「教員の職業生活に関する定量調査」を発表 若手教員の燃え尽き対策と教頭・副校長の業務負荷軽減が急務
[24/03/29]
提供元:PRTIMES
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一方で、教員の60%超は仕事に「誇りを持っている」と回答するなどやりがいを感じている
株式会社パーソル総合研究所(本社:東京都港区、代表取締役社長:萱野博行)は、幼稚園・保育園・小学校・中学校・高等学校・特別支援学校の教員3,800名を対象に、教員の職業生活におけるWell-being※1に焦点を当てた「教員の職業生活に関する定量調査」(監修:東京大学公共政策大学院 鈴木寛 教授)の結果を発表いたします。本調査は、教育現場を支える多くの関係者が教員のWell-beingについて考え、教員※2がイキイキとはたらける状態を実現し、その先にいる子どもたちにとってより良い教育環境を築く一助となることを目的に実施いたしました。
※1:身体的・精神的・社会的により良い状態
※2:本報告書では、複数の学校種における教育実践者を対象とするため、総じて「教員」と表記する
学校・園いずれの教育機関でも「教員であることに誇りを感じる」教員は約6割。
また、「教員の悪い実態が取り上げられすぎていると思う」割合は半数程度。
[画像1: https://prtimes.jp/i/111116/29/resize/d111116-29-270382f0b7b33e0cfc83-0.jpg ]
■背景
産業界と同様に、教育界も教員の担い手不足や質の低下といった問題に直面しています。文部科学省が2021年に実施した調査※3によると、全国の公立小・中・高校で2,558人の教員が不足しており、地域別にみると、
75%もの地域で教員が1人以上不足している実態が明らかになりました。2023年の文科省の別調査※4では、教員不足の状況は1年前より「悪化した」と答えた地域が4割を超えています。また、「教員」の働き方は、長時間労働や賃金の妥当性に関する問題が提起され、部活動や年間行事などの過剰な負担が教員の心身の疲労を増大させているとの声も報告されるなど「ブラックな職場」のイメージを持たれています。このような社会的な背景を踏まえ、本調査では現時点でのリアルな教育現場の実態をデータに基づいて明らかにし、教員の職業生活の現実と課題について定量的に捉えることで、よりよい教育環境を築くための視点を提供します。
※3:「教師不足」に関する実態調査(文部科学省)
https://www.mext.go.jp/content/20220128-mxt_kyoikujinzai01-000020293-1.pdf
※4:「教師不足」への対応等に係るアンケート調査結果(文部科学省)
https://www.mext.go.jp/content/20230626-mxt_kyoikujinzai01-000022259-3.pdf
■主なトピックス ※トピックスの詳細については「主なトピックス(詳細)」をご確認ください
<教員のはたらく幸せ実感>
1. 教員のはたらく幸せ実感は、全国の正社員※5よりもやや高い。
2. 職位別では、「教諭(役職を持たない一般の教員)」と「教頭・副校長」のはたらく幸せ実感が低い。また、「教諭」の中では、「20代」のはたらく幸せ実感が低い。
3. はたらく上で、教員はどのようなことに「幸せ」や「不幸せ」を感じているのか、その要因となる「はたらく幸せ/不幸せの7因子※6スコア」を確認した。
■『はたらく幸せ』の7因子スコアを確認すると、教員の「自己成長因子(新たな学び)」「チームワーク因子(ともに歩む)」「他者貢献因子(誰かのため)」のスコアは、全国の正社員よりも高い。一方、「リフレッシュ因子(ほっとひと息)」「役割認識因子(自分ゴト)」「自己裁量因子(マイペース)」は、全国の正社員よりも低い。
■『はたらく不幸せ』の7因子スコアを確認すると、教員の「不快空間(環境イヤイヤ)」「協働不全(環境バラバラ)」「疎外感(ひとりぼっち)」「評価不満(報われない)」の因子スコアは、全国の正社員よりも低い。一方、「オーバーワーク(ヘトヘト)」の因子スコアは、全国の正社員よりも高い。
※5:企業で働く正規雇用就業者のはたらくことを通じた幸せの実感度4.19pt./不幸せ実感の実感度3.52pt.(参考値)パーソル総合研究所・慶応義塾大学前野隆司研究室「はたらく人の幸せに関する調査」(2020年2月)
https://rc.persol-group.co.jp/thinktank/assets/Well-Being_AtWork_ver1.pdf
※6:組織で働く従業員の「はたらく幸せ実感/不幸せ実感」については、その要因となる「はたらく幸せ7因子/はたらく不幸せ7因子」によって説明することがで
きる。<原著論文>「職業生活における主観的幸福感因子尺度/不幸感因子尺度の開発」(Inoue.et,al.,日本感情心理学会,2022,12)
<仕事への熱意とストレス>
4. 幼稚園・保育園・小・中・高等学校・特別支援学校のいずれの教育機関においても、「ワーク・エンゲイジメント教員(仕事にやりがいを感じており、ストレスをあまり感じていない教員)」の割合は約40%。
5. 教諭の約20%に「バーンアウト教員(仕事にやりがいを感じておらず、ストレスを強く感じている教員)」の傾向が見られ、教頭・副校長層では、「不活性教員(仕事にやりがいを感じておらず、ストレスもあまり感じていない教員)」の割合が約40%。
6. 20代の教諭では、ワーク・エンゲイジメントの割合(約30%)が他年代より少なく、バーンアウト傾向(約30%)が他年代より多くみられる。
<教員の仕事の課題>
・部活動について
7. 「部活動の顧問をやりたくてやっている」割合は、高校主顧問47.1%・ 中学主顧問40.4%。
