有機色素による高性能色素増感型太陽電池を開発【産技助成Vol.69】
[08/11/19]
提供元:PRTIMES
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独立行政法人新エネルギー・産業技術総合開発機構
独立行政法人産業技術総合研究所
次世代太陽電池として期待される色素増感型において
光吸収材料に新規開発の有機色素(MK-2(注1))を採用。
従来型のルテニウム系のように希少金属を含まないため低コストで製造できるだけでなく、
高効率、高耐久性も実現した。
(注1) MK-2とは、2-Cyano-3-[5’’’-(9-ethyl-9H-carbazol-3-yl)-3’,3’’,3’’’,4-tetra-n-hexyl-[2,2’,5’,2’’,5’’,2’’’]-quarter
thiophenyl-5-yl]acrylic acidのこと。カルバゾール、オリゴヘキシルチオフェン、シアノアクリル酸基からなるドナー・アクセプター型の有機色素分子で、カルバゾール骨格が電子供与部位で、シアノアクリル酸基が電子吸引性部位として機能します。
【新規発表事項】
独立行政法人新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO技術開発機構)の産業技術研究助成事業(予算規模:約50億円)の一環として、独立行政法人産業技術総合研究所の研究員、原浩二郎氏と甲村長利氏は、次世代太陽電池として有望視される高性能な有機色素による色素増感型太陽電池を開発しました。
本技術は、現在、主流となっているシリコン太陽電池が抱えている問題である製造コストと高純度シリコンの供給不安の両方の解決策となり得る、新規次世代太陽電池です。経済産業省の技術戦略マップ2008(http://www.nedo.go.jp/roadmap/index.html)では、2020〜2030年までに本格実用化とそれによる太陽電池の発電価格の大幅低減が期待される革新的太陽光発電技術として位置づけられています。
従来の色素増感太陽電池に用いられていたルテニウム錯体を使用しないため、希少金属であるルテニウムの資源的制約をクリアしています。またイオン液体電解液の使用により、低沸点の有機溶媒系電解液では耐久性が100時間以下であったものが、2000時間以上の耐久性を得ることに成功しました。
更に、色素増感太陽電池(イオン液体電解液(注2)タイプ)としては世界最高レベルの変換効率7.6%(セル効率)の高効率を達成し、イオンゲル電解質(注3)タイプでも5.5%の効率を得ることに成功しており、革新的な太陽光発電技術として実用化が期待されます。
(注2)イオン液体電解液とは、イミダゾリウムのヨウ化物などのイオン液体とヨウ素レドックスイオンをベースとする電解液です。
(注3)イオンゲル電解質とは、上記イオン液体電解液にゲル化剤(例えば、Poly(pyridinium-1,4-diyliminocarbonyl-1,4-phenylene
-methylene iodide)など)を加えて擬固体化した電解質。
1.研究成果概要
環境負荷を低減する次世代太陽電池のひとつとして、色素増感太陽電池の実用化に向けた研究開発が活発になっています。しかし、従来型の色素増感太陽電池は希少金属であるルテニウム錯体を光吸収材料として用いるため、資源的制約による価格高騰が問題になると予測されます。また、揮発性の有機溶媒を含むヨウ素レドックス電解液(ヨウ素やヨウ化物イオンを含む)を用いており、セルの耐久性の向上が課題となっています。
本プロジェクトでは高効率化と同時にこれらの問題点を解決するため、ルテニウム錯体の代替となる新規の有機色素光吸収材料(MK-2)を開発するとともに、有機電解質オリゴマー(注4)構造を有するゲル化剤(平成17年度第2回産業技術研究助成事業、簡便に合成可能な新規電解質ゲル化剤およびそれを用いた高機能ハイブリッドゲルの開発(研究代表者、産業技術総合研究所、吉田勝氏)の研究成果)と難揮発性のイオン性液体からなる新規の電解質を用いることで、新規有機色素太陽電池を開発しました。
