大気圧マルチガス高純度プラズマを開発 半導体プロセシング、大気圧CVDの高速化や新物質の創造に貢献
[08/08/12]
提供元:PRTIMES
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独立行政法人新エネルギー・産業技術総合開発機構
東京工業大学大学院総合理工学研究科
iPS細胞など、単一細胞分析への扉を開く極微少量試料の分析装置への応用にも成功
【新規発表事項】
独立行政法人新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO技術開発機構)の産業技術研究助成事業(予算規模:約50億円)の一環として、東京工業大学大学院総合理工学研究科准教授の沖野晃俊氏は、大気圧下でアルゴン、ヘリウム、窒素、酸素、二酸化炭素、亜酸化窒素、空気やそれらの混合ガスを安定的に熱プラズマ化できる、マルチガス高純度プラズマ源を開発しました。このプラズマ源は電極を使用しないため、高純度のプラズマが生成でき、また、プラズマ中に液体を直接導入することも可能なため、半導体プロセシング、大気圧CVD、新物質創造、液体・気体の直接分解処理などに応用が可能であり、各工程の高速化や材料の低減、低コスト化などが期待できます。
さらに、この成果を踏まえて、マルチガスプラズマ源を用いた微少量試料分析装置の開発も行いました。毎分1mL程度の大量の分析試料を必要とした従来の微量元素分析装置とは異なり、わずか1nL程度の分析試料中の元素を高感度に分析することが可能です。従来装置では多量の分析試料の「平均情報」しか得られませんでしたが、新装置では細胞一個程度の微少量試料の「個別情報」を得ることができます。iPS細胞など、一個の細胞や大気粉塵などの個別分析への応用、さらには医療分野で高感度分析の要望が高かったフッ素、塩素、臭素などのハロゲン元素の高感度分析が可能になります。
1.研究成果概要
(1)大気圧プラズマ源について
半導体プロセシングなど、従来のプラズマ処理は真空容器中の低気圧下で行われていますが、ここ数年、真空容器を必要としない大気圧プラズマの開発が注目を集めています。大気圧プラズマは真空容器の開閉を必要としないため、連続的な処理が可能です。また、従来の低気圧プラズマよりも高密度のプラズマを生成できるため、桁違いの高速処理が期待できます。しかし、大気圧下でプラズマを生成することは原理的に容易でないため、これまでに開発されている大気圧プラズマ装置では、使用できるプラズマガスはアルゴン、ヘリウム、窒素などのプラズマ化しやすいガスに制限されていました。開発したマルチガスプラズマ源では、アルゴン、ヘリウム、窒素、酸素、二酸化炭素、亜酸化窒素、空気やそれらの混合ガスを安定的に熱プラズマ化でき、一つの装置でこれだけ多種多用なガスを大気圧熱プラズマ化できる装置は世界初です。また、「二酸化炭素」の大気圧熱プラズマ化も世界で初めて実現しました。
(2)元素分析装置について
微少量の溶液試料を一粒ずつプラズマ中に噴出できるドロプレット方式ネブライザを開発し、マルチガスプラズマ源に適用しました。従来は毎分1mL程度の大量の分析試料が必要でしたが、新装置ではわずか1nL程度の試料を噴出し、分析する事を可能にしました。さらに、上記のマルチガスプラズマ源のヘリウムプラズマを用いる事で従来は困難であったハロゲン元素の高感度分析も可能にしました。
2.競合技術への強み
(1)大気圧プラズマ源
1)今回開発したマルチガスプラズマ源では、アルゴン、ヘリウム、窒素のほか、従来は困難であった酸素、二酸化炭素、亜酸化窒素、空気やこれらの混合ガスも、一つの装置で安定に大気圧プラズマ化することができます。
2)プラズマ生成中にガスの混合比を変更することも可能です。
3)プラズマ源は電極を使用しない誘導結合方式であるため、プラズマ中に電極材料が混入せず、高純度なプラズマを生成できます。
4)プラズマ中に液体を直接導入することが可能です。
5)このプラズマ源を採用した開発装置は、大気圧下で任意の気体を用いてプラズマを生成し、その中に任意の材料を混合させることが可能です。
これらにより、それぞれのプラズマ処理にとって理想的な原子・分子組成の大気圧プラズマを生成することが可能になります。つまり、処理速度の向上、生成物質の精度向上、材料の低減による低コスト化が期待できます。また、大気圧下での半導体プロセシング、CVD、物質創造、液体・気体の直接分解処理、などへの応用が期待できます。
(2)元素分析装置
1)微少量の液体を一粒ずつ噴出する「ドロプレットネブライザ」の開発により、分析試料の消費量を従来の1/10,000以下に低減しました。
2)ドロプレットの飛来とプラズマの高出力化の同期に成功したことで、パルス同期時には約5倍の信号強度を得ました。