8. 部活動の顧問をやりたくてやっている教員は、部活動によって「リフレッシュ因子」が高まり、「オーバーワーク因子」が低下する傾向が見られた。
・苦情対応について
9. 小・中学校では、「保護者や地域住民からのクレームが多い」「1つのクレーム対応にかなりの時間を割かれる」との回答が多い。
10. 組織的に苦情対応している学校は、教員のはたらく幸せ因子が高く、不幸せ因子が低いが、教頭・副校長層の「多忙感(オーバーワーク因子)」は高い傾向。
11. 組織的に苦情対応している学校は、20代教諭におけるバーンアウト傾向が11.2pt少ない。
・収入について
12. 現在の収入について、「安定していると思う」割合は小・中・高等学校では60%を超える。一方で、「収入に満足している」割合は15%〜20%弱に留まる。
・学びについて
13. 小・中学校では55.6%、高校で60.3%の教員が業務時間外にも何らかの学びを行っている。就業者の56.1%が「特に何も行っていない」実態※7と比較して、教員の学びの実施率は高い。
※7:パーソル総合研究所 「学び合う組織に関する定量調査」より、就業者の業務外の学習時間について、56.1%が「特に何も行っていない」と回答(参考値)
https://rc.persol-group.co.jp/thinktank/data/learning-culture.html
14. 業務外の学びを行動化している教員は、行っていない教員と比べて、リフレッシュ因子が高い。業務外での教員の学び行動は、自身の「自己成長(因子)」を高める。
■主なトピックス(詳細)
<教員のはたらく幸せ実態>
1. 教員のはたらく幸せ実感は、就業者全体平均と同水準で、正社員平均※8を僅かに上回り、はたらく不幸せ実感は、就業者全体平均と同水準で、正社員平均を下回る。
[画像2: https://prtimes.jp/i/111116/29/resize/d111116-29-7b4e228b7ec6faf2a964-0.jpg ]
※8:企業で働く正規雇用就業者のはたらくことを通じた幸せの実感度4.19pt./不幸せ実感の実感度3.52pt.(参考値)パーソル総合研究所・慶応義塾大学前野隆司研究室「はたらく人の幸せに関する調査」(2020年2月)
https://rc.persol-group.co.jp/thinktank/assets/Well-Being_AtWork_ver1.pdf
2. はたらく幸せ実感・不幸せ実感を職位別に見た。「教諭」と「教頭・副校長」について、はたらく幸せ実感が低く、はたらく不幸せ実感が高い傾向。
[画像3: https://prtimes.jp/i/111116/29/resize/d111116-29-f4ea40e7838098d2fdda-0.jpg ]
また、教諭のなかでは、はたらく幸せ実感・不幸せ実感を見た。年代別では、「20代」のはたらく幸せ実感が低く、はたらく不幸せ実感が高い傾向。
[画像4: https://prtimes.jp/i/111116/29/resize/d111116-29-992342883b9a82da9212-0.jpg ]
3. はたらく上で、教員はどのようなことに「幸せ」や「不幸せ」を感じているのか。診断ツールでその要因となる「はたらく幸せ/不幸せの7因子スコア」を確認した。
■『はたらく幸せ』の7因子スコアを確認すると、教員の「自己成長」「チームワーク」「他者貢献」の因子スコアは、正社員平均※9を上回る。一方、「リフレッシュ」「役割認識」「自己裁量」は、正社員平均を下回る。
■『はたらく不幸せ』の7因子スコアを確認すると、教員の「不快空間」「協働不全」「疎外感」「評価不満」の因子スコアは、正社員平均を下回る。一方、「オーバーワーク」の因子スコアは、正社員平均を上回る。
[画像5: https://prtimes.jp/i/111116/29/resize/d111116-29-8d50e5ef256d171ed3c1-0.jpg ]
<原著論文>「職業生活における主観的幸福感因子尺度/主観的不幸感因子尺度の開発」(Inoue.et,al.,日本感情心理学会、2022,12)
https://www.jstage.jst.go.jp/article/ems/8/1/8_ES810/_article/-char/ja/#citedby-wrap
※9:企業で働く正規雇用就業者のはたらくことを通じた幸せの実感度4.19pt./不幸せ実感の実感度3.52pt.(参考値)パーソル総合研究所・慶応義塾大学前野隆司研究室「はたらく人の幸せに関する調査」(2020年2月)
https://rc.persol-group.co.jp/thinktank/assets/Well-Being_AtWork_ver1.pdf
<教員という仕事への熱意とストレス>
「ワーク・エンゲイジメント」※10と「心理的ストレス反応」の傾向で、教員を以下の4タイプに分けた。
[画像6: https://prtimes.jp/i/111116/29/resize/d111116-29-76045e1692ba833a1948-0.jpg ]
※10:仕事から活力を得て、熱意をもって没頭できている状態。上記では、ワーク・エンゲイジメントと心理的ストレス反応のいずれも4点以下を低群、4点超えを高群として分析を行った
4. 学校・園、いずれの教育機関においても、仕事にやりがいを感じており、ストレスをあまり感じていない「ワーク・エンゲイジメント教員」の割合は約40%。
[画像7: https://prtimes.jp/i/111116/29/resize/d111116-29-e6e71cbcc85f46ed1e3c-0.jpg ]
5. 職位別で見ると、教諭では、仕事にやりがいを感じているが、ストレスを強く感じている「バーンアウト教員」、教頭・副校長では、仕事へのやりがいも、ストレスもあまり感じていない「不活性教員」の割合が高い傾向。