新規有機色素の開発には、分子設計技術を援用して最適化を行いました。クマリン色素(注5)は8%という高効率(有機溶媒系電解液を使用)が得られますが、色素から酸化チタン電極への電子移動効率が低いことや電子寿命が短いことなどがわかったため、新たにMK色素(カルバゾール色素(注6))を合成し、この問題を解決しました。
また、イオン液体電解液とイオンゲル電解質を組み合わせることで、高効率を保ちつつ十分な耐久性を得ることができました。
(注4)有機電解質オリゴマー:有機塩モノマー(単量体)が複数連なった構造をもつ分子。有機塩モノマーの数は3から30と比較的少数。
(注5)クマリン色素:クマリン骨格を電子供与部位として、これに電子吸引性部位であるシアノアクリル酸基などを連結した有機色素分子。
(注6)カルバゾール色素:カルバゾール骨格を電子供与部位として、これに電子吸引性部位であるシアノアクリル酸基などを連結した有機色素分子。
2.競合技術への強み
1)高効率:新規に設計・合成したMK-2色素とイオン液体電解液を組み合わせることで、7.6%の変換効率を達成しました(現在、イオン液体電解液を用いた色素増感太陽電池で世界最高レベル)。
2)高耐久性:紫外線がカットされた擬似太陽光照射という比較的穏和な条件下では、十分な耐久性を有します。また難揮発性のイオン液体電解液を使用することで比較的高温下でも性能劣化の心配がありません(イオン液体の難揮発性が耐久性の向上に寄与)。
3)資源的制約がない:希少金属であるルテニウムとは異なり、資源的制約の少ない有機材料を使用しています。
4)低コスト:セルの作製方法が簡単で、材料も安価なことから低コストで製造できます。
3.今後の展望
エネルギー変換効率については、最終的にはセル効率18%、モジュールでは15%(結晶シリコン系の効率に相当)を目指します(NEDOの太陽光発電ロードマップPV2030における、色素増感太陽電池の2030年での目標値)。当面は屋内用途での早期実用化を目標として、さらなる効率や耐久性の向上を目指していく予定です。そのため、新規有機色素の分子設計と合成、イオン液体やゲル電解質の研究開発の他、新規の電極材料の開発についても連携企業と共同で研究開発に取り組んでいきます。
また実用化に向けて、大面積モジュール化技術等についても共同研究を進めていく予定です。
4.参考
成果プレスダイジェスト:産業技術総合研究所主任研究員 原 浩二郎氏
独立行政法人産業技術総合研究所
次世代太陽電池として期待される色素増感型において
光吸収材料に新規開発の有機色素(MK-2(注1))を採用。
従来型のルテニウム系のように希少金属を含まないため低コストで製造できるだけでなく、
高効率、高耐久性も実現した。
(注1) MK-2とは、2-Cyano-3-[5’’’-(9-ethyl-9H-carbazol-3-yl)-3’,3’’,3’’’,4-tetra-n-hexyl-[2,2’,5’,2’’,5’’,2’’’]-quarter
thiophenyl-5-yl]acrylic acidのこと。カルバゾール、オリゴヘキシルチオフェン、シアノアクリル酸基からなるドナー・アクセプター型の有機色素分子で、カルバゾール骨格が電子供与部位で、シアノアクリル酸基が電子吸引性部位として機能します。
【新規発表事項】
独立行政法人新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO技術開発機構)の産業技術研究助成事業(予算規模:約50億円)の一環として、独立行政法人産業技術総合研究所の研究員、原浩二郎氏と甲村長利氏は、次世代太陽電池として有望視される高性能な有機色素による色素増感型太陽電池を開発しました。
本技術は、現在、主流となっているシリコン太陽電池が抱えている問題である製造コストと高純度シリコンの供給不安の両方の解決策となり得る、新規次世代太陽電池です。経済産業省の技術戦略マップ2008(http://www.nedo.go.jp/roadmap/index.html)では、2020〜2030年までに本格実用化とそれによる太陽電池の発電価格の大幅低減が期待される革新的太陽光発電技術として位置づけられています。
従来の色素増感太陽電池に用いられていたルテニウム錯体を使用しないため、希少金属であるルテニウムの資源的制約をクリアしています。またイオン液体電解液の使用により、低沸点の有機溶媒系電解液では耐久性が100時間以下であったものが、2000時間以上の耐久性を得ることに成功しました。
