに、胎盤を通じて受け渡されるが、一方のIgAは受け渡されない。そのためヒトの初乳にはIgAが多く、赤ちゃんは生後、母乳を介してIgAを獲得する。しかしウシの場合、子ウシはIgAだけでなく、IgG抗体も持たない状態で生まれてくる。そのため、ウシの初乳にはIgAとIgGの両方の抗体が含まれ、特にIgGが多いことが特徴である。
■ ウシ後期初乳のロタウイルス感染予防効果
金丸氏らは分娩後1〜5日目の乳を「初期初乳」、6、7日目の乳を「後期初乳」とし、流通が可能なウシの後期初乳の免疫効果に着目。冬に起こりやすい、ヒトの急性下痢症の主な原因となっている、ロタウイルスに対する感染予防効果を検証している。
ロタウイルス感染症は生後6カ月〜2歳ぐらいまでの乳幼児や高齢者に多く見られ、例年1月〜4月にかけて流行のピークを迎える。潜伏期間は約48時間。主な症状は下痢、おう吐、発熱などで、下痢では米のとぎ汁のような白い便が特徴とされる。
試験では生後5日目のマウスに後期初乳を一回投与し、30分後にロタウイルスを接種、その後の下痢の発生の有無を見た。その結果、1.0mg以上の後期初乳を投与したマウスで、下痢の予防効果が示された(図1)。
金丸氏らは、ウイルス接種の前後で後期初乳を複数回投与した試験も行っているが、一回の投与ではさほど効果がなかった低い濃度でも、複数回投与することで、感染を予防できること、また下痢症状を発症した場合も、回復が早まることを確認している。
この結果について金丸氏は「ウシの後期初乳に含まれるIgG抗体が、ロタウイルスの感染防御に働いた可能性が高い」と推察。後期初乳中の抗体を取り出して調べたところ、ロタウイルスに対して非常に強い感染予防効果があることもわかった。
さらに金丸氏は抗体以外に、後期初乳に含まれる成長因子の関与も指摘する。ウイルスに感染すると、小腸の上皮細胞は図2のように破壊されてしまうが、後期初乳中の成長因子が腸上皮細胞のターンオーバー(新しい細胞が古い細胞と入れ替わること)を促し、ウイルスによって侵された腸の組織の修復を早めているのではないかと話している。
■ インフルエンザウイルスやノロウイルスにも効果
「牛乳への使用が可能なことからも分かるとおり、分娩後6、7日目の後期初乳は、成分的にも常乳にかなり近い。しかし常乳との比較試験では、その効果に明らかな差が確認されており、後期初乳がロタウイルスに対し、これほど顕著な効果を示したことに、大変、驚いている。今回の試験はマウスを用いたものだが、流通が可能な6、7日目の後期初乳は、ヒトへの応用も含めて、非常に可能性を秘めた素材と言える」と金丸氏。
そのほか後期初乳については、ロタウイルス以外にも優れた免疫効果が期待されている。子どもの風邪予防に対する効果は、本ニュースNo.34(2008年9月20日発行) ですでに紹介済みだが、そのほかにもインフルエンザウイルスに対する効果や、ヒトの免疫システムそのものを活性化する働きがあることもわかっている。また、名古屋大学教授の松田幹氏は、ロタウイルス同様、冬場に多く発生し、急性の胃腸炎症状を引き起こすノロウイルスに対する効果を、初期初乳および後期初乳を用いて検証している。結果は、近く開かれる第81回日本生化学会大会・第31回日本分子生物学会年会合同大会(2008年12月9日〜12日:神戸)で発表される予定だ。
参考:初乳に関する研究成果を集めたサイト
http://www.shonyu.jp/(初乳サイト?12月1日より開設)
※1 乳等省令
「乳及び乳製品の成分規格等に関する省令」の略称。日本で流通する牛乳類についての成分規格や製造・保存・表示方法などが定められている。