3)ヘリウムガスを用いることで、これまでは困難であった、フッ素、塩素、臭素などのハロゲン元素の高感度分析を可能にしました。
4)発光分析において、8.0 fgのマグネシウムの検出下限絶対量(約1,000倍の分析感度)を実現。
3.今後の展望
ここ数年、真空容器を必要としない大気圧プラズマ源が注目されていますが、開発されている装置のほとんどすべては電極放電を用いた低温の非平衡プラズマです。本研究で開発したマルチガスプラズマ源は高温プラズマであるために熱が利用でき、電極を使用しないため、電極の材料物質のコンタミの心配が無く、極めて高純度なプラズマです。このため、高速半導体プロセシング、CVD、地球温暖化ガス分解処理、金属等の表面処理等への応用展開を検討中です。特に、全身麻酔による手術に使われる笑気ガス(亜酸化窒素)は二酸化炭素の310倍も地球温暖化を促進させるのですが、今回開発したマルチガスプラズマを使うことで、このガスを99.9%以上高効率に分解することができます。手術室への導入がすすめば、地球温暖化ガスの低減に寄与できると考えています。
また、開発した微量元素分析装置が実用化されれば、一個の細胞の個別分析も可能になります。ガン、パーキンソン病、アルツハイマー病等の発生メカニズムの解明や、iPS細胞の分化メカニズムの解明にも役立つ可能性があります。疾病予防・早期発見のための診断技術、創薬のための細胞レベルでの薬効診断等、医療、製薬部門などでの利用も考えられます。
4.その他
(1)研究者の略歴
1989年大阪大学工学部応用物理学科卒業、1994年東京工業大学理工学研究科原子核工学専攻博士課程修了後、同大学工学部電気・電子工学科助手、ジョージワシントン大学化学科客員研究員を経て、2001年東京工業大学大学院総合理工学研究科創造エネルギー専攻助教授(2007年准教授)、現在に至る。2006〜2007年カリフォルニア大学ロサンゼルス校化学・生体分子工学科客員教授。
(2)受賞
2005年 文部科学大臣表彰 若手科学者賞
2007年 35th Colloquium Spectroscopicum Internationale (CSI XXXV), Excellent Poster Award
2006年,2002年 Winter Conference on Plasma Spectrochemistry Poster Presentation Award
など多数
5.参考
成果プレスダイジェスト:東京工業大学 沖野 晃俊氏
東京工業大学大学院総合理工学研究科
iPS細胞など、単一細胞分析への扉を開く極微少量試料の分析装置への応用にも成功
【新規発表事項】
独立行政法人新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO技術開発機構)の産業技術研究助成事業(予算規模:約50億円)の一環として、東京工業大学大学院総合理工学研究科准教授の沖野晃俊氏は、大気圧下でアルゴン、ヘリウム、窒素、酸素、二酸化炭素、亜酸化窒素、空気やそれらの混合ガスを安定的に熱プラズマ化できる、マルチガス高純度プラズマ源を開発しました。このプラズマ源は電極を使用しないため、高純度のプラズマが生成でき、また、プラズマ中に液体を直接導入することも可能なため、半導体プロセシング、大気圧CVD、新物質創造、液体・気体の直接分解処理などに応用が可能であり、各工程の高速化や材料の低減、低コスト化などが期待できます。
さらに、この成果を踏まえて、マルチガスプラズマ源を用いた微少量試料分析装置の開発も行いました。毎分1mL程度の大量の分析試料を必要とした従来の微量元素分析装置とは異なり、わずか1nL程度の分析試料中の元素を高感度に分析することが可能です。従来装置では多量の分析試料の「平均情報」しか得られませんでしたが、新装置では細胞一個程度の微少量試料の「個別情報」を得ることができます。iPS細胞など、一個の細胞や大気粉塵などの個別分析への応用、さらには医療分野で高感度分析の要望が高かったフッ素、塩素、臭素などのハロゲン元素の高感度分析が可能になります。
1.研究成果概要
(1)大気圧プラズマ源について
半導体プロセシングなど、従来のプラズマ処理は真空容器中の低気圧下で行われていますが、ここ数年、真空容器を必要としない大気圧プラズマの開発が注目を集めています。大気圧プラズマは真空容器の開閉を必要としないため、連続的な処理が可能です。また、従来の低気圧プラズマよりも高密度のプラズマを生成できるため、桁違いの高速処理が期待できます。しかし、大気圧下でプラズマを生成することは原理的に容易でないため、これまでに開発されている大気圧プラズマ装置では、使用できるプラズマガスはアルゴン、ヘリウム、窒素などのプラズマ化しやすいガスに制限されていました。開発したマルチガスプラズマ源では、アルゴン、ヘリウム、窒素、酸素、二酸化炭素、亜酸化窒素、空気やそれらの混合ガスを安定的に熱プラズマ化でき、一つの装置でこれだけ多種多用なガスを大気圧熱プラズマ化できる装置は世界初です。また、「二酸化炭素」の大気圧熱プラズマ化も世界で初めて実現しました。