[画像8: https://prtimes.jp/i/111116/29/resize/d111116-29-0577abea4a32901d3bb4-0.jpg ]
6. 教諭のみを年代別で見ると、20代の「ワーク・エンゲイジメント教員(仕事にやりがいを感じており、ストレスをあまり感じていない教員)」の割合が少なく、「バーンアウト教員(仕事にやりがいを感じておらず、ストレスを強く感じている教員)」の割合が多い傾向。
[画像9: https://prtimes.jp/i/111116/29/resize/d111116-29-ad93cbf7a444afb47fe4-0.jpg ]
<教員の仕事の課題>
・部活動について
7. 「その部活動の顧問をやりたくてやっている」割合について、中学教員よりも高校教員の方が高い。また、副顧問よりも主顧問の方が高い傾向。
[画像10: https://prtimes.jp/i/111116/29/resize/d111116-29-adc92857aa621db4ff4e-0.jpg ]
8. 「その部活動の顧問をやりたくてやっている(部活動への熱量の高さ)」の意識がリフレッシュ因子を高めオーバーワーク因子を下げる傾向。
[画像11: https://prtimes.jp/i/111116/29/resize/d111116-29-a65492a8635950a26784-0.jpg ]
・苦情対応について
9. 小学校と中学校において、「保護者や地域住民からのクレームが多い」「1つのクレーム対応にかなりの時間を割かれる」割合が高い。また、「クレーム対応によって心身が疲弊することがよくある」割合も高い傾向。
[画像12: https://prtimes.jp/i/111116/29/resize/d111116-29-893a7d5508b3f586a9d7-0.jpg ]
10. 苦情対応別にはたらく幸せ因子・不幸せ因子を比較した。組織的に苦情対応している学校の方が、教員のはたらく幸せ因子が高く、はたらく不幸せ因子が低い傾向。
[画像13: https://prtimes.jp/i/111116/29/resize/d111116-29-b37ec00ba049aa82e492-0.jpg ]
教頭・副校長のみで見ても、組織で苦情対応している学校の方が、はたらく幸せ因子が高く、はたらく不幸せ因子が低い傾向だが、オーバーワーク因子については、組織で対応している学校では高い傾向。
[画像14: https://prtimes.jp/i/111116/29/resize/d111116-29-3bbe2ac319938c2b037b-0.jpg ]
11. 教諭のみを年代×苦情対応別で見ると、20代の「バーンアウト教員」の割合において、組織で苦情対応した学校の方が個人で苦情対応する学校よりも少ない傾向。
[画像15: https://prtimes.jp/i/111116/29/resize/d111116-29-8e2cbccf159b9cb5346e-0.jpg ]
・収入について
12. 「現在の収入は安定していると思う」割合は小学校・中学校・高等学校では6割を超える。一方、「現在の収入に満足している」割合は2割に満たない。
[画像16: https://prtimes.jp/i/111116/29/resize/d111116-29-740d6d1ea384476207ad-0.jpg ]
・学びについて
13. 高校で60.3%、小・中学校では55.6%の教員が業務時間外にも何らかの学びを行っている。就業者の56.1%が「特に何も行っていない」実態※11と比較して、教員の学びの実施率は高い。
[画像17: https://prtimes.jp/i/111116/29/resize/d111116-29-dd359de800225cbd6e0f-0.jpg ]
※11 パーソル総合研究所 「学び合う組織に関する定量調査」より、就業者の業務外の学習時間について、56.1%が「特に何も行っていない」と回答(参考値)
https://rc.persol-group.co.jp/thinktank/data/learning-culture.html
14. 学び行動をしている教員は、学び行動をしていない教員と比べて、業務時間が長い傾向。学び行動をしている教員は、学び行動をしていない教員と比べて、リフレッシュ因子が高い傾向。
[画像18: https://prtimes.jp/i/111116/29/resize/d111116-29-fd0072fe0952105dde25-0.jpg ]
■調査結果からの提言
[画像19: https://prtimes.jp/i/111116/29/resize/d111116-29-01b7908b8560866d0db4-0.png ]
■教員の職業的魅力を高めるには、過重労働・処遇の改善と共に「成長実感」が鍵
教職本来の魅力を高め、若手にも憧れられる職業とするためには、単に“不幸せ実感”と相関の高い「過重労働」や「評価・処遇への不満」を解消するだけでなく、“幸せ実感”と関連する「自己成長」や「他者貢献」などを実感できる機会の担保が鍵となる。また、業務外に自身の学びをアップデートできている教員は、自己成長因子が高く、職業生活Well-beingが高い傾向が確認された。継続的な学びの実践は、子どもたちへの質の高い教育の提供につながるばかりか、教員自身の職業生活を豊かにするためにも重要な要素だと言える。
■教員は特別「ブラック」ではないが、若年層と教頭・副校長の働き方改革は急務
