TOKAI Research Memo(8):M&Aと「ABCIR+S」戦略の推進により、収益成長を加速していく方針
[19/11/28]
提供元:株式会社フィスコ
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注目トピックス 日本株
■TOKAIホールディングス<3167>の今後の見通し
2.中期経営計画の概要
2018年3月期よりスタートした中期経営計画(IP20)では、基本戦略としてトップラインの成長を最優先に「守りの経営」から「攻めの経営」に転じることを打ち出した。2021年3月までに顧客基盤の拡大につながるM&Aやアライアンスを積極的に推進し、また、デジタル化社会が進むなかで「ABCIR+S」戦略を推進していくことで成長を加速化し、経営ビジョンである「TLC」構想の実現を目指していく方針となっている。
経営数値目標としては、2021年3月期に連結売上高で3,393億円、営業利益で225億円、親会社株主に帰属する当期純利益で115億円を掲げている。複数サービス契約率を前期末の17.8%から20%まで引き上げることで1顧客当たり収益を拡大していくほか、M&Aの積極推進により継続取引顧客件数を432万件以上に拡大することで目標の達成を目指している。計画策定当初は4年間で総額1,000億円規模のM&Aを実行し、顧客件数の拡大を目指していたが、大型案件の締結までに時間がかかっており、2021年3月期の数値目標については先送りされる可能性がある。とはいえ、M&Aについては現在も41案件、ディール総額で1,168億円の交渉を進めており、引き続き積極的に取り組んでいく方針であり、収益も拡大基調に変わりないと見られる。M&Aの対象としては、中核事業であるガス、CATV、情報及び通信サービス等で顧客基盤を持つ企業のほか、既存の生活関連サービスの周辺領域や新規事業分野を対象としている。
3. M&A実績について
2017年以降のM&A戦略の実績としては10件が成立しており、2020年3月期の業績への寄与としては売上高で58億円、営業利益で3億円(のれん償却後で1.9億円)が見込まれている。このうち、2020年3月期に成約したM&A案件について見ると、2019年5月に秋田県にかほ市の都市ガス事業譲受(2020年4月より事業引き継ぎ)、同年4月に静岡県東部地域の一部を提供エリアとする(有)シオヤが運営するCATV事業の譲受(2019年10月サービス提供開始)、同年7月に子会社化したソフトウェア受託開発及びシステム運用・保守サービスの(株)アムズブレーン、同年9月に子会社化した総合建設会社の日産工業の4件となっている。そのほかアライアンス案件として、同年4月に群馬県伊勢崎市を供給エリアとする都市ガス事業者の伊勢崎ガス(株)と資本業務提携契約を締結(20.7%の出資)したほか、同年10月には東電EPと共同で、東海エリアにおいて都市ガス小売事業を展開する合弁会社、T&Tエナジー(株)を設立した(出資比率50.0%)。各案件における主なポイントは以下のとおりとなる。
(1) にかほ市都市ガス事業
にかほ市の都市ガス事業については、顧客件数が約5千件、直近売上高で417百万円の規模となっており、2021年3月期以降の業績に寄与することになる。秋田県でのサービスはグループでも初進出となり、都市ガスだけでなくグループ内の他の生活関連サービス(電気、情報・通信サービス、宅配水等)の提供も進めていく予定となっている。公営の都市ガスサービスを民営化する動きは増えてきており、今後も入札案件には積極的に参加し、事業エリアを拡大していく方針となっている。
(2) シオヤのCATV事業
シオヤのCATV事業における契約件数は3千件となっている。このうち、有料契約件数については不明だが今後、光化を進めることで通信サービスの提供を開始するほか、4K/8Kの高精細放送サービス、地域のコミュニティチャンネルなど多チャンネルサービス、その他の生活関連サービスの提供を進めることで、1顧客当たり売上高の拡大に取り組んでいく。
(3) アムズブレーンの子会社化
アムズブレーンは岡山県に本社があり、主に大手通信教育事業者のグループ会社向けにソフトウェアの受託開発等を手掛けている。子会社化の目的は、旺盛なシステム開発需要に対応していくための西日本エリアにおける開発体制の強化を図ること、並びに相互の強みを合わせてシナジーを創出し、グループの情報通信事業の更なる強化・拡大を図っていくことにある。
(4) 日産工業の子会社化
日産工業は岐阜県内において、主に公共土木建設工事を中心に展開する総合建設会社であり、100人前後の有資格者が在籍する。子会社化の目的は、日産工業の持つ技術・ノウハウを活用し、中京圏のほか、静岡県や関東圏でも総合建設事業者として新たな事業領域の拡大を図ること、また、LPガス事業とのシナジー効果等にも期待している。
(5) 伊勢崎ガスとの資本業務提携
