キチンを分解する新しいタイプの酵素「MoChia1」を発見 イネの重大な病害「いもち病菌」の感染を防ぐ薬剤の開発に寄与
[26/05/18]
提供元:@Press
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画像 : https://newscast.jp/attachments/hD9IYZtc8B10gBMyoVuX.pngキチン加水分解酵素と酵素番号(EC番号)
近畿大学農学部(奈良県奈良市)生物機能科学科教授 大沼貴之、同准教授 武田徹、同研究員 深溝慶(研究当時)、帝京大学理工学部(栃木県宇都宮市)教授 作田庄平、福島大学農学群(福島県福島市)食農学類教授 尾形慎の研究グループは、イネの重大な病害であるいもち病菌(Magnaporthe oryzae)が分泌する酵素「MoChia1」が新しいタイプの酵素であることを発見しました。これまで、糖鎖であるキチン※1 を加水分解する酵素キチナーゼには4つのタイプがあることが知られていましたが、「MoChia1」はそれらとは異なる様式でキチンを分解する酵素であることが、実験的に証明されました。このような様式で糖鎖を分解する酵素は大変珍しく、現在、国際生化学・分子生物学連合(IUBMB)に新規酵素として登録申請中です。また、本酵素は他にはない活性を示すことから、新たな機能を有するキチンオリゴ糖誘導体を合成する触媒として利用されることが見込まれます。さらに、「MoChia1」はキチナーゼ阻害剤であるアロサミジンで阻害されることから、いもち病菌の感染を抑制する新たな農薬の開発が今後期待されます。なお、本件に関する論文が、令和8年(2026年)4月17日(金)に、米国生化学分子生物学会が発行する"The Journal of Biological Chemistry(ザ ジャーナル オブ バイオロジカル ケミストリー)誌"にオンライン掲載されました。
【本件のポイント】
●近畿大学、帝京大学、福島大学らの研究グループが、キチンを分解する新しいタイプの酵素を発見
●新たな機能を有するキチンオリゴ糖誘導体を合成する触媒として利用されることが期待
●イネの重大な病害であるいもち病菌の感染を防ぐ新たな薬剤の開発に寄与
【本件の背景】
イネ(Oryza sativa L.)は、世界の人口の半分以上を養う重要な主食作物ですが、ウイルス、細菌、真菌など自然界に存在するさまざまな病原体が感染することにより、その収量が大幅に減少します。中でもいもち病菌によって引き起こされるいもち病は、現在でも多くの稲作国で年間10〜30%の収量損失をもたらしています。イネはいもち病菌の感染攻撃を感知すると、その細胞壁主成分であるキチンを酵素で分解・溶菌することによって抵抗性を示すことが知られています。さらに、分解により生じたキチンオリゴ糖をエリシター※2 としてイネ細胞表面に存在する受容体PRR(Pattern Recognition Receptor)で認識して、パターン誘導免疫PTI(Pattern-Triggered Immunity)と呼ばれる免疫応答を誘導することにより、生体防御を強化します。一方、いもち病菌は菌体外にキチナーゼである「MoChia1」を分泌し、自らの細胞壁から生じたキチンオリゴ糖を捕捉することにより、PRRによるエリシター認識を防ぎ、PTIを回避することが報告されていました。しかし「MoChia1」の酵素としての性質が調べられておらず、本酵素の役割が明らかではありませんでした。
【本件の内容】
本研究グループは、キチンオリゴ糖や合成した特殊なキチンオリゴ糖誘導体を基質※3 に用いて分解実験を行いました。生成物を薄層クロマトグラフィー(TLC)および高速液体クロマトグラフィー(HPLC)で分析することによって、「MoChia1」が基質であるキチンオリゴ糖の最も還元末端側にあるグリコシド結合を加水分解し、N-アセチルグルコサミン(GlcNAc)を遊離することを証明しました。これまで報告されているキチナーゼには、キチン内部のグリコシド結合をランダムに加水分解するエンド型の酵素と、最も非還元末端側のグリコシド結合を加水分解しGlcNAcを遊離するエキソ型酵素、還元末端もしくは非還元末端から作用しキトビオース(GlcNAc)2を遊離しながら連続分解を行うプロセッシブ型酵素が知られていました。「MoChia1」の分解様式はそれらとは異なることから、新規酵素である還元末端GlcNAc遊離キチンオリゴ糖加水分解酵素(Reducing-End GlcNAc-Releasing Chitin Oligosaccharide Hydrolase)であると結論づけられました。今回の発見により、「MoChia1」はエリシターであるキチンオリゴ糖を捕捉するだけでなく、分解によって低分子化し、植物の免疫を回避していることが示唆されました。