本調査では約60%の教員が「教員のイメージは実態と比べて悪すぎると思う」と回答し、「やや悪い実態が取り上げられすぎではないか」とも感じていた。また、日本の就業者データと比較すると、教員の職業生活における主観的幸福感は、企業に勤務するいわゆる正社員のスコアとほぼ同じ傾向が確認された。このことから、「教員」という職業だけが特別に「ブラックな職業」ではないと言える。
ただし、日本の一般的な企業の正社員の職業生活Well-beingは、自営業や専門家(医師やその他士業)などと比較して最も低い水準にあり、教員も同様に働き方の改革が急がれる点は言うまでもない。特に、若年層(主に20代)と教頭・副校長など管理職層のWell-beingは教員全体の平均値を下回っており、今後の教員の働き方改革においては早急な対応が必要と考える。
■教員の働き方改革は、仕事の動機づけ要因の見極めが重要
本調査では、教員が負担だと答える割合が多かった業務は、地域住民や保護者からの苦情対応や過剰な統計調査への回答、学校運営上の報告書作成などがあがった。また、熱中・没頭できる業務としては、授業や授業の準備を行う時間が筆頭に上がった。これらは、以前より議論される点と同様であった。
部活動については、中学校の教員の約40%が負担だと回答する一方で、好んでその役割を引き受けている教員もまた約40%(高校では47%)確認された。好んで顧問をしている教員は、部活動の時間が職務全般での多忙感を軽減し、リフレッシュを高める可能性が示唆された。部活動業務のアウトソースについての判断が難しいことを定量的に示す結果となった。
教員の働き方改革においては、単なる業務時間の低減や業務内容の削減にだけ焦点を当てるのではなく、教員としてのやりがいを感じられる業務の担保を視野に入れた慎重な議論と見極めが重要となる。
■若年層教員のバーンアウト(燃え尽き)は、組織的に解決すべき課題である
若年層教員は、主業務となる授業やその準備においてもベテラン教員と比較して心理的な負担感が高く、保護者や地域住民からの苦情対応やPTA対応などについての負担感も高い。苦情対応については、組織的に対応がなされていない学校の20代教員のバーンアウト割合は36.8%であり、組織対応されている学校と比較して11.2pt高い傾向が確認された。
職務経験の浅い20代の教員は、広範な業務を担う過程で、相談や支援を求めたくとも組織的な支援体制や風土のない職場では声をあげにくいことが予想される。また、教員間のお互いの業務への無関心、適切な評価・処遇のなさといった報われなさを感じた場合、張りつめていた状態からバーンアウトに追い込まれるリスクは高まる。若年教員の成長を促すためにも、組織的な支援や育成体制の整備・充実が必要と考える。
■教頭・副校長らが時に仕事を離れ、学び続けられる施策が必要
本調査から、教頭・副校長らの業務は、職務範囲が不明瞭で非定型なものが多く、他の教員に比べて月間の業務時間が最も長かった。特に、外部の苦情対応に組織的に対応している学校では、教頭・副校長の多忙感が顕著であった。教頭・副校長らは学内外の架け橋として学校経営において重要な役割を担っているが、期待と負担が集中すると組織的リスクともなり得る。この点において、業務支援要員の設置等は対策として有効と考える。
教頭・副校長層では、40%以上が仕事への熱意を持っている一方で、不活性状態※12の方の割合も一般教諭と比較して高い。これは、熱心に業務に取り組む方と、義務感と多忙ゆえに機械的に仕事をこなさざる得ない方が混在している可能性を示唆している。そのため、不活性状態の方々の状況把握と適切な支援は重要である。
教頭・副校長らのはたらく幸せには、「自身の成長を実感すること」の影響が大きいことが示唆された。教頭・副校長らにとっても学びの機会の確保は重要である。この点においては、日々の学校業務から心理的に距離を取り、リフレッシュしながら自身の学びを更新できる公的な支援制度の導入などが挙げられる。これらは、次代の校長職(施設長)の育成観点からも有効であり、教頭・副校長のWell-beingの向上にも寄与すると考える。
※12:不活性状態:仕事にやりがいを感じておらず、ストレスもあまり感じていない状態
●本調査を引用いただく際は、出所として「パーソル総合研究所」と記載してください。
●調査結果の詳細については、下記URLをご覧ください。
URL: https://rc.persol-group.co.jp/thinktank/data/teacher-well-being.html
●構成比の数値は、小数点以下第2位を四捨五入しているため、個々の集計値の合計は必ずしも100%とならない場合があります。
■調査概要
[画像20: https://prtimes.jp/i/111116/29/resize/d111116-29-21527241522a800f27ec-0.png ]
■【株式会社パーソル総合研究所】<https://rc.persol-group.co.jp/>について
パーソル総合研究所は、パーソルグループのシンクタンク・コンサルティングファームとして、調査・研究、組織人事コンサルティング、人材開発・教育支援などを行っています。経営・人事の課題解決に資するよう、データに基づいた実証的な提言・ソリューションを提供し、人と組織の成長をサポートしています。
■【PERSOL(パーソル)】<https://www.persol-group.co.jp/>について
パーソルグループは、「“はたらくWell-being”創造カンパニー」として、2030年には「人の可能性を広げることで、100万人のより良い“はたらく機会”を創出する」ことを目指しています。
人材派遣サービス「テンプスタッフ」、転職サービス「doda」、BPOや設計・開発など、人と組織にかかわる多様な事業を展開するほか、新領域における事業の探索・創造にも取り組み、アセスメントリクルーティングプラットフォーム「ミイダス」や、スキマバイトアプリ「シェアフル」などのサービスも提供しています。