伊勢崎ガスが事業エリアとする伊勢崎市は、交通アクセスの良さから工業・流通団地を多く有しており、人口の増加が続いている地域として注目されている。今回の業務提携の内容は、都市ガス事業、LPガス事業における協業や、相互サービスの利用促進を図っていくというもの。特に、LPガス事業では同社も伊勢崎市周辺に2、3ヶ所営業エリアがあり、伊勢崎ガスでも子会社でLPガス事業を行っていることから、協業によるシナジー効果が期待される。また、同社にとっては、ガス以外の生活周辺サービスについて伊勢崎ガスを通じて、その先の顧客(約11千件)に対して販売する機会ができることになり、今後の売上増が期待される。
(6) T&Tエナジー設立について
東電EPの強みである「ガス調達力を始めとした都市ガス小売事業のノウハウ」と、同社の強みである「東海エリアの販売ネットワーク」を生かして、東海エリアにおける都市ガス小売事業(家庭用)を合弁会社のT&Tエナジーで展開していく。2021年3月までに1万件の契約獲得を目標としている。また、電気や情報通信、宅配水等のその他生活関連サービスの提供や、東海3県(愛知、岐阜、三重)以外への販売エリア拡大についても今後検討していく方針となっている。都市ガス小売事業のターゲットとなる潜在顧客数は232万件(東邦瓦斯<9533>の契約件数)で、実際に販売活動を行うのは地元のLPガス事業者である。こちらの取り組みについても今後のグループ全体の顧客件数の拡大に寄与していくものと見込まれる。
4. 「ABCIR+S」戦略
「ABCIR+S」をテーマに新たな顧客基盤の拡大や競争力の強化、新サービスの開発に向けて重要なプラットフォームとなるDMP「D-sapiens(ディーサ)」を構築したことを2019年10月末に発表した。今後は「D-sapiens」に日々蓄積されるグループ顧客292万件の情報をマーケティングデータベースとして一元管理し、これらデータに対してAI技術を用いて分析(顧客情報の掘り起し→顧客行動予測→潜在的顧客の可視化)することで、顧客に最適なサービスを最適なタイミングで提案し、契約に結び付けていくとともに、解約を防止していく取り組みを進めていく。データの蓄積が必要となるため、その効果が出てくるのは早くても2021年3月期以降となりそうだが、「D-sapiens」の稼働によって、マーケティング費用の効率化と顧客件数の拡大、複数サービス契約率の上昇が期待できることになり、収益力の更なる向上が見込まれる。
(執筆:フィスコ客員アナリスト 佐藤 譲)
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2.中期経営計画の概要
2018年3月期よりスタートした中期経営計画(IP20)では、基本戦略としてトップラインの成長を最優先に「守りの経営」から「攻めの経営」に転じることを打ち出した。2021年3月までに顧客基盤の拡大につながるM&Aやアライアンスを積極的に推進し、また、デジタル化社会が進むなかで「ABCIR+S」戦略を推進していくことで成長を加速化し、経営ビジョンである「TLC」構想の実現を目指していく方針となっている。
経営数値目標としては、2021年3月期に連結売上高で3,393億円、営業利益で225億円、親会社株主に帰属する当期純利益で115億円を掲げている。複数サービス契約率を前期末の17.8%から20%まで引き上げることで1顧客当たり収益を拡大していくほか、M&Aの積極推進により継続取引顧客件数を432万件以上に拡大することで目標の達成を目指している。計画策定当初は4年間で総額1,000億円規模のM&Aを実行し、顧客件数の拡大を目指していたが、大型案件の締結までに時間がかかっており、2021年3月期の数値目標については先送りされる可能性がある。とはいえ、M&Aについては現在も41案件、ディール総額で1,168億円の交渉を進めており、引き続き積極的に取り組んでいく方針であり、収益も拡大基調に変わりないと見られる。M&Aの対象としては、中核事業であるガス、CATV、情報及び通信サービス等で顧客基盤を持つ企業のほか、既存の生活関連サービスの周辺領域や新規事業分野を対象としている。
3. M&A実績について
2017年以降のM&A戦略の実績としては10件が成立しており、2020年3月期の業績への寄与としては売上高で58億円、営業利益で3億円(のれん償却後で1.9億円)が見込まれている。このうち、2020年3月期に成約したM&A案件について見ると、2019年5月に秋田県にかほ市の都市ガス事業譲受(2020年4月より事業引き継ぎ)、同年4月に静岡県東部地域の一部を提供エリアとする(有)シオヤが運営するCATV事業の譲受(2019年10月サービス提供開始)、同年7月に子会社化したソフトウェア受託開発及びシステム運用・保守サービスの(株)アムズブレーン、同年9月に子会社化した総合建設会社の日産工業の4件となっている。そのほかアライアンス案件として、同年4月に群馬県伊勢崎市を供給エリアとする都市ガス事業者の伊勢崎ガス(株)と資本業務提携契約を締結(20.7%の出資)したほか、同年10月には東電EPと共同で、東海エリアにおいて都市ガス小売事業を展開する合弁会社、T&Tエナジー(株)を設立した(出資比率50.0%)。各案件における主なポイントは以下のとおりとなる。
