新発想!植物で植物を灌漑する技術【産技助成Vol.26】
[08/08/26]
提供元:PRTIMES
提供元:PRTIMES
独立行政法人新エネルギー・産業技術総合開発機構
名古屋大学大学院生命農学研究科
深根性植物の水圧リフト(Hydraulic lift)機能(注1)を活用することで、
地下の深層水を表層の乾燥した土壌へ浸透させる「植物スプリンクラー」
未利用のまま地下に流出してしまう乾燥地域の降水を、
大規模投資を伴わずに灌漑用水として活用することを可能にする技術
(注1)ギニアグラスやキマメ等、深根性の植物の深根が昼間に深層水(地表下2 m前後)を吸収し、夜間、葉の気孔が閉じることにより葉からの蒸散がなくなり、行き場を失った水が表層付近の根を通じて乾いた表層土壌(地表下50?前後)に放出する現象。これを用いてトウモロコシ等、一般に浅根性の農作物に深層水を供給することが可能。
【新規発表事項】
独立行政法人新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO技術開発機構)の産業技術研究助成事業(予算規模:約50億円)の一環として、名古屋大学大学院の助教、矢野勝也氏は、未利用のまま地下に流出してしまう乾燥地域の降水を大規模投資を伴わずに灌漑用水として活用する「植物スプリンクラー」の技術を開発しました。
現在、地球上の淡水資源の半分以上は農業生産のために消費されており、農業生産における灌漑効率の向上は、他の産業分野や人類の生存に利用できる水資源量の増加に直結します。
これまで大型スプリンクラーで空中から散水する地表灌漑の他に、多数の小型スプリンクラーを使うマイクロスプリンクラー、ホースから少量の水を滴下する点滴灌漑などが開発されてきましたが、灌漑効率と高いコストが障壁となっていました。本研究で開発した植物スプリンクラーは、深根性植物の水圧リフト機能を活用し、主に地下水を利用して土壌へ浸透させるため、高い灌漑効率と低いコストを兼ね備えた全く新しい灌漑技術として注目されています。
また、塩類集積が起こる従来のスプリンクラーと異なり、本技術は塩類集積の回避に寄与し、砂漠化防止や緑化事業にも役立つ低環境負荷技術として期待されます。
1.研究成果概要
近い将来、水資源の需要が供給を今以上に大きく上回り、人類の生存に深刻な問題となることが懸念されています。2025 年における人口一人当たり利用可能な水量を予測すると、「壊滅的な状況」を迎える地域が大幅に増加すると言われ、まさに『水問題』はエネルギー問題と並んで、21 世紀における最重要課題の一つとなっています。
また、開発途上国の30%は乾燥地域であり、そこでは水不足による作物の減産が著しいですが、灌漑インフラは未整備な場合が多く、各農家の独力で設備を導入することが経済的に困難な状況にありました。そこで、本研究では深根性植物の水圧リフト(Hydraulic lift)機能を活用することで、地下水を表層の乾燥した土壌へ浸透させる技術の開発を行いました。
その結果、地中深く根を張った植物(キマメなど)が蒸散を停止する夜間に、土壌深層から吸収した水を乾いた表層土壌に放出する現象(hydraulic lift)を確認し、さらに表層土壌に放出された水分は近隣の浅根性作物(トウモロコシなど)にも供給されることを立証しました。この現象をうまく制御できれば、植物で植物を灌漑する「植物スプリンクラー」が可能となります。
本研究では、深根性植物の葉を切って水の供給を促進するなど、スプリンクラーとして機能させるための基礎技術を探索し、フィールドでの検証とシミュレーションモデルによる解析を通じて、「植物スプリンクラー」の有効性を明らかにしました。
2.競合技術への強み
1) 高い灌漑効率:乾燥による作物生産の損失を回避するため、人類は工学的手法に基づいた灌漑設備の導入で主に対応してきました。しかし、灌漑設備の規模が大きくなるほど、農作物に利用されることなく蒸発で失われる水の割合が増加します(灌漑効率の低下)。本技術では植物の根を介した地中点滴灌漑技術と言える技術であり、高い灌漑効率が期待できます。
2) 農業用水の節減:灌漑効率を上げることにより、農業用水の節減にダイレクトにつながります。
3) 塩類集積の回避:灌漑効率の低下は水資源の浪費となるだけでなく、地表面に塩分を集積させる弊害も招きます。本技術は植物の生理機能を利用した灌漑であり、塩分集積を回避できます。
4) マイクロスプリンクラーや点滴灌漑にない低コスト:灌漑効率の低下を克服する目的でマイクロスプリンクラーや点滴灌漑などの技術開発も行われてきましたが、これらは高い灌漑効率を達成できるものの、設備やその維持に費やされるコストの高さが障壁となっています。本技術は特別な設備をいっさい必要とせず、農地において深根性の植物を一定間隔で植えつけるのみ植物の灌漑が可能な技術であり、低コストな灌漑を実現します。
5) 低環境負荷:土着の植物の力を利用するだけなので、環境にやさしい技術といえます。また地域に適応した土着の植物を活用するため植物の生態系を崩す心配もありません。
3.今後の展望
本研究の実証段階はすでに終了しており、現在取りまとめを進めている研究成果を論文として公表した後、成果やノウハウをわかりやすく解説した資料をホームページなどで一般に公開し、本技術の試用を促進したいと考えています。本研究成果の利用は原則自由としつつ、「植物スプリンクラー」に栄養をとられて目的とする植物の生長が阻害されるという逆効果も考えられなくはないので、適用した結果については報告を要請して事例収集につとめます。国内・海外を問わず、広く一般に本技術の試験者を募ることで普及活動と適用事例の拡張を目指し、ゆくゆくは実施箇所とその面積の広がりを世界地図上に表示したいという希望を持っています。