はたらく人々の多様なニーズに応え、可能性を広げることで、世界中の誰もが「はたらいて、笑おう。」 を実感できる社会を創造します。
株式会社パーソル総合研究所(本社:東京都港区、代表取締役社長:萱野博行)は、幼稚園・保育園・小学校・中学校・高等学校・特別支援学校の教員3,800名を対象に、教員の職業生活におけるWell-being※1に焦点を当てた「教員の職業生活に関する定量調査」(監修:東京大学公共政策大学院 鈴木寛 教授)の結果を発表いたします。本調査は、教育現場を支える多くの関係者が教員のWell-beingについて考え、教員※2がイキイキとはたらける状態を実現し、その先にいる子どもたちにとってより良い教育環境を築く一助となることを目的に実施いたしました。
※1:身体的・精神的・社会的により良い状態
※2:本報告書では、複数の学校種における教育実践者を対象とするため、総じて「教員」と表記する
学校・園いずれの教育機関でも「教員であることに誇りを感じる」教員は約6割。
また、「教員の悪い実態が取り上げられすぎていると思う」割合は半数程度。
[画像1: https://prtimes.jp/i/111116/29/resize/d111116-29-270382f0b7b33e0cfc83-0.jpg ]
■背景
産業界と同様に、教育界も教員の担い手不足や質の低下といった問題に直面しています。文部科学省が2021年に実施した調査※3によると、全国の公立小・中・高校で2,558人の教員が不足しており、地域別にみると、
75%もの地域で教員が1人以上不足している実態が明らかになりました。2023年の文科省の別調査※4では、教員不足の状況は1年前より「悪化した」と答えた地域が4割を超えています。また、「教員」の働き方は、長時間労働や賃金の妥当性に関する問題が提起され、部活動や年間行事などの過剰な負担が教員の心身の疲労を増大させているとの声も報告されるなど「ブラックな職場」のイメージを持たれています。このような社会的な背景を踏まえ、本調査では現時点でのリアルな教育現場の実態をデータに基づいて明らかにし、教員の職業生活の現実と課題について定量的に捉えることで、よりよい教育環境を築くための視点を提供します。
※3:「教師不足」に関する実態調査(文部科学省)
https://www.mext.go.jp/content/20220128-mxt_kyoikujinzai01-000020293-1.pdf
※4:「教師不足」への対応等に係るアンケート調査結果(文部科学省)
https://www.mext.go.jp/content/20230626-mxt_kyoikujinzai01-000022259-3.pdf
■主なトピックス ※トピックスの詳細については「主なトピックス(詳細)」をご確認ください
<教員のはたらく幸せ実感>
1. 教員のはたらく幸せ実感は、全国の正社員※5よりもやや高い。
2. 職位別では、「教諭(役職を持たない一般の教員)」と「教頭・副校長」のはたらく幸せ実感が低い。また、「教諭」の中では、「20代」のはたらく幸せ実感が低い。
3. はたらく上で、教員はどのようなことに「幸せ」や「不幸せ」を感じているのか、その要因となる「はたらく幸せ/不幸せの7因子※6スコア」を確認した。
■『はたらく幸せ』の7因子スコアを確認すると、教員の「自己成長因子(新たな学び)」「チームワーク因子(ともに歩む)」「他者貢献因子(誰かのため)」のスコアは、全国の正社員よりも高い。一方、「リフレッシュ因子(ほっとひと息)」「役割認識因子(自分ゴト)」「自己裁量因子(マイペース)」は、全国の正社員よりも低い。
■『はたらく不幸せ』の7因子スコアを確認すると、教員の「不快空間(環境イヤイヤ)」「協働不全(環境バラバラ)」「疎外感(ひとりぼっち)」「評価不満(報われない)」の因子スコアは、全国の正社員よりも低い。一方、「オーバーワーク(ヘトヘト)」の因子スコアは、全国の正社員よりも高い。
※5:企業で働く正規雇用就業者のはたらくことを通じた幸せの実感度4.19pt./不幸せ実感の実感度3.52pt.(参考値)パーソル総合研究所・慶応義塾大学前野隆司研究室「はたらく人の幸せに関する調査」(2020年2月)
https://rc.persol-group.co.jp/thinktank/assets/Well-Being_AtWork_ver1.pdf
※6:組織で働く従業員の「はたらく幸せ実感/不幸せ実感」については、その要因となる「はたらく幸せ7因子/はたらく不幸せ7因子」によって説明することがで
きる。<原著論文>「職業生活における主観的幸福感因子尺度/不幸感因子尺度の開発」(Inoue.et,al.,日本感情心理学会,2022,12)
<仕事への熱意とストレス>
4. 幼稚園・保育園・小・中・高等学校・特別支援学校のいずれの教育機関においても、「ワーク・エンゲイジメント教員(仕事にやりがいを感じており、ストレスをあまり感じていない教員)」の割合は約40%。
5. 教諭の約20%に「バーンアウト教員(仕事にやりがいを感じておらず、ストレスを強く感じている教員)」の傾向が見られ、教頭・副校長層では、「不活性教員(仕事にやりがいを感じておらず、ストレスもあまり感じていない教員)」の割合が約40%。
6. 20代の教諭では、ワーク・エンゲイジメントの割合(約30%)が他年代より少なく、バーンアウト傾向(約30%)が他年代より多くみられる。
<教員の仕事の課題>
・部活動について
7. 「部活動の顧問をやりたくてやっている」割合は、高校主顧問47.1%・ 中学主顧問40.4%。
8. 部活動の顧問をやりたくてやっている教員は、部活動によって「リフレッシュ因子」が高まり、「オーバーワーク因子」が低下する傾向が見られた。
・苦情対応について
