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現行品の5〜10倍の高感度感光性エンプラを横浜国立大学が開発【産技助成Vol.70】

独立行政法人新エネルギー・産業技術総合開発機構
横浜国立大学大学院工学研究院機能の創生部門


〜感光性ポリイミドのコストを1桁程度低下〜


【新規発表事項】
独立行政法人新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO技術開発機構)の産業技術研究助成事業(予算規模:約50億円)の一環として、横浜国立大学大学院工学研究院(横浜市保土ヶ谷区)准教授の大山俊幸氏らは、市販のポリイミド(注1)などのエンプラ(注2)に感光性を付与し、エレクトロニクス実装用などに利用される微細パターン形成を従来の感光性ポリイミドの5〜10倍の高感度で可能にする新技術を開発しました。従来の感光性ポリイミドは、ポリマー(注3)への特殊な酸性基の導入などの感光性用の特別な分子設計が必要であり、コストが1kgあたり数万円〜数十万円と高い、感光化に伴う保存安定性等の物性が低下する、高温加熱後処理が必要になる等の問題がありました。
今回、大山准教授らは、感光性用の特別な分子設計や高温加熱後処理が不要な反応現像画像形成(注4)を利用し、アニオン(注5)増幅剤を少量加えるとともに現像液組成を検討することにより、現在工業的に主に使用される現像液に近いアルカリ水溶液/アルコール現像液で現像を行うことに成功しました。また、アニオン増幅剤とともに酸増幅剤(注6)を加えることにより、感光剤の使用量を1/3に低減しながらも感度については現行品の5〜10倍の高感度化を実現しました。本技術の開発によって市販のエンプラを使用して写真の「現像」のように微細パターンを形成できるため、現行品に比べて感光性ポリイミドのコストを1桁程度低下できる可能性があります。

(注1)主鎖中にイミド結合(-CO-N-CO-)をもつ高分子の総称。
(注2)エンジニアリングプラスチックの略称です。エンプラは耐熱性、機械的強度、耐薬品性に優れています。
(注3)ポリマーとは、2つ以上のモノマー(単位物質)が重合反応してできる高分子化合物のこと。
(注4)大山准教授らの研究グループは、感光剤を加えることによって市販エンプラに感光性を付与できる「反応現像画像形成」という新手法を開発していました。この手法は、紫外光の照射により、感光剤が酸に変化し、その酸と現像液であるアミンが塩を作ります。その塩とエンプラが結合して親水性を増し現像液の浸透性が上がり、エンプラとアミンが反応してエンプラに含まれるC(O)-X結合を切断してエンプラが溶解する、というものです。しかし、従来の反応現像画像形成法では、感光剤添加量が多かったり、作製した感光性エンプラの紫外光に対する感度が低くかったり、現像液にアルカリ水溶液が使えなかったりするなどの課題がありました。今回これらの課題を解決しました。
(注5)負に荷電したイオン。アニオン増幅剤は、アルカリ現像液中のヒドロキシイオン(OH-)といったん反応するが、その後、水との反応によりヒドロキシイオンを再生する化合物。
(注6)露光後の後加熱時に、光照射により感光剤から生成した酸を触媒として分解し、酸を生成する化合物。


