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TKP Research Memo(9):新たな中期経営計画を公表。2030年には国内1,500拠点にまで拡大する構想

注目トピックス 日本株
■成長戦略

1. 新中期経営計画
ティーケーピー<3479>は、2021年2月期を最終年度とする中期経営計画を推進してきたが、今回の日本及び台湾リージャス買収に伴って、2019年8月16日に新たな中期経営計画を公表した。最終年度2022年2月期の目標として、売上高79,326百万円、営業利益12,471百万円(営業利益率15.7%)、EBITDA18,313百万円(EBITDAマージン23.1%)を目指す内容となっている。これまでは、「持たざる経営」、「積極的な出店の継続」、「宿泊を含めた周辺事業の取り込み・内製化」、「M&Aを含む新規事業分野の開発」、「既存スペースの更なる有効活用」、「高付加価値化と効率化」などに取り組み、とりわけ開発案件(パイプライン3拠点)が進行しているホテル事業が、宿泊研修市場の確立などによって成長を加速する戦略を描いてきた。新中期経営計画でもその方向性に大きな変化はないが、それに加えて、今回の大型M&Aによるサービス領域の拡充(短中期オフィス事業への本格参入)やシナジー創出などにより、今後、拡大が見込まれるフレキシブルオフィス市場でのシェア拡大や周辺サービスの拡大、海外展開により成長を加速する戦略である。さらに2030年には国内拠点を現在の約410拠点から1,500拠点へと拡大する構想も描いている。

2. 今後の事業戦略
同社の成長モデルは、(1)スペースの確保(拠点数の拡大)、(2)稼働率の向上、(3)利用単価の向上の3つの掛け合わせによって構成されるが、同社はそれぞれについて拡大(向上)を図る方向性を描いている。特に、今回の日本リージャス買収により、それぞれに対してどのようなプラスの効果を生み出していくのかが最大の戦略テーマと言えるだろう。また、台湾リージャスの買収によって、(4) 海外展開による成長加速にも取り組んでいる。

(1) スペースの確保(拠点数の拡大)
好調な外部環境のもと、日本リージャスとの共同仕入れや共同提案などを含め、積極的な出店を継続する方針である。同社がターゲットとする東京のフレキシブルオフィスの市場規模は賃貸オフィス市場全体の約1%(約2,000億円)に過ぎず、他の国際都市との比較においても低い水準にあり、成長余地は大きい※。特に、都心における新築オフィスビルの供給は今後も高水準で推移する見通しであり、ハイグレードな新築ビルへの出店を検討する一方、それらの大量供給に伴って空きスペースが生じやすい中古ビルとの大口取引を推進する方向性を描いている。また、引き続き、立地の優れた商業施設への展開にも取り組む方針である。特に、家電量販店や百貨店、大型書店などが入居している商業施設においては、ECの普及に伴う店舗のショールーム化(店舗はモノを買う場所から体験を得る場所へと変化)の影響などにより余剰スペースが発生しやすい状況がみられるため、潜在的な需要は大きい。また、商業施設ではこれまでと違って、「商売する人に貸す」ことが可能となるため、販売会・催事場・ポップアップストアなど、利用用途が広がり事業ドメインの拡大にも結びつくと考えられる。

※各種資料によれば、世界主要都市のフレキシブルオフィス比率は、マンハッタン3.0%、サンフランシスコ2.9%、シンガポール2.7%、上海3.6%と推計されている。また、同社の各種資料に基づいた推計によれば、2030年には東京の賃貸オフィスに占めるフレキシブルオフィスの割合は30%(約3兆円)まで上昇すると予想される。