(1) にかほ市都市ガス事業
にかほ市の都市ガス事業については、顧客件数が約5千件、直近売上高で417百万円の規模となっており、2021年3月期以降の業績に寄与することになる。秋田県でのサービスはグループでも初進出となり、都市ガスだけでなくグループ内の他の生活関連サービス(電気、情報・通信サービス、宅配水等)の提供も進めていく予定となっている。公営の都市ガスサービスを民営化する動きは増えてきており、今後も入札案件には積極的に参加し、事業エリアを拡大していく方針となっている。
(2) シオヤのCATV事業
シオヤのCATV事業における契約件数は3千件となっている。このうち、有料契約件数については不明だが今後、光化を進めることで通信サービスの提供を開始するほか、4K/8Kの高精細放送サービス、地域のコミュニティチャンネルなど多チャンネルサービス、その他の生活関連サービスの提供を進めることで、1顧客当たり売上高の拡大に取り組んでいく。
(3) アムズブレーンの子会社化
アムズブレーンは岡山県に本社があり、主に大手通信教育事業者のグループ会社向けにソフトウェアの受託開発等を手掛けている。子会社化の目的は、旺盛なシステム開発需要に対応していくための西日本エリアにおける開発体制の強化を図ること、並びに相互の強みを合わせてシナジーを創出し、グループの情報通信事業の更なる強化・拡大を図っていくことにある。
(4) 日産工業の子会社化
日産工業は岐阜県内において、主に公共土木建設工事を中心に展開する総合建設会社であり、100人前後の有資格者が在籍する。子会社化の目的は、日産工業の持つ技術・ノウハウを活用し、中京圏のほか、静岡県や関東圏でも総合建設事業者として新たな事業領域の拡大を図ること、また、LPガス事業とのシナジー効果等にも期待している。
(5) 伊勢崎ガスとの資本業務提携
伊勢崎ガスが事業エリアとする伊勢崎市は、交通アクセスの良さから工業・流通団地を多く有しており、人口の増加が続いている地域として注目されている。今回の業務提携の内容は、都市ガス事業、LPガス事業における協業や、相互サービスの利用促進を図っていくというもの。特に、LPガス事業では同社も伊勢崎市周辺に2、3ヶ所営業エリアがあり、伊勢崎ガスでも子会社でLPガス事業を行っていることから、協業によるシナジー効果が期待される。また、同社にとっては、ガス以外の生活周辺サービスについて伊勢崎ガスを通じて、その先の顧客(約11千件)に対して販売する機会ができることになり、今後の売上増が期待される。
(6) T&Tエナジー設立について
東電EPの強みである「ガス調達力を始めとした都市ガス小売事業のノウハウ」と、同社の強みである「東海エリアの販売ネットワーク」を生かして、東海エリアにおける都市ガス小売事業(家庭用)を合弁会社のT&Tエナジーで展開していく。2021年3月までに1万件の契約獲得を目標としている。また、電気や情報通信、宅配水等のその他生活関連サービスの提供や、東海3県(愛知、岐阜、三重)以外への販売エリア拡大についても今後検討していく方針となっている。都市ガス小売事業のターゲットとなる潜在顧客数は232万件(東邦瓦斯<9533>の契約件数)で、実際に販売活動を行うのは地元のLPガス事業者である。こちらの取り組みについても今後のグループ全体の顧客件数の拡大に寄与していくものと見込まれる。
4. 「ABCIR+S」戦略
「ABCIR+S」をテーマに新たな顧客基盤の拡大や競争力の強化、新サービスの開発に向けて重要なプラットフォームとなるDMP「D-sapiens(ディーサ)」を構築したことを2019年10月末に発表した。今後は「D-sapiens」に日々蓄積されるグループ顧客292万件の情報をマーケティングデータベースとして一元管理し、これらデータに対してAI技術を用いて分析(顧客情報の掘り起し→顧客行動予測→潜在的顧客の可視化)することで、顧客に最適なサービスを最適なタイミングで提案し、契約に結び付けていくとともに、解約を防止していく取り組みを進めていく。データの蓄積が必要となるため、その効果が出てくるのは早くても2021年3月期以降となりそうだが、「D-sapiens」の稼働によって、マーケティング費用の効率化と顧客件数の拡大、複数サービス契約率の上昇が期待できることになり、収益力の更なる向上が見込まれる。
(執筆:フィスコ客員アナリスト 佐藤 譲)
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