9. 小・中学校では、「保護者や地域住民からのクレームが多い」「1つのクレーム対応にかなりの時間を割かれる」との回答が多い。
10. 組織的に苦情対応している学校は、教員のはたらく幸せ因子が高く、不幸せ因子が低いが、教頭・副校長層の「多忙感(オーバーワーク因子)」は高い傾向。
11. 組織的に苦情対応している学校は、20代教諭におけるバーンアウト傾向が11.2pt少ない。
・収入について
12. 現在の収入について、「安定していると思う」割合は小・中・高等学校では60%を超える。一方で、「収入に満足している」割合は15%〜20%弱に留まる。
・学びについて
13. 小・中学校では55.6%、高校で60.3%の教員が業務時間外にも何らかの学びを行っている。就業者の56.1%が「特に何も行っていない」実態※7と比較して、教員の学びの実施率は高い。
※7:パーソル総合研究所 「学び合う組織に関する定量調査」より、就業者の業務外の学習時間について、56.1%が「特に何も行っていない」と回答(参考値)
https://rc.persol-group.co.jp/thinktank/data/learning-culture.html
14. 業務外の学びを行動化している教員は、行っていない教員と比べて、リフレッシュ因子が高い。業務外での教員の学び行動は、自身の「自己成長(因子)」を高める。
■主なトピックス(詳細)
<教員のはたらく幸せ実態>
1. 教員のはたらく幸せ実感は、就業者全体平均と同水準で、正社員平均※8を僅かに上回り、はたらく不幸せ実感は、就業者全体平均と同水準で、正社員平均を下回る。
[画像2: https://prtimes.jp/i/111116/29/resize/d111116-29-7b4e228b7ec6faf2a964-0.jpg ]
※8:企業で働く正規雇用就業者のはたらくことを通じた幸せの実感度4.19pt./不幸せ実感の実感度3.52pt.(参考値)パーソル総合研究所・慶応義塾大学前野隆司研究室「はたらく人の幸せに関する調査」(2020年2月)
https://rc.persol-group.co.jp/thinktank/assets/Well-Being_AtWork_ver1.pdf
2. はたらく幸せ実感・不幸せ実感を職位別に見た。「教諭」と「教頭・副校長」について、はたらく幸せ実感が低く、はたらく不幸せ実感が高い傾向。
[画像3: https://prtimes.jp/i/111116/29/resize/d111116-29-f4ea40e7838098d2fdda-0.jpg ]
また、教諭のなかでは、はたらく幸せ実感・不幸せ実感を見た。年代別では、「20代」のはたらく幸せ実感が低く、はたらく不幸せ実感が高い傾向。
[画像4: https://prtimes.jp/i/111116/29/resize/d111116-29-992342883b9a82da9212-0.jpg ]
3. はたらく上で、教員はどのようなことに「幸せ」や「不幸せ」を感じているのか。診断ツールでその要因となる「はたらく幸せ/不幸せの7因子スコア」を確認した。
■『はたらく幸せ』の7因子スコアを確認すると、教員の「自己成長」「チームワーク」「他者貢献」の因子スコアは、正社員平均※9を上回る。一方、「リフレッシュ」「役割認識」「自己裁量」は、正社員平均を下回る。
■『はたらく不幸せ』の7因子スコアを確認すると、教員の「不快空間」「協働不全」「疎外感」「評価不満」の因子スコアは、正社員平均を下回る。一方、「オーバーワーク」の因子スコアは、正社員平均を上回る。
[画像5: https://prtimes.jp/i/111116/29/resize/d111116-29-8d50e5ef256d171ed3c1-0.jpg ]
<原著論文>「職業生活における主観的幸福感因子尺度/主観的不幸感因子尺度の開発」(Inoue.et,al.,日本感情心理学会、2022,12)
https://www.jstage.jst.go.jp/article/ems/8/1/8_ES810/_article/-char/ja/#citedby-wrap
※9:企業で働く正規雇用就業者のはたらくことを通じた幸せの実感度4.19pt./不幸せ実感の実感度3.52pt.(参考値)パーソル総合研究所・慶応義塾大学前野隆司研究室「はたらく人の幸せに関する調査」(2020年2月)
https://rc.persol-group.co.jp/thinktank/assets/Well-Being_AtWork_ver1.pdf
<教員という仕事への熱意とストレス>
「ワーク・エンゲイジメント」※10と「心理的ストレス反応」の傾向で、教員を以下の4タイプに分けた。
[画像6: https://prtimes.jp/i/111116/29/resize/d111116-29-76045e1692ba833a1948-0.jpg ]
※10:仕事から活力を得て、熱意をもって没頭できている状態。上記では、ワーク・エンゲイジメントと心理的ストレス反応のいずれも4点以下を低群、4点超えを高群として分析を行った
4. 学校・園、いずれの教育機関においても、仕事にやりがいを感じており、ストレスをあまり感じていない「ワーク・エンゲイジメント教員」の割合は約40%。
[画像7: https://prtimes.jp/i/111116/29/resize/d111116-29-e6e71cbcc85f46ed1e3c-0.jpg ]
5. 職位別で見ると、教諭では、仕事にやりがいを感じているが、ストレスを強く感じている「バーンアウト教員」、教頭・副校長では、仕事へのやりがいも、ストレスもあまり感じていない「不活性教員」の割合が高い傾向。
