カイオム Research Memo(2):ADLib®システムを使った創薬支援事業と創薬事業を展開
[17/04/27]
提供元:株式会社フィスコ
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注目トピックス 日本株
■会社概要
1. ADLib®システムとは
カイオム・バイオサイエンス<4583>は2005年に設立されたバイオベンチャーで、理研で開発された世界初の遺伝子組み換えによる抗体作製技術「ADLib®システム」(特許は同社と共同保有)を技術基盤とした創薬支援サービスを展開しているほか、自社が保有する抗体医薬品候補の開発・導出活動を行っている。ADLib®システムを簡単に説明すると、ニワトリ由来の培養細胞株であるDT40細胞が持つ様々な抗体を生み出すメカニズムをトリコスタチンAという薬剤で人為的に活性化させて、多種多様なモノクローナル抗体を試験管内において短期間で創出する技術である。
現在、上市されている抗体医薬品は、既存の抗体作製技術であるマウスハイブリドーマ法やファージディスプレイ法で作製された抗体によるものである。これら既存技術に対してADLib®システムが持つ主な特徴は、困難抗原への対応が可能であり、抗体作製にかかる期間も短いという点にある。
また、完全ヒト抗体の作製に関して、2014年3月に実用化レベルでの技術が完成したことを発表している。完全ヒトADLib®システムとは、DT40細胞の持つニワトリ抗体の遺伝子をヒトの抗体遺伝子に置換することで、DT40細胞から直接ヒト抗体を試験管内で取得する技術である。現在は、アンメットニーズの高い疾患領域での新規抗原や、治療薬につながることが期待される抗原に対する抗体作製実績を蓄積している段階にある。なお、ADLib®システムを使った開発実績としては、富士レビオが「ビタミンD測定用の抗体を含む診断キット」(くる病患者の診断薬として使用)を開発し、2014年より欧州で販売を開始している。
ADLib®システムの特許権は日本、米国、欧州、中国でそれぞれ成立しており、権利保有者は理研と同社で50%ずつとなっている。また、同社は理研に対して特許使用料を支払っている。特許の有効期限は日本、欧州と中国が2023年、米国が2025年となっているが、完全ヒトADLib®システムを始めとする関連特許も出願中であり、特許切れ以降においてもADLib®システムにおける同社の優位性を保持するための施策は打たれている。
2. 事業内容
現在の事業セグメントは、創薬事業と創薬支援事業に分けて開示している。
(1)創薬事業
創薬事業は、同社が開発した医療用抗体作製のための基盤技術やリード抗体等の知的財産を活用したライセンスの導出にかかる一時金収入、マイルストーン収入及びロイヤルティ収入と、共同研究等にかかる収入等を獲得する事業となる。
現在、パイプラインとしては「LIV-1205」※1「LIV-2008/LIV-2008b」※2「抗セマフォリン3A抗体」※3などがあり、導出実績としては、「LIV-1205」及び「LIV-2008b」のADC※4開発用途でのオプションライセンス契約をADCT社と2015年及び2016年にそれぞれ締結している。契約内容として、「LIV-1205」については本契約から上市まで進んだ場合、契約一時金及びマイルストーン収益で総額90億円プラス製品売上に応じたロイヤルティ、同様に「LIV-2008b」では総額110億円プラス製品売上に応じたロイヤルティの収益を得られる見込みとなっている。ただし、オプションライセンス契約が行使されない可能性もある。また、「LIV-1205」「LIV-2008」は通常抗体としての導出活動を進めると同時に、自社での臨床開発も進めていく予定となっている。一方、「抗セマフォリン3A抗体」については、免疫・炎症疾患、神経疾患等、セマフォリン3Aの関連性が明らかになっている領域での評価及び導出活動を行っている。
※1 LIV-1205:肝臓がんを中心とする固形がんの細胞表面に発現する抗原(標的分子)「DLK-1」に結合し、がんの増殖活性を阻害するヒト化モノクローナル抗体