名古屋大学大学院生命農学研究科
深根性植物の水圧リフト(Hydraulic lift)機能(注1)を活用することで、
地下の深層水を表層の乾燥した土壌へ浸透させる「植物スプリンクラー」
未利用のまま地下に流出してしまう乾燥地域の降水を、
大規模投資を伴わずに灌漑用水として活用することを可能にする技術
(注1)ギニアグラスやキマメ等、深根性の植物の深根が昼間に深層水(地表下2 m前後)を吸収し、夜間、葉の気孔が閉じることにより葉からの蒸散がなくなり、行き場を失った水が表層付近の根を通じて乾いた表層土壌(地表下50?前後)に放出する現象。これを用いてトウモロコシ等、一般に浅根性の農作物に深層水を供給することが可能。
【新規発表事項】
独立行政法人新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO技術開発機構)の産業技術研究助成事業(予算規模:約50億円)の一環として、名古屋大学大学院の助教、矢野勝也氏は、未利用のまま地下に流出してしまう乾燥地域の降水を大規模投資を伴わずに灌漑用水として活用する「植物スプリンクラー」の技術を開発しました。
現在、地球上の淡水資源の半分以上は農業生産のために消費されており、農業生産における灌漑効率の向上は、他の産業分野や人類の生存に利用できる水資源量の増加に直結します。
これまで大型スプリンクラーで空中から散水する地表灌漑の他に、多数の小型スプリンクラーを使うマイクロスプリンクラー、ホースから少量の水を滴下する点滴灌漑などが開発されてきましたが、灌漑効率と高いコストが障壁となっていました。本研究で開発した植物スプリンクラーは、深根性植物の水圧リフト機能を活用し、主に地下水を利用して土壌へ浸透させるため、高い灌漑効率と低いコストを兼ね備えた全く新しい灌漑技術として注目されています。
また、塩類集積が起こる従来のスプリンクラーと異なり、本技術は塩類集積の回避に寄与し、砂漠化防止や緑化事業にも役立つ低環境負荷技術として期待されます。
1.研究成果概要
近い将来、水資源の需要が供給を今以上に大きく上回り、人類の生存に深刻な問題となることが懸念されています。2025 年における人口一人当たり利用可能な水量を予測すると、「壊滅的な状況」を迎える地域が大幅に増加すると言われ、まさに『水問題』はエネルギー問題と並んで、21 世紀における最重要課題の一つとなっています。
また、開発途上国の30%は乾燥地域であり、そこでは水不足による作物の減産が著しいですが、灌漑インフラは未整備な場合が多く、各農家の独力で設備を導入することが経済的に困難な状況にありました。そこで、本研究では深根性植物の水圧リフト(Hydraulic lift)機能を活用することで、地下水を表層の乾燥した土壌へ浸透させる技術の開発を行いました。
その結果、地中深く根を張った植物(キマメなど)が蒸散を停止する夜間に、土壌深層から吸収した水を乾いた表層土壌に放出する現象(hydraulic lift)を確認し、さらに表層土壌に放出された水分は近隣の浅根性作物(トウモロコシなど)にも供給されることを立証しました。この現象をうまく制御できれば、植物で植物を灌漑する「植物スプリンクラー」が可能となります。
本研究では、深根性植物の葉を切って水の供給を促進するなど、スプリンクラーとして機能させるための基礎技術を探索し、フィールドでの検証とシミュレーションモデルによる解析を通じて、「植物スプリンクラー」の有効性を明らかにしました。
2.競合技術への強み
1) 高い灌漑効率:乾燥による作物生産の損失を回避するため、人類は工学的手法に基づいた灌漑設備の導入で主に対応してきました。しかし、灌漑設備の規模が大きくなるほど、農作物に利用されることなく蒸発で失われる水の割合が増加します(灌漑効率の低下)。本技術では植物の根を介した地中点滴灌漑技術と言える技術であり、高い灌漑効率が期待できます。
2) 農業用水の節減:灌漑効率を上げることにより、農業用水の節減にダイレクトにつながります。
3) 塩類集積の回避:灌漑効率の低下は水資源の浪費となるだけでなく、地表面に塩分を集積させる弊害も招きます。本技術は植物の生理機能を利用した灌漑であり、塩分集積を回避できます。
4) マイクロスプリンクラーや点滴灌漑にない低コスト:灌漑効率の低下を克服する目的でマイクロスプリンクラーや点滴灌漑などの技術開発も行われてきましたが、これらは高い灌漑効率を達成できるものの、設備やその維持に費やされるコストの高さが障壁となっています。本技術は特別な設備をいっさい必要とせず、農地において深根性の植物を一定間隔で植えつけるのみ植物の灌漑が可能な技術であり、低コストな灌漑を実現します。
5) 低環境負荷:土着の植物の力を利用するだけなので、環境にやさしい技術といえます。また地域に適応した土着の植物を活用するため植物の生態系を崩す心配もありません。
3.今後の展望
本研究の実証段階はすでに終了しており、現在取りまとめを進めている研究成果を論文として公表した後、成果やノウハウをわかりやすく解説した資料をホームページなどで一般に公開し、本技術の試用を促進したいと考えています。本研究成果の利用は原則自由としつつ、「植物スプリンクラー」に栄養をとられて目的とする植物の生長が阻害されるという逆効果も考えられなくはないので、適用した結果については報告を要請して事例収集につとめます。国内・海外を問わず、広く一般に本技術の試験者を募ることで普及活動と適用事例の拡張を目指し、ゆくゆくは実施箇所とその面積の広がりを世界地図上に表示したいという希望を持っています。