[画像8: https://prtimes.jp/i/111116/29/resize/d111116-29-0577abea4a32901d3bb4-0.jpg ]
6. 教諭のみを年代別で見ると、20代の「ワーク・エンゲイジメント教員(仕事にやりがいを感じており、ストレスをあまり感じていない教員)」の割合が少なく、「バーンアウト教員(仕事にやりがいを感じておらず、ストレスを強く感じている教員)」の割合が多い傾向。
[画像9: https://prtimes.jp/i/111116/29/resize/d111116-29-ad93cbf7a444afb47fe4-0.jpg ]
<教員の仕事の課題>
・部活動について
7. 「その部活動の顧問をやりたくてやっている」割合について、中学教員よりも高校教員の方が高い。また、副顧問よりも主顧問の方が高い傾向。
[画像10: https://prtimes.jp/i/111116/29/resize/d111116-29-adc92857aa621db4ff4e-0.jpg ]
8. 「その部活動の顧問をやりたくてやっている(部活動への熱量の高さ)」の意識がリフレッシュ因子を高めオーバーワーク因子を下げる傾向。
[画像11: https://prtimes.jp/i/111116/29/resize/d111116-29-a65492a8635950a26784-0.jpg ]
・苦情対応について
9. 小学校と中学校において、「保護者や地域住民からのクレームが多い」「1つのクレーム対応にかなりの時間を割かれる」割合が高い。また、「クレーム対応によって心身が疲弊することがよくある」割合も高い傾向。
[画像12: https://prtimes.jp/i/111116/29/resize/d111116-29-893a7d5508b3f586a9d7-0.jpg ]
10. 苦情対応別にはたらく幸せ因子・不幸せ因子を比較した。組織的に苦情対応している学校の方が、教員のはたらく幸せ因子が高く、はたらく不幸せ因子が低い傾向。
[画像13: https://prtimes.jp/i/111116/29/resize/d111116-29-b37ec00ba049aa82e492-0.jpg ]
教頭・副校長のみで見ても、組織で苦情対応している学校の方が、はたらく幸せ因子が高く、はたらく不幸せ因子が低い傾向だが、オーバーワーク因子については、組織で対応している学校では高い傾向。
[画像14: https://prtimes.jp/i/111116/29/resize/d111116-29-3bbe2ac319938c2b037b-0.jpg ]
11. 教諭のみを年代×苦情対応別で見ると、20代の「バーンアウト教員」の割合において、組織で苦情対応した学校の方が個人で苦情対応する学校よりも少ない傾向。
[画像15: https://prtimes.jp/i/111116/29/resize/d111116-29-8e2cbccf159b9cb5346e-0.jpg ]
・収入について
12. 「現在の収入は安定していると思う」割合は小学校・中学校・高等学校では6割を超える。一方、「現在の収入に満足している」割合は2割に満たない。
[画像16: https://prtimes.jp/i/111116/29/resize/d111116-29-740d6d1ea384476207ad-0.jpg ]
・学びについて
13. 高校で60.3%、小・中学校では55.6%の教員が業務時間外にも何らかの学びを行っている。就業者の56.1%が「特に何も行っていない」実態※11と比較して、教員の学びの実施率は高い。
[画像17: https://prtimes.jp/i/111116/29/resize/d111116-29-dd359de800225cbd6e0f-0.jpg ]
※11 パーソル総合研究所 「学び合う組織に関する定量調査」より、就業者の業務外の学習時間について、56.1%が「特に何も行っていない」と回答(参考値)
https://rc.persol-group.co.jp/thinktank/data/learning-culture.html
14. 学び行動をしている教員は、学び行動をしていない教員と比べて、業務時間が長い傾向。学び行動をしている教員は、学び行動をしていない教員と比べて、リフレッシュ因子が高い傾向。
[画像18: https://prtimes.jp/i/111116/29/resize/d111116-29-fd0072fe0952105dde25-0.jpg ]
■調査結果からの提言
[画像19: https://prtimes.jp/i/111116/29/resize/d111116-29-01b7908b8560866d0db4-0.png ]
■教員の職業的魅力を高めるには、過重労働・処遇の改善と共に「成長実感」が鍵
教職本来の魅力を高め、若手にも憧れられる職業とするためには、単に“不幸せ実感”と相関の高い「過重労働」や「評価・処遇への不満」を解消するだけでなく、“幸せ実感”と関連する「自己成長」や「他者貢献」などを実感できる機会の担保が鍵となる。また、業務外に自身の学びをアップデートできている教員は、自己成長因子が高く、職業生活Well-beingが高い傾向が確認された。継続的な学びの実践は、子どもたちへの質の高い教育の提供につながるばかりか、教員自身の職業生活を豊かにするためにも重要な要素だと言える。
■教員は特別「ブラック」ではないが、若年層と教頭・副校長の働き方改革は急務
本調査では約60%の教員が「教員のイメージは実態と比べて悪すぎると思う」と回答し、「やや悪い実態が取り上げられすぎではないか」とも感じていた。また、日本の就業者データと比較すると、教員の職業生活における主観的幸福感は、企業に勤務するいわゆる正社員のスコアとほぼ同じ傾向が確認された。このことから、「教員」という職業だけが特別に「ブラックな職業」ではないと言える。
