高性能高分子材料の超低コスト製造方法を京都大学が開発【産技助成Vol.34】
[08/09/11]
提供元:PRTIMES
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独立行政法人新エネルギー・産業技術総合開発機構
京都大学化学研究所
〜新しい電池材料や発光体、生体材料の開発促進に貢献〜
【新規発表事項】
京都大学化学研究所高分子材料設計化学研究室(京都府宇治市)の助教、後藤 淳氏らは、独立行政法人新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO技術開発機構)の産業技術研究助成事業(予算規模:約50億円)の一環として、安価で安全なアルコール化合物を触媒として用いた、新発想の精密ラジカル重合(リビングラジカル重合)を開発しました。リビングラジカル重合は、近年、化学・電子・光学・医療等の最先端分野に用いられる高性能高分子の製造技術として脚光を浴びており、世界の潜在需要が年約2兆円と予測される成長分野の一つです。しかし、現在の処、その製造コストが高いといった理由により、普及が進んでいないのが実情です。同研究室では、汎用のアルコール化合物を触媒として用いた、従来技術に比べてはるかに低コストの重合を実現しました。制御剤費用を従来技術の約1/10以下にすることが可能で、世界最低レベルのコストです。触媒の安全性と取り扱いの容易さから、環境安全性と簡便性にも優れます。2008年9月16日より東京国際フォーラムで開催される「イノベーション・ジャパン2008」にて、この成果の一端である、触媒のライブラリーとそれらの性能を披露します。
従来のLRPは、特に原料費、精製工数(簡便性の点)や、環境負荷が重く、これが実用化のネックになっていました。従来のLRPの技術性能(末端変換能、ブロック共重合、モノマー汎用性等)を更に向上した上で、更にこうした他諸元を改善することは、強く産業界より望まれるところであります。そのため、従来のLRPの改良(第二世代化)が国内外で進められています。一方で、本研究では従来とは異なる新発想でLRPを開発し、この問題の解決を図りました。
1.背景及び研究概要
高分子材料の物性は、高分子の分子量や分子量分布、あるいは共重合配列(異種モノマー配列)や分岐構造、末端構造といった一次構造に大きく依存し、これらを制御することは、高分子材料開発の大きな鍵となっています。近年、これらを制御する精密重合法として、リビングラジカル重合法(LRP)が登場し、最先端の高付加価値材料の有効な製造法として脚光を浴びています。LRPは、現時点ではまだ大きくはないものの、潜在的な世界市場規模、年間約2兆円とも言われる一大成長分野です。巨大な高分子市場全体の5%にも匹敵し、世界中の民間企業がLRPの利用を検討しています。LRPが採用されると期待されている高分子材料としては、半導体用・ディスプレイ用レジスト、熱可塑性エラストマー(自動車材料等)、接着剤、ポリマーアロイ、各種フィラー添加剤、潤滑剤、界面活性剤、塗料、インク、包装材、医薬除放材、パーソナルケア製品(化粧品、整髪料等)等が挙げられます。さらに、従来にない新しい電子(電池材料等)・光学(発光材料等)・分離・生体材料等の開発にもLRPの優れたプロセスは貢献します。しかしながら、現在のLRP技術は高価な化合物や重金属を使用しているため、コストや環境問題が大きく、その実用化はまだ限定的なものに留まっているのが現状です。
2.訴求点
これらの問題に対し、本研究グループでは、従来、そのような単純な化合物が触媒となるとは予期されてこなかった、汎用のアルコール化合物や、窒素化合物、あるいはリン化合物がLRPの優れた触媒となることを発見し、科学的にも新しいタイプのLRPを開発しました。これは、触媒に非金属を用いたはじめてのLRPであり、従来、触媒の機能には遷移金属に特有の性質が欠かせないと広く認識されていたことに鑑みると新発想のLRPです。この重合法により、費用と安全性の問題を一気にかつ劇的に払拭しえます。
3.特徴 ・競合技術への強み
1. 触媒は市販の安価な化合物で微量(下記)しか要さず、世界で最も低費用で重合を制御できます。制御剤費用を、従来技術の約1/10以下にすることが可能です。実質的に、通常のラジカル重合法(汎用高分子の製造方法)と同じ費用で、重合の制御(高付加価値材料の製造)が可能であり、制御剤費用のゴールと位置づけられます。
2. 触媒の活性が著しく高く、100 ppm以下という世界最少レベルの触媒量で重合を制御可能です。
3. 触媒の微量化により、生成高分子からの触媒除去の必要性が実質的になく、従来法では多量に要しうるこの工程のためのエネルギーと溶媒(石油)を削減できます。
4. その省資源(省コスト)効果は大きく、触媒の安全性(無毒性)と併せて、低環境負荷を実現します。
5. 触媒は取り扱いが容易で空気安定性が高く、重合に特別な装置が不要です。
6. 触媒は無色・無臭で、その溶解に配位子を要しません。余分な費用が不要です。
7. 触媒は非導電性で毒性が低く、電子材料や医療材料への応用にも触媒残渣の問題が実質的にありません。これらは本重合の独自の応用分野となりえます。
4.今後の展望
主要なモノマー群であるスチレンとメタクリレート類の重合について、本技術は既に実用可能なレベルにあると考えます。多岐の用途分野において、各種の企業との連携を希望します。今後の研究開発により、使用可能なモノマー群を拡張し、より広範な用途に対応していきたいと考えています。
企業との情報交換や連携を図る為に、9月16日より東京国際フォーラムで開催される「イノベーション・ジャパン2008」にて、パネルおよび新技術説明会により、触媒のライブラリーとそれらの性能など、その技術内容を披露する予定です。
5.その他
(1)研究者の略歴
2001年京都大学大学院工学研究科高分子化学専攻博士後期課程を修了し、博士(工学)を授与された。2001年に京都大学化学研究所教務職員に着任、2002年に同助手(2007年に助教に改称)に着任し、現在に至る。この間、2003年に文部科学省在外研究員(独国・ゲッティンゲン大学)、2006年に日本学術振興会特定国派遣研究員(加国・オタワ大学)として両国に赴任した。
(2)受賞
2008年第54回高分子学会高分子研究発表会ヤングサイエンティスト講演賞
京都大学化学研究所
〜新しい電池材料や発光体、生体材料の開発促進に貢献〜
【新規発表事項】
京都大学化学研究所高分子材料設計化学研究室(京都府宇治市)の助教、後藤 淳氏らは、独立行政法人新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO技術開発機構)の産業技術研究助成事業(予算規模:約50億円)の一環として、安価で安全なアルコール化合物を触媒として用いた、新発想の精密ラジカル重合(リビングラジカル重合)を開発しました。リビングラジカル重合は、近年、化学・電子・光学・医療等の最先端分野に用いられる高性能高分子の製造技術として脚光を浴びており、世界の潜在需要が年約2兆円と予測される成長分野の一つです。しかし、現在の処、その製造コストが高いといった理由により、普及が進んでいないのが実情です。同研究室では、汎用のアルコール化合物を触媒として用いた、従来技術に比べてはるかに低コストの重合を実現しました。制御剤費用を従来技術の約1/10以下にすることが可能で、世界最低レベルのコストです。触媒の安全性と取り扱いの容易さから、環境安全性と簡便性にも優れます。2008年9月16日より東京国際フォーラムで開催される「イノベーション・ジャパン2008」にて、この成果の一端である、触媒のライブラリーとそれらの性能を披露します。
従来のLRPは、特に原料費、精製工数(簡便性の点)や、環境負荷が重く、これが実用化のネックになっていました。従来のLRPの技術性能(末端変換能、ブロック共重合、モノマー汎用性等)を更に向上した上で、更にこうした他諸元を改善することは、強く産業界より望まれるところであります。そのため、従来のLRPの改良(第二世代化)が国内外で進められています。一方で、本研究では従来とは異なる新発想でLRPを開発し、この問題の解決を図りました。
1.背景及び研究概要
高分子材料の物性は、高分子の分子量や分子量分布、あるいは共重合配列(異種モノマー配列)や分岐構造、末端構造といった一次構造に大きく依存し、これらを制御することは、高分子材料開発の大きな鍵となっています。近年、これらを制御する精密重合法として、リビングラジカル重合法(LRP)が登場し、最先端の高付加価値材料の有効な製造法として脚光を浴びています。LRPは、現時点ではまだ大きくはないものの、潜在的な世界市場規模、年間約2兆円とも言われる一大成長分野です。巨大な高分子市場全体の5%にも匹敵し、世界中の民間企業がLRPの利用を検討しています。LRPが採用されると期待されている高分子材料としては、半導体用・ディスプレイ用レジスト、熱可塑性エラストマー(自動車材料等)、接着剤、ポリマーアロイ、各種フィラー添加剤、潤滑剤、界面活性剤、塗料、インク、包装材、医薬除放材、パーソナルケア製品(化粧品、整髪料等)等が挙げられます。さらに、従来にない新しい電子(電池材料等)・光学(発光材料等)・分離・生体材料等の開発にもLRPの優れたプロセスは貢献します。しかしながら、現在のLRP技術は高価な化合物や重金属を使用しているため、コストや環境問題が大きく、その実用化はまだ限定的なものに留まっているのが現状です。
2.訴求点
これらの問題に対し、本研究グループでは、従来、そのような単純な化合物が触媒となるとは予期されてこなかった、汎用のアルコール化合物や、窒素化合物、あるいはリン化合物がLRPの優れた触媒となることを発見し、科学的にも新しいタイプのLRPを開発しました。これは、触媒に非金属を用いたはじめてのLRPであり、従来、触媒の機能には遷移金属に特有の性質が欠かせないと広く認識されていたことに鑑みると新発想のLRPです。この重合法により、費用と安全性の問題を一気にかつ劇的に払拭しえます。
3.特徴 ・競合技術への強み
1. 触媒は市販の安価な化合物で微量(下記)しか要さず、世界で最も低費用で重合を制御できます。制御剤費用を、従来技術の約1/10以下にすることが可能です。実質的に、通常のラジカル重合法(汎用高分子の製造方法)と同じ費用で、重合の制御(高付加価値材料の製造)が可能であり、制御剤費用のゴールと位置づけられます。
2. 触媒の活性が著しく高く、100 ppm以下という世界最少レベルの触媒量で重合を制御可能です。
3. 触媒の微量化により、生成高分子からの触媒除去の必要性が実質的になく、従来法では多量に要しうるこの工程のためのエネルギーと溶媒(石油)を削減できます。
4. その省資源(省コスト)効果は大きく、触媒の安全性(無毒性)と併せて、低環境負荷を実現します。
5. 触媒は取り扱いが容易で空気安定性が高く、重合に特別な装置が不要です。
6. 触媒は無色・無臭で、その溶解に配位子を要しません。余分な費用が不要です。
7. 触媒は非導電性で毒性が低く、電子材料や医療材料への応用にも触媒残渣の問題が実質的にありません。これらは本重合の独自の応用分野となりえます。
4.今後の展望
主要なモノマー群であるスチレンとメタクリレート類の重合について、本技術は既に実用可能なレベルにあると考えます。多岐の用途分野において、各種の企業との連携を希望します。今後の研究開発により、使用可能なモノマー群を拡張し、より広範な用途に対応していきたいと考えています。
企業との情報交換や連携を図る為に、9月16日より東京国際フォーラムで開催される「イノベーション・ジャパン2008」にて、パネルおよび新技術説明会により、触媒のライブラリーとそれらの性能など、その技術内容を披露する予定です。
5.その他
(1)研究者の略歴
2001年京都大学大学院工学研究科高分子化学専攻博士後期課程を修了し、博士(工学)を授与された。2001年に京都大学化学研究所教務職員に着任、2002年に同助手(2007年に助教に改称)に着任し、現在に至る。この間、2003年に文部科学省在外研究員(独国・ゲッティンゲン大学)、2006年に日本学術振興会特定国派遣研究員(加国・オタワ大学)として両国に赴任した。
(2)受賞
2008年第54回高分子学会高分子研究発表会ヤングサイエンティスト講演賞