※2 LIV-2008/LIV-2008b:乳がん、肺がん、膵臓がん、大腸がんを中心とする固形がんの細胞表面に発現する抗原(標的分子)「TROP-2」に結合し、がんの増殖活性を阻害するヒト化モノクローナル抗体
※3 抗セマフォリン3A抗体:神経軸索の伸長を抑制する因子であるセマフォリン3Aをターゲットとしたヒト化モノクローナル抗体。神経再生が起こること、また免疫系、がん等の幅広い疾患領域での適応が期待されている。
※4 ADC(抗体薬物複合体)は抗体と薬物を結合させ、抗体の抗原特異性を利用して薬物を疾患部位に効率的に行き届かせることを目指した医薬品
抗体医薬品の開発方針としては、基礎・探索段階から初期臨床開発段階までを主な対象とし、ADLib®システムに加えて、外部からの新規パイプラインの導入及び他の抗体作製技術等も活用しながら、パイプラインの拡充を進めていくこととしている。
(2)創薬支援事業
創薬支援事業は、製薬企業等で実施される創薬研究を支援するための抗体作製に必要な関連業務の受託サービス等により収入を得る事業となる。現在の主な顧客としては、中外製薬<4519>(他子会社1社)が挙げられ、2016年12月期の売上実績としては187百万円を計上しており、同セグメントに占める比率は83%となっている。中外製薬との契約期間は共同研究契約が1年毎、委託研究契約が2年毎の更新契約となっている。
基盤技術の導出実績としては、2010年に富士レビオとADLib®システムの実施許諾及び共同研究契約を締結したが、共同研究契約は2016年9月に契約期間が満了となっている。ただ、同技術を用いて開発された製品売上にかかるロイヤルティ収入は継続して計上されることになる。現在、「ビタミンD測定用の抗体を含む診断キット」が欧州市場で販売されているが、まだ販売量は僅少で業績への影響は軽微となっている。
また、2016年12月に、田辺三菱製薬(他子会社1社)との間で、ADLib®システムを用いたモノクローナル抗体作製に関する委受託基本契約を締結している。契約期間は3年で、田辺三菱製薬グループが保有するターゲットに対するモノクローナル抗体作製等を同社が行う格好となる。抗体作製に対する対価を受領するほか、作製した抗体が医療用・診断用医薬品として開発ステージに進めていく場合には、別途経済条件等を協議していくこととなっている。
(執筆:フィスコ客員アナリスト 佐藤 譲)
<NB>
1. ADLib®システムとは
カイオム・バイオサイエンス<4583>は2005年に設立されたバイオベンチャーで、理研で開発された世界初の遺伝子組み換えによる抗体作製技術「ADLib®システム」(特許は同社と共同保有)を技術基盤とした創薬支援サービスを展開しているほか、自社が保有する抗体医薬品候補の開発・導出活動を行っている。ADLib®システムを簡単に説明すると、ニワトリ由来の培養細胞株であるDT40細胞が持つ様々な抗体を生み出すメカニズムをトリコスタチンAという薬剤で人為的に活性化させて、多種多様なモノクローナル抗体を試験管内において短期間で創出する技術である。
現在、上市されている抗体医薬品は、既存の抗体作製技術であるマウスハイブリドーマ法やファージディスプレイ法で作製された抗体によるものである。これら既存技術に対してADLib®システムが持つ主な特徴は、困難抗原への対応が可能であり、抗体作製にかかる期間も短いという点にある。
また、完全ヒト抗体の作製に関して、2014年3月に実用化レベルでの技術が完成したことを発表している。完全ヒトADLib®システムとは、DT40細胞の持つニワトリ抗体の遺伝子をヒトの抗体遺伝子に置換することで、DT40細胞から直接ヒト抗体を試験管内で取得する技術である。現在は、アンメットニーズの高い疾患領域での新規抗原や、治療薬につながることが期待される抗原に対する抗体作製実績を蓄積している段階にある。なお、ADLib®システムを使った開発実績としては、富士レビオが「ビタミンD測定用の抗体を含む診断キット」(くる病患者の診断薬として使用)を開発し、2014年より欧州で販売を開始している。
ADLib®システムの特許権は日本、米国、欧州、中国でそれぞれ成立しており、権利保有者は理研と同社で50%ずつとなっている。また、同社は理研に対して特許使用料を支払っている。特許の有効期限は日本、欧州と中国が2023年、米国が2025年となっているが、完全ヒトADLib®システムを始めとする関連特許も出願中であり、特許切れ以降においてもADLib®システムにおける同社の優位性を保持するための施策は打たれている。
