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種内ゲノム比較解析に向けた 日本で飼育しているハダカデバネズミのゲノム解読




[画像: https://prcdn.freetls.fastly.net/release_image/124365/354/124365-354-097b9934ddd1535d6c018091cb043785-540x304.jpg?width=536&quality=85%2C75&format=jpeg&auto=webp&fit=bounds&bg-color=fff ]


(ポイント)
がんや低酸素への強い耐性、そして長寿で知られるハダカデバネズミについて、日本で飼育されている個体のゲノムを高精度に解読しました。ゲノム解読の結果、本種では未発見であった遺伝子を発見(167個)、または既存の遺伝子に対して修正モデルを提案しました(250個)。これにより遺伝子を種内または種間で比較する際に必要な精度と信頼性を高めました。74個の遺伝子に顕著な種内変異を確認し、その中には神経伝達物質の受容体など社会行動(攻撃性やトンネルの掘削行動)にかかわる可能性のある遺伝子が含まれていました。同定した変異遺伝子を表現型解析(行動・生理)と組み合わせることで、本種の個体差を遺伝子レベルで解明する手がかりとなります。ハダカデバネズミは近年、健康長寿モデル哺乳類として大きな注目を集めており、今回のゲノムデータはその分子基盤の理解を加速し、抗老化・疾患耐性機構の解明と将来的なヒトへの応用研究を推進する重要な基盤となります。

【概要】
広島大学大学院統合生命科学研究科の栂浩平研究員と坊農秀雅教授、九州大学の岡香織助教、三浦恭子教授(研究当時の所属:熊本大学大学院生命科学研究部)、東京科学大学の田中裕之助教、伊藤武彦教授、国立遺伝学研究所の豊田敦特任教授らは、日本で飼育されているハダカデバネズミ (Heterocephalus glaber)のゲノム解読に成功しました。
一般に、ゲノム情報は一種につき一つの配列が代表配列(リファレンスゲノム)として決定されます。しかし、ハダカデバネズミでは、種内の遺伝的な違いが大きいことが指摘されており、従来のリファレンスゲノムではこの多様性を十分に捉えきれない可能性があります。本研究では、日本で飼育されている個体のゲノムを新たに解読し、種内に存在するゲノム配列の違いを明らかにすることを目的としました。その結果、リファレンスゲノムより多くの遺伝子を保有するゲノムが得られ、これまで報告されていなかった遺伝子や、構造が不正確であった遺伝子を多数同定しました。さらに、リファレンスゲノムとの比較解析により、74遺伝子に顕著な種内変異が確認され、その中には行動制御に関わる可能性のある遺伝子も含まれていました。今後、この遺伝子の多様性が生理的・行動的な特徴にどのように関係するのかを、表現型解析と組み合わせて検証することで、ハダカデバネズミにおける種内変異の生物学的意義の解明が期待されます。
なお、本研究で解析に用いたハダカデバネズミ試料は、熊本大学大学院生命科学研究部において飼育されていた個体から取得されました。


【発表論文】
・掲載誌名:Scientific Data
・タイトル:Genome assembly and annotation of the naked mole rat Heterocephalus glaber reared in Japan
・著者名:Kouhei Toga, Kaori Oka, Hiroyuki Tanaka, Takehiko Itoh, Atsushi Toyoda, Hidemasa Bono*,Kyoko Miura* *責任著者
・DOI:10.1038/s41597-026-06996-9

【背景】
ハダカデバネズミは、一般的に実験に使われるマウスやラットの約10倍にあたる30年以上の寿命を持つ長寿であること、そして極めて高いがん抵抗性を示すなど、特異な形質を持つことが知られています。これらの特異性の仕組みを解明する上で、ゲノム情報は重要な手がかりであり、リファレンスゲノムとして公共データベースに登録され、世界中の研究者に利用されてきました。
一方で、ハダカデバネズミは同種内の遺伝的多様性が極めて大きいことが報告されており、その違いは、最大で近縁なグループであるデバネズミ科(Bathyergidae)の種間の差に匹敵するほどであることが分かっています。このことは従来のリファレンスゲノムだけでは、種内の多様性を十分に説明できない可能性を示唆します。
私たちは、日本で飼育されているハダカデバネズミのゲノムを新たに解読し、種内での配列の多様性の存在を明らかにすることを目的としました。この取り組みは、ハダカデバネズミの種内のゲノム構造の全体像を捉えるうえで欠かせない基盤情報を提供するものです。

【研究成果の内容】
今回解読したゲノム*1は2.56 Gbpの長さをもち、ゲノムの完全性*2を示す BUSCOスコアは95.2%と、既存のリファレンスゲノムを上回る品質を示しました。解析の結果、ゲノム上には26,714の遺伝子(43,234個のmRNA*3)が存在することが明らかになりました。そのうち417個のmRNAは、既存のリファレンスゲノムには存在しない、あるいは構造が大きく異なっていました。具体的には本種ではこれまで未発見であった遺伝子167個の同定と、既存遺伝子250個の構造修正を行いました。これらの結果は、日本で飼育されているハダカデバネズミのゲノムを高精度に解読できたことを裏付けるものです。
さらに、リファレンスゲノムを別個体として扱い両者を比較したところ、74遺伝子(77個のmRNA)に顕著な種内変異が存在することが判明しました。その中には、神経伝達物質やその前駆体の受容体となる遺伝子も含まれており、個体や家族集団間での行動の違いに関連する可能性が示唆されました。

【今後の展開】
本研究により、ハダカデバネズミには種内で大きく配列が異なる遺伝子が多数存在することが明らかになりました。これらの変異を起点として、社会行動、がん耐性や長寿といったハダカデバネズミの個体差との関連解明につながります。このことは本種が持つ生物学的な特徴の遺伝的基盤の理解だけでなく、哺乳類における遺伝子の変異と形質との関係を詳細に理解することにも貢献すると期待されます。
さらに、本研究で得られた高精度ゲノムデータは、ハダカデバネズミの抗老化・疾患耐性機構の分子機構の理解を加速し、将来的なヒトへの応用展開につながる重要な研究基盤となります。


【用語解説】
*1 ゲノム解読:
DNA断片をコンピューター上でつなぎ合わせることで行います。
*2 ゲノムの完全性:
ゲノム配列の中には、遺伝子領域が局所的に存在します。解読したゲノム配列に、他の種でも保存されている既知の遺伝子がどれだけ多く含まれているかを指標としたものを「完全性」と呼びます。
*3 mRNA:
DNAから構成される遺伝子は、実際に機能する際には、mRNAと呼ばれるRNAに転写されます。転写されたmRNAはタンパク質へと翻訳され、細胞内で機能します。多くの遺伝子では、一つの遺伝子から構造の異なる複数のmRNAが作られることがあり、その結果、一つの遺伝子から異なるタンパク質が産生されます。

(報道に関するお問い合わせ)
熊本大学 総務部 総務課 広報戦略室
電話:096-342-3269
e-mail:sos-koho@jimu.kumamoto-u.ac.jp
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