(2)元素分析装置について
微少量の溶液試料を一粒ずつプラズマ中に噴出できるドロプレット方式ネブライザを開発し、マルチガスプラズマ源に適用しました。従来は毎分1mL程度の大量の分析試料が必要でしたが、新装置ではわずか1nL程度の試料を噴出し、分析する事を可能にしました。さらに、上記のマルチガスプラズマ源のヘリウムプラズマを用いる事で従来は困難であったハロゲン元素の高感度分析も可能にしました。
2.競合技術への強み
(1)大気圧プラズマ源
1)今回開発したマルチガスプラズマ源では、アルゴン、ヘリウム、窒素のほか、従来は困難であった酸素、二酸化炭素、亜酸化窒素、空気やこれらの混合ガスも、一つの装置で安定に大気圧プラズマ化することができます。
2)プラズマ生成中にガスの混合比を変更することも可能です。
3)プラズマ源は電極を使用しない誘導結合方式であるため、プラズマ中に電極材料が混入せず、高純度なプラズマを生成できます。
4)プラズマ中に液体を直接導入することが可能です。
5)このプラズマ源を採用した開発装置は、大気圧下で任意の気体を用いてプラズマを生成し、その中に任意の材料を混合させることが可能です。
これらにより、それぞれのプラズマ処理にとって理想的な原子・分子組成の大気圧プラズマを生成することが可能になります。つまり、処理速度の向上、生成物質の精度向上、材料の低減による低コスト化が期待できます。また、大気圧下での半導体プロセシング、CVD、物質創造、液体・気体の直接分解処理、などへの応用が期待できます。
(2)元素分析装置
1)微少量の液体を一粒ずつ噴出する「ドロプレットネブライザ」の開発により、分析試料の消費量を従来の1/10,000以下に低減しました。
2)ドロプレットの飛来とプラズマの高出力化の同期に成功したことで、パルス同期時には約5倍の信号強度を得ました。
3)ヘリウムガスを用いることで、これまでは困難であった、フッ素、塩素、臭素などのハロゲン元素の高感度分析を可能にしました。
4)発光分析において、8.0 fgのマグネシウムの検出下限絶対量(約1,000倍の分析感度)を実現。
3.今後の展望
ここ数年、真空容器を必要としない大気圧プラズマ源が注目されていますが、開発されている装置のほとんどすべては電極放電を用いた低温の非平衡プラズマです。本研究で開発したマルチガスプラズマ源は高温プラズマであるために熱が利用でき、電極を使用しないため、電極の材料物質のコンタミの心配が無く、極めて高純度なプラズマです。このため、高速半導体プロセシング、CVD、地球温暖化ガス分解処理、金属等の表面処理等への応用展開を検討中です。特に、全身麻酔による手術に使われる笑気ガス(亜酸化窒素)は二酸化炭素の310倍も地球温暖化を促進させるのですが、今回開発したマルチガスプラズマを使うことで、このガスを99.9%以上高効率に分解することができます。手術室への導入がすすめば、地球温暖化ガスの低減に寄与できると考えています。
また、開発した微量元素分析装置が実用化されれば、一個の細胞の個別分析も可能になります。ガン、パーキンソン病、アルツハイマー病等の発生メカニズムの解明や、iPS細胞の分化メカニズムの解明にも役立つ可能性があります。疾病予防・早期発見のための診断技術、創薬のための細胞レベルでの薬効診断等、医療、製薬部門などでの利用も考えられます。
4.その他
(1)研究者の略歴
1989年大阪大学工学部応用物理学科卒業、1994年東京工業大学理工学研究科原子核工学専攻博士課程修了後、同大学工学部電気・電子工学科助手、ジョージワシントン大学化学科客員研究員を経て、2001年東京工業大学大学院総合理工学研究科創造エネルギー専攻助教授(2007年准教授)、現在に至る。2006〜2007年カリフォルニア大学ロサンゼルス校化学・生体分子工学科客員教授。
(2)受賞
2005年 文部科学大臣表彰 若手科学者賞
2007年 35th Colloquium Spectroscopicum Internationale (CSI XXXV), Excellent Poster Award
2006年,2002年 Winter Conference on Plasma Spectrochemistry Poster Presentation Award
など多数
5.参考
成果プレスダイジェスト:東京工業大学 沖野 晃俊氏