(2) 稼働率の向上(短中期のオフィス利用への用途拡充)
これまでの会議室利用(時間貸し)に加えて、短中期のオフィス利用(月貸し等)へと用途拡充を図ることにより稼働率の向上にも取り組む。すなわち、必要な時に必要な広さのオフィススペースを流動的に企業に月貸しするとともに、空いたスペースはこれまで同様、会議室(時間貸し)として利用することにより稼働率を高める戦略と言える。同社がこれまで貸会議室用に仕入れてきたスペースは、もともとオフィスとして使われていたところがほとんどであり、オフィス仕様への変更に障害はない。また、同社の稼働率の状況を見ると、新入社員向けの研修など月単位での利用が増える4月から6月は高い水準にあるものの、年間を通じた平均では30%程度の稼働率に過ぎない。つまり、70%程度は空いている状況となっている。したがって、そこを月単位でのオフィス利用で埋めていくことができれば、稼働率を高い水準で安定化させるとともに、収益性をさらに高めることが可能となる。また、通常のオフィスにおける賃貸契約(定借)と比較して、契約期間や契約面積が流動的なオフィスを提供することにより、人々の働き方やオフィスの在り方の変化に対応した新しい市場を創出することが可能となる。既存のオフィス賃貸市場からのシフトを取り込むことで、景気変動の影響を受けづらい形での規模拡大を目指していく。

(3) 利用単価の向上(宿泊研修市場の確立や大型イベントの開催等)
同社は、貸会議室を起点として、料飲・ケータリング、コールセンター(BPO)、ホテル&リゾート(宿泊研修)、イベント運営・制作などコンテンツの拡充を図ってきた。特に、ホテル事業と一体となって進めてきた宿泊研修市場の確立も今後の成長のカギを握ると考えられる。米国などではリゾート施設などで行う「オフサイト・ミーティング」が定着しているが、日本でも生産性の向上や連帯感の醸成、創造性の発揮などを目的として、拡大の余地があるとみられている。同社においても、会議室利用の法人からの要望に対応する形で、郊外型宿泊研修施設(石のや・レクトーレ)を展開しており、研修による法人利用が増加する傾向にある。同社の場合、年間利用企業約26,000社がターゲットになるとともに、年間延べ利用企業数は約100,000社に及ぶため、10回に1回の泊り込み研修でも展開余地は大きい。また、宿泊研修の1名当たりの売上単価は平均15,000円以上となっており、会議室のみでの利用に比べ、1名当たりの売上単価を大幅にアップすることが可能となる。さらに今後は、日本リージャスの顧客はもちろん、IWGの海外顧客へのマーケティングも可能となるため、集客チャネルがグローバル規模で拡大することになるだろう。

また、前述のとおり、商業ビルへの展開による単価向上にも取り組む。特に、商業ビルでは物販を伴うイベントの開催が可能であり、好立地・高グレードの場所を販売会場として提供することにより、顧客の売上拡大への貢献を目指す。

(4) 海外展開の展望
台湾リージャスの持つネットワークを活かし、台湾での貸会議室事業を本格展開していく。具体的には、同社と台湾リージャスの共同出店を推進。現在の14拠点とあわせて6年間で合計50拠点の規模に拡大する。2022年2月期の計画では、売上高約23億円、EBITDA約6億円を見込んでいる。また、台湾を皮切りとして、まずは成長著しいアジア、そして欧米へと展開していく方針である。特に、日本で展開するノウハウをもとに、優良企業とのパートナーシップも視野に入れ、貸会議室事業をホテル事業やリージャス事業などと組み合わせることで、TKPネットワークを世界に拡大していく展望を描いている。

弊社では、これまでの戦略(積極出店や高付加価値化、稼働率向上に向けた取り組み等)が軌道に乗り、既存事業が大きく拡大してきたことや、ホテル事業も順調に立ち上がってきたことに加え、今回の大型M&Aに踏み切ったことにより、同社は新たなステージに入っていくものと捉えている。特に、日本でもフレキシブルオフィス市場の拡大が予想されるなかで、新たな成長エンジンや拠点ネットワークを獲得し、事業拡大に向けた体制を整えることができたことは、市場を支配するうえでも大きなアドバンテージになると評価できる。今後は、これらの事業基盤をいかに運営し、発展させていくのか、これまで以上にマネジメントの経営手腕が問われることになるだろう。その点で言えば、今回のM&A及び独占契約に伴い、IWG CEOのMark Dixon(マーク・ディクソン)氏と日本リージャス代表取締役の西岡慎吾(にしおかしんご)氏を取締役メンバーとして迎え入れたことは、ガバナンス強化はもちろん、事業運営においても力強い後ろ盾として期待できる。シナジー創出はもちろん、新しい市場の開拓に向けていかに連携を図っていくのか、今後の動向に注目したい。

(執筆:フィスコ客員アナリスト 柴田郁夫)




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