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コンクリート構造物の維持管理費用を大幅に低減、防水工事を不要にする技術を開発【産技助成Vol.31】

独立行政法人新エネルギー・産業技術総合開発機構
東京大学生産技術研究所


ひび割れを自ら閉ざす自己治癒コンクリートにより
地下構造物やトンネル等だけでなく、道路や鉄道等の地上のコンクリート構造物についても
維持管理費用を大幅に低減し、当初施工時の防水工事も不要となる技術



【新規発表事項】 
独立行政法人新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO技術開発機構)の産業技術研究助成事業(予算規模:約50億円)の一環として、東京大学生産技術研究所人間・社会系部門の准教授、岸利治氏は、コンクリートに経年劣化によりひび割れが生じてもコンクリート自らがひび割れを閉ざす「自己治癒」技術を開発しました。
これまでトンネルなど地下水に触れることが多いコンクリート構造物は漏水とその定期的な補修費用に悩まされてきましたが、本技術によりこれらの課題が解決し、維持管理費用を大きく低減することが期待されます。また将来的には施工時の防水工事を不要にすることが期待されます。また竣工後のコストを抑えるだけではなく、コンクリート構造物の長期的な信頼性を向上させます。また漏水を止めることができるので美観を損なわず、快適な地下空間やトンネル内空間を維持することができます。
自己治癒が起こりにくいとされる日本の軟水環境において、通常の水セメント比(注1)で確かな自己治癒を実現しました。将来的には、施工時の防水工事を不要にすることを目指す技術として注目されています。

(注1)コンクリートの水とセメントの配合比を表す指標で、強度の目安となる。一般に水を減らすと高い強度を得ることができる。水量をW、セメント量をCとし、〔W/C〕の百分率で示す。一般的なコンクリートの水セメント比は45〜60%。


1.研究成果概要
ひび割れはコンクリート構造物の大敵ですが、セメント中の水酸化カルシウムが二酸化炭素と反応して炭酸カルシウムを生じたり、セメントの未反応部分が流れてきた水と追加反応する等により体積膨張し、ひび割れが自然に修復(自己治癒)することが稀にあります。私たちはこうした自己治癒を確実に行わせることができるコンクリート材料の開発を行ってきました。
2001年には、水とセメントの比率(水セメント比)を低くして未反応部分を多くし、膨張材を大量に使用して自己治癒させる技術を開発しました。しかし、この方法はコストが嵩むため、その後通常の水セメント比でも実現できる新しい自己治癒技術の開発を目指して研究してきました。
新手法の基本的な考え方は、1.膨張材、2.膨潤する材料、3.ひび割れ部分に析出した生成物の結晶性を高める材料、の3つを添加して、これらの複合効果によりコンクリートを自己治癒させるというものです。この考え方に沿って研究開発を重ねた結果、作製したセメントペーストを120日〜200日後放置した後にひびを入れ水に浸すと、最短3日でひび割れが自己治癒(自己閉塞)するという結果を得ています。


2.競合技術への強み
(1)補修工事不要:ひび割れを自ら治癒し漏水を止めるので、漏水対策としてのひび割れの補修工事をする必要がなくなります。
(2)美観の維持:漏水が少ないので美観を損なわず、快適な地下空間を維持することができます。
(3)信頼性向上:セメント親和性材料の化学作用を利用した自己治癒性能をコンクリートに与え、構造物の長期的な信頼性を向上させます。
(4)地上構造物にも適用:道路や鉄道等の地上のコンクリート構造物の場合でも、雨や人工的な散水により自己治癒させることが可能と考えられます。


3.今後の展望
現在、実施工における施工性確認試験を完了し、本技術を用いた小規模な適用事例も出てきました。今後は、地下構造物・トンネル構造物などへの適用を進めていく予定です。開発技術や製品の商用化および事業化の検討も課題ですが、例えば、地上の道路や鉄道の構造物にもひび割れが問題となる箇所が多くあり、雨も降るので適用先として有望と考えています。また、セメントモルタル、補修材などに自己治癒性能を持たせる商品開発も視野に入れています。現時点での自己治癒技術は最終形ではないと考えているので、さらに優れた効果を生む技術開発を続ける必要があります。
今後、コンクリートの能動的なひび割れ自己治癒技術について、実構造物での施工実績を少しずつ重ねていくとともに、更に効果的で信頼性の高い技術を模索し、地上構造物の補修技術としての展開を進めていく予定です。


4.参考
成果プレスダイジェスト: 東京大学准教授 岸 利治氏



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