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アイ・エス・ビー Research Memo(12):「ITサービス事業へのシフト」を中計の最重要課題と位置付け【1】

注目トピックス 日本株

■中期経営計画と次代の成長を担う新事業

(2)新事業の動向

(a)概要

アイ・エス・ビー<9702>の中計で最重要課題と位置付けられている「ITサービス事業へのシフト」は、新製品による事業領域の拡大を目指している。すなわち、現在の同社の収益構造はソフトウェアの開発やシステム構築という、いわゆるフロー型の製品・サービスが中心となっている。これに対して今後は、クラウド型の製品・サービスを積極的に拡販し、ストック型の収益構造に転換させていこうというものである。この流れに沿った新製品・サービスについて同社は「新事業売上高」として中計の中で売上目標を掲げている。2013年12月期実績は229百万円だった。これは計画に対して約60%程度の達成率だった。2年目の2014年12月期は672百万円を計画している。今第2四半期は172%の達成率であった。

同社が現時点で「新事業」としてラインナップしている製品・サービスは、Wi-SUN、L‐Share、ケアティブ、トラック運行管理システム、レセプトのクラウドサービス、である。それぞれ、販売実績があるか、その直前のレベルにあり、将来性が期待されている。その中でもフィスコが特に注目しているのはWi-SUNと、L-Shareだ。

(b)Wi-SUN (ワイ・サン)

同社は、スマートグリッドの普及・拡大から恩恵を受けると期待され、それが同社の中長期的成長の主エンジンとなるとフィスコでは考えている。そのキーとなるのがWi-SUNだ。

まず、スマートグリッドは、通信及び制御機能を活用して効率的・安定的な電力供給、多様な契約形態、あるいはコスト削減などを実現可能にする次世代の電力網をいう。この実現で不可欠なものは2つある。1つは言うまでもなく、スマートメーターだ。現在の電力系はネットワーク化されておらず、検針員の目で電力消費量をチェックするだけのものだ。この電力計に通信機能を持たせ、ネットワーク化して、ほぼリアルタイムで電力消費状況を送信することを可能にするのがスマートメーターである。もう1つ重要なものは、家電製品のスマート化だ。すなわち、家電製品にも通信機能を持たせてエネルギー管理システム※と接続し、さらにスマートメーターへと接続することで、初めてスマートグリッドが実体的なものとして完成する。

※エネルギー管理システム(Energy Management System)のうち、家庭(Home)内のものの頭文字をとってHEMS(Home Energy Management System)と呼ぶ。同様に、オフィスビル(Building)のものをBEMS、工場(Factory)のものをFEMSと呼んで使い分けることがある。これらは、規模や容量などには大きな違いがあるが、基本的なコンセプトは同じである。スマートメーターと各家電製品が直接通信するのではなく、HEMSを間に挟む形で家電製品とスマートメーターが通信することになる。

この「家電」、「HEMS」、「スマートメーター」の3者間や各家庭のスマートメーターからデータ集中局までの通信に使用される通信規格が、「Wi-SUN」である。

フィスコの前回レポート(2014年4月17日付)でも報告したが、同社は通信規格「Wi-SUN」に準拠した通信プロトコルスタックを、独立行政法人情報通信研究機構(NICT)と共同で開発済みである。これは言わば、「Wi-SUNという通信規格に基づいて通信を行うためのソフトウェア」と理解すればイメージが湧きやすいであろう。NICTはWi-SUN規格の普及の旗振り役を務める機関であり、そのNICTと同社がソフトウェアを共同開発したという事実は、非常に示唆に富んでいると言える。

Wi-SUNが同社の事業として意味を持つ理由は、東京電力<9501>が同社のスマートメーターにおいて、スマートメーターとHEMS間のいわゆる「Bルート」に関してWi-SUN規格を採用したためである。このインパクトは大きい。東京電力スマートメーターに対応するHEMS(具体的な機器のことをホームゲートウエイと呼ぶ)はWi-SUN対応でなければならないことになる。そうなると、このホームゲートウェイとつながる家電もWi-SUNを搭載する可能性が高い。「可能性が高い」というのはWi-Fiなど他の通信規格でも可能ではあるが、ホームゲートウェイでWi-SUNが必須なのであれば、Wi-SUNに絞った方がコスト効果が高いため、家電の通信規格は一気にWi-SUNに傾く可能性が高いということだ。

