中国によるウクライナ「和平」の働きかけ:それは中ロ関係にとって何を意味するのか(2)【中国問題グローバル研究所】
[23/05/31]
提供元:株式会社フィスコ
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注目トピックス 経済総合
*16:59JST 中国によるウクライナ「和平」の働きかけ:それは中ロ関係にとって何を意味するのか(2)【中国問題グローバル研究所】
◇以下、中国問題グローバル研究所のホームページ(※1)でも配信している「中国によるウクライナ「和平」の働きかけ:それは中ロ関係にとって何を意味するのか(1)【中国問題グローバル研究所】」の続きとなる。
限界のある友情
ロシア訪問直後、習近平国家主席は、ロシアによる侵攻が始まって以来初となるウクライナのウォロディミル・ゼレンスキー大統領との電話会談を行った。そして今、中華人民共和国の特別代表がウクライナを訪れようとしている。
とはいえ、習国家主席とゼレンスキー大統領との会談や、李輝特別代表のキーウ訪問をめぐっては、大きな期待を抱くまでもない。こうした対応をとることで、中国は座視し続けながら、行動を起こしているかのような体裁を取り繕おうとしているのだ。外から状況を注視し、その時々の状況に合わせて対応することが中国の利益になるのである。
中国が注視するポイントは多い。ウクライナでの戦闘は結局のところ、世界の経済大国の1つに対する西側の制裁戦略を精査する機会(※2)を中国政府に与えたことになる。中国政府は、ロシアが最前線で直面しているすべての難題と、一致協力し、世界最大の軍隊の1つに抵抗する西側同盟の能力から学ぶ(※3)こともできる。中国はロシアの国内情勢にも目を光らせている。ロシアの政策を批判(※4)する中国の著名なロシア専門家すら出てきた。批判の対象となっているのは、帝国主義的なアプローチを取るロシア政府の外交政策と、プーチン大統領の保守的イデオロギーに基づく国内政策だ。このイデオロギーは、強固な中核的価値観を基盤としたものではなく、「とりとめのない空想(discursive bubble)」と「空っぽの価値観(empty shell of values)」にのみ根差したものだと専門家らは指摘している。
中国政府はまた、ロシアの宣伝機関がどのようにウクライナ侵攻に対する世論を操作しているか、そして自国のウクライナ戦争を米国政府による他国の不当な扱いの一例として描くか、を注視している。ロシア政府が中国政府に対して大きな影響力を及ぼすことができる唯一の要因はおそらく、これまでのところかなりの程度、ロシアが方向性を決定づけてきた諸事態への対応を同国が迫られていることだろう。
中国が(ソビエト連邦崩壊の歴史をいまだに徹底的に研究している(※5)のと同様に)ロシアの経験を徹底的に研究する中、ロシアの外交政策自体は相変わらず独善的だ。ロシアのシンクタンクや学界には、意思決定に対する影響力が実質的にない。そのため、中国との関係はロシア大統領府が管理する ? その役割については、共同声明に別途記載(※6))。
ロシア大統領が述べた「親愛なる友人」を歓迎する(※7)言葉は、現代中国に対するプーチン大統領の姿勢を雄弁に物語っている。「近年」とロシア大統領。「中国は目覚ましい発展を遂げてきた。それにより、全世界の真の関心を集めており、我が国は若干、嫉妬すら覚える。」
嫉妬の根源は理解できる。プーチン大統領は、ソビエト連邦崩壊を「最大の地政学的惨事」だと考えている(※8)。だからこそ、この現代ロシアのエリートは、ソビエト連邦がなれたはずだと自らが思う国となった中国に称賛の念を抱いているのだ。だが、中国に対するプーチン大統領の認識が、ウクライナや世界史全般に対する認識と同様、偏ったものであることが判明しても、それはさほど驚くにはあたらない。
ウクライナイ侵攻の正当化にあたり、ロシアのプロパガンダ担当者は「ロシアにはほかの選択肢がなかった」と度々述べている。今度は、自国と中国の利害の調整にも同じ言葉を繰り返す必要があるだろう。確かにロシアにはほかの選択肢がない。そして、それを招いたのは、指導者が下した決定だ。これが、中ロ関係における中国の最大の強みとなる。ロシア政府とは異なり、中国政府には将来、さまざまな方向に発展してく可能性があり、どの国が中国のパートナーになるかはそれによって決まる。
プーチン大統領が率いるロシアにとってこのように苦しい時期に、昨年の中国との共同声明に謳われていた「両国の友情に限界はなく、協力に不可侵の聖域はない」という文言が消えたのは象徴的だ。この言葉を、同盟関係を宣言するものだと多くが解釈した。
今回の共同声明では、類似の文章が次のような文言になっている(※9)。「代々受け継がれてきた両国民の友情には強固な基盤があり、両国の包括的な協力は極めて幅広い可能性を秘めている。ロシアは安定し、かつ繁栄する中国に関心を持ち、中国は強く、かつ成功を収めるロシアに関心を持っている。」
ロシアと中国の限界のない友情は、わずか1年余りしか続かなかった。
写真: 代表撮影/ロイター/アフロ
(※1)https://grici.or.jp/
(※2)https://www.foreignaffairs.com/china/what-china-has-learned-ukraine-war
(※3)https://carnegieendowment.org/2022/07/18/chinese-military-lessons-from-ukraine-event-7909
(※4)https://brgg.fudan.edu.cn/articleinfo_5392.html
(※5)https://www.chinatalk.media/p/kotkin-on-china-communisms-achilles
(※6)http://kremlin.ru/supplement/5920
(※7)http://kremlin.ru/events/president/news/70746
(※8)https://www.nbcnews.com/id/wbna7632057
