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生体外でヒトの血管細胞の積層化に成功

独立行政法人新エネルギー・産業技術総合開発機構
大阪大学大学院工学研究科


〜ヒトの細胞組織モデルとして再生医療・創薬分野へ期待〜


【新規発表事項】
独立行政法人新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO技術開発機構)の産業技術研究助成事業(予算規模:約50億円)の一環として、大阪大学大学院工学研究科助教 松崎 典弥氏は、細胞の表面にタンパク質のナノレベルの超薄膜を形成することで細胞の種類や層数を問わず細胞を自在に積層化できる細胞積層化技術を開発しました。この技術を用いてヒトの血管と同じ積層構造をもつ組織体を世界で初めて構築しました。再生医療分野における移植用組織や、創薬研究における薬剤の効果判定用のヒト組織モデルとしての応用が期待されます。
近年ヒトのiPS細胞(注1)の樹立が報告され、再生医療の期待が益々高まってきています。しかし、iPS細胞から標的細胞への分化誘導(注2)が可能となっても細胞だけでは十分な治療効果を得ることはできません。様々な種類の細胞を3次元的に積層化し生体組織に近い構造と機能を有する3次元細胞組織を構築する技術が必要です。これまで細胞シート法(注3)や回転培養法(注4)が報告されていますが、複数の種類の細胞を均一に組織化(積層化)するのが困難といった課題がありました。本研究で開発した細胞積層化技術は、細胞の接着を制御するフィブロネクチン(注5)とゼラチン(注6)からなる薄膜を細胞の表面にナノレベルで形成することで、細胞の種類や層数を問わず細胞を自在に積層化することを実現しました。これまで本技術により、毛細血管を模倣した2層の血管構造から大動脈・大静脈を模倣した10層の血管構造まで細胞を積層化できることを見出しています。その他にも筋芽細胞(注7)、心筋細胞(注8)などの細胞の積層化にも成功しており、本年7月から、研究者向けに積層化した組織体のサンプル提供を開始しています。今後は、実際の血管と同じ機能を有していることの実証実験を進めて行きます。

(注1)Induced Pluripotent Stem Cellの頭文字を取ったもの。人工多能性幹細胞のことで、「万能細胞」とも呼ばれる。
(注2)幹細胞など未分化な細胞を生体外に取り出し、特定の細胞へと選択的に変化・生育させること。
(注3)温度応答性培養皿を用いて細胞をシート状に培養した後、剥離する方法のこと。詳しくは表1を参照。
(注4)回転培養器を用いて細胞を無重力に近い状態で培養し、細胞の凝集物を作製する方法のこと。詳しくは表1を参照。
(注5)細胞外マトリックス(注9)成分の一つである糖タンパク質のこと。細胞の界面を制御し、細胞の接着・増殖・分化・組織化を司るとされている。
(注6)コラーゲンの変性体のこと。コラーゲン分子の三重らせん構造を熱変性によってほどいたものを主成分とする。
(注7)骨格筋線維の由来となる細胞のこと。分化誘導により多数融合して筋線維を形成する。
(注8)心臓の筋肉を構成する細胞のこと。
(注9)細胞外の空間に存在するタンパク質や糖タンパク質のこと。細胞の骨格的役割や細胞接着における足場、細胞増殖因子の保持・提供する役割などを担う。主なものに、コラーゲン、プロテオグリカン、フィブロネクチン、ラミニンがあげられる。


1.背景及び研究概要
近年のiPS細胞の樹立により再生医療の躍進が期待されていますが、再生医療の基本概念である生体外での細胞の3次元組織化と生体組織に近い機能の発現については、必要な技術が確立されていません。様々な種類の細胞を生体外で3次元的に組織化(積層化)するためには細胞の上に細胞を均一に接着させる必要がありますが、通常、細胞同士は接着しないため、細胞の積層化は困難でした。この課題を克服し、なお且つ生体的に安全な組織構築技術の開発が求められています。本研究では、細胞外マトリックスであるフィブロネクチン−ゼラチンのナノ薄膜を細胞表面に形成することで次層の細胞が接着する足場を提供し、細胞を均一に積層化できる新しい技術を開発しました。これにより、生体外でヒトの細胞を用いた血管の積層構造を世界で初めて構築することに成功しました。細胞の種類を問わず、どのような表面形状にも応用できる普遍性の高い細胞積層化技術です。


2.競合技術への強み 
1.世界初の血管組織モデル
ヒト血管平滑筋細胞とヒト血管内皮細胞が直接積層化した、血管壁に限りなく近い積層構造を世界で初めて実現しました。
2.細胞の均一な積層化を実現
従来技術では困難であった細胞の均一な積層化を可能とします。
3.迅速なプロセス
細胞が接着した基板をフィブロネクチンとゼラチンの溶液へ1分間ずつ交互に9回浸漬し、2層目の細胞を播種するだけで積層化できるため、30分ほどで操作が完了できます。
4.高い安全性
細胞外マトリックス成分と細胞のみで構成されるため、細胞毒性を示す成分を含まず、安全性に優れています。
5.様々な表面への適応性
物質の吸着が駆動力であるため、曲率のある表面(チューブの内壁)や微細加工表面(パターン表面)にも適用できます。


3.今後の展望
本研究で作製した血管モデルを再生医療や創薬研究へ応用するためには、実際の血管と同じ機能を有していることを実証する必要があります。現在、血管内で平滑筋細胞を収縮させる働きを持つエンドセリンや弛緩させる働きを持つ一酸化窒素(NO)の産生等により、実際の血管の収縮・弛緩と同じ挙動を示すか検討しています。筋芽細胞を用いて作製した“骨格筋モデル”や心筋細胞を用いて作製した“心筋モデル”についても、同様に機能を評価していきます。将来的には、これらを含め様々な組織モデルを一枚のチップに集約した“ヒト組織チップ”を開発し、創薬研究における臨床試験前のヒト組織への薬剤効果判定評価や、化粧品・化成品分野における動物実験の代替法としての展開を考えています。
実証実験を加速化させるため企業との情報交換や連携を強化していく予定です。11月17日〜18日に東京大学本郷キャンパスにて開催される「日本バイオマテリアル学会シンポジウム」にてパネル出展を行います。会場で、これまでに作製した血管モデルや骨格筋モデルのサンプルを披露する予定です。


4.その他
(1)研究者の略歴
平成15年9月 鹿児島大学大学院理工学研究科 短期修了(博士(工学))、平成15年4月〜平成17年3月 日本学術振興会特別研究員、平成16年1月〜3月 スウェーデン ルンド大学大学院免疫工学専攻 客員研究員、平成17年4月〜平成18年7月 大阪大学大学院工学研究科応用化学専攻 特任助手(常勤)、平成18年8月〜 大阪大学大学院工学研究科応用化学専攻 助手(平成19年4月 助教に改称)。

(2)受賞
平成18年3月 日本化学会第86春季年会 第20回「若い世代の特別講演会」特別講演証受賞、平成18年7月 第52回高分子研究発表会(神戸)ヤングサイエンティスト講演賞受賞、平成18年11月 第44回日本人工臓器学会大会Yoshimi Memorial T.M.P. Grant受賞、平成20年3月 日本化学会第88春季年会優秀講演賞(学術)受賞。


5.参考
・詳細説明資料(PPT)掲載サイト(http://venturewatch.jp/privacy/20081022_nr.html

※詳細説明資料(PPT)についてはNEDO技術開発機構より業務委託しているテクノアソシエーツの運営管理する「技術&事業インキュベーション・フォーラム」の問い合わせフォームからダウンロードすることができます。


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