ただし、日本の一般的な企業の正社員の職業生活Well-beingは、自営業や専門家(医師やその他士業)などと比較して最も低い水準にあり、教員も同様に働き方の改革が急がれる点は言うまでもない。特に、若年層(主に20代)と教頭・副校長など管理職層のWell-beingは教員全体の平均値を下回っており、今後の教員の働き方改革においては早急な対応が必要と考える。
■教員の働き方改革は、仕事の動機づけ要因の見極めが重要
本調査では、教員が負担だと答える割合が多かった業務は、地域住民や保護者からの苦情対応や過剰な統計調査への回答、学校運営上の報告書作成などがあがった。また、熱中・没頭できる業務としては、授業や授業の準備を行う時間が筆頭に上がった。これらは、以前より議論される点と同様であった。
部活動については、中学校の教員の約40%が負担だと回答する一方で、好んでその役割を引き受けている教員もまた約40%(高校では47%)確認された。好んで顧問をしている教員は、部活動の時間が職務全般での多忙感を軽減し、リフレッシュを高める可能性が示唆された。部活動業務のアウトソースについての判断が難しいことを定量的に示す結果となった。
教員の働き方改革においては、単なる業務時間の低減や業務内容の削減にだけ焦点を当てるのではなく、教員としてのやりがいを感じられる業務の担保を視野に入れた慎重な議論と見極めが重要となる。
■若年層教員のバーンアウト(燃え尽き)は、組織的に解決すべき課題である
若年層教員は、主業務となる授業やその準備においてもベテラン教員と比較して心理的な負担感が高く、保護者や地域住民からの苦情対応やPTA対応などについての負担感も高い。苦情対応については、組織的に対応がなされていない学校の20代教員のバーンアウト割合は36.8%であり、組織対応されている学校と比較して11.2pt高い傾向が確認された。
職務経験の浅い20代の教員は、広範な業務を担う過程で、相談や支援を求めたくとも組織的な支援体制や風土のない職場では声をあげにくいことが予想される。また、教員間のお互いの業務への無関心、適切な評価・処遇のなさといった報われなさを感じた場合、張りつめていた状態からバーンアウトに追い込まれるリスクは高まる。若年教員の成長を促すためにも、組織的な支援や育成体制の整備・充実が必要と考える。
■教頭・副校長らが時に仕事を離れ、学び続けられる施策が必要
本調査から、教頭・副校長らの業務は、職務範囲が不明瞭で非定型なものが多く、他の教員に比べて月間の業務時間が最も長かった。特に、外部の苦情対応に組織的に対応している学校では、教頭・副校長の多忙感が顕著であった。教頭・副校長らは学内外の架け橋として学校経営において重要な役割を担っているが、期待と負担が集中すると組織的リスクともなり得る。この点において、業務支援要員の設置等は対策として有効と考える。
教頭・副校長層では、40%以上が仕事への熱意を持っている一方で、不活性状態※12の方の割合も一般教諭と比較して高い。これは、熱心に業務に取り組む方と、義務感と多忙ゆえに機械的に仕事をこなさざる得ない方が混在している可能性を示唆している。そのため、不活性状態の方々の状況把握と適切な支援は重要である。
教頭・副校長らのはたらく幸せには、「自身の成長を実感すること」の影響が大きいことが示唆された。教頭・副校長らにとっても学びの機会の確保は重要である。この点においては、日々の学校業務から心理的に距離を取り、リフレッシュしながら自身の学びを更新できる公的な支援制度の導入などが挙げられる。これらは、次代の校長職(施設長)の育成観点からも有効であり、教頭・副校長のWell-beingの向上にも寄与すると考える。
※12:不活性状態:仕事にやりがいを感じておらず、ストレスもあまり感じていない状態
●本調査を引用いただく際は、出所として「パーソル総合研究所」と記載してください。
●調査結果の詳細については、下記URLをご覧ください。
URL: https://rc.persol-group.co.jp/thinktank/data/teacher-well-being.html
●構成比の数値は、小数点以下第2位を四捨五入しているため、個々の集計値の合計は必ずしも100%とならない場合があります。
■調査概要
[画像20: https://prtimes.jp/i/111116/29/resize/d111116-29-21527241522a800f27ec-0.png ]
■【株式会社パーソル総合研究所】<https://rc.persol-group.co.jp/>について
パーソル総合研究所は、パーソルグループのシンクタンク・コンサルティングファームとして、調査・研究、組織人事コンサルティング、人材開発・教育支援などを行っています。経営・人事の課題解決に資するよう、データに基づいた実証的な提言・ソリューションを提供し、人と組織の成長をサポートしています。
■【PERSOL(パーソル)】<https://www.persol-group.co.jp/>について
パーソルグループは、「“はたらくWell-being”創造カンパニー」として、2030年には「人の可能性を広げることで、100万人のより良い“はたらく機会”を創出する」ことを目指しています。
人材派遣サービス「テンプスタッフ」、転職サービス「doda」、BPOや設計・開発など、人と組織にかかわる多様な事業を展開するほか、新領域における事業の探索・創造にも取り組み、アセスメントリクルーティングプラットフォーム「ミイダス」や、スキマバイトアプリ「シェアフル」などのサービスも提供しています。
はたらく人々の多様なニーズに応え、可能性を広げることで、世界中の誰もが「はたらいて、笑おう。」 を実感できる社会を創造します。