Wi-SUN搭載が期待されるのは家電にとどまらない。現在ではスマートフォン(スマートフォン)への搭載を視野に入れた開発が進んでいる。スマートフォンやタブレットが家電機器を集中制御する言わばリモコンになると予測されているためだ。

上記の状況にあって、同社も含めた各企業は、Wi-SUN対応の無線通信デバイスの開発にしのぎを削っている。Wi-SUNはあくまで通信規格であって同社の専売特許というわけではない。ただ同社は、Wi-SUN開発を主導してきたNICTと二人三脚でプロトコルスタックを開発したという点で、高い評価を得ている点がポイントだ。

最近のアップデートとして、Wi-SUNに関する受注状況が公表された。具体的な相手先社名は非公表とされているが、計測器メーカーやモジュールベンダー3社との間で、計6件の契約が成立している。これらは1回限りの販売契約や、売上高や台数に連動して同社の売上高が増加する仕組みなど、その内容は様々となっている模様だ。これらの中には大型プロジェクトへと発展する可能性のある案件も含まれているようで、Wi-SUN関連ビジネスは順調に進展していると評価できる。

Wi-SUN関連需要は今後も加速していくとみられるが、その背景には電力各社のスマートメーター配布が加速していることがある。東京電力は2014年4月から、管内の約2,700万戸の契約先すべてを対象にスマートメーターの配布を開始した。配布終了は2020年度の予定とされるが、これは従来計画対比で3年間の前倒しである。関西電力<9503>は2008年度年からすでに配布を開始している。また、中部電力<9502>や北海道電力<9509>なども、今年に入って配布の具体的スケジュールを発表した。先行している関西電力と東京電力を除いて、各電力会社は実証実験やシステム開発、仕様決定などを行っている。最大手の東京電力がBルートでWi-SUNを採用したことは他社の決定にも影響を及ぼす可能性があると弊社ではみている。また、関西電力も、毎年度、スマートメーター納入について入札を行っており、ある段階からはWi-SUNが採用される可能性もあると考えている。

これまでのところ順調な同社のWi-SUN関連事業であるが、過度な楽観は禁物だ。現状の受注契約はまだ家電搭載やスマートフォン搭載などのボリュームゾーンではない。同社が狙う家電などの無線通信モジュールなどの分野では例えばローム<6963>が2014年4月にWi-SUN対応品を発表済みである。また、アイ・エス・ビーがソフトウェアの売り込みをかけている部品メーカーからは、かなり厳しいコストダウンを要求されてもいる。目の前に広がるブルーオーシャン市場ではあるが、そこから収益をどれくらい稼ぎ出すことができるかについて、保証されているものは何もないのが現実だ。

同社のWi-SUNに関する事業モデルは、上記のソフトウェア/モジュールの販売ということのほかにもう1つある。そしてそれこそが中計で掲げる「ITサービス事業の強化」につながっている。もう1つの事業モデルとは、Wi-SUN通信を利用したM2Mクラウドサービスである。「M2M」とは「Machine to Machine」という意味で、人を介さずに機器同士が通信するシステムを言う。スマートメーターやスマートグリッドはM2Mの典型であるが、M2Mは他にも農業や防災、セキュリティ、店舗、物流など幅広い分野に応用されている。身近な例では自動販売機やエレベーター、コインパーキングなどがある。

同社が目指しているのは機器間の通信データを収集・管理・分析するクラウド型サービスだ。必要な場合には、そのためのアプリケーション・ソフトの開発なども行う。スマートグリッドにおいては、スマートメーターからの情報を電力会社以外の第三者が活用するためのルートが用意されている。これは「Cルート」と呼ばれるものだ。同社はデータセンターもありWi-SUNを始め通信技術もあるので、Cルートを通じてビッグデータとしてスマートメーターからの情報を収集・管理するのは比較的容易であろう。それをどう分析、活用して誰を対象にどういうビジネスに仕立て上げるのかはこれからの課題であるが、領域を電力のエネルギー管理システムに限定せず、農業や医療・介護、防災・自然災害等の分野での事業化を現在検討中である。

(執筆:フィスコ客員アナリスト 浅川 裕之)



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