(※9)http://kremlin.ru/supplement/5920
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◇以下、中国問題グローバル研究所のホームページ(※1)でも配信している「中国によるウクライナ「和平」の働きかけ:それは中ロ関係にとって何を意味するのか(1)【中国問題グローバル研究所】」の続きとなる。
限界のある友情
ロシア訪問直後、習近平国家主席は、ロシアによる侵攻が始まって以来初となるウクライナのウォロディミル・ゼレンスキー大統領との電話会談を行った。そして今、中華人民共和国の特別代表がウクライナを訪れようとしている。
とはいえ、習国家主席とゼレンスキー大統領との会談や、李輝特別代表のキーウ訪問をめぐっては、大きな期待を抱くまでもない。こうした対応をとることで、中国は座視し続けながら、行動を起こしているかのような体裁を取り繕おうとしているのだ。外から状況を注視し、その時々の状況に合わせて対応することが中国の利益になるのである。
中国が注視するポイントは多い。ウクライナでの戦闘は結局のところ、世界の経済大国の1つに対する西側の制裁戦略を精査する機会(※2)を中国政府に与えたことになる。中国政府は、ロシアが最前線で直面しているすべての難題と、一致協力し、世界最大の軍隊の1つに抵抗する西側同盟の能力から学ぶ(※3)こともできる。中国はロシアの国内情勢にも目を光らせている。ロシアの政策を批判(※4)する中国の著名なロシア専門家すら出てきた。批判の対象となっているのは、帝国主義的なアプローチを取るロシア政府の外交政策と、プーチン大統領の保守的イデオロギーに基づく国内政策だ。このイデオロギーは、強固な中核的価値観を基盤としたものではなく、「とりとめのない空想(discursive bubble)」と「空っぽの価値観(empty shell of values)」にのみ根差したものだと専門家らは指摘している。
中国政府はまた、ロシアの宣伝機関がどのようにウクライナ侵攻に対する世論を操作しているか、そして自国のウクライナ戦争を米国政府による他国の不当な扱いの一例として描くか、を注視している。ロシア政府が中国政府に対して大きな影響力を及ぼすことができる唯一の要因はおそらく、これまでのところかなりの程度、ロシアが方向性を決定づけてきた諸事態への対応を同国が迫られていることだろう。
中国が(ソビエト連邦崩壊の歴史をいまだに徹底的に研究している(※5)のと同様に)ロシアの経験を徹底的に研究する中、ロシアの外交政策自体は相変わらず独善的だ。ロシアのシンクタンクや学界には、意思決定に対する影響力が実質的にない。そのため、中国との関係はロシア大統領府が管理する ? その役割については、共同声明に別途記載(※6))。
ロシア大統領が述べた「親愛なる友人」を歓迎する(※7)言葉は、現代中国に対するプーチン大統領の姿勢を雄弁に物語っている。「近年」とロシア大統領。「中国は目覚ましい発展を遂げてきた。それにより、全世界の真の関心を集めており、我が国は若干、嫉妬すら覚える。」
嫉妬の根源は理解できる。プーチン大統領は、ソビエト連邦崩壊を「最大の地政学的惨事」だと考えている(※8)。だからこそ、この現代ロシアのエリートは、ソビエト連邦がなれたはずだと自らが思う国となった中国に称賛の念を抱いているのだ。だが、中国に対するプーチン大統領の認識が、ウクライナや世界史全般に対する認識と同様、偏ったものであることが判明しても、それはさほど驚くにはあたらない。
ウクライナイ侵攻の正当化にあたり、ロシアのプロパガンダ担当者は「ロシアにはほかの選択肢がなかった」と度々述べている。今度は、自国と中国の利害の調整にも同じ言葉を繰り返す必要があるだろう。確かにロシアにはほかの選択肢がない。そして、それを招いたのは、指導者が下した決定だ。これが、中ロ関係における中国の最大の強みとなる。ロシア政府とは異なり、中国政府には将来、さまざまな方向に発展してく可能性があり、どの国が中国のパートナーになるかはそれによって決まる。
プーチン大統領が率いるロシアにとってこのように苦しい時期に、昨年の中国との共同声明に謳われていた「両国の友情に限界はなく、協力に不可侵の聖域はない」という文言が消えたのは象徴的だ。この言葉を、同盟関係を宣言するものだと多くが解釈した。
今回の共同声明では、類似の文章が次のような文言になっている(※9)。「代々受け継がれてきた両国民の友情には強固な基盤があり、両国の包括的な協力は極めて幅広い可能性を秘めている。ロシアは安定し、かつ繁栄する中国に関心を持ち、中国は強く、かつ成功を収めるロシアに関心を持っている。」
ロシアと中国の限界のない友情は、わずか1年余りしか続かなかった。
写真: 代表撮影/ロイター/アフロ
(※1)https://grici.or.jp/
(※2)https://www.foreignaffairs.com/china/what-china-has-learned-ukraine-war
(※3)https://carnegieendowment.org/2022/07/18/chinese-military-lessons-from-ukraine-event-7909
(※4)https://brgg.fudan.edu.cn/articleinfo_5392.html
(※5)https://www.chinatalk.media/p/kotkin-on-china-communisms-achilles
(※6)http://kremlin.ru/supplement/5920
(※7)http://kremlin.ru/events/president/news/70746
(※8)https://www.nbcnews.com/id/wbna7632057
(※9)http://kremlin.ru/supplement/5920
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