2. 事業内容
現在の事業セグメントは、創薬事業と創薬支援事業に分けて開示している。
(1)創薬事業
創薬事業は、同社が開発した医療用抗体作製のための基盤技術やリード抗体等の知的財産を活用したライセンスの導出にかかる一時金収入、マイルストーン収入及びロイヤルティ収入と、共同研究等にかかる収入等を獲得する事業となる。
現在、パイプラインとしては「LIV-1205」※1「LIV-2008/LIV-2008b」※2「抗セマフォリン3A抗体」※3などがあり、導出実績としては、「LIV-1205」及び「LIV-2008b」のADC※4開発用途でのオプションライセンス契約をADCT社と2015年及び2016年にそれぞれ締結している。契約内容として、「LIV-1205」については本契約から上市まで進んだ場合、契約一時金及びマイルストーン収益で総額90億円プラス製品売上に応じたロイヤルティ、同様に「LIV-2008b」では総額110億円プラス製品売上に応じたロイヤルティの収益を得られる見込みとなっている。ただし、オプションライセンス契約が行使されない可能性もある。また、「LIV-1205」「LIV-2008」は通常抗体としての導出活動を進めると同時に、自社での臨床開発も進めていく予定となっている。一方、「抗セマフォリン3A抗体」については、免疫・炎症疾患、神経疾患等、セマフォリン3Aの関連性が明らかになっている領域での評価及び導出活動を行っている。
※1 LIV-1205:肝臓がんを中心とする固形がんの細胞表面に発現する抗原(標的分子)「DLK-1」に結合し、がんの増殖活性を阻害するヒト化モノクローナル抗体
※2 LIV-2008/LIV-2008b:乳がん、肺がん、膵臓がん、大腸がんを中心とする固形がんの細胞表面に発現する抗原(標的分子)「TROP-2」に結合し、がんの増殖活性を阻害するヒト化モノクローナル抗体
※3 抗セマフォリン3A抗体:神経軸索の伸長を抑制する因子であるセマフォリン3Aをターゲットとしたヒト化モノクローナル抗体。神経再生が起こること、また免疫系、がん等の幅広い疾患領域での適応が期待されている。
※4 ADC(抗体薬物複合体)は抗体と薬物を結合させ、抗体の抗原特異性を利用して薬物を疾患部位に効率的に行き届かせることを目指した医薬品
抗体医薬品の開発方針としては、基礎・探索段階から初期臨床開発段階までを主な対象とし、ADLib®システムに加えて、外部からの新規パイプラインの導入及び他の抗体作製技術等も活用しながら、パイプラインの拡充を進めていくこととしている。
(2)創薬支援事業
創薬支援事業は、製薬企業等で実施される創薬研究を支援するための抗体作製に必要な関連業務の受託サービス等により収入を得る事業となる。現在の主な顧客としては、中外製薬<4519>(他子会社1社)が挙げられ、2016年12月期の売上実績としては187百万円を計上しており、同セグメントに占める比率は83%となっている。中外製薬との契約期間は共同研究契約が1年毎、委託研究契約が2年毎の更新契約となっている。
基盤技術の導出実績としては、2010年に富士レビオとADLib®システムの実施許諾及び共同研究契約を締結したが、共同研究契約は2016年9月に契約期間が満了となっている。ただ、同技術を用いて開発された製品売上にかかるロイヤルティ収入は継続して計上されることになる。現在、「ビタミンD測定用の抗体を含む診断キット」が欧州市場で販売されているが、まだ販売量は僅少で業績への影響は軽微となっている。
また、2016年12月に、田辺三菱製薬(他子会社1社)との間で、ADLib®システムを用いたモノクローナル抗体作製に関する委受託基本契約を締結している。契約期間は3年で、田辺三菱製薬グループが保有するターゲットに対するモノクローナル抗体作製等を同社が行う格好となる。抗体作製に対する対価を受領するほか、作製した抗体が医療用・診断用医薬品として開発ステージに進めていく場合には、別途経済条件等を協議していくこととなっている。
(執筆:フィスコ客員アナリスト 佐藤 譲)
<NB>