1.背景及び研究概要
エレクトロニクス実装用などに利用される感光性エンプラに要求される光反応成型物の解像度は数μm〜数十μmですが、パターン形成後にそのまま絶縁層として使用するため、熱的・機械的安定性、電気的絶縁性等も必要です。感光性エンプラとしては、感光性ポリイミドが広く研究されていますが、現行の感光性ポリイミドは、ポリイミド前駆体(注8)の利用に伴うポリマー合成やポリマーへの酸性基の導入などの煩雑・高コスト化、感光化に伴う保存安定性などの物性低下(注9)、高温加熱後処理によりポリイミド前駆体からポリイミドへ変換する必要性、高温加熱後処理に伴うパターン形状の変化、などの問題があります。
大山准教授らは、市販のポリイミドなど種々のエンプラに感光剤を混合し、紫外光照射後にアミン含有現像液で現像するだけでポジ型微細パターンを形成できる「反応現像画像形成」技術を、既に2001年度に開発していました。この方法を利用すれば、特別なポリマー合成が不要で高温加熱後処理により前駆体からポリイミドへ変換する必要もなく、市販のエンプラがそのまま利用できるなどの利点があります。しかし、反応現像画像形成には、30wt%(重量パーセント)程度の感光剤の添加が必要で、感度(2000mJ/cm2)も低く、工業的に主に使用されるアルカリ水溶液が使用できない、などの問題がありました。
大山准教授らは、今回、ネガ型反応現像画像形成における現像液組成を詳細に検討することにより、アルカリ水溶液/アルコールで現像が可能になることを見出しました。また、アニオン増幅剤とともに酸増幅剤を加えることにより、感光剤の使用量を1/3に低減しながらも感度については現行品の5〜10倍の高感度化を実現しました。アニオン増幅剤と呼ばれる化合物を膜中に少量加えることにより、反応現像画像形成におけるパターンがネガ型になることを過去に見出していましたが、今回はその現象を基に、半導体微細加工用レジストなどで用いられている「化学増幅」(注10)の概念を反応現像画像形成に導入することにより大幅な感光剤の使用量低減と高感度化を実現したものです。
本技術の開発によって、市販のエンプラを使用して微細パターンを形成できるため、従来、1kg当たり数万円〜数十万円した感光性ポリイミドのコストを1桁程度低下できる可能性があります。

(注8)ポリイミド前駆体とは加熱処理などを行ったときにポリイミドを形成するもの。例えばポリイミド前駆体としてポリアミド酸が挙げられます。
(注9)ポリイミドと比較して安定性の低いポリアミド酸の状態で保存する必要があるため、保存安定性が低下します。また、熱的に不安定な官能基の導入に伴い耐熱性も低下します。
(注10)露光後の後加熱時に、光照射により感光剤から生成した酸を触媒としてフォトレジスト中の保護基を分解し、少ない光子数での微細パターン形成を可能にする技術。


2.競合技術への強み
今回開発した技術は、現行の感光性ポリイミドや従来型の反応像画像形成と比較して次のような優位性があります。
現行の感光性ポリイミドに対する優位性
(1)高温加熱後処理によりポリイミド前駆体からポリイミドへ変換する必要性がありません。
(2)紫外光による露光感度が5〜10倍に向上しています。
(3)市販ポリイミドが使用できるため、1桁程度の大幅な低コスト化が可能です。
従来の反応現像画像形成に対する優位性
(4)紫外光による露光感度が100倍に向上しています。
(5)感光剤添加量を1/3に低減できます。
(6)現在工業的に主に使用される現像液に近いアルカリ水溶液/アルコール現像液での現像を実現しています。なお、実用化においては、アルコールも使用しない系を実現することがさらに望ましいため、今後改善を進めます。


3.今後の展望
感光剤量の更なる低減と現像液の更なる改善を進めるとともに、本技術に関心を持つ企業との連携により実用化を進める予定です。


4.その他
(1)研究者の略歴
平成11年3月 京都大学大学院工学研究科高分子化学専攻博士後期課程修了、博士号取得(工学)、平成11年4月 横浜国立大学工学部物質工学科 助手、平成14年4月 横浜国立大学大学院工学研究院機能の創生部門 講師、平成19年1月 横浜国立大学大学院工学研究院機能の創生部門 助教授、平成19年4月 横浜国立大学大学院工学研究院機能の創生部門 准教授

(2)受賞
平成16年度Polymer Journal論文賞受賞(高分子学会)(平成17年5月)、平成18年度高分子研究奨励賞(高分子学会)受賞(平成19年5月)


5.参考
・ 詳細説明資料(PPT)掲載サイト(http://venturewatch.jp/privacy/20081120_nr.html

※詳細説明資料(PPT)についてはNEDO技術開発機構より業務委託しているテクノアソシエーツの運営管理する「技術&事業インキュベーション・フォーラム」の問い合わせフォームからダウンロードすることができます。

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