【論文掲載】
掲載誌:The Journal of Biological Chemistry(インパクトファクター:3.9@2025)
論文名:MoChia1 is a GH18 Reducing-End GlcNAc?Releasing Chitin Oligosaccharide
Hydrolase from the Rice Blast Fungus Magnaporthe oryzae
(MoChia1はイネいもち病菌Magnaporthe oryzae由来のGH18還元末端
GlcNAc遊離キチンオリゴ糖加水分解酵素である)
著者 :大沼貴之※1、2、今岡駿1、片岡親良1、吉本光希1、岡田龍大1、武田徹1、深溝慶1、
作田庄平3、尾形慎※4 ※責任著者
所属 :1 近畿大学大学院農学研究科、2 近畿大学アグリ技術革新研究所、3 帝京大学理工学部、
4 福島大学農学群食農学類
URL :https://www.jbc.org/article/S0021-9258(26)00334-0/fulltext
DOI :10.1016/j.jbc.2026.111462
【本件の詳細】
糖鎖を分解する主な酵素は加水分解酵素であり、糖鎖の種類ごとにアミノ酸配列や立体構造が異なる専用の酵素が作用することが知られています。また、同一の糖鎖を分解する酵素でも分解様式が異なる場合は別の酵素として分類され、それらには個別に国際生化学・分子生物学連合(IUBMB)によって酵素番号(EC番号)が付与され管理されています。これまでキチンを加水分解する酵素には、EC3.2.1.14(エンド型酵素)、EC3.2.1.52(エキソ型酵素、非還元末端側)、EC3.2.1.200およびEC3.2.1.201(プロセッシブ型酵素)が登録されていましたが、今回「MoChia1」が新規のエキソ型酵素(還元末端側)であることが証明されました。「MoChia1」は基質であるキチンオリゴ糖の最も還元末端側のグリコシド結合を加水分解する酵素であることから、その糖転移活性を利用してさまざまな機能を有するキチンオリゴ糖誘導体が作製されることが見込まれます。また、本酵素の活性はキチナーゼ阻害剤であるアロサミジンによって阻害されることから、アロサミジンもしくはそのアロサミジンを基盤にした、いもち病菌に対する新たな農薬の開発につながることが期待されます。
【研究者のコメント】
大沼貴之(おおぬまたかゆき)
所属 :近畿大学農学部生物機能科学科
近畿大学大学院農学研究科
近畿大学アグリ技術革新研究所
職位 :教授
学位 :博士(農学)
コメント:現時点(令和8年(2026年)5月18日)でEC番号が付与されている酵素は8,825種類あり、1年あたり約150種類のペースで増え続けています。酵素の研究者にとって新たなEC番号が付与される酵素を見つけることは大きな目標の一つであり、今回それを成し遂げることができました。酵素の新規性を証明するために、緻密に設計、合成された人工基質や強力なキチナーゼ阻害剤であるアロサミジンを用いた反応解析が不可欠でしたが、幸いにして国内の共同研究者からそれらを入手することができました。伝統ある日本のキチン・キトサン研究に蓄積された知とリソースの恩恵を大いに受け、達成することができた研究成果です。
【用語解説】
※1 キチン:糖の一種であるN-アセチルグルコサミンが結合した多糖類。
※2 エリシター:植物が病原菌や害虫などの外敵を認識し、自衛のための防御反応(免疫)を活性化させる引き金となる物質。
※3 基質:酵素の作用を受けて生成物に分解・変換される物質。
【関連リンク】
農学部 生物機能科学科 教授 大沼貴之(オオヌマタカユキ)
https://www.kindai.ac.jp/meikan/897-oonuma-takayuki.html
農学部 生物機能科学科 准教授 武田徹(タケダトオル)
https://www.kindai.ac.jp/meikan/812-takeda-tooru.html
農学部
https://www.kindai.ac.jp/agriculture/










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