更に、色素増感太陽電池(イオン液体電解液(注2)タイプ)としては世界最高レベルの変換効率7.6%(セル効率)の高効率を達成し、イオンゲル電解質(注3)タイプでも5.5%の効率を得ることに成功しており、革新的な太陽光発電技術として実用化が期待されます。
(注2)イオン液体電解液とは、イミダゾリウムのヨウ化物などのイオン液体とヨウ素レドックスイオンをベースとする電解液です。
(注3)イオンゲル電解質とは、上記イオン液体電解液にゲル化剤(例えば、Poly(pyridinium-1,4-diyliminocarbonyl-1,4-phenylene
-methylene iodide)など)を加えて擬固体化した電解質。
1.研究成果概要
環境負荷を低減する次世代太陽電池のひとつとして、色素増感太陽電池の実用化に向けた研究開発が活発になっています。しかし、従来型の色素増感太陽電池は希少金属であるルテニウム錯体を光吸収材料として用いるため、資源的制約による価格高騰が問題になると予測されます。また、揮発性の有機溶媒を含むヨウ素レドックス電解液(ヨウ素やヨウ化物イオンを含む)を用いており、セルの耐久性の向上が課題となっています。
本プロジェクトでは高効率化と同時にこれらの問題点を解決するため、ルテニウム錯体の代替となる新規の有機色素光吸収材料(MK-2)を開発するとともに、有機電解質オリゴマー(注4)構造を有するゲル化剤(平成17年度第2回産業技術研究助成事業、簡便に合成可能な新規電解質ゲル化剤およびそれを用いた高機能ハイブリッドゲルの開発(研究代表者、産業技術総合研究所、吉田勝氏)の研究成果)と難揮発性のイオン性液体からなる新規の電解質を用いることで、新規有機色素太陽電池を開発しました。
新規有機色素の開発には、分子設計技術を援用して最適化を行いました。クマリン色素(注5)は8%という高効率(有機溶媒系電解液を使用)が得られますが、色素から酸化チタン電極への電子移動効率が低いことや電子寿命が短いことなどがわかったため、新たにMK色素(カルバゾール色素(注6))を合成し、この問題を解決しました。
また、イオン液体電解液とイオンゲル電解質を組み合わせることで、高効率を保ちつつ十分な耐久性を得ることができました。
(注4)有機電解質オリゴマー:有機塩モノマー(単量体)が複数連なった構造をもつ分子。有機塩モノマーの数は3から30と比較的少数。
(注5)クマリン色素:クマリン骨格を電子供与部位として、これに電子吸引性部位であるシアノアクリル酸基などを連結した有機色素分子。
(注6)カルバゾール色素:カルバゾール骨格を電子供与部位として、これに電子吸引性部位であるシアノアクリル酸基などを連結した有機色素分子。
2.競合技術への強み
1)高効率:新規に設計・合成したMK-2色素とイオン液体電解液を組み合わせることで、7.6%の変換効率を達成しました(現在、イオン液体電解液を用いた色素増感太陽電池で世界最高レベル)。
2)高耐久性:紫外線がカットされた擬似太陽光照射という比較的穏和な条件下では、十分な耐久性を有します。また難揮発性のイオン液体電解液を使用することで比較的高温下でも性能劣化の心配がありません(イオン液体の難揮発性が耐久性の向上に寄与)。
3)資源的制約がない:希少金属であるルテニウムとは異なり、資源的制約の少ない有機材料を使用しています。
4)低コスト:セルの作製方法が簡単で、材料も安価なことから低コストで製造できます。
3.今後の展望
エネルギー変換効率については、最終的にはセル効率18%、モジュールでは15%(結晶シリコン系の効率に相当)を目指します(NEDOの太陽光発電ロードマップPV2030における、色素増感太陽電池の2030年での目標値)。当面は屋内用途での早期実用化を目標として、さらなる効率や耐久性の向上を目指していく予定です。そのため、新規有機色素の分子設計と合成、イオン液体やゲル電解質の研究開発の他、新規の電極材料の開発についても連携企業と共同で研究開発に取り組んでいきます。
また実用化に向けて、大面積モジュール化技術等についても共同研究を進めていく予定です。
4.参考
成果プレスダイジェスト:産業技術総合研究所主任研究員 原 浩二郎氏