【FISCOソーシャルレポーター】個人投資家山副耕一氏:個人型確定拠出年金は節税目的?
[16/06/14]
提供元:株式会社フィスコ
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以下は、フィスコソーシャルレポーターの個人投資家山副耕一氏(ブログ「子供に伝えたい株式投資」を運営)が執筆したコメントです。フィスコでは、情報を積極的に発信する個人の方と連携し、より多様な情報を投資家の皆様に向けて発信することに努めております。
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※2016年6月6日10時 に執筆
■確かに節税効果はあるのだが…
個人型確定拠出年金(以下個人型DC)の法改正が成立し、より多くの方が個人型DCを使えるようになりました。
個人型DCの最大のメリットは、節税効果です。
多くのメディアで節税効果を取り上げた記事などが出ていますが、若干公平さに欠けるのでは?と気になったものもあります。
例えば一部メディアの記事では、「所得500万円の会社員(上限税率30%)が、掛け金上限の27万6000円/年を拠出すると節税額は8万2800円」とありました。計算上は間違いないのですが、実際問題として次のような疑問を感じます。
まず「所得500万円」という点です。
この表現を見た場合、多く方は「年収500万円か。最近は給与が上がりにくい時代だけれど、まあよくあるケースかな」と思うことでしょう。
しかし、私のFP相談経験からは実際にはほとんど見られないレアケースです。
一般に「年収」、「給与所得」とここで言う「所得」は同じようなものとしてイメージされていますが、税務上はまったく異なる数値となります。
それぞれを簡単に言うと、給与所得とは、年収からサラリーマンの活動経費に該当する給与所得控除額を引いたもの。法人に例えると、売上から必要経費を引いた利益に該当します。
所得とは、給与所得からさらに所得控除とよばれる生活上の特別な支出や家族構成によって予想される経費を差し引いたあとの金額です。
家族の人数や支出状況などによって異なるため、ある一定条件での概算数値になりますが、例えば年収800万円で夫、妻(専業主婦)、子(大学生)、子(中学生)のモデルケースで考えてみます。
年収−給与所得控除=給与所得 800万円-200万円=600万円
給与所得−所得控除=課税所得 600万円-259万円=341万円
所得控除項目
基礎控除 38万円
配偶者控除 38万円
特定扶養控除 63万円
社会保険料控除 112万円(厚生年金自己負担9%、健康保険自己負担5%で計算)
生命保険料控除 5万円
地震保険料控除 3万円
合計 259万円
となり、所得は341万円です。
年収800万円の人の所得は341万円。であれば先の記事で取り上げられた所得500万円の会社員は900万円近い年収の人となります。今のご時世、そんな人を例に出すの?と思うのです。
ちなみに、育ち盛りの子供を持つ40代くらいの、900万円近い年収がある方は多くが上場企業勤務だと推測します。
であればすでに企業型確定拠出年金に入っている可能性が高いので、個人型DCの上限27万6000円がフルに使える人は多くありません。
また、この方が自営業であれば、月額6万8000円の控除が認められる国民年金基金にすでに入っていることも想定されます。国民年金基金にフルに加入している方は個人型確定拠出年金には入れません。
一方、平均的な年収の方は、多くの場合、所得税・住民税をそれほど多く払っていません(社会保険料は山ほど払っていますが…)。であれば、所得控除がこれ以上増えてもあまりありがたくないことに加え、住宅ローン控除を利用して税金ゼロ体制にすでになっていることも多く見られ、さらなる節税は必要ありません。
年収がもう一段低い方は、そもそも国民年金が未納または免除となっている場合が多くあります。これらの方は個人型DCが利用できません。
このように現実的に考えると様々な疑問が生じるのです。
では個人型DCに利用価値はないのかと言うと、そうではありません。もう一つの節税、運用益に対する20%課税が免除される効果は大きいものがあります。
となると、確定拠出年金の利用価値は所得税などの節税でなく、運用益課税の免除にあるとすべきではないでしょうか。
ただし、この場合は利益が出ないとうまみが生じません。では確定拠出年金で利益が期待できる商品をどのように探すのか?成長を重視するのか安定を重視するのか?デメリットである投信利用時のコストやDC管理費用の負担との兼ね合いはどうなっているのか?このようなことを真剣に考えるべきだと思います。
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執筆者名:山副耕一
ブログ名:子供に伝えたい株式投資
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