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有機溶媒下でも安定して高活性を示す酵素を開発【産技助成Vol.32】

独立行政法人新エネルギー・産業技術総合開発機構
大阪府立大学大学院工学研究科


〜難水溶性のファインケミカル製品製造プロセスの触媒として応用可能〜


【新規発表事項】
独立行政法人新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO技術開発機構)の産業技術研究助成事業(予算規模:約50億円)の一環として、大阪府立大学の准教授、荻野 博康氏は有機溶媒耐性酵素を開発しました。今回新たに開発された有機溶媒耐性酵素は、有機溶媒耐性微生物が作り出す有機溶媒耐性酵素(注1)を改良することで、有機溶媒存在下でのペプチド合成反応を迅速に触媒する高活性酵素を開発したものです。従来酵素のサーモライシンと比較して、有機溶媒存在下で16倍以上の安定性と3.4倍以上のアスパルテーム(注2)前駆体合成活性を有します。有機溶媒耐性と高い合成活性の両方の特徴を有した酵素の開発は世界初です。
ファインケミカル製品の多くは水に不溶性であり、製造の過程では有機溶媒が用いられることが多くあります。一方でファインケミカル製品を合成する酵素は、特定の化合物を特定の生成物に変換する特異性が高いが、有機溶媒存在下では活性を失いやすい等の課題がありました。
本研究で開発した酵素は、有機溶媒中の50%ジメチルスルフォキシド存在下においてアスパルテーム前駆体を収率83%で合成可能であることが明らかとなる等、有機溶媒存在下でも安定性して高活性を示し、ファインケミカル製品の合成酵素としての有用性を確認しています。
また、従来の合成反応酵素において必要だったカルシウム等の安定化剤の添加やその洗浄プロセスを不要とすることで高効率な連続生産プロセスの構築も可能となります。また有機溶媒の使用量を低減し、環境負荷低減を可能とする省資源・省エネルギーのケミカルプロセスの構築が期待されます。

(注1)有機溶媒存在下でも触媒活性を保持できる高耐久性酵素のこと。酵素は特定の物質を認識し、特定の結合に作用する「基質特異性」を有しており、副生成物を生成しない特徴を有している。なお、プロテアーゼはタンパク質のペプチド結合を加水分解する酵素であり、リパーゼは脂質のエステル結合を加水分解する酵素。これらの酵素は水溶液中で加水分解反応を触媒するが、有機溶媒存在下では逆反応である合成反応を触媒することが可能である。
(注2)砂糖の約200倍の甘さの人工甘味料。アスパラギン酸とフェニルアラニンのメチルエステルがペプチド結合した構造を持ち、年間世界中で1万5000トンの生産されている。


1.研究背景
ファインケミカルの製造には多段階の反応過程を必要とするため、最終的な収率が低く、多量の廃棄物や環境負荷の原因となる副生成物を生じています。酵素は常温・常圧で反応を促進し、特定の化合物を特定の生成物に変換する特異性が高いため、このようなファインケミカルの製造の触媒として用いると、省資源・省エネルギーかつ、副生成物を生成しない環境負荷を低減したケミカルプロセスの構築が可能ですが、難水溶性のファインケミカル製品製造プロセスの溶媒として有機溶媒存在下では、酵素の安定性が悪く、活性が失いやすいという課題がありました。


2.競合技術への強み
有機溶媒耐性酵素には、次の特徴があり、 有機溶媒耐性酵素(PST-01プロテアーゼ)は、耐熱性酵素(サーモライシン)と比べ、有機溶媒存在下での安定性に優れています。そのため、有機溶媒存在下で長期間使用することが可能になります。
・ 有機溶媒耐性酵素は、水に難溶性のファインケミカル製品等の合成に用いられる有機溶媒存在下でも安定して触媒機能を発揮します。
・ 酵素は常温・常圧で機能し、基質特異性が高いため、工程数低減、副生成物低減、収率増加、使用原料低減、使用溶媒量低減、使用エネルギー低減、ユーティリティー低減、環境負荷低減し、省資源・省エネルギーの環境調和型プロセスが構築できます。
・ プロセスの簡略化により大幅なコストダウンが期待できるため、極めて経済的なプロセスの構築が可能になります。

今回新規に開発した酵素は、有機溶媒耐性微生物が作り出す有機溶媒耐性プロテアーゼのアミノ酸の一部を遺伝子組み換えにより改良したもので、有機溶媒存在下で高いペプチド合成活性を有しています。プロテアーゼは本来、ペプチド結合を加水分解する酵素ですが、有機溶媒存在下ではペプチド結合の合成反応を促進します。有機溶媒存在下で人口甘味料(アスパルテーム)の前駆体を合成したところ、今回開発に成功した酵素は、従来のサーモライシン(プロテアーゼの一種)より高活性で、安定性に優れていることが見出されました。また、サーモライシンを用いる場合に、安定化剤としてカルシウムイオンの添加が必要であり、製造過程ではカルシウムの垢の形成によるトラブルが懸念されますが、開発した酵素はカルシウムイオンの添加が不要であり、高効率な連続生産プロセスの構築も可能です。プロテアーゼ以外に有機溶媒耐性リパーゼ等の開発も進んでおり、これらの有機溶媒耐性酵素を用いれば、副生成物を生じずに種々のペプチドやエステルを合成でき、合成甘味料の他に、ポリアミノ酸、バイオディーゼル、高付加価値食品油、エステル系香料、医薬中間体等の合成が可能です。

加水分解酵素を有機溶媒存在下で使用すれば、合成反応の触媒として用いることができます。例えば、有機溶媒耐性酵素(PST-01プロテアーゼ)は合成甘味料(アスパルテーム)の前駆体を合成することが可能です。タンパク質工学的にサーモライシン(thermolysin)より高いアスパルテーム前駆体合成活性を有する酵素(PST-01-Y114S)の作成にも成功しています。


3.今後の展望
ファインケミカルの製造の触媒として用いることのできる有機溶媒耐性酵素の開発を今後も推進すると共に、有機溶媒耐性酵素の上市、有機溶媒耐性酵素の利用拡大、酵素への有機溶媒耐性付与技術の確立を目指します。共同研究や研究成果の社会への還元を推進していただけるパートナーを募集しています。なお本成果は、2008年9月16日より東京国際フォーラムで開催される「イノベーション・ジャパン2008」に出展いたします。また、期間中、新技術説明会(9月16日、14:30-15:00、PB-10)およびNEDOブースでのショートプレゼンテーション(9月17日、13:30〜13:50)が予定されています。


4.その他
(1)研究者の略歴
1991年 東京工業大学大学院理工学研究科修士課程修了、同年 大阪府立大学工学部助手、2001〜2002年 米国カリフォルニア大学バークレイ校 博士研究員、2004年 大阪府立大学大学院工学研究科 助教授
(2)受賞
酵素工学研究会 平成19年度 酵素工学奨励賞等



5 .参考
・ 成果プレスダイジェスト: 大阪府立大学准